DVやレイプ…利用者は「人生の限界点」 赤ちゃんポスト18年 慈恵病院に子を託す女性のリアル
「自分が悪いんです」と涙を流す母親にかける言葉
『こうのとりのゆりかご』は、預け入れた人が名乗り出ることを条件にはしていないものの、実際には預け入れたときやその後に慈恵病院とのつながりを持つ人がほとんどだ。アイさんも、預け入れた後に電話で事情を明かした。 慈恵病院を訪れた人たちの相談を受ける新生児相談室の蓮田真琴室長は、ほとんどの母親たちが「自分が悪いんです」と涙を流しながらつぶやくと話す。「ここがなかったら死ぬしかないと思っていた」と打ち明ける追い詰められた女性に対し、室長は「ここに来たことが赤ちゃんへの愛情だから、間違っていないですよ」と声をかけるという。 慈恵病院新生児相談室 蓮田真琴室長 「孤立出産で生まれた赤ちゃんは簡単に殺せると思うんです。誰もその存在を知らないですから。それをせずに、連れてきてくれた。それは愛情だと思うので、預け入れたお母さんたちもそのことを自覚してもらえるようにお話します」 『こうのとりのゆりかご』に預け入れるまでには2重の扉がある。1つ目の扉をあけると預け入れた人への手紙があり、その手紙を受け取らなければ赤ちゃんを置くベッドの扉をあけられないようになっている。その扉のそばには、相談をしたい人は声をかけるよう記した看板も設置されている。 開設当初から“安易な子捨てを助長する” という批判の声が上がっていた。しかし、慈恵病院が目の当たりにしてきたのは、“安易に”ではなく悩み苦しんだ中で病院を訪れた人たちの決死の覚悟と葛藤だった。
18年間で193人の命を預かる 親の匿名性と引き換えに子どもの命を守る取り組み
『こうのとりのゆりかご』は、赤ちゃんの遺棄や殺人を防ごうと2007年に熊本市の慈恵病院が国内で初めて設置した。設置から18年を迎え、2024年度までに193人が預け入れられている。 一方、「親の匿名」と引き換えに「赤ちゃんの命」を守るという取り組みには、主に2つの課題が生じていた。1つは、孤立出産の問題だ。『ゆりかご』は生まれた赤ちゃんを託すことを前提している。そのため、妊娠を周囲に知られたくない事情のある母は、医療機関などに行かず自宅などで危険な孤立出産に至るケースが多い。 さらに、親の匿名と引き換えに生まれてきた子どもが将来、自身の出生の事実や身元をたどるための「出自を知る権利」が損なわれる問題がある。こうした課題に対応するために慈恵病院が始めたのが「内密出産」 だ。 事前に病院に相談して来院し、病院の担当者のみに身元を明かして出産するという取り組みだ。得られた母子の情報は病院が保管する。2021年12月の1例目以来、 2025年3月末までに47人が生まれた。