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調査あれこれ 2025年07月14日 (月)

テレビは信頼を得られているか?②~フジテレビの問題から考える~【研究員の視点】#590

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世論調査部 芳賀 紫苑

 前回のブログでは、テレビ視聴が低下している要因のひとつとして、テレビ局が伝えているニュースや情報番組が視聴者のニーズに応えられていないのではないかという観点から、インタビュー調査の結果を紹介してきました。
こうしたインタビューや様々な調査の中で聞こえてきたのが、テレビ局は、伝えている内容だけでなく、組織のあり方も、時代にそぐわなくなっているという声でした。そのひとつの例となったのが年明け以降、連日報道されることとなったフジテレビの一連の問題です。この問題では、有名タレントと女性社員とのトラブルをめぐるフジテレビの対応を受け、スポンサー各社が長期間にわたってCMを見合わせるという事態に発展しました。その後6月の株主総会を経て経営陣が一新され、一部CMを再開する動きも見られますが、フジテレビの番組にも大きな影響を及ぼすこととなった今回の事案の背景には、経営体質や企業風土など組織のあり方にも問題があったと指摘されました。そこで、この問題に対して、人々はどのように思っていたのか、組織としてのテレビ局のあり方は視聴者の信頼を得られているのか?何が信頼を失う原因となるのかなどについて、インタビュー調査結果をもとに考えていきたいと思います。

フジテレビ外観

 調査を行ったのは、フジテレビの第三者委員会の報告書が公表されるおよそ2週間前の3月15日(土)、16日(日)の2日間で、グループインタビューの形式で実施しました。対象としたのは、昨年の「全国メディア意識世論調査」で、より"テレビ離れ"が顕著に見られた30代と50代です。調査会社に登録している方たちの中から、▽テレビの視聴が以前より減っているが、NHKか民放のいずれかを週1回以上は視聴しているという30代と50代それぞれ8人、さらに▽テレビを視聴することがほとんどなくなった30代8人を加えて、合計24人にインタビューの協力を頂きました。

何が一番の問題だと思ったのか  会見、トラブル把握後の対応、経営体質・・・・
 まず、今回のフジテレビの件で、何が一番の問題だと思われたのか。そのことから始めていきたいと思います。なお、調査は 3月に行ったため、それ以降の出来事は反映されていないことをあらかじめお断りしておきます。インタビュー調査では、質問を行う前提として、(イ)「フジテレビの会見の対応」、(ロ)「トラブルを把握した後の社内の対応や中居氏への対応」、(ハ)「女性を接待要員として利用していた疑惑」、(ニ)「特定の人が長く会社の実権を握り続けていること」、(ホ)「その他」の5つの問題を、こちらから仮説として提示しました。インタビューに応じたほとんどの人が上記のいずれもが問題だと答えましたが、その中でも、あえて一番問題だと思うものはどれかを尋ねたところ、人によって違いがあり、それぞれ具体的に問題だと思った点を指摘してくれました。インタビューの内容は、発言者の意図が伝わるよう、できるだけそのままの言葉で紹介します。

(イ)会見の対応

(30歳男性・会社員)
普段追及しているフジテレビが追及される側になって、あの対応で果たしてよかったのかが問題と思った。

(52歳女性・会社員)
自分の責任に対する軽さが見受けられたなと思っている。報道機関の報道に対する責任感の無さ。
情報機関は透明性があってなんぼのものだと思っているので、隠蔽しようかといった時点でアウトなのではないかと思っている。


(ロ)トラブルを把握した後の社内の対応、中居氏への対応

(54歳女性・会社員)
自分も一会社員として、うちの会社も今コンプライアンスとかハラスメントはすごくうるさいくらいに周知とかトレーニングをしていて、それだけ気をつけなきゃいけないんだと思っているので、そもそも女性を蔑視しているのももちろん大きな問題だし、何か問題が起きたときにコンプライアンス部門を通して会社として対応するというのがなされないというその体制に正直驚いた。会社として今の時代にありえない。

(51歳女性・会社員)
今回の件で一番びっくりしたのが、コンプライアンス部門がありながら、そこに共有していなかったことが私は一会社員としてすごくびっくりした。トップがそれに蓋をしてコンプライアンス部門に共有しなかったという時点で、多分相手が中居さんだったからで、やはりと、一視聴者としては思ってしまって、権力とか実権を強く持っている人に対して、強く出られないところとか女性を蔑視しているような感じをすごく持った。その感覚がもうすでに時代遅れだなと思った。

(51歳男性・会社員)
テレビ局にとってタレントさんは重要な位置付けで、特に中居さんみたいなビッグネームと関係を構築する企業努力がこういう方法でしかできないのが問題だと思った。


(ハ)女性を接待要員としていた疑惑

(32歳女性・会社員)
女性の社会進出も今の時代女性も働きやすくなってきている中で、女性を下に見ていて、男性優位で女性は男性の言うことに従うみたいな、今の時代にそぐわない昔の風潮が現代にまだあるんだなと女性としてはちょっと嫌だと思っている。

(53歳男性・会社員)
アナウンサーを商品化し始めたのはフジテレビだったので、女性の接待問題を見たときに、この人たちならやっていても何ら不思議はないと思った。


(二)特定の人が長く実権を握り続けていたこと

(36歳女性・主婦)
日枝さんが多分長くいると思うけど、もうそうなると、その人のイエスマンしか残らないような気がする。なんか会社的にどうなのかと。

(32歳男性・会社員)
長くいたら、いろんな権力だったり、コネじゃないけど。やはりそういうのが全部トップに集中してしまって、社長とかが私物化しちゃうのかなと。何年も何十年もトップが居座ってしまったので、古い体質のまま、25年前の常識がいまだに常識になってしまっているのかなみたいな感じがした。


このように、それぞれについて問題だと指摘する意見が相次ぎました。その中でも、複数の問題にまたがって出てきたのが「今の時代にそぐわない」「古い体質」「時代遅れ」といった言葉です。3月31日に公表された第三者委員会の報告書でも、フジテレビの企業文化や組織風土、経営体制について言及していますが、インタビューに答えた人たちも、それらに問題があると認識していることがうかがえました。

フジテレビに対する印象はどのように変わったのか
 では、このような問題を受けて、フジテレビに対する印象はどう変わったのでしょうか。フジテレビに対して、元々どのような印象を持っていたのかによって、立ち位置の違いはありましたが、全員に共通していたのは、負のイメージを広げてしまったことです。

(32歳女性・会社員)
フジテレビは小さい頃から番組が好きで、夏はフジテレビのイベントに学生時代は毎年行っていたくらい。バラエティー番組とか大好きだったので、フジテレビなくなっちゃうのかなと思ったりすると悲しい気持ちもあった。

(30歳男性・会社員)
元々良いイメージは持っていなかった。マイナスがマイナスになっただけ。

(51歳女性・会社員)
以前は華やかな印象があった。フジテレビに対して一般的な感覚が昭和感覚だなと思っていて。世間との感覚のずれが今回でかなり表に出てきたなという認識だった。


フジテレビだけの問題なのか

 では、今回の問題は、フジテレビだけの話なのでしょうか。これについては、インタビューに答えた人の多くがフジテレビだけでなく、他のテレビ局やメディア業界でも見られることではないかと指摘していました。さらに、こうした問題は、日本社会ではかつてよく見られたことであり、他の企業でも起こりうること、一社にとどまらず社会全体に共通する問題だという意見も聞かれました。

○テレビ業界、メディア業界に見られる問題という意見

(39歳女性・会社員)
フジテレビだけじゃなくて、他のテレビ局や関係している芸能事務所とか映画制作会社とか、そういうところもみんな同じような問題があるんだろうなって思った。

(51歳女性・会社員)
テレビ業界的に何かあるのかなと思った。テレビ業界だと多分断ったことによって今後仕事がもらえないとか、そういった上下関係がテレビ業界は一般企業とはちょっと違う部分があるのかなと思った。

(38歳男性・会社員)
もし私がいる会社でそういう問題があったら、(メディアの人は)すごい取材をしてきて、こんな変なことがあるというのをどんどん(報道することが)できると思うんですけど、メディア同士だとあんまりやりすぎると、自分たちが不祥事を起こしたときにやられるんじゃないかというのがあると思う。テレビ局はやはり控え目だった。だからテレビ業界というのは、やはり特殊で共同体というのがあるのかなと思った。


○社会全体に見られる問題という意見

(39歳女性・会社員)
テレビ局というのはあると思うけど、日本の会社だと、どこかしらにある問題じゃないかと思う。接待というか取引先とかお客様相手というイメージだけど、社内の飲み会でも女性は接待として偉い人に給仕する役目だったりするので、日本の企業全体の問題として、女性は接待というか、そういう役割として見られているのかなと思う。

(39歳女性・会社員)
この問題を見たときに、フジテレビだけの問題ではなくて、同じような問題が他の会社だったり、日本以外でも起こっているよなと思った。ここだけが悪いというわけではないというか、歴史的に根深く続いている問題がちょうど社会の価値観とかも含めて明るみに出たんだなと思った。一つの会社の問題というより、社会全体の問題なんだなと感じで見ていた。

(35歳男性・会社員)
テレビ業界だからとか、フジテレビだからという捉え方をするのは危険かなと思っている。細かいところは違うと思うけど、どこにでも起こりうる話というか、たまたま今回フジテレビで見つかっただけなんじゃないかなという気はなんとなくだけどしている。


このように、今回のような問題は社会全体にもあることではないかという見方が多い一方、最近ではどの企業においてもコンプライアンスへの対応が厳しくなっている中で、メディアは特に時代遅れの体質が強いのではという意見もありました。

(52歳男性・会社員)
社会全体の問題だとは思うが、フジテレビやメディア系で強く濃く残っているのかなと思った。

(52歳男性・会社員)
最近コンプラが改善されてきた中で、メディアがすごく遅れていて、今回やっぱりなという印象だった。


テレビ局の信頼が問われている

 ここまでフジテレビの問題を中心に、人々が組織のあり方を通して、そのテレビ局の番組やテレビ局自体に対してどのような思いを持つに至ったのかをみてきました。フジテレビは、経営体制を一新し、長年経営に携わってきた日枝元取締役相談役も身を引きました。CMを再開する企業も出てきてはいますが、まだ一部にとどまり、以前の状態を回復するには至っていません。フジテレビはできるだけ早期に信頼を回復したいとして、改革を前に進めていくとしていますが、その道のりは決して平坦なものではありません。
 今回のインタビューの中で強く印象に残ったのが、テレビ業界の感覚は世間とずれているという厳しい声です。様々なメディアが情報発信を行うようになり、テレビや新聞以外からも情報が容易に入手できるようになった今日、人々にとって便利であるか、さらに人々を引きつけるものを提供しているのかといった要素が重要であるだけでなく、その前提として、その情報を提供している発信元が信頼されていなければ、そもそも提供しているものも見てもらえないという問題があるように思います。
 3月31日に第三者委員会が公表した報告書では、「性的暴力・ハラスメントという人権課題は、フジテレビに固有のものではなくメディア・エンターテインメント業界における構造的な課題」で「この状況のまま放置されれば、この業界に人権意識の高い有望な若い人材が入ってくることも定着することも困難となり、いずれは業界の人的資本が枯渇するおそれがある。」と指摘しています。視聴者が見たいと思う番組を提供していくことも大事ですが、その前に、その組織が人々の信頼を得られているのか。このことを抜きにして、前に進むことはできないように思います。テレビ局への信頼が揺らぐ今、放送業界に携わる私たちは、今まで以上に感度を高め、常に自問自答しながら、取材、制作、そして組織運営などの業務にあたっていくことが大事だと感じました。

「放送研究と調査」2025年8-9月号(8月1日発行)では、「全国メディア意識世論調査」の最新の結果を紹介しています。人々のメディア利用はどう変化したのか?情報の真偽を確かめるうえでもっとも役に立っているメディアは?正しい情報をより分ける自信はあるのか?などメディア選択の背景にある意識を分析していますので、ぜひご覧ください。



【あわせて読みたい】
テレビは信頼を得られているか?①~情報が多様化する中で視聴者が求めるもの~【研究員の視点】#589

【芳賀 紫苑】
2010年入局。山形放送局・制作局でディレクターとして番組制作を担当。2021年より放送文化研究所で視聴者調査の企画・分析に従事。

調査あれこれ 2025年07月14日 (月)

テレビは信頼を得られているか?①~情報が多様化する中で視聴者が求めるもの~【研究員の視点】#589

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世論調査部 芳賀 紫苑

 「テレビは時代遅れだ。その役目はもう終わったのではないか」。こうした厳しい意見をさまざまな場で耳にします。NHK放送文化研究所(以下、文研)が行っている各種調査でも、いわゆる"テレビ離れ"と言われる傾向を確認することができます。文研が昨年11月から12月に行った「全国メディア意識世論調査」では、リアルタイムでのテレビ視聴の低下に加え、ニュースを見聞きするためのメディアの利用についても、前回の調査に比べ、特に30代、50代でより大きな低下が見られました(図1)。さらに世の中の出来事や動きを知る上で、もっとも役に立っているメディアについて尋ねたところ、60代以上の高齢層ではテレビの占める割合が7割近くに達したのに対し、16歳から29歳の若年層ではテレビの割合が下がり、SNSが4割ほどを占めてもっとも多くなるなど、年齢が下がれば下がるほど、テレビが世の中の出来事や動きを知るのに役立っているという人が少なくなっています(図2)。

図1ニュースを見聞きするために利用しているメディア(複数回答・抜粋)(2024年11月~12月 全国メディア意識世論調査)

図2世の中の出来事や動きを知るうえで もっとも役に立っているメディア(2024年11月~12月 全国メディア意識世論調査)

 では、どうして、このようなことが起こっているのでしょうか。その背景にある人々の意識を探るため、テレビは視聴者の信頼を得られているのかというテーマで、インタビュー調査*1を行いました。調査は3月15日(土)、16日(日)の2日間、グループインタビューの形式で実施しました。対象としたのは、昨年の「全国メディア意識世論調査」で、より"テレビ離れ"が顕著に見られた30代と50代です。調査会社に登録している方たちの中から、▽テレビの視聴が以前より減っているが、NHKか民放のいずれかを週1回以上は視聴しているという30代と50代それぞれ8人、さらに▽テレビを視聴することがほとんどなくなった30代8人を加えて、合計24人にインタビューの協力を頂きました。さまざまな意見を聞くために、居住地域や職業、そしてテレビをまだ視聴しているグループではNHKと民放の両方を見ている人、民放だけを見ている人など視聴傾向にも偏りがないよう、注意しました。

ニュースや情報番組をどのように見ていたのか
 "テレビ離れ"が指摘されるようになって久しいですが、とりわけ、テレビのニュースや情報番組に対して厳しい意見が数多く見られたのが昨年11月の兵庫県知事選挙でした。SNSやYouTubeが選挙結果に大きな影響を与えたのではないかと言われ、インターネット上でも、「テレビはもう終わった」「テレビはSNSやYouTubeにとって代わられた」といった書き込みや記事が数多く見られました。
 そこで、インタビューでは、兵庫県の斎藤知事をめぐる一連の放送について、視聴者はどのように見ていたのか。それによって、テレビのニュースや情報番組に対して、どのような考えを持ったのかを尋ねました。自分の住む都道府県ではないため、詳しく見ていなかったという人がいた一方で、知事選挙の結果が予想していたのと違ったことへの驚きとともに、テレビの報道内容に疑問を持つようになったという意見が聞かれました。インタビューの内容は、発言者の意図が伝わるよう、できるだけそのままの言葉で紹介します。

(51歳男性・会社員)
当初の報道がバッシングに近かったけれど、選挙が終わったら民意は彼を選んだ。その時に新聞やニュースの報道は何なんだと思った。中立性がない。何かを糾弾するのはいいと思うけれど、違う視点の報道もあってしかるべきだと思うけれど、偏っていたんじゃないかと思った。

(51歳女性・会社員)
テレビではマイナス報道ばかりだったので、知事がまた立候補するとなった時は当然落選すると思い込んでいた。でも実際は再選されたとニュースで知って、すごくびっくりした。兵庫県の方は自分の生活に関わってくるので、SNSとかネット情報とかをすごく調べていたのだなと思った。YouTubeとかSNSの影響力とか、結局テレビからの情報とSNSやネットからの情報に乖離(かいり)があったのだなと思っていた。

(36歳女性・主婦)
私は関西に住んでいるので、もうめちゃくちゃニュースをずっとやっていた。もういろいろあって、そういうのがありすぎて追いつけないというか、ついていけなかった。情報がありすぎて。疲れて追えてないというか、関心がなくなってしまった。


テレビの報道・情報番組で何が問題だと思ったのか

 このように選挙の結果と報道内容が大きく乖離(かいり)したことで、選挙後に、テレビの報道に対する批判的な意見が多くなったのではないかと考えることもできます。インタビューを通して強く印象に残ったのは、▼テレビが一方的に情報を押し付けている、あるいは自分たちの意図する情報だけを流しているという受け止めや、▼どのテレビ局も同じようなことを繰り返し放送していることへの不満、さらには▼視聴者の関心を引きつけることばかりに気を取られ、ニュースや情報番組がエンターテインメント化しているという意見でした。こうした意見をうかがう過程で、何が問題なのかをより深く分析するため、「テレビは知りたいことを伝えていない」と「テレビは正しいことを伝えていない」という2つの仮説を提示し、それぞれに対してどのように思うかを尋ねました。両方とも満たしていないという意見、テレビ局は正しいことを伝えていると思うが、知りたいことを伝えていないという意見など、さまざまな意見が出されました。

〇正しいことを伝えているか、知りたいことを伝えているか

(36歳女性・主婦)
テレビは正しいことを伝えていないとまでは思わないけど、どちらかというとテレビは私たちが知りたいことを教えてくれない。視聴者が食いつきそうな、ちょっと面白いみたいなことばかりやっていたけど、そうじゃないんじゃないみたいな、知りたいところって、そういうところじゃないし、知りたいと思うことを伝えていないなと感じることはあった。

(53歳男性・会社員)
民放のメディアに強い傾向だと思うけれど、世論の考えを誘導しようとしている。自分たちの考えを押し付けようとして、客観性がないと思った。もう少し静かにやってほしいと思うし、適切な情報を出してほしいと思った。

(39歳女性・会社員)
テレビが何か伝えたいことがあって、それに沿った内容とか、それに沿ったコメンテーターがしゃべっている感じなので、起こったことだったりとか、視聴者が判断するようなことを提示してくれているとは思っていない。テレビが伝えたいこととか、伝えたい方向に持っていかれちゃっている感じがした。

(51歳女性・会社員)
(テレビ局が)流している情報は正しいかもしれないけれど、それ以外に本当は10あるうちの2とか3しか伝えてなくて、残りは意図的に隠しているのかなと。

〇視聴率を気にしてエンターテインメント化しているのではないか

(39歳女性・会社員)
こういうことを流したら視聴者が喜ぶとかこういうふうな報道の仕方をしたらみんなニュースを見るでしょっていうような、問題の根本を掘り下げるというよりは、表面的な騒がしいところをやたらフィーチャーするというか。

(38歳女性・会社員)
報道がエンターテインメント化しているというか、どうしたら視聴者が楽しむかとか盛り上がるか、視聴者数が増えるのかというのを中心に報道されている気がする。

(30歳女性・会社員)
正しい情報も入っているかもしれないけど、視聴率をとるため、あおった言い方をしてねじ曲げている気がする。


SNSなどの情報はどのように見ているのか

 このようにテレビに対して厳しい意見が見られた一方で、冒頭の世論調査でも紹介したように、利用が広がっているのがSNSやYouTubeなどのインターネット動画です。インタビューの中でも、SNSなどネット上の記事や投稿は、押し付けられたものではなく、自分で調べることができると前向きに評価する意見が聞かれました。その一方で、誰が書いているか分からないものも多く、信頼という点で懐疑的な意見もありました。

(30歳女性・会社員)
テレビは一瞬の限られた情報しか取れないけど、SNSだとそこからさらにどうだったのか関係サイトやニュースサイトに行って調べることができるし、自分が知りたい情報まで得られる。

(39歳女性・会社員)
SNSとかYouTubeとひとくくりにいっても素人のやらせみたいなものもあると思う。でも、光るものを探せば、政府とか権力に迎合しないで報道しているものもあるので、テレビより優位性があると思う。

(51 歳男性・会社員)
インターネットは誰でも発信できて便利な一方で信ぴょう性をどこまで信じていいのか。だから情報を得た段階で本当かどうか裏取り作業をする。

(38歳女性・会社員)
SNSにもウソはあふれていると思っていて、そこを(自分で)選別できるのがSNSだと思っている。


視聴者は何を求めているのか

 テレビの視聴が低下する背景には何があるのかをインタビューを通して考察してきました。そこから見えてきたのは、利便性の問題だけではなく、テレビのニュースや情報番組に視聴者が満足していない、テレビの放送内容が視聴者のニーズに応えられていないということでした。一方のSNSについては、多くの人が好きな時に、好きな場所で、必要とする情報を得ることができると、その便利さを認めつつも、すべてが信頼していい情報なのか、疑問を持っていることも確認できました。それぞれのメディアに強みや弱みがある中で、テレビに求められているものは何なのか。それを考えるヒントとして、テレビに対して評価していること、今後の期待として、以下のような発言がありましたので、紹介したいと思います。

(36歳女性・主婦)
私は速報とか、地震とかそういう災害情報とかは結構テレビを信頼しているかな。ちゃんとした情報を伝えてくれているかなと思う。

(32歳男性・会社員)
インフルエンサーや大学生とかでもYouTubeで発信することはできるが、お金がないといいものは作れない。 中国のハゲタカのドキュメンタリー番組*2をやっていたけど、ああいうのは普通の人には絶対にできない。お金があってジャーナリスト魂もあるテレビ局だからこそできる番組で、よくこんな取材できたなと思う番組は素晴らしいなと思うし、興味が引かれる。

(39歳女性・会社員)
テレビ局はオワコンだと思うけど、じゃなぜNetflixを選んでいるかというと、そこでしか見られないものがあるから見ている。テレビでも、そこでしか見られないものがあるなら見るかもしれない。

(30歳男性・会社員)
テレビはどこも同じようなことをやっているけれど、各局が独自路線を貫いた方がいいと思う。YouTubeで自分の好きな情報を取りに行く時代なのだから、誰もが見るものではなく、特定の誰かに刺さる方向に舵(かじ)を切った方が伸びていくのではないかと思う。


 これらの発言から読み取れることは、自分の好きな情報を選べる時代になったからこそ、テレビでしか見られないものを見たい。そして、多くの人材とノウハウを持つテレビ局だからこそできる取材、テレビ局にしか作れない番組を見たいというニーズがあることです。どこにでもある情報や、誰を対象に発信しているのか分からないような情報では、人々に選ばれにくくなっていることも今回の調査を通じて見えてきました。「テレビはもう終わった」などとよく言われますが、このような状況にあるからこそ、これまでテレビを多くの人が見てきたのはなぜなのか。人々が求めているものは何で、それに対して、テレビは何ができるのか。そのことを追求し、視聴者に届くコンテンツをいかに発信していくか。この原点に立ち返ることが、今改めて大事なのだと思いました。

「放送研究と調査」2025年8-9月号(8月1日発行)では、冒頭に紹介した「全国メディア意識世論調査」の結果を詳細に伝えています。メディア利用の最新状況、情報に対する価値観の変化やメディア利用との関係なども子細に分析しています。ぜひご覧ください。


*1 調査会社に登録しているモニターを対象に募集した。全国メディア意識世論調査で、テレビ離れの兆候がみられた30代と50代に対象をしぼった。

*2 NHKスペシャル「臨界世界 -ON THE EDGE- 中国のハゲタカたち」初回放送日:2025年2月9日

【芳賀 紫苑】
2010年入局。山形放送局・制作局でディレクターとして番組制作を担当。2021年より放送文化研究所で視聴者調査の企画・分析に従事。

メディアの動き 2025年07月10日 (木)

選挙報道はどう変わるのか④~朝日新聞 ファクトチェック編集部発足~【研究員の視点】#588

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メディア研究部(メディア情勢秋元 宏美・上杉 慎一

選挙報道はどう変わるのか③

去年秋の兵庫県知事選挙などを教訓に選挙報道の見直しに取り組むメディアについて、シリーズでお伝えしている「選挙報道はどう変わるのか」。今回は朝日新聞のファクトチェックの取り組みについてです。

朝日新聞はことし6月13日、新たな選挙報道の基本方針を策定するとともにファクトチェック編集部を発足させると発表しました。その狙いと背景について朝日新聞社の春日芳晃ゼネラルエディター兼東京本社編集局長に聞きました。

春日芳晃・朝日新聞社ゼネラルエディター兼東京本社編集局長春日芳晃・朝日新聞社ゼネラルエディター兼東京本社編集局長

Q:今回、新たな選挙報道の基本方針を公表しましたが、やはり去年の一連の選挙を教訓にしたのですか。
A:2024年は、選挙でいうと大きな転換点だったと考えています。具体的に言うと、衆議院東京15区の補欠選挙で、つばさの党の事件※1が起きました。さらに東京都知事選挙、兵庫県知事選挙が行われました。なかでも決定的だったのが兵庫県知事選挙です。 少なくない読者の方から、「選挙期間に入って必要としている情報が届いていない」ですとか、 「知りたい情報がわからない」という大変厳しいご指摘を受けました。
 一連の選挙を受けて、まず行ったのが選挙報道の原点の確認です。公職選挙法148条や日本新聞協会の編集委員会が1966年に示した統一見解、さらに朝日新聞社の報道方針をベースに、新聞社では「選挙期間中も選挙報道は基本的に自由だ」という原則を再確認しました。一方、これまでの慣習として、選挙の公示・告示のあとは、すべての候補者を平等に扱う傾向が強くなっていました。しかし、選挙期間中でも報じるべきものは報じるべきだと思いますし、誹謗(ひぼう)・中傷や、真偽不明の情報が出回っていたら確認する、うその情報が出回っていたら確認して間違っていると報じることを確認しました。こうしたことが有権者の判断に資すると判断したからです。

朝日新聞が策定した「選挙報道の基本方針」(要旨)
_ ▽ 選挙期間中の選挙報道は基本的に自由であることを再確認し、有権者の判断に役立つ情報を積極的に報じる。 _
_ ▽ 選挙期間中の発言や行動が、結果的に政党や候補者に不利になる可能性がある内容でも、有権者の判断に役立つと判断した場合は、事実に基づいて積極的に報じる。 _
_ ▽ 誤情報や真偽不明の情報が広く拡散され、投票行動に影響を与える可能性がある場合、誤っているかどうかや、根拠がないかどうか裏付け取材のうえで報じる。 _
_ ▽ 取材や報道の過程で、記者が誹謗(ひぼう)・中傷を受けた場合、法的措置を含め相応の対応をし、記者を守る。 _


Q:6月には東京都議会議員選挙がありました。新たな基本方針のもと、実際の報道に変化はありましたか。
A:おかしいことはきちんと報じようという意味では、杉並区の候補者に対してヘイトスピーチと疑われても仕方がない発言があったので、「『ヘイトスピーチで選挙妨害』 都議選の候補者が抗議声明」という記事※2を、投票日直前の6月19日にデジタルや紙面で展開しました。従来であれば選挙が始まっているので、抑制的になってもおかしくなかったのですが、新たな基本方針に沿って社会通念上問題となると判断し、踏み込んで取り組みました。

Q:続いて、ファクトチェックについてお聞きします。朝日新聞は毎日新聞と並んで、国内でもいち早くファクトチェックに取り組んできました。今回、ファクトチェック編集部を発足させた狙いはなんですか。
A:朝日新聞でファクトチェックに最初に取り組んだのは2016年と記憶しています。トランプ政権に対するメディアのファクトチェックを現地で見て、日本でもやろうということになりました。ただ、当時の取り組みは属人的で、政治部の中で、一部のデスクと記者だけで行っていました。ファクトチェックはすごく手間暇がかかりますし、政治部の記者が通常の仕事と兼務でやっていたので大変でした。人手がないなかでやっていたので、熱心に取り組む記者やデスクが異動すると、途絶えてしまったという経緯がありました。
 今回、ファクトチェック編集部を立ち上げたのは、去年の選挙でわかったように、SNSが当時に比べてとても発達したからです。このため、一部の部だけでやるのではなく、編集局長室に編集長を置いて朝日新聞として組織でやろうと決めました。一時的なものではなく、これからもずっとやっていこうということで、その土台を作ったのです。

春日芳晃・朝日新聞社ゼネラルエディター兼東京本社編集局長

Q:ファクトチェック編集部の体制はどうなっていますか。
A:編集部としての部屋はないのですが、局長室の補佐が編集長を務め、政治部のデスク1人、社会部のデスク1人が専門的に見ることにしています。ほかの部にも協力を呼びかけています。また、政治部や社会部の数人の記者には、「日常の業務の一方で、ファクトチェックに適しているテーマや問題があれば積極的に書いてください」とお願いしています。

Q:ファクトチェックを進めるうえで重視することは何ですか。
A:大切なのは、ファクトチェックの検証プロセスをオープンにすることです。読者に対してなぜ私たちはこのように判断したのかということを丁寧に示したいと思っています。より透明性を高めることで、報道機関の取材について理解と信頼を得たいと思っています。

Q:ファクトチェックや選挙報道をめぐるほかのメディアとの連携についてはどう考えますか?
A:現場の記者だけでなく、私たち局長クラスでも意見交換をして、協力できるところはしたいですねという話はしています。私個人の考えではありますが、健全な民主主義のためには、正確な情報が必要なので、他社との連携は模索したいと思っています。しかし、やはり社を超えた連携の場合、例えば、資金面や間違いがあったときの責任の所在、また、検証プロセスの透明性の確保などで、認識が異なる部分もあるので、じっくり話し合っていくことが重要です。 お互いの共通言語をしっかり持っていないと、 連携は難しいのではないかと思っています。

朝日新聞のファクトチェック判定基準朝日新聞のファクトチェック判定基準

Q:共通言語とは、ファクトチェックの基準やその対象なども含めてということですか。
A:そうです。朝日新聞社は、ファクトチェック・イニシアティブのガイドライン※3に基づいて、ファクトチェックに関する独自の判定基準を議論して作りました。判定基準がそもそもないメディアやまったく異なるメディアとは、やはり一緒に取り組むことはできないですよね。ただ、有権者、読者のみなさまに納得していただける枠組みを作ることができれば連携したいとは思っています。現状は個別にやっていますが、それぞれのメディアがファクトチェックを行い、お互いに切磋琢磨することは、日本の民主主義にとってはプラスになるのではないかと思っています。


※1:つばさの党の黒川敦彦代表ら3人が、相手陣営の演説中に大音量の拡声器を使ったり、選挙カーを追い回したりして選挙運動を妨害したとして公職選挙法違反の罪で起訴された事件。

※2:「ヘイトスピーチで選挙妨害」東京都議選の候補者が抗議声明 :朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/AST6L42SJT6LOXIE017M.html?iref=pc_ss_date_article

※3:https://fij.info/introduction/guideline



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選挙報道はどう変わるのか①~日本テレビ選挙報道キャンペーン「投票前に考える それって本当?」~【研究員の視点】#584

選挙報道はどう変わるのか② ~NHKの選挙報道改革~【研究員の視点】#585

選挙報道はどう変わるのか③~報道機関が共同でファクトチェック~【研究員の視点】#587


【秋元 宏美】
2010年入局、奈良局、大阪局、報道局ネットワーク報道部を経て2023年8月から放送文化研究所。


【上杉 慎一】
1990年入局。大阪局、福岡局、報道局ネットワーク報道部、デジタルセンターなどを経て、2020年から現職。主な関心領域はデジタルジャーナリズム、ソーシャルメディアなど。

メディアの動き 2025年07月08日 (火)

選挙報道はどう変わるのか③~報道機関が共同でファクトチェック~【研究員の視点】#587

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メディア研究部(メディア情勢上杉 慎一・秋元 宏美

選挙報道はどう変わるのか③

去年秋の兵庫県知事選挙などを教訓に選挙報道の見直しに取り組むメディアについて、シリーズでお伝えしている「選挙報道はどう変わるのか」。今回は報道機関が連携して取り組むファクトチェックについてです。

読売新聞と佐賀新聞、時事通信、日本テレビの4社は6月4日、インターネット上に流れる選挙に関する情報を対象に、共同でファクトチェックを実施すると発表しました。6月22日に投開票が行われた東京都議会議員選挙から実施しています。この取り組みを呼びかけた読売新聞東京本社の松永宏朗編集局次長に実現までの経緯や狙いを聞きました。

Q:今回実現した4社共同のファクトチェックは、もともと読売新聞が日本新聞協会に提案したのがきっかけだと聞きましたが、どのような経緯があったのですか。
A:去年、兵庫県知事選挙をめぐって、真偽不明の情報が飛び交って大混乱が生じたということがありました。この中には報道機関や記者への攻撃も含まれていました。それを踏まえて、新聞協会で、選挙報道のあり方を見直す協議を始めようじゃないか、不当な攻撃を受けた記者を守る方策を考えようじゃないかということになりました。読売新聞としては、メディアを超えてファクトチェックに取り組むことで訴求力も倍増すると判断して、加盟社に対し新聞協会としてファクトチェックを一緒にやりませんかと提案しました。各社にも真剣に受け止めてもらい、議論も本当に真剣にしていただいたのですが、抗議や訴訟があったときに、誰が責任を持つのかという問題が出てきました。最終的には賛同できないという社もあり、日本新聞協会としてファクトチェックを実施することはできなくなりました。

Q:そこで賛同してもらえる有志のメディアでやろうとかじを切ったわけですね。
A:ファクトチェックをみんなで協力して実施して、それぞれのメディアで一緒に流していけば、すごく効果がでるのではないかと訴えたら、賛同してくれる社が結構あったわけです。そこで、新聞協会ではできなくても、賛同できる社だけでもできないかと個別にお声がけをした結果、読売新聞と佐賀新聞、時事通信、日本テレビの4社で協力して実施することになりました。報道機関が一緒にファクトチェックをやるのは、日本ではおそらく初めてのことだと思います。

読売新聞東京本社 松永宏朗編集局次長読売新聞東京本社 松永宏朗編集局次長

Q:ファクトチェックの対象は、ある程度絞っているそうですね。
A:今回のファクトチェックでは、選挙に関する言説で、SNSをはじめインターネット上に流れている情報に対象を限っています。国会議員がぶら下がりで述べた発言をファクトチェックする報道機関もありますが、私たちは、あくまで去年の兵庫県知事選挙を踏まえてSNSへの危機感があったものですから、まずSNS上に流れている情報に限定しました。

Q:具体的な進め方を教えてください。
A:4社の枠組みでは、各社の編集権や意思を最大限尊重するという大前提があります。また、ファクトチェックの検証方法や判定基準については、日本ファクトチェックセンター(JFC)※1 の協力を得て、この団体のガイドライン※2 に基づいて実施しています。
まず、何をファクトチェックするかについてです。1つの社が問題だと思った情報があれば、ほかの3つの社に伝えます。次にその情報がファクトチェックの対象としてふさわしいかどうかを日本ファクトチェックセンターと協議します。そのうえで各社が合意できた場合にファクトチェックを実施します。
実際の検証作業は、ファクトチェックをやってみたい、あるいは、やる余裕があるという社が実施することになっています。検証結果は4社すべてに共有し、すべての社が納得したら、4社のファクトチェック結果としてそれぞれの媒体で公表します。

検証作業の流れ

Q:東京都議選からスタートしたということですが、検証できた実例はありますか。
A:「投票の際、鉛筆を使うと書き換えられる」という言説がSNS上でかなり広まっていたので検証しました。実際に検証を行ったのは4社のうち読売新聞と佐賀新聞で、それぞれが記事を書きました。結論はもちろん同じですが、記事の書き方などは若干違うものになりました。※3

Q:実際にやってみて、課題は出てきましたか。
A:選挙期間中の忙しい時期に異なる報道機関どうしで意思を通じ合わせるのは大変だということが、やってみてよくわかりました。もちろん、実際に顔を突き合わせて作業するのではなく、メールやコミュニケーションツールを最大限活用して、意思形成を図るようにしているのですが、より負担がなく、かつ迅速にできる意思決定の方法はないかと考えています。

Q:ファクトチェックを進めるために、社内ではどのような体制を組んでいるのですか。
A:読売新聞の場合、複数の部から記者を指名してチームを作っています。ただその記者は専従ではなく、本来業務をやりながらファクトチェックもやるという体制になっています。

Q:ファクトチェックをめぐっては、これまでマスメディアの取り組みがなかなか広がっていないという指摘がありました。マスメディアがファクトチェックを行う意義についてはどのように考えていますか。
A:ファクトチェックは公開されている情報の真偽を明らかにする、しかも、根拠を示して第三者が検証できるようにするものです。一方、新聞社が記事を書くプロセスでは、匿名ソースへの取材をもとに真実かどうかを洗い出していきます。 実際、一般の読者から記事に書いていることはウソだろうと言われることもあるのですが、匿名ソースの情報だと、真偽の根拠を明らかにできないケースが多いのです。ある意味、それが今までの報道の限界だったと思います。ファクトチェックという手法をとることで、新聞社の報道に対して、別の意味で大きな信頼性を獲得できるのではないかと考えています。

読売新聞東京本社 松永宏朗編集局次長2

Q:冒頭、不当な攻撃を受けた記者を守る方策を考えるという話もありましたが、ファクトチェックとも関係しているのですか。
A:去年の兵庫県知事選挙では、SNS上でいわれのない誹謗(ひぼう)中傷を受けるなど不当な攻撃を受けた記者がいました。攻撃された記者が他社の記者であっても、攻撃の根拠となっている情報の真偽を他のメディアが協力して検証することができれば、事態が沈静化したりカウンターになったりするのではないかと思っています。

Q:ひとまず4社でスタートしたわけですが、将来的にはどのように考えていますか。
A:もともとは日本新聞協会※4 を通じてみんなでやりませんかと提案していますので、この枠組みが拡大していけばよいと思っています。ただ、まだいろいろ見えてない問題もあるでしょうから、議論を重ねて課題を洗い出していく作業をこれから続けなければならないと考えています。


※1 日本ファクトチェックセンターのHP https://www.factcheckcenter.jp/

※2 JFCファクトチェック指針 https://www.factcheckcenter.jp/guidelines/

※3 【ファクトチェック】都議選の投票で鉛筆を使うと書き換えられる?
(読売新聞・2025年6月20日)
https://www.yomiuri.co.jp/election/togisen/20250620-OYT1T50129/
<ファクトチェック>「投票で鉛筆を使うと書き換えられる」 X(旧ツイッター)上で 拡散された投稿を5段階で評価、結果は...?
(佐賀新聞・2025年6月22日)
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1489627

※4 日本新聞協会では加盟各社のファクトチェックを後押しするため、6月12日から、加盟旧ツイッターのXに新たに新聞協会のアカウントを開設して、選挙をめぐる各社の「真偽検証記事」を紹介している。
アカウント名:選挙情報の真偽検証_新聞協会 https://x.com/senkyo_kensyo



【あわせて読みたい】
選挙報道はどう変わるのか①~日本テレビ選挙報道キャンペーン「投票前に考える それって本当?」~【研究員の視点】#584

選挙報道はどう変わるのか② ~NHKの選挙報道改革~【研究員の視点】#585


【上杉 慎一】
1990年入局。大阪局、福岡局、報道局ネットワーク報道部、デジタルセンターなどを経て、2020年から現職。主な関心領域はデジタルジャーナリズム、ソーシャルメディアなど。


【秋元 宏美】
2010年入局、奈良局、大阪局、報道局ネットワーク報道部を経て2023年8月から放送文化研究所。

調査あれこれ 2025年07月07日 (月)

イギリスの放送アーカイブ公開状況について調査しました【研究員の視点】#586

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メディア研究部(メディア情勢大髙 崇

 ことし、日本でラジオ放送が始まってから100年を迎えました。長い歳月のあいだにテレビやラジオで放送され、放送局などに保存された映像や音声、すなわち「放送アーカイブ」は、NHKの番組コンテンツだけでも100万本に及ぶ膨大な量となります。(まず間違いなく、すべて視聴したという人はいないでしょう)。
 これら放送アーカイブは、再放送やインターネット配信、番組販売などで一般に公開されてはいるものの、全体からいえばごく一部です。大半は眠ったままというのが実情です。著作権の処理や人権への配慮、保存に必要なコストを誰が負担するのかなど、放送アーカイブの公開にはさまざまな課題があるからです。
 私は2年ほど前から、放送アーカイブの利活用に関する海外の先進事例の調査を始めました。放送アーカイブがどのように、どの程度の規模で公開されているのか、日本での課題解決につながるヒントを探るためです。昨年(2024年)は、フランスのINA(国立視聴覚研究所)の状況を報告しました(詳しくはこちら)。
 さらにこのたび、イギリスでの放送アーカイブの利活用に関する調査報告を発表しました。調査対象は、公共放送BBCのアーカイブ部門と、英国映画協会(BFI)の取り組み、そして、英国大学映画・ビデオ協議会(BUFVC)が行う教育機関向けの放送アーカイブの提供サービスです。このブログでは、報告の一部を簡単に紹介します。

 2022年に設立100周年を迎えたBBCは、従来のテレビ・ラジオからデジタル空間へと発信の軸足を移行させる "デジタル・ファースト"を掲げています。放送アーカイブの公開も、この方針に沿って取り組まれています。
 取り組みのひとつに、過去に放送した1,100万以上のテレビやラジオの番組の記録が検索・閲覧できるウェブサイト「Programme Index(プログラムインデックス)1」があります。

Programme Indexの検索ページProgramme Indexの検索ページ

 このサイトの大きな魅力的は、BBCのオンデマンドサービスiPlayerなどとリンクすることで、28万本近くに及ぶ過去に放送された番組の本編をいつでも視聴できることです(ただし、テレビ番組はイギリス国内の人のみ視聴可能)。基本的には放送後1年間、番組によってはさらに長期間、視聴できるのです。ラジオ番組などの音声コンテンツは日本からでも聴くことができますから、気になるキーワードで検索して、お聴きになってみてはいかがでしょうか(英語リスニング力もアップするかも)。
 また、英国映画協会(BFI)は、映画だけではなくテレビ番組も収集・保存・公開に取り組んでいます。ロンドンにある映像アーカイブの公開施設「Mediatheque(メディアテーク)」では、テレビ番組など18万8,000本に及ぶ映像がいつでも誰でも無料で視聴できるようになっています。

Mediathequeの視聴ブース1

Mediathequeの視聴ブースMediathequeの視聴ブース

 また、今回の調査で個人的に最も驚いたのが、小学校から大学までの教育機関が放送アーカイブを利用するための仕組みが整備されていることです。英国大学映画・ビデオ協議会(BUFVC)は、BBCやITVなどの国内放送9チャンネルを常時録画しており、実に300万本以上の放送アーカイブを教育機関に提供できる体制を確立しています。また、番組の利用許諾や放送局などへのライセンス料の支払いを管理する専門機関もあり、研究や授業などの目的であれば、放送アーカイブを自由に利用できるようになっているのです。

 これら、イギリスでの放送アーカイブの利活用に関する報告は、「放送研究と調査」2025年7月号に掲載しています。ぜひ、お読みいただき、日本での放送アーカイブのあり方を考えるヒントにしてもらえたらうれしいです。

あわせて読みたい
INAと「国家遺産」を支えるフランス法制度の変遷-NHK
「絶版」状態の放送アーカイブ 教育目的での著作権法改正の私案-NHK
放送アーカイブ「公共利用」への道-NHK


1 BBC Programme Index
https://genome.ch.bbc.co.uk/


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NHK放送文化研究所メディア研究部 主任研究員 大髙 崇 
番組制作、著作権契約実務を担当したのち、2016年から現職。
主な研究テーマは、放送アーカイブ活用と、それに関する国内外の法制度。 

メディアの動き 2025年07月01日 (火)

選挙報道はどう変わるのか② ~NHKの選挙報道改革~【研究員の視点】#585

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メディア研究部(メディア情勢上杉 慎一・秋元 宏美

選挙報道はどう変わるのか②

 去年行われた3つの選挙(東京都知事選、衆議院選挙、兵庫県知事選挙)では、SNSによる情報発信がこれまで以上に影響力を持ち、特に兵庫県知事選挙では、選挙結果を左右する大きな要因となりました。一方、テレビや新聞などの伝統メディアは選挙報道の公平性を重視するあまり、有権者が求める情報を十分に伝えていなかったのではないかという厳しい批判にさらされました。
 これを受けて、多くのメディアが選挙報道の見直しに取り組み、中にはすでに動き出したものもあります。シリーズでお伝えしている「選挙報道はどう変わるのか」。今回はNHKの取り組みについてです。

 東京都議会議員選挙の投票を4日後に控えた6月18日、NHKは選挙報道改革の取り組みについて記者会見で発表しました。報道担当の原聖樹理事は、既存メディアは国民が求める情報を的確に伝えていなかったのではないかという声に真摯(しんし)に向き合うため、報道局内にプロジェクトチームを設置し、若手職員や地方局からもさまざまな意見を募り、選挙報道のあり方について検討を進めてきたと述べました。そのうえで、東京都議会議員選挙と参議院選挙に向けて、▽ネット空間の情報なども検証し、ファクトに迫ること、▽有権者に判断材料を提供するため事前報道の質を高めて量を増やすことなどを目標に掲げて、主に以下の内容に取り組んでいくことを明らかにしました。

~ファクトチェックへの取り組み~
・インターネット上の投稿などを24時間体制でモニターして、偽情報や誤情報、誤解を招きかねない言説が広がっていることが確認されれば、これを打ち消す報道を行う 。
・選挙に際して広がる典型的な偽情報・誤情報をあらかじめ打ち消す取り組みを積極的に行う。
・選挙でSNSを利用する際の注意点などについて、専門家のインタビューを交えながらシリーズで伝える。

~事前報道の質を高めて量を増やす~
・争点や政策の報道に力を入れ、政党、候補者の主張やスタンスなどを整理・分析して伝える番組や企画を拡充する。

~選挙の第一声をコンテンツとして最大限活用する~
・放送で扱った党首、候補者の第一声はできるかぎりNHKのサイトにノーカット版の動画や全文テキストを掲載する。
・争点に関する発言、真偽不明の発言などは解説を加えるなどして、正確な理解につながる情報を提供する。
・注目選挙区では、第一声の内容を詳細に分析する取り組みを行う。


都議選2025_演説分析!NHK NEWS WEBより

 このうち一部の取り組みは、東京都議会議員選挙の報道に反映されています。例えば、各党の代表などが告示日に行った演説はノーカット版の動画や演説の全文がウェブサイトに掲載されました。また、テキストマイニングという手法を使って、演説の分析も行われました。
 ファクトチェックについては、「鉛筆を使うと投票内容が書き換えられる」とする根拠のない情報が広がったことから、知らず知らずのうちに拡散しないよう呼びかけるニュースを放送し、ネットでも記事を掲載しました。
 さらに、「選挙の前にたしかめて」というコーナーを作り、フィルターバブルやアテンションエコノミーをはじめ選挙情報と向き合うためのポイントを解説したニュースや専門家へのインタビューをシリーズで制作しています。

選挙の前にたしかめてNHK NEWS WEBより

18日の記者会見での原理事の質疑応答の要旨を抜粋してまとめました。

Q:誤情報・偽情報を打ち消す取り組みとは実際にどのように報道していくのですか?
原理事:明らかな誤情報・偽情報、あるいは、拡散して誤解を生むような状況になっていれば、そうした情報が事実ではないということを報道していきます。難しいと思う反面、チャレンジしなければならないこととして、本当かどうかグレーな話への対応が挙げられます。そうした場合は、どこまでわかっていて、どこまでがわかっていないことなのかということも含めて、できるだけ正確な情報を伝えることで、誤情報・偽情報が拡散されることを防ぐように取り組んでいきたいと考えています。

Q: 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は2017年2月に公表した意見書で、テレビ放送の選挙に関する報道と評論に求められているのは、候補者に同じ時間を与えるような「量的公平」ではなく、「質的公平」だと指摘しました。今回の選挙報道改革では、例えば、各候補者の演説の長さを秒数までそろえるような対応はもうやめていくのですか?
原理事:量的な公平性も一定程度、担保していかなければいけないので、完全に排除することはしません。ただ、例えば、政策や争点を掘り下げていったりする場合には、情報量をそろえながらも、伝え方にはいろいろあると思います。BPOの指摘は私も読んでいますが、質的公平はなかなか証明するのが難しい部分もありますので、やはり、公平・公正な扱いということを重視しながら、情報の発信量を増やしていくということを目指していきたいと考えています。

Q: 去年12月の会見で稲葉会長から、世の中の動きをNHKもそのほかのメディアも正しく伝えていないというような発言がありましたが、今回の選挙報道改革も含めて現状をどう見ていますか。
原理事:われわれは常に正しく伝えるべく努力していかなくてはならないですし、正しく伝えていないのではないかという声には、それに応えられるように情報を提供していかなければならないと思います。また、視聴者の方々が疑問に思っていることだったり、モヤモヤしていることだったり、知りたいことにできるだけお答えできるようにしたいです。 もちろん100%はわかっていないことも少なくないと思うので、そういう場合はわかっている部分はどこまでで、ここから先はわかってないとか、そういった形で視聴者の疑問に答える努力をしていかなくてはいけないと思っています。


【あわせて読みたい】
選挙報道はどう変わるのか①~日本テレビ選挙報道キャンペーン「投票前に考える それって本当?」~【研究員の視点】#584


【上杉 慎一】
1990年入局。大阪局、福岡局、報道局ネットワーク報道部、デジタルセンターなどを経て、2020年から現職。主な関心領域はデジタルジャーナリズム、ソーシャルメディアなど。


【秋元 宏美】
2010年入局、奈良局、大阪局、報道局ネットワーク報道部を経て2023年8月から放送文化研究所。

メディアの動き 2025年06月30日 (月)

選挙報道はどう変わるのか①~日本テレビ選挙報道キャンペーン「投票前に考える それって本当?」~【研究員の視点】#584

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メディア研究部(メディア情勢上杉 慎一・秋元 宏美

選挙報道はどう変わるのか①

 去年行われた3つの選挙(東京都知事選、衆議院選挙、兵庫県知事選挙)では、SNSによる情報発信がこれまで以上に影響力を持ち、特に11月の兵庫県知事選挙では、選挙結果を左右する大きな要因となりました。一方、テレビや新聞などの伝統メディアは選挙報道の公平性を重視するあまり、有権者が求める情報を十分に伝えていなかったのではないかという厳しい批判にさらされました。 これを受けて、多くのメディアが選挙報道の見直しに取り組み、中にはすでに動き出した対応もあります。選挙報道はどう変わるのか、シリーズでお伝えします。

それって本当?_日テレNEWS NNNより日テレNEWS NNNより

 日本テレビは、東京都議会議員選挙の告示に先立つ6月9日から「投票前に考える それって本当?」というキャンペーン報道を始めました。SNSの影響力が高まるなか、選挙に関わる視聴者の不安やモヤモヤに向き合うことで、有権者に真に資する報道を目指すとしています。SNSやネット世論が選挙に与える影響のほか、選挙の争点や選挙制度の仕組みについて、昼や夕方のニュース番組でかみ砕いて放送しています。また、放送した動画はインターネットでも発信しています。日本テレビの井上幸昌政治部長にキャンペーンの狙いについて聞きました。

Q:これまでの手応えを聞かせてください。
 基本的には、午前11時20分からの「ストレイトニュース」と夕方4時台の「news every.」、さらに「news zero」で放送してきました。結構、見てもらえていまして、投票行動に資する報道という当初の目的はある程度、達成できているのかなと感じています。

Q:「それって本当?」という言葉にはどのような思いが込められているのですか。
 去年の兵庫県知事選挙では偽情報や誤情報がネットにあふれかえり、SNSなどでは「それって本当?」という見出しや書き込みが数多く見られました。ネットの民意が実際の投票行動に影響するようになったなかで、こうした疑問を1つ1つ検証していくべきじゃないかという思いがまず一番にあります。
 また、例えば、参議院選挙に向けて 消費税の減税が議論になっていますけれども、「減税したら財政が危ない」、あるいは、「いやいや減税しても日本の財政は大丈夫だ」という2つの意見がよく出てきます。こうした選挙の公約や政策をめぐるテーマで、有権者が「それって本当?」と思う疑問に丁寧に応えていきたいという思いから始めたということもあります。

Q:これまでの選挙報道とはどこが違うのでしょうか。
 もともと投開票日当日の開票速報に力を入れていたのですが、とにかく事前報道を充実させよう、事前報道にもっと注力しようという考え方に変えました。取材や放送・配信の体制も改めました。報道局に選挙報道プロジェクトをつくって、政治部はもちろん社会部や経済部などの取材部門、それにすべての番組のデスクやプロデューサーが参加し、どうすれば質や量も含めて、投票行動に資する事前報道ができるのかを考えていこうということになりました。
 選挙報道プロジェクトには、「民主主義の危機チーム」と「事前報道チーム」、それに「選挙本部」という3つのチームをつくりました。 民主主義の危機チームは、選挙や民主主義の異変につながるような事象を察知するためのチームです。ファクトチェックやネットやSNS上の情報を分析するソーシャルリスニングなども担当します。このチームをつくったのは、やはり、 去年の兵庫県知事選挙の衝撃が大きかったのかもしれません。
 事前報道チームは、主に政党や候補者の政策や動きなどを担当します。選挙本部は投開票日当日のコンテンツ制作を担当するチームです。 以前なら選挙本部はほぼ当日に向けた準備だけをしていたのですが、アウトプットできるコンテンツがあれば、事前報道にも貢献していこうということになっています。

日本テレビ_井上幸昌政治部長日本テレビ 井上幸昌政治部長

Q:事前報道に力を入れる中で、選挙投開票日の開票速報にはどう取り組んでいくのですか。
 やはり、なるべく多くの人に見てもらい、なるべく高い視聴率をとる、開票速報の特番に注力するということは、今のビジネスモデルが続くかぎりは変わらないと思います。 その一方で、開票速報特番だけに注力しすぎると、事前報道には十分手が回らなくなってしまいます。おそらくこれまでは、放送法などを理由にした事前報道の萎縮があったのではないかと思います。開票速報特番と事前報道のバランスを適切な状態に戻していくという作業を今はしているのかなとは思います。

Q:去年の兵庫県知事選挙では、YouTubeの動画コンテンツの影響力が注目されました。日本テレビとしてYouTubeでの情報発信にはどのように取り組んでいますか。
 「それって本当?」のコンテンツはすべてインターネットで公開しています。さらに、東京都議会議員選挙に向けて、「投票誰にする会議」というYouTube独自のコンテンツを制作しました。各政党の代表が出演して討論をする番組です。ただ、通常の討論会の形式とは異なり、議席数に応じて分けたうえで、4回にわたって配信しました。すべての党を一緒に呼んで話を聞くと発言の時間も限られてしまうので、このやり方にすることでじっくり話を聞くことができるのではないかと考えました。
 「投票誰にする会議」は去年の衆議院選挙でも配信しました。人数を絞ってより深く、 ある意味ゆるい感じにもなるのですが、このスタイルにすると、意外と会話が生まれることがわかりました。地上波のテレビだと時間に限りがあるのでかなり作り込むのですが、そうではない世界が見えてきたというか、地上波とは違う作り方があるのだということがよくわかりました。

投票誰にする会議~都議選2025~_YouTubeよりYouTubeより

Q:選挙報道の見直しについて、系列各局とはどのようなやり取りをしているのですか。
 「それって本当?」は日本テレビだけのキャンペーンになっています。一方、選挙報道の在り方についてはガイドラインを大幅に見直して系列局と共有しています。ガイドラインには、事前報道を重視して有権者に真に資する報道を目指すということも当然入っています。量的公平性より質的公平性を重視していくことも確認しています。ただやはり質的公平性というのは難しいですよね。一つ一つ仲間と相談しながら対応しています。結局、有権者に資する公平性をどのように実現するのかは、その都度、考えながら判断していくということに尽きると思います。


【上杉 慎一】
1990年入局。大阪局、福岡局、報道局ネットワーク報道部、デジタルセンターなどを経て、2020年から現職。主な関心領域はデジタルジャーナリズム、ソーシャルメディアなど。


【秋元 宏美】
2010年入局、奈良局、大阪局、報道局ネットワーク報道部を経て2023年8月から放送文化研究所。

メディアの動き 2025年06月27日 (金)

学生スポーツはビジネスとして成立するのか ~メディアのスポーツコンテンツ戦略の現在地②~【研究員の視点】#583

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メディア研究部(メディア情勢)斉藤 孝信

スポーツ配信①

 このブログでは、インターネット配信の普及がスポーツコンテンツに与えた影響についてシリーズで紹介しています。前回は、U-NEXTとABEMAの2つの動画配信事業者のビジネスモデルを取り上げました。2回目は学生スポーツについてです。
 2024年11月にNHK放送文化研究所が実施した「スポーツ視聴者2,400人へのWEBアンケート(※1)」では、ふだんテレビやネットでよく視聴するスポーツの大会(※2)として、学生スポーツの全国大会と答えた人は23%、地方大会と答えた人は16%となりました。国内のプロスポーツ(56%)やオリンピックなどの世界大会(50%)には及ばないものの、学生スポーツは特に若い人の間で人気が高いのが特徴です。学生スポーツの全国大会をよく視聴すると回答した人を年代別で見ると、女性は10代が35%と最も高く、全体と比べて10ポイント以上高くなりました。また、男性でも10代が28%と最も高く、全体に比べて5ポイント高くなりました。(※3)
 ただ、コンテンツビジネスとして、学生スポーツを見た場合、まだまだ課題も多いようです。大学スポーツの動画配信に取り組む「UNIVAS(大学スポーツ協会)」の山田一成広報部長と高校スポーツの試合中継などを配信する「スポーツブル」を運営する運動通信社の若村祐介取締役に話を聞きました。


UNIVAS(大学スポーツ協会)~4年で終了した独自サイト・アプリ~
 UNIVAS(大学スポーツ協会)は2019年、大学スポーツの振興と支援を目的に、スポーツ庁や文部科学省の主導のもと、アメリカのNCAA(全米大学体育協会)を参考に設立されました(※4) 。2025年5月現在、全国225の大学が加盟しています。
 UNIVASの事業の柱の一つが、大学スポーツの認知拡大を目的とした動画コンテンツの配信です。配信サイトの「UNIVAS LIVE」とスマートフォン向け有料アプリの「UNIVAS Plus」を2021年9月に立ち上げ、2025年3月まで、協会に加盟する競技団体が主催するリーグ戦やインカレなどの全国大会の試合をライブ配信してきました。コンテンツの配信を重視したのは、NCAAの成功例があるからです。UNIVASが参考としているアメリカのNCAAでは、人気競技のバスケットボールとアメリカンフットボールの試合から入る年間約1,000億円の入場料や放映権料を、加盟している大学に分配しています。

UNIVAS 山田一成 広報部長UNIVAS 山田一成 広報部長

(山田広報部長)
 大学の運動部や競技団体の多くは、収入が少なく、人も集まらず、OB・OGの協力でなんとか運営している状態です。試合や大会も、参加者に登録料を負担してもらってようやく開催できています。親に経済的な負担をかけたくないという理由で、大学でのスポーツを諦める学生も少なくありません。大学スポーツの人気を高めることで、将来的には放映権料などの収益で大学や選手を支援できるようになればと考えて、動画コンテンツ配信に取り組むことにしました。
 本当は地上波のテレビなどで多くの人に見てもらうのが一番なのですが、当時は大手の配信事業者も今ほど熱心にスポーツコンテンツを扱っていませんでしたので、自分たちで発信するしかない状況でした。

 しかし、「UNIVAS LIVE」と「UNIVAS Plus」は2025年4月、資金面や技術面での支援を受けていたスポンサーが撤退したことで、サービス開始から4年足らずでいったん、終了せざるを得なくなりました。当面はYouTubeの公式チャンネルでコンテンツの配信を続けていますが、新たに始めたYouTubeの公式チャンネルの登録者数は、現在のところ1万人程度にとどまっています。

(山田広報部長)
 「UNIVAS Plus」の登録者は約19万人にまで増えていたので、一定の手応えはありました。特にコロナ禍で多くの大会が中止になり、再開後もしばらくは無観客での試合が続いたときは、「本当は会場に行きたいのに、行けない」という一定数の人たちが視聴してくれて、感謝の声も寄せていただきました。
 また、2021年の東京オリンピックで、バレーボールの高橋藍選手が大学生で日本代表に選ばれたときには、彼が大学のリーグ戦に出るだけでアプリのユーザー数が大きく増えたこともありました。ただ、こうした注目選手がいない競技では、ユーザーはOBや家族が中心で認知度が足りず、スポンサー撤退によって運営コストをまかなうことが厳しくなったため、苦渋の決断としてサービスを終了しました。
 YouTubeでの配信は、始めたばかりで登録数もまだ少ないですが、若い視聴者にとっては、ふだん慣れ親しんだYouTubeのほうが使いやすかったり、ほかの動画のついでに偶然気づいて視聴してくれるチャンスもあったりすると思うので、今後、数字が伸びてくれればいいなと願っています。

 大学スポーツの振興を図るためには、試合の中継などのコンテンツがより多くの人々の目に触れることが重要です。これからの大学スポーツに必要なのは、「コンテンツの価値」と「地域性」だと言います。

(山田広報部長)
 日本では大学スポーツは教育の一環として位置づけられており、例えば、試合の魅力を高めて、入場料や放映権などで収益を得るといったビジネスには消極的です。OBやOGの寄付に頼ることができるのはごく一部の有名大学だけです。大学スポーツ全体の底上げを図るためには、「学生スポーツで収益を得るのは悪いことではない」という空気感を醸成していくことが重要だと考えています。
 少しずつですが、新しい取り組みも始まっています。去年のバスケットボール大学選手権の決勝戦では、大型ビジョンを使ったり、光と音楽を使った演出をしたりするなど、プロの試合と同じようにエンターテインメント性を高める試みを行いました。おかげさまで、観客も3,000人近く入ってたいへん盛り上がりました。このようにコンテンツとしての価値を高める努力を続けていれば、学生スポーツに投資しようというスポンサー企業や、試合の中継を放送したり配信したりするメディアも出てきてくれるかもしれないと期待しています。

 もう1つ、日本の大学スポーツに足りないのが地域性です。アメリカでは、自分の町の大学を応援しようという意識が高く、そのおかげで入場料と放映権料から大きな収益を得ることができています。日本の大学スポーツも、「地域社会の代表」という位置づけを得ることが大事だと思います。そのためには、大学スポーツ側も積極的に地域との交流を図るべきですし、NHKをはじめとした地方のテレビ局にはぜひ、地元のプロチームと同じように、地元の大学スポーツも応援してほしいと思っています。


スポーツブル ~コンテンツを起点にしたビジネス展開で学生スポーツのすそ野を広げる~
 スポーツブルは、2016年にサービスを開始し、現在、全国高校総体=インターハイなど、高校スポーツの競技を中心に年間1万7,000試合以上をライブ配信しています。地方大会の1回戦からすべての試合を中継する夏の全国高校野球や、春のセンバツ高校野球、全国高校サッカー選手権、春高バレー(バレーボールの全日本高校選手権)などが人気コンテンツです。2024年度の1年間のアクセス数は1億2,000万UBに達したとしています(※5) 。広告を見ることで、ほぼすべての試合を無料で視聴することができます。また一部の試合では、ペイパービュー方式での見逃し配信も実施しています。

スポーツブル 若村祐介 取締役スポーツブル 若村祐介 取締役

(若村取締役)
 スポーツコンテンツの中でも、特に学生スポーツに力を入れることにしたのは、日本のスポーツを発展させる原動力は学生スポーツにあると考えているからです。実際に、日本のトップアスリートの9割以上は(高校や大学の)部活動の経験者です。また、プロスポーツはすでに多くの配信事業者が取り扱い、競争も激しくなっています。そうした中で、我々の存在意義は、これまでに見られなかった学生スポーツを見られるようにすることだとも考えました。
 例えば、夏の高校野球では地方大会も含めて約3,500試合を配信しています。もちろん、甲子園の決勝に比べると、地方大会1試合あたりの視聴者数は大幅に少ないですが、選手の家族やクラスメイト、OB・OGといった関係者を中心に、熱量の高いユーザーが集まっているのが特徴です。このような層に向けて、視聴の機会を作り、コンテンツのすそ野を広げていくことが、大切だと考えています。
 ユーザーの多くは学生などの若年層です。プロスポーツですと30代や40代の男性が中心ですが、10代や20代のユーザーが多いのが特徴です。また、視聴デバイスも9割がスマートフォンとなるなど、学生スポーツならではの視聴スタイルとファンの特性があります。

 「10代や20代のユーザーが多い」という若村さんの説明は、冒頭で紹介した文研の「スポーツ視聴者2,400人へのWEBアンケート」の結果とも一致します。ただ、学生スポーツは、スポンサーからの広告収入だけでビジネスを維持することは難しいのが現状です。

(若村取締役)
 若年層のユーザーが多いので興味を持ってくれるスポンサーは多いのですが、コンテンツの配信費用を広告だけで回収するのが難しいことは事実です。それでも配信が実現できているのは、KDDIとのパートナーシップが大きな要素です。サービス立ち上げ当初から、学生スポーツの価値を一緒に高めていくビジョンを共有し、地方の競技場の通信インフラの整備や映像配信のテクノロジーなどの面で支援してもらうなど、さまざまな連携を進めています。
 さらに、コンテンツの配信をベースにさまざまな事業を展開することで、学生スポーツが抱えるニーズや課題に応えていくというスタンスでビジネスを進めています。その一つが試合のDVDの販売です。地方大会の試合でも、熱量の高いユーザーが多いので「自分の出場した試合の映像をずっと残しておきたい」という一定のニーズがあります。また、春高バレーでは大会のマスコットを使った学校名入りのオリジナルグッズの制作・販売も始めました。学校の部活動を支援するため、試合や練習のスケジュール管理や部員同士のコミュニケーション、OB・OG・保護者から寄付などを行うことができる専用のアプリもリリースしています。

 スポーツブルでは、試合の中継などコンテンツの大部分は、主催者側から提供されるコンテンツを利用しているといいます。例えば、人気コンテンツの高校野球や高校サッカー、春高バレーは、地上波のテレビ局が制作した中継映像の提供を受けています。地方大会では、テレビ局が、自局での放送予定がないにもかかわらず、配信だけのためにコンテンツを制作するケースもあるといいます。

(若村取締役)
 人気コンテンツの場合、どうしても「放送VSネット」という構図で見られがちですが、私たちはそうは考えていません。学生スポーツを長年にわたり支え、育ててきたのは新聞社やテレビ局であり、私たちはそこに"配信"という新たな手段でご一緒させていただいている立場だと考えています。
 放送には編成の都合もあり、大会のすべての試合を中継することは難しい側面があります。放送で対応できない地方大会のコンテンツをネット配信することで、大会が盛り上がる機運を早い段階からユーザーと一緒に醸成し、その結果、テレビの放送を見るユーザーが増えるのではないかと考えています。また、放送とネット配信が重複する場合でも、「家でゆっくり見たい方はテレビで、外出先で応援したい方はスマートフォンで」というように、メディアどうしが協力して視聴者の選択肢を広げることが、今の時代の理想的なスポーツ体験の形だと思っています。

 今回は、学生スポーツの展開に取り組む2社のインタビューを紹介しました。両者に共通しているのは、学生スポーツの配信を、単独でビジネス化することの困難さです。野球やサッカー、ラグビーなどの一部の試合を除けば、高校でも大学でも、ほとんどの学生スポーツは、コンテンツビジネスとして成立するのは難しいのが現状です。
 一方で、青少年の健全育成というスポーツの公共的役割を果たすためには、試合の中継などのコンテンツをより多くの人々の目に触れるようにすることが重要です。
 スポーツコンテンツの経済的側面と公共的側面のバランスをどのようにとりながら、学生スポーツの底上げを図っていくのか、学校や競技団体だけでなく、メディアも交えて考えていく必要があるのではないかと感じました。


※1:時代を超えてよく見られる野球 学生スポーツは10代がよく視聴~スポーツコンテンツ視聴者2,400人へのWEBアンケートから➀~【研究員の視点】#568
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/674043.html

※2:アンケートでは、ふだんテレビ放送やネット配信でどんな競技の中継を視聴しているのか、9の選択肢から複数回答してもらった。

※3:アンケートでは、今後テレビで中継してほしい競技を、9の選択肢から複数回答してもらった。

※4:スポーツ庁「一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)設立概要」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/univas/index.htm

※5:「SPORTS BULL」2024年度年間ユニークアクセス数が過去最高を記録
https://sportsbull.jp/p/2043978/


【あわせて読みたい】
動画配信事業者のスポーツ配信ビジネスモデル ~メディアのスポーツコンテンツ戦略の現在地①~【研究員の視点】#580

メディアの動き 2025年06月17日 (火)

気候危機にメディアはどう向き合うべきか(第11回)気候変動をどう毎日のニュースにするか【研究員の視点】#582

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メディア研究部(メディア情勢青木 紀美子

気候危機にメディアはどう向き合うべきか

気候変動の問題は、ときどき伝えるだけでは報道機関の責任は果たせない。あらゆるニュースの分野、あらゆる報道番組に気候変動の視点を取り入れて継続的に伝えることが必要であり、そのためには常日頃からの備えと科学者との連携が欠かせない。

これはフランスの公共放送フランステレビジョン(France Télévisions)の気候変動報道の責任者オードレ・セルドン(Audrey Cerdan)さんが、「気候変動をどう毎日のニュースにするか」をテーマにした講座の話で強調した点です。セルドンさんの話は、フランステレビジョンの天気予報番組の刷新について2024年12月に「天気予報を気候リテラシーの出発点に」というブログ記事でお伝えしましたが、今回は日常的な取材に気候変動の視点を取り入れる工夫についての話です。

この講座はNHK放送文化研究所が早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所とともに続けている次世代ジャーナリズム講座と、全国の取材・制作者が学びあう報道実務家フォーラム1 が2025年4月26日に共催し、私が司会を務めました。この記事では、登壇したセルドンさん、それにNHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサー、堅達京子さん(気候変動の番組を多数制作)の話の要点をお伝えします。

オンラインで参加したオードレ・セルドンさんオンラインで参加したオードレ・セルドンさん
「気候変動をどう毎日のニュースにするか」(4月26日 早稲田大学国際会議場)
次世代ジャーナリズム講座・報道実務家フォーラム共催
  画像:報道実務家フォーラム

セルドンさんによると、フランステレビジョンは気候変動の継続的な報道は公共サービスとしての報道の責任と位置づけており、その背景には、気候危機に直面しているという科学的な現実だけではなく、市民からの要請があります。猛暑や干ばつ、洪水など、何かがあった時だけに集中的に取り上げるのでなく、継続的に一貫性をもって報じることが、視聴者の不安や混乱を増幅させないためにも大事で、気候変動について伝えることは、すべての記者・取材者の責任だとしています。

これは気候変動が社会のあらゆる分野に影響を及ぼしているためで、セルドンさんは、主催者や選手が暑さに備える必要が生じている夏のスポーツ、温度・湿度の変化で劣化が早まる芸術作品や文化遺産、酷暑への対策を迫られている学校や住宅などを取材した記事を紹介しながら、どんな取材でも気候変動の視点や知識を持つことが役に立つことを強調しました。とりわけ農業など特に大きな影響を受けている分野では担当する記者が気候変動を理解していなければ責任ある取材は難しいと述べました。

フランステレビジョンのオンラインニュース 『franceinfo』 記事フランステレビジョンのオンラインニュース 『franceinfo』 記事
左:干ばつと豪雨による農家の被害 / 右:芸術作品への影響に対する警告
   画像:フランステレビジョン

セルドンさんはフランステレビジョンの気候変動報道全体を見直す中で学んだこととして、以下の9つの点を挙げました。

1. 気候変動の継続的な報道は公共サービスとしての報道の責任
2. 気候変動について伝えることはすべての記者・取材者の責任
3. 新たな番組やサイトを作るよりも既存の番組や枠組みで取り上げる
4. 問題を示すだけでなく解決策に踏み込んで伝える
5. 科学者や研究者との連携を強化する
6. 起こりうる事象や影響を予想して準備する
7. 目に見えない気候の変化や影響、メカニズムを可視化する
8. 水循環の変化とその影響に注目する
9. 視聴者の疑問や関心事を出発点にする

気候変動についてより幅広い人に伝えていくためには、新たな番組やサイトを作るよりも既存の番組や枠組みで取り上げることが効果的だといいます。それはなぜか。セルドンさんによると、テーマに特化した枠組みでは、関心がある人をひきつけることはできても、それ以外の人をなかなか呼び込むことができないためです。フランステレビジョンでは、あらゆる番組に気候変動の視点を取り入れることに力を入れており、それが番組の質を高めることにもなっています。

また、伝える際には、問題だけでなく対策や適応策に踏み込んで伝えることが関心と共感を呼ぶこと、とりわけ暮らしに身近な地域の取り組みには反響が大きいといいます。一方で、中国のように二酸化炭素の排出量が多い国が再生可能エネルギーにも大規模に投資していることなど、海外における対策の進展を報じることで、自分たちだけが対策を迫られているわけではないことを知ってもらうことも大事だとしています。

さらに起こりうる事象や影響を予想して準備することが、気候変動を毎日のニュースにすることを可能にしている、とセルドンさんは説明しました。毎年5~6月に、その夏の気象予報などをもとにした科学者のブリーフィングを受け、どのような影響を想定すべきか、必要になるであろう報道内容を話し合い、準備をしています。特に力を入れているのはデータをもとにしたグラフィックを用意し、目に見えない気候の変化や影響、メカニズムを可視化する工夫です。パリオリンピックの前には会場となる各地の都市のヒートアイランド現象の影響を分析し、都心部などの気温上昇の度合いを示すグラフィックを作りました。地図とデータをあわせてみることで、気温上昇が高い地点の周囲には公園や樹木がないことがわかり、気温上昇を抑える要素を視覚的に示すこともできました。こうした準備をすることで、暑い、乾いている、山火事だ、豪雨だ、といった事象を伝えるだけではない報道ができるようになったといいます。

ヒートアイランド現象によるパリ中心部の気温上昇についてのグラフィックヒートアイランド現象によるパリ中心部の気温上昇についてのグラフィック
フランステレビジョンがパリオリンピックに備えて作成
  画像:フランステレビジョン

セルドンさんはまた、降水量の劇的な増加や減少など水循環の変化とその影響に注目することが重要だと指摘しました。気候変動というと温暖化=気温上昇を考えがちですが、多くの人には豪雨、豪雪、洪水、干ばつ・水不足、地下水の枯渇、土地の砂漠化など水に関わる事象の変化や災害がはるかに深刻な影響をもたらし、将来への不安の要因でもあるためです。そこで、水循環の変化や将来にわたる影響に注目し、その仕組みや適応策を伝えることが重要になっているといいます。

このような報道を積極的に展開するために何より重要なのは科学者との連携を強化することだと、セルドンさんは強調しました。気象学者だけではなく、気候変動の影響を語ることができる経済や社会など幅広い分野の専門家とつながり、単なる取材対象者や情報源ではなく、報道の伴走者とするパートナーシップにつながる信頼関係を築くことを促しました。

フランステレビジョンの番組 『Journal Météo Clima』で子どもの質問に答える科学者フランステレビジョンの番組 『Journal Météo Clima』で子どもの質問に答える科学者 画像:フランステレビジョン

こうした気候変動のさまざまな側面を伝えるにあたって、フランステレビジョンにとって大事な羅針盤になっているのは、視聴者から募った質問です。記者が思いつかないような視点からの問いかけも多く、視聴者の疑問や関心事を出発点にすることで、ともすると遠く感じられる気候変動を身近に引き寄せ、科学的に意味があるだけでなく、わかりやすく面白い解説ができ、耳を傾けてもらうことにもつながるといいます。セルドンさんによると、継続的な報道を積み重ねることで、より詳しい解説や適応策、排出削減策を伝えることができ、これにあわせて寄せられる質問の内容も変わってきました。

セルドンさんは日本のジャーナリストに向けた次のようなメッセージで今回の講座を締めくくりました。

気候変動はいま直面する重大な問題であるだけでなく 、本当に面白い取材ができるテーマです。取り上げる切り口はいくらでもあり、興味深い掘り下げや展開が可能で、豊かな出会いが待ち受ける宝の箱でもあり、毎日、取材者としての自分を磨いてくれます。あなたの読者・視聴者にとっても大事なテーマです。気候変動を毎日のニュースにする方法はたくさんあります。ぜひ気候変動の視点を持った取材に挑戦してみてください。

今回の講座には、前述のように、多数の気候変動についての番組を長年制作してきたNHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサー、堅達京子さんも登壇しました。

堅達京子さん (4月26日 早稲田大学国際会議場)堅達京子さん(4月26日 早稲田大学国際会議場)    画像:報道実務家フォーラム

堅達さんも、気候変動はどんなジャーナリストにとっても避けて通れない問題になっていることを強調しました。その理由として、現状を俯瞰(ふかん)すると、世界経済フォーラムの「グローバルリスク・リポート」2 が今後10年で最も深刻なリスクになりうるとした上位4項目が異常気象や生物多様性の喪失など気候変動にかかわる問題であること、地球環境が安定した状態を保つことができる範囲の限界を示すとされる「プラネタリー・バウンダリー」を、既に9つの分野のうち6つの分野で超えてしまっていること3 などを説明しました。

日本でも酷暑、豪雨や豪雪などの異常気象、これによる複合災害、農作物の収穫や漁獲の変化、健康被害などに影響が現れていますが、温室効果ガスの排出削減策では、電気自動車の普及が世界に遅れ(2024年時点で世界の22%に対し日本は2.8%)4 、電力エネルギー源の脱炭素化も世界の主要国に後れをとっている現実がある5 と、堅達さんは指摘しました。一方で、地域における再生可能エネルギーの導入が停電などの非常時の対策やコスト削減になるなど、一石二鳥ともいえる施策の事例があることを紹介し、身近な問題や地域に関わる動きを入り口にした取材で、気候変動への関心を呼び起こすよう促しました。

また、ニュースに生かせる知識として、熱波などの異常気象の背景に気候変動の影響があることを科学的に分析する「イベント・アトリビューション」の研究が進んでいることも説明しました。

アメリカがパリ協定を離脱する方針を決め、気象観測や調査研究の予算を大幅に削減しているという科学の分野の危機もありますが、そうした状況だからこそ、ジャーナリストの責任が問われている、と堅達さんは話しています。国際的にも、世界のメディアが参加するネットワーク「Covering Climate Now」のよびかけで、世界のおよそ89%の市民が気候変動対策の強化を求めている、そのサイレントマジョリティーの声を伝えていこうという『The 89% Percent Project』という報道連携が始まったことも紹介しました。

***

「気候変動をどう毎日のニュースにするか」を考えることは、すべての取材担当者の責任であるというセルドンさんの指摘、どんな分野のジャーナリストにも避けては通れない問題だという堅達さんの話は、メディアの研究調査にあたる私たちにも関わる話として受け止める必要があると考えました。今回の講座の動画やプレゼンテーション資料は以下から参照できます。
https://www.waseda.jp/inst/cro/news/2025/06/13/19707/(NHKサイトから離れます)

***

以下は文研の関連記事です。

 文研ブログ連載
「気候危機にメディアはどう向き合うべきか」

 『放送研究と調査』
Vol.1 ソリューション・ジャーナリズム メディア間連携と市民との協働
Vol.2 将来を決める分岐点に立つという危機感を背景にした海外の報道連携
Vol.3 危機意識の共有とソリューション探究



1 報道実務家フォーラム  https://j-forum.org/

2 Global Risks Report 2025、World Economic Forum, 2025.1.15
https://www.weforum.org/publications/global-risks-report-2025/

3 Earth beyond six of nine planetary boundaries, Science Advances, 2023.9.13
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adh2458

4 Global EV Data Explorer, IEA(国際エネルギー機関)
https://www.iea.org/data-and-statistics/data-tools/global-ev-data-explorer

5 主要 10 か国・地域のカーボンニュートラル実現に向けた動向とその背景、エネルギー白書2025
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2025/pdf/1_3.pdf

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【青木 紀美子】
広島、東京、NY、ロンドン、バンコクなどを拠点としたニュース・番組取材を経て2018年から現職。
文研ではエンゲージド・ジャーナリズムなどメディアと市民の連携・協働やメディアどうしの連携、メディアの多様性の問題などについて調査・報告している。

調査あれこれ 2025年06月13日 (金)

授業ではタブレット端末を使うのが当たり前!? "小学生の学び"の現在【研究員の視点】#581

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メディア研究部(番組・メディア史)及木駿

黒板や紙の教科書を見て、鉛筆でノートをとる。
そんな昔ながらの教室の風景は、ここ数年で大きく変わってきています。

文部科学省が進めてきたGIGAスクール構想によって小学校では、児童1人あたり1台以上のパソコンやタブレット端末が整備され、普通教室の98%でインターネット接続が行われています※1 。大人たちが仕事でパソコンを使うのが当たり前なように、子どもたちも学習でパソコンやタブレット端末を使うことが当たり前になっているのです。その様子は文研の調査結果にも表れています。

授業ではタブレット端末を使うのが当たり前!?

文研では、学校現場におけるメディア機器や教材の利用状況を把握するため、全国規模の調査を継続的に行っており、2024年度は3年ぶりに小学校を対象とした「NHK小学校教師のメディア利用と意識に関する調査※2を実施しました。下のグラフはその調査で教師に、子どもたちがパソコンやタブレット端末を授業で使う頻度を尋ねた結果です。

児童のパソコンやタブレット端末の利用頻度

「ほとんど毎日」64%を占め、児童の過半数が毎日のように利用していることがわかります。端末が導入されてまもない2021年度と比較すると、20ポイント以上増加し、年月を経て利用が定着していることもわかります。

では、子どもたちはパソコンやタブレット端末上で、どのようなソフトやアプリケーションを動かし、どういった機能を利用しているでしょうか。次のグラフがその結果を示しています。

児童が利用しているツールの機能

最も多く利用されているのがパワーポイントなどの「スライド作成機能」で、「よく利用」と「たまに利用」を合わせると61%でした。総合的な学習の時間などで、自分たちの調べたことや取り組んだことについて発表する際、資料を作成するのによく使われる機能です。

また、「課題の配布、提出機能」「アンケート、意見集約」利用が多いことは、学校ならではの特徴と言えるでしょう。かつては紙で配布、回収する必要があったものがデジタルで完結するため、児童や教師にとって利便性が高く、利用が多いのだと思われます。

ちなみに、大人では一般的に利用されている「チャットでの意見交換」は、子どもたちに最も利用されていない機能でした。学校ではクラスメートが同じ教室にいることが多いため、チャットを使う必要性が薄いことが考えられます。また教師の目が届かないところでトラブルが起きることを心配し、利用を禁止する学校も少なくないようです。

いまの小学校の当たり前について、少しイメージがつかめてきたでしょうか。
「放送研究と調査」2025年6月号 「1人1台端末の利用実態にみる今後のメディア教材の方向性~2024年度「NHK小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から~」では、今回ご紹介した内容のほかにも
・学年別ではどのような違いがあるか
・パソコンやタブレット端末をどういった教科で使っているか
・NHKの教育サービス(『NHK for School』)や『YouTube』はどれくらい利用されているか
など、調査結果を詳しく報告しています。教育の最新事情、ぜひご覧ください。


※1 文部科学省「令和5年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」
 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00062.html
小学校における「児童生徒1人あたりの学習者用コンピュータ台数」は1.1台/人。
「無線LANまたは移動通信システム(LTE等)によりインターネット接続を行う普通教室の割合」は98.4%。

※2 調査の概要は下記の通り。
調査実施期間:2024(令和6)年10月4日(金)〜12月27日(金)
調査対象:全国の小学校18,824校から系統抽出した1,600校の教師4,800名
調査方法:学校長あての調査協力依頼、無記名回答。郵送依頼・WEB回答形式。

【及木 駿】
2015年入局。ディレクターとして地域放送や子ども・若者向けの番組を担当。
2024年からNHK放送文化研究所で、教育番組に関する調査・研究を行っている。