テレビは信頼を得られているか?②~フジテレビの問題から考える~【研究員の視点】#590
世論調査部 芳賀 紫苑
前回のブログでは、テレビ視聴が低下している要因のひとつとして、テレビ局が伝えているニュースや情報番組が視聴者のニーズに応えられていないのではないかという観点から、インタビュー調査の結果を紹介してきました。
こうしたインタビューや様々な調査の中で聞こえてきたのが、テレビ局は、伝えている内容だけでなく、組織のあり方も、時代にそぐわなくなっているという声でした。そのひとつの例となったのが年明け以降、連日報道されることとなったフジテレビの一連の問題です。この問題では、有名タレントと女性社員とのトラブルをめぐるフジテレビの対応を受け、スポンサー各社が長期間にわたってCMを見合わせるという事態に発展しました。その後6月の株主総会を経て経営陣が一新され、一部CMを再開する動きも見られますが、フジテレビの番組にも大きな影響を及ぼすこととなった今回の事案の背景には、経営体質や企業風土など組織のあり方にも問題があったと指摘されました。そこで、この問題に対して、人々はどのように思っていたのか、組織としてのテレビ局のあり方は視聴者の信頼を得られているのか?何が信頼を失う原因となるのかなどについて、インタビュー調査結果をもとに考えていきたいと思います。
調査を行ったのは、フジテレビの第三者委員会の報告書が公表されるおよそ2週間前の3月15日(土)、16日(日)の2日間で、グループインタビューの形式で実施しました。対象としたのは、昨年の「全国メディア意識世論調査」で、より"テレビ離れ"が顕著に見られた30代と50代です。調査会社に登録している方たちの中から、▽テレビの視聴が以前より減っているが、NHKか民放のいずれかを週1回以上は視聴しているという30代と50代それぞれ8人、さらに▽テレビを視聴することがほとんどなくなった30代8人を加えて、合計24人にインタビューの協力を頂きました。
何が一番の問題だと思ったのか 会見、トラブル把握後の対応、経営体質・・・・
まず、今回のフジテレビの件で、何が一番の問題だと思われたのか。そのことから始めていきたいと思います。なお、調査は 3月に行ったため、それ以降の出来事は反映されていないことをあらかじめお断りしておきます。インタビュー調査では、質問を行う前提として、(イ)「フジテレビの会見の対応」、(ロ)「トラブルを把握した後の社内の対応や中居氏への対応」、(ハ)「女性を接待要員として利用していた疑惑」、(ニ)「特定の人が長く会社の実権を握り続けていること」、(ホ)「その他」の5つの問題を、こちらから仮説として提示しました。インタビューに応じたほとんどの人が上記のいずれもが問題だと答えましたが、その中でも、あえて一番問題だと思うものはどれかを尋ねたところ、人によって違いがあり、それぞれ具体的に問題だと思った点を指摘してくれました。インタビューの内容は、発言者の意図が伝わるよう、できるだけそのままの言葉で紹介します。
(イ)会見の対応
(ロ)トラブルを把握した後の社内の対応、中居氏への対応
(ハ)女性を接待要員としていた疑惑
(二)特定の人が長く実権を握り続けていたこと
このように、それぞれについて問題だと指摘する意見が相次ぎました。その中でも、複数の問題にまたがって出てきたのが「今の時代にそぐわない」「古い体質」「時代遅れ」といった言葉です。3月31日に公表された第三者委員会の報告書でも、フジテレビの企業文化や組織風土、経営体制について言及していますが、インタビューに答えた人たちも、それらに問題があると認識していることがうかがえました。
フジテレビに対する印象はどのように変わったのか
では、このような問題を受けて、フジテレビに対する印象はどう変わったのでしょうか。フジテレビに対して、元々どのような印象を持っていたのかによって、立ち位置の違いはありましたが、全員に共通していたのは、負のイメージを広げてしまったことです。
フジテレビだけの問題なのか
では、今回の問題は、フジテレビだけの話なのでしょうか。これについては、インタビューに答えた人の多くがフジテレビだけでなく、他のテレビ局やメディア業界でも見られることではないかと指摘していました。さらに、こうした問題は、日本社会ではかつてよく見られたことであり、他の企業でも起こりうること、一社にとどまらず社会全体に共通する問題だという意見も聞かれました。
○テレビ業界、メディア業界に見られる問題という意見
○社会全体に見られる問題という意見
このように、今回のような問題は社会全体にもあることではないかという見方が多い一方、最近ではどの企業においてもコンプライアンスへの対応が厳しくなっている中で、メディアは特に時代遅れの体質が強いのではという意見もありました。
テレビ局の信頼が問われている
ここまでフジテレビの問題を中心に、人々が組織のあり方を通して、そのテレビ局の番組やテレビ局自体に対してどのような思いを持つに至ったのかをみてきました。フジテレビは、経営体制を一新し、長年経営に携わってきた日枝元取締役相談役も身を引きました。CMを再開する企業も出てきてはいますが、まだ一部にとどまり、以前の状態を回復するには至っていません。フジテレビはできるだけ早期に信頼を回復したいとして、改革を前に進めていくとしていますが、その道のりは決して平坦なものではありません。
今回のインタビューの中で強く印象に残ったのが、テレビ業界の感覚は世間とずれているという厳しい声です。様々なメディアが情報発信を行うようになり、テレビや新聞以外からも情報が容易に入手できるようになった今日、人々にとって便利であるか、さらに人々を引きつけるものを提供しているのかといった要素が重要であるだけでなく、その前提として、その情報を提供している発信元が信頼されていなければ、そもそも提供しているものも見てもらえないという問題があるように思います。
3月31日に第三者委員会が公表した報告書では、「性的暴力・ハラスメントという人権課題は、フジテレビに固有のものではなくメディア・エンターテインメント業界における構造的な課題」で「この状況のまま放置されれば、この業界に人権意識の高い有望な若い人材が入ってくることも定着することも困難となり、いずれは業界の人的資本が枯渇するおそれがある。」と指摘しています。視聴者が見たいと思う番組を提供していくことも大事ですが、その前に、その組織が人々の信頼を得られているのか。このことを抜きにして、前に進むことはできないように思います。テレビ局への信頼が揺らぐ今、放送業界に携わる私たちは、今まで以上に感度を高め、常に自問自答しながら、取材、制作、そして組織運営などの業務にあたっていくことが大事だと感じました。
「放送研究と調査」2025年8-9月号(8月1日発行)では、「全国メディア意識世論調査」の最新の結果を紹介しています。人々のメディア利用はどう変化したのか?情報の真偽を確かめるうえでもっとも役に立っているメディアは?正しい情報をより分ける自信はあるのか?などメディア選択の背景にある意識を分析していますので、ぜひご覧ください。
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