ヴィレッジヴァンガードが81店閉店へ かつての“発見の場”はなぜ迷走したのか

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
写真:ロイター/アフロ

 7月11日、日本経済新聞に「雑貨店のヴィレッジヴァンガード、81店を閉店へ 2期連続最終赤字」と題する記事が掲載された。

 「遊べる本屋」をコンセプトとするヴィレッジヴァンガード(以下、ヴィレヴァン)の運営会社は11日、2026年5月期以降に全店舗の約3割にあたる81店舗を閉店する予定だと発表した。25年5月期の連結決算では、最終損益が42億円の赤字に転落。閉店対象は路面店やテナント店を問わず全国に及び、今後はオンライン事業を中心に販売増を見込むようだ。

 ヴィレヴァンは、かつて独特のセレクトで若年層を中心に熱狂的な支持を集めた。だがECの台頭や情報環境の変化により、店舗でしか得られない「発見」の体験が、インターネットに置き換わった。また拡大にともなう店舗の均質化や、本部主導の管理強化も、かつての自由な個別店舗主義による経営を困難にし、古いファン離れを招いたとされている。

 といった生成AIやコンサル、大学教授が書きそうな一般論は、ここまでにしよう。今回の閉店発表は、むしろヴィレヴァン再建への入り口となりうる。ヴィレヴァンは、他のセレクト雑貨店とは異なる路線を歩むことで、独自の価値を発揮できるはずだ。

価値発見と購買を再接続せよ

 ヴィレヴァンの強みは、店頭でしか得られなかった情報の非対称性、つまり予期しない出会いの演出にあった。一方でインターネットの普及は、情報の非対称性を薄れさせ、ヴィレヴァンへの期待を小さくする契機となった。価格比較が容易になったことで、消費者は欲しいものが決まっているときには、ネットで安く買う行動様式へと移行した。

 だがヴィレヴァンが提供してきたのは、日常的な商品の情報ではなく、まさしく「遊べるもの」「面白くて変わったもの」の情報である。店が均質化し、本部の管理が強化されても、ユニークな情報提供が担保されているかぎり、訪れる動機は維持される。POPが描けないとか、クセのある店員がいないといった問題は本質ではない。

 SNSの普及が、その情報提供の牙城を崩したという声もある。しかし本当に、InstagramやX、YouTubeなどによって、面白いものの情報は得られるだろうか。発信の大衆化は玉石混交の情報を生み出し、価値のある情報は容易に埋もれるようになった。発信者の多くは、無難な「映え」写真や反応を得やすい投稿を繰り返し、似たようなコンテンツが量産されている。アルゴリズムは類似の投稿ばかりを届け、発見の偶然性は著しく損なわれている。

 人びとはいま、価値ある情報がどこにあるのか分からず、情報の荒野を彷徨っている。認知心理学でも、選択肢が多すぎると選べなくなる選択のパラドクスが指摘されている。数多の情報ではなく、自分の知らなかった世界を提示してくれる主体者をこそ、人びとは本能的に求めている。

 かくして、ヴィレヴァンに行けば新たな価値と出会えると認識されていれば、店舗そのものの価値は失われないはずであった。だが近年のヴィレヴァンは、売れ筋を意識するあまり、流行をつくる側から流行に乗る側へと転じてしまった。「違い」が失われれば、人はわざわざ足を運ばす、検索で済ませてしまう。

 それではヴィレヴァンが、再び情報発信者としての役割を取り戻せば、業績は回復するだろうか。そう単純な話ではない。いまやネットは「AからZまで」買える市場を形成し、よってリアル店舗で得た体験はその場での購買に結びつきにくくなった。つまり体験したその場で、ネット検索されてしまうのである。ここに、業績悪化の根本的な要因がある。

 すなわち、ヴィレヴァンが立て直すには、再び「体験」と「購買」を結びつける必要がある。そこには雑貨というジャンルがもつ購買必然性の低さと、情報のオープン化の構造的影響が複雑に絡んでいる。しかるに必要ではない雑貨も、体験によって当人に意味が見出されれば購買される。ドン・キホーテ、中野ブロードウェイ、ハンズといった店舗は、まさにその成功例である。

 以前も書いたが、ドンキは雑然とした店舗体験の中に「買いたくなる理由」を織り込んでいる。ドンキは他店よりも安いイメージがあるが、実際には商品によって異なる。「情熱価格」のようなオリジナル商品は、たしかに安価である。しかしそれ以上に、顧客の必要や欲しい理由を先回りしているがゆえに、売れているのである。

 中野ブロードウェイには、多様な商品の中に希少性の高いものや掘り出し物、一点モノがある。そのため、そこでしか手に入らない、いま逃すと手に入らないという緊張感が、即決購入の背中を押すのである。サブカルチャーの本質は「自分だけが見つけたもの」への愛着である。その文脈において、価格は二義的である。

 ハンズは、暮らしの「ヒント・マーケット」というコンセプトを掲げ、顧客が新たな発見やアイディアを選べる場を提供している。商品の使い方や利点を、スタッフが実演や説明を通じて伝えている。親切にされた相手に対して何かを返そうとする心理を、返報性の法則という。発見と信頼が、購買行動へと自然に誘うのである。

本部に目利きを配置せよ

 ヴィレヴァンの「ごちゃごちゃ感」は、単なる混沌の演出ではない。一点一点の商品に意味や物語が込められた結果として「ごちゃごちゃ感」が生まれ、それが店舗の魅力や価値となっていたのである。そうした有意味な商品を集めるのが、セレクト雑貨店の本領といえよう。いま求められるのは、その意味を見出す目利きの復権である。

 必要なのは、ネットで検索しても出てこない商品や、ヴィレヴァンでしか出会えない商品を、メッセージとして提示する視点である。店舗は個別の顧客に何らか生活上の意味を示し、心や感情を揺さぶることで、購買へと誘う必要がある。「イベントを打つ」「オタクに刺さる」といった単発的で安直な手段は、本質を伴わないかぎり価値を生まない。

 「違い」とは手段の違いではない。何を目的とし、どう表現するかに関わる内実の違いなのである。それを創出するのは、明確な主張や観念、信念をもち、表現する方法を知り、その最良の手段として商品を選び抜く人である。そのような人材こそ、これからのヴィレヴァンに必要な存在と思われる。

 全国の店舗に配置することを望むのは、もはや現実的ではない。ならばこそ、そうした人を、本部の中枢に置くべきなのである。マネジメントの要領を得た人だけではなく、かつてのヴィレヴァンをつくり上げた、あるいはその精神を継ぐ人を招き入れる。それこそが、ヴィレヴァン再建の出発点となるであろう。

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皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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