DVやレイプ…利用者は「人生の限界点」 赤ちゃんポスト18年 慈恵病院に子を託す女性のリアル
ゆりかごは社会の困りごとの縮図 救うにはマシな選択を繰り返すだけ
蓮田理事長は18年間を振り返り、望まない妊娠で孤立する女性たちの背景に一定の困難が垣間見えると話す。刻一刻と母子の体調や、心が移り変わる中で迫られる判断に、病院側もまた葛藤を続けていた。 慈恵病院 蓮田健理事長 「貧困や虐待、DV、知的な問題、風俗。『ゆりかご』や内密出産の背景になるのは“社会の困りごとの縮図“です。自己責任を日本の社会は求めますが、自己責任で完結できる人はいいんです。でも、そうじゃない人はたくさんいる。できる人の視界に入っていないだけです。『ゆりかご』や内密出産を利用したいという人はよほどの事情がある人で、人生の限界点に来ている。そんな中でも判断は、いつも赤ちゃんの遺棄や殺人になるくらいだったらいいんだ、というマシな選択です」。
出自を知る権利は?「国で議論をするべき」
ゆりかごの開設から18年が経ち、内密出産が始まった現在もこうした取り組みについて法整備は追い付いていない。国が2022年9月に取りまとめた内密出産に関するガイドラインでは、各関係機関に求められる対応を記したものの、前提は「推奨するものではない」とされている。 近年、国内では年間70万人前後の子どもが生まれているが、ゆりかごに預け入れられたり、内密出産で生まれたりする子どもは慈恵病院の対応だけで考えると多く見積もっても数十人ほど。法整備の議論が進まない原因には、国全体の関心事になりづらいことや、児童福祉法など今ある法律とのズレ、戸籍制度に基づく家族の在り方など多岐に渡るハードルの高い課題が横たわっていることが考えられる。
こども家庭福祉が専門で『こうのとりのゆりかご』の運用を検証する専門部会の部長を10年以上つとめた大阪総合保育大学・山縣文治特任教授は、母子の安全が確保され得る内密出産においては、法制化を目指した検討をする必要があるとして、特に出自を知る権利の保障に対する課題については国レベルで議論を始めるべきだと指摘する。 大阪総合保育大学・山縣文治特任教授 「究極の子どもの権利を考えると、母親を知る権利のみならず、難しさはあるものの父親のことも知る権利があると思う。いま、女性側の責任ばかりが問われていて、男性の責任が問われていない。この構造自体が女性を苦しめている要因ではないか。無理だというのではなく、一度議論のテーブルに上げること。単なる理論合戦や、歴史上の論理を引き合いに出すのではなく、制度を利用せざるを得ない親子がいるということを念頭に置いて国レベルで議論をすべきです」。
編集後記
いま、日本が参考にしようとしているのは、ドイツやフランスなど法律によって“匿名での出産”が認められている国だ。これからの国は200~300年前から議論を重ね、何度も改定を遂げ現在の法制度が存在する。『こうのとりのゆりかご』開設から18年、国による議論は始まってすらいない。日々、子どもたちは成長を続けている。妊娠の責任のみを議論するのではなく、社会で子どもを育てるため議論にも目を向ける必要があるのではないか。 ※この記事は、熊本県民テレビとYahoo!ニュースの共同連携企画です。
KKT熊本県民テレビ・藤木紫苑