ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う? 作:新月
今日で三章終了です。
──あれ、ここは……?
俺は微睡の中、僅かに意識を取り戻して覚醒した。
確か、トールと戦って、その後は……そうだ、ティアーとカイザーに会って……
ダメだ、そこからよく思い出せない。血を流し過ぎて気絶しちゃってたのか?
と言う事は、気絶した俺を二人は放置か……もしくはアジトに連れ帰って、俺の鎧を剥がしたり……──っ!?
「待て!? それって俺の正体がバレたかもしれないって事じゃねーのか!? / ごば!? ごごっばゴゴばばばばばばばばばっぼバババーバごば!?」
──いや、何!?
待て、何だ俺の声!? 何か変だ!? と言うか、液体というか……
あれ!? 俺まさか水中にいる!?
「いや、閉じ込められてる!? / ビバ、ごじごべバベでぶ!?」
よく確かめてみると、俺なんか透明なタンクみたいな何かに、液体ごと付けられてるまさか!?
何、よくある悪の組織で見かける、クローン培養みたいな研究所のタンクみたいな!?
俺、捕まった!?
「いや、【ダーク・ガジェット】はまだ手元にある!? / ビバ、バーク・バジェッボばばだべボドにだぶ!?」
今の俺は、まだ変身中!! 黒刀も手元にある!
これなら……!!
「“セレクト・エッジ!!” / “ベデぐど・ベッジ!!”」
ズバンッ!! と、目の前のガラスのタンクを切り裂いた。
狭い筒状の中だったから、一閃で壊すのは難しく、四角形になるように小さな振りで穴を開ける。
切り開かれた穴から、液体とともに俺がバシャっと排出された。
「ゲホっ?! ごほっ、ゴホッ!! ごへっ……!! ぐうぅ、何処だここ……!?」
何とか出られたはいいが、周囲を良く見ても俺の入っていたタンクと同じようなものがずらりと。
それ以外、この場所の情報がよく分からない。
おそらく十中八九、ティアー達に俺は持ち帰られてここに来たんだと思うんだが……
これ、今のうちに脱出しておいた方がいいやつか……?
「何だ、騒々しいな。もしや、ようやく起きたか?」
「──ッ!?」
そう思っていると、突如聞き覚えのある声を掛けられる。
それは気絶する前に最後に聞いた声の内、片方だった。
振り返ると……
「おはよう。いや、最早こんにちはだな。どうだ、ぐっすり眠れたか?」
「カイザー……っ!?」
そこにはカイザー、【カオス・ワールド】のボスが、この部屋の入り口らしき場所から壁に寄りかかって声を掛けて来た。
全身鎧で、頭のヘルムもしっかり被っている状態だ。配信の初対面の時に見せた、完全防備の状態だ。
「いやはや、4日も眠りこけていたとはな。流石に多少不安に思っていたぞ、いつ目覚めるかとな」
「4日……!? それだけの間、俺は眠っていたのか!?」
俺はカイザーから告げられた日数に、驚きを隠せないでいた。
それだけの長い間眠っていたなんて……!!
そんな俺の驚きをよそに、カイザーは呆れたように話を続けてくる。
「全く、ウチの回復ポッドを壊しおって。いったい一つ幾らすると思ってるのやら。まあ、貴様視点ではいきなり見知らぬ液体の中で起き上がったわけだから、無理もない反応か」
「回復ポッド? 俺が今まで入っていたこれが?」
「ああ。貴様の鎧を剥がさず回復させるにはそれが手っ取り早かったからな」
そう言われて、俺は今まで入っていたガラスタンクを見つめ直す。
それから思い出したように自分のお腹辺りを確かめてみると、確かにトールに貫かれて空いていた筈の穴が塞がれており、傷の治療が為されている。
「そうだったのか……悪いな、それなら壊しちゃって。でも、鎧を剥がさずって?」
「“個人情報保護”の為さ。ウチの組織では、所属メンバーと言えど個人情報を公開しないプライバシーに配慮した方式になっているのでな。もちろん希望者によっては自分から公開する者もいるが、大半が自分の本名などを隠している。貴様に対しても、それを適用しただけさ」
そう言って、片手を開くような動作をしながら説明をしたカイザー。
その説明は、組織としてはありえない方式だった。
「はあ? そんなんで組織としてやっていけるのかよ? 所属メンバーの裏取もしないで、裏切りとか発生しないのか?」
「生憎、その点に関しては心配ご無用と言ったところだな。ちゃんと対策はしてある。それよりも、“悪の組織に所属している”と言う情報を隠したい者の為に配慮しているといった形だな」
「ふーん……」
ヒーローですら、一般に本名の公開はともかく、連合に対してはちゃんと本名を伝えたりしてるのに……
ある意味【カオス・ワールド】は匿名性主義を成立しているとは、信じられない話だ。
こうしてまんまと拾われた、俺自身の背景の事も、今この瞬間には調べられていてもおかしく無い話なのに……
「ま、と言うわけでだ。貴様に関する情報は調べてないから安心しろ。その鎧の下を暴いて、素顔を見ようなんて思ってはいないさ」
「まあ、あんたらがそれでいいなら、こっちとしては助かるけどさ……」
「ああ、だから安心しろ……
────“サンタクロース”よ」
あ、違うやこれ。背景調べていなんじゃなくて、ある程度こっちのこと確信を持ってるだけだこれ。
サンタクロースと呼んだカイザーの声が、心なしかニンマリと、力強く言ってるように聞こえた。
「は? 何のことだよ? サンタクロース? クリスマスにはまだ早過ぎると思うぜ?」
とりあえず、俺は軽くすっとぼけてみる事にした。我ながら大分自然な感じに出せたと思う。
そもそも黒い鎧の下を剥がしていないとしても、素顔以前に、画面越しでしかあった事のない配信者なんて、普通分かりっこないからだ。
しかも俺は今、個人情報に繋がるスマホや財布などといった物も置いて来ている。
配信の視聴履歴も調べられない以上、俺がカイザーと話していた個人だと断定する要素はない筈だ。
「いや、何。こちらの話なのだがな。我はこう見えて配信もやっているのだが、その際いつも見てくれる唯一のリスナーがいるのだ」
「へー、そうなんだ……」
「そうだ。我が配信したら、必ずと言っていいほど毎回いてくれるのだがな。……それが最近、“急に配信に来なくなったのだ”」
そう言って、カイザーは寄りかかった壁から離れて、こちらに近づいてくる。
ゆっくりと、しかし確実に一歩一歩近づいてくるように。
俺は目を逸らしたい欲求が湧きながらも、何とか不自然に逸らさないように堪えてみる。
「へー……けど配信って、毎回必ず見るものでもなく無いですか? 何かの事情で配信を見れない事もあったりするでしょう? もしくはただ単に、飽きて別の配信を見たくなったりか、配信を見ること以外をやりたくなったりとか」
「ふむ、それは一理あるな? しかし私とそのリスナーは、自分で言うのも何だが割と仲がいいと自負していてな。まあ、相手からしてみれば情報収集を目的とした繋がりなのかもしれないが。それはそれとして、簡単に視聴を取りやめるようなやつだとは思えぬのだ」
「へー、それはまあ、信頼されてるんですね……」
世間話のように話しながら、しかし更に距離を物理的に縮めてくる。
俺と1mくらいの幅くらいになって、ようやくカイザーが立ち止まった。
「それで、そのリスナーが配信を見なくなった期間を確かめるとな……“丁度、貴様がトールと戦った直後から”なのだよ。つまり、だ……“貴様が気絶していた期間、我の配信の唯一のリスナーが全っっっく来なかった”のだよ?」
「へー、そんな偶然があるんですねー」
「まあ? これは貴様が気絶した後、“敢えて”配信したから分かった事だったのだが、な?」
半ば確信を込めた言葉で、こちらを追い詰めてくるような事をしてくるカイザー。
ほぼほぼバレてるようなものだが、俺は何とか否定の言葉を探してみる。
「まあ、それだけじゃ俺がサンタクロースという証拠には……」
「は? “我がいつ、貴様がサンタクロースだと言う話”をした? 我はただ、配信のリスナーが来なくなった話をしただけだが? おかしいな、サンタクロースが何処に関連してたと言うのだろうな? その二つは別の話題にしか聞こえないだろう?」
やべ、しまった……!
確かにこいつ、俺をサンタクロースって急に呼んだのと、配信にリスナーが突然来なくなった、くらいの話題しか出していない。
配信のリスナーがサンタクロースと名乗っていた、なんて話題はまだ出ていなかった!?
くそ、正直もうバレバレだからって、油断し過ぎた……!!
「まあ、ぶっちゃけると。貴様、トールに言ってただろう? “法に従えず自分の意思を貫きたい者がヴィランだ”、と。くくっ、こんな特徴的なセリフ、そう何人も吐いてたまるか。認識疎外ですら隠しきれないぞ」
「へー、おんなじ事を言う人がいるんですね。奇遇だなぁー」
「ほう、ここまで来てさらにシラを切るか」
あれ、カイザーが現れたのって最後の方じゃ無かったっけ? と言う疑問はあったが、それは置いておいて、さらに素知らぬふりを貫き通してみる。
「ふむ、こうなったら仕方がないな……」
そう言って、カイザーは困ったように腕を組んで……
「確証を持てない以上、やはり貴様の背景をちゃんと調べないと安心出来ないと言う事で、“その鎧の下を見せてもらう”事になるが……」
「はーい、そうでーす。サンタクロースでーす。よろしくー」
俺は両手を上げて降参した。それを見てカイザーは満足そうにウンウンと頷いていた。
クッソ、これ以上ごねるのは得策じゃねえ……!
よくよく考えてみると、カイザーが知ってるのは俺がカイザーの配信のリスナーだと言う情報のみ!!
“俺がヒーローだと言う情報までは知っていない”筈!!
下手に拒絶して、本気で裏取され始めたら、確実に色々ヤバイ!
“正直こうして気絶して連れてこられた時点で色々手遅れ”だと言う気持ちはあるが、万が一でもヒーローである事を隠し通せるのならそれに越した事はねえ!
「全く。素直にそう話せばいいものを。……まあいい。久しいな、サンタクロース。こうして顔を合わせるのは初めてか?」
そう言って、カイザーはヘルムを取って素顔を見せてくる。
それは配信でよく見た、紫髪の彼女の姿だった。
「出来れば貴様の素顔も見てみたいが……くく、流石にそれは止めておこうか。貴様に嫌われるのも何だしな」
「あれ? 俺が悪の組織のボスに対して、好いているとでも?」
「違うのかな?」
そうして俺の軽口に対しても、さらりと聞き返してくる。
当然のような反応に、俺は口をぐうっ……と出せずにいた。
「そこで否定の言葉を口にしない所が、好きだぞ我は。さて、こうして顔を付き合わせた事だし……」
「あー!? 起きてるー!?」
そうしてカイザーが話し出そうとした時、再度入り口から声が聞こえてくる。
それは聞き覚えのある、もう一人の声。
「ん、ティアーか」
「無事目覚めたのねー。良かったー♪」
そう言って、ティアーは本当に嬉しそうな表情で俺たちに対して近づいてくる。
「ところでカイちゃ……カイザー。いえ、あなたが素顔を見せていると言う事は……」
「お察しの通り、我の知り合いだったな。こいつは」
「やっぱりー? カイちゃんの言ってた通りだったんだ。こんにちは〜!」
「こ、こんにちは……」
そうして俺は、ティアーに挨拶をされて、それに俺も返す。
カイザーの知り合いっていうか、ティアー/お前の知り合いでもあるんだけどな……
そんな言葉はグッと飲み込めた。
「ところで、私達の自己紹介は覚えてる? あなたが気絶する前の時の」
「あ、ああ。覚えている、けど」
「そう? それはよかったー。けど、結局あなたの名前を聞いていないのよね。なんて呼べばいいかしら?」
そう言って、ティアーは困ったような表情をしていた。
そういえば、サンタクロースとしてティアーに会うのは初めてだったな。
ティアーにも教えるべきか。
「俺は、サ」
「“サタン・クロス”だ。彼は」
「は?」
俺がサンタクロースと名乗る前に、突如カイザーに横入りされる。
そうして、勝手に別の名前を伝えられていた。
彼女の方に振り返ると、何だかしたり顔でそう言っている。
どういうつもりだと聞こうとする前に……
「“サタン・クロス!!” 格好いい!!」
そう言って、キラキラとした目で俺の方を見つめ出していた。
もはやその名前だと信じ切ってる様子。
「いや、俺は……」
「直訳で悪魔の交差、いいセンスじゃない!! ねえ、サタン君って呼べばいい? それともクロス君?」
「あー……いや、まあ。それなら、クロス、の方で」
「オッケー、クロス君!! それで覚えたわ!!」
俺は、訂正しようにもテンションの上がったティアーの否定をするのも何だかめんどくさくなって、そのままサタン・クロスを受け入れる事にした。
すると、ティアーが態度を改めて……
「それで、クロス君。改めてなんだけど、ウチの組織に入ってくれない?」
そうして、本題に入って来た。
「それって、気絶する前に言っていた……」
「そう。【カオス・ワールド】に入隊。どう? 悪い話じゃ無いと思うんだけど」
そう言ったティアーは、期待するような眼差しでこちらを見つめていた。
「それは……」
「それは?」
「えっと……一応だけど、断った場合って……?」
「ええー!? なんで!?」
俺が確認のためにいった言葉に対し、ティアーは本気でショックを受けたような表情に切り替わる。
まるで待ち望んでいたオモチャが届かなくなった事にショックを受けた子供のようだ。
「いや、正直言うと、どこかの組織に所属するって事は考えてなくて……」
「ソロで活動するって事? それはそれで良いとは思うけど、ウチに所属した方がメリットあるわよ? それにほら、トールに狙われちゃってるじゃない? そういう意味でもウチに所属した方がいいと思うんだけど」
「いや、ほら、あなた達に迷惑掛けるわけにもいかないし……」
「ぶうー、気にしないんだけどなあ……」
ティアーが不満そうな顔を上げているが、俺は何とか否定の言葉を繰り返し続けていく。
そりゃあそうだろう。俺は仮にも本職“ヒーロー”だぞ? 悪の組織に所属したらダメだろ。
いや、目の前にヒーローとヴィラン二足草鞋しているような女がいるけどさあ!? 普通出来ないからな!?
それでもティアーは諦め切れないのか、言葉を続け。
「ねえ、どうしてもダメ? あなたすっごい素質あると思うの! ここで逃すのは惜しいの!」
「そんな事言われても、ほら俺、人見知りっていうか……団体行動が苦手っていうか」
「えー、そんな風には見えないけどなあ」
そんな俺たちの様子を見て、カイザーがふむ……と言葉を漏らし。
「なあ、ティアー。ちょっといいか?」
「カイちゃん?」
「そんな説得じゃダメだろう? 我に任せてくれないか?」
「そう? じゃあお願いしていい?」
「ああ、まかせろ」
そう言って、カイザーが改めて俺に向き直る。
その顔は、少しニンマリとした表情だった。
「さて、サタン・クロスよ。貴様にウチの所属の意思を確認する前に、いくつか話がしたい」
「どうした? 何か秘策でもあるのか。それとも、やっぱり素顔を見せろって脅迫でもするのか?」
俺は軽口の調子で、そうカイザーに問い掛ける。
そう、一応所属を反対してみたはいいが、俺に選択肢などあってないようなもの。
さっきのように俺の事を調べると言われてしまえば、俺は隠すために言うことを聞かざるを得なくなってしまう。
実際に調べられないかどうか確認する事は出来ないが、可能性がある以上はそれにすがるしか無いだろう。
つまり、この問答は初めから俺に勝ち目がないものだった。
そう思っていると、カイザーはニヤリと笑い。
「ちょ、ちょっとカイちゃん!? そんなのダメよ!? 脅迫じみた行為で無理矢理所属させるのはダメ!」
「いやあ。そんな事をする筈がないだろう? そんな手段で無理矢理所属させたとしても、貴様はやる気にならないだろうからな」
「へー。だとしたら、どうやって俺をその気にさせるつもりなんだ?」
生半可な話じゃ、俺は所属する意思を見せるつもりは無い。
俺の事を調べないと言うことが本当なら、俺に無理矢理【カオス・ワールド】に協力する理由は無いからだ。
その上で、俺に所属させる気を沸かせる方法があると言うのなら、逆に気になってくるが……
「ふむ。それで、まずは一つ目の話なのだが……」
「ああ」
「“貴様が壊した回復ポッドの修理費用なのだがな”」
俺はサッと目を逸らした。
「え? 壊した回復ポッドって……ああー!? 本当に壊れてる!? 何で!?」
「其奴が壊していたぞ」
「クロス君が!? 何で!?」
壊れたポッドを見た後、続けて俺の方を見て驚きの声を上げているティアー。
カイザーはクックッと楽しそうに笑い声を上げている。
「いやあ、貴様の治療をしてやったのに、まさか回復ポッドを壊されるとはなあ。さっきも言ったが、これは凄い高いんだよなあ」
「……修理費を出せってか?」
「いや。そんな事は言ってないが? ただ、貴様は恩を仇で返すやつなのかーと思っただけでな?」
白々しい口調で話すカイザー。
そうして、次の話題に移り変わる。
「ま、次に二つ目の話題なのだがな。“貴様の【ダーク・ガジェット】。それを何処で手に入れた?”」
「──ッ!! それ、は……」
「【ダーク・ガジェット】? ……ああーっ!!」
そう口どもっていると、ティアーが思い出したかのように大声を上げていた。
「そういえば、クロス君が気絶した後!! 壊れた方の【ダーク・ガジェット】を回収してあげたけど、あれ“私の”【ダーク・ガジェット】だったっけ!!」
「は? なんでそれが分かって……」
「壊れて待機状態に戻ったアレ、“名前を彫ってあった”のよ!! コバルト・ティアーって!!」
「は!?」
嘘だろ!? 名前掘ってあったのかよ!?
そんなの気づかなかったぞ!? ッハ!? まさか、あの模様見たいなミミズ文字か!?
デザインの一種かなーと思っていたけど、あれただ崩した書体の名前!?
「あれ、この間無くした私の【ダーク・ガジェット】だったのよ!! クロス君が拾っていたの!?」
「ま、と言うわけでだ。貴様はティアーの【ダーク・ガジェット】を無断で使っていた、と言う事であっているか?」
「いや、それは……まあ、はい」
俺は下手に否定せず、そのまま正直に肯定した。
マジか、それもバレていたのかよ……俺はだんだん追い詰められていく感覚がしてきていた。
「それで、3つ目なんだが……」
「まだあるの?」
「ああ。貴様、採石場で暴れていただろう?」
「ん、ああ?」
「ところで採石場って、幾らかかるか知ってるか?」
は? 採石場の値段?
カイザーが突如出してきた話題がよく分からなくて、ガチで俺は疑問符を上げる。
「実は採石場って、無断で破壊されるとかなり被害がデカくてな。場合によっては数百万、最悪億に届く場合があってな? ……さて、貴様、どれだけ暴れたかな?」
「…………で、でも、もう使われていなかった筈だし……それはお前らには関係無いし……」
俺は顔を思いっきり逸らすしかなかった。
思った以上に被害の額がヤバくて冷や汗が出ていた。
確かにこれはヴィラン認定されても仕方ないかもしれない、などと思っていると。
「関係がある、と言ったら?」
「は?」
「──“あの採石場の所有者は、我だと言ったら?”」
そう言って、土地の権利書をパラリと取り出して見せてくるカイザー。
……………………ハアッ??!!!
「いや、嘘だろ!? いやガチで?! ガチで嘘だろ!? そんなピンポイントな事ある!?」
「まあ、正確には。“貴様が気絶している4日間の間に、あの採石場の所有者から買い取った”と言うのが真相だが」
「はああッ?!! いや、ガチで意味分からねえ!? 何故わざわざそんな事を!?」
カイザーの狙いが本気で分からず、俺は動揺の声を出した。
するとカイザーはとても楽しそうに。
「いやあ、貴様らが派手に暴れたせいでな。採石場としての価値が大幅に低くなってしまってしまって。使われていなかったのもあって、格安で売ってくれたのだよ。相手からすれば、被害にあった使わなくなった物をそれなりの値段で売り払えるのもあってな。悪の組織のボスとはいえ得に感じたのだろうな。それで我の所有物になったわけだ」
「理由になってねえ! だから何でそんな事をした……」
「そうでもしないと、“貴様に被害の請求がいくだろう?”」
その言葉に、俺はビクッと肩を竦めた。
冷や汗がたらりと下がる。
「トールも暴れていたとはいえ、貴様の必殺技が採石場を壊したのは事実。使われなくなったとはいえ、採石場としての価値はまだ残っていた筈だ。それを破壊したとなれば、持ち主に対する弁償は必然。しかし、我が所有者となれば、話は少し変わると思わないか?」
「……えーっと、どのように変わると言うのでしょう……?」
「具体的には、“貴様への高額請求は無しとする”」
カイザーは、ニンマリとした表情でそう言い放つ。
「まあ、つまりは。我が立て替えてやろうと言う話だな」
「おおー、カイちゃん太っ腹ー」
「さて、と言うわけで。一つ目の、治療ポッドの件。二つ目の、ティアーの【ダーク・ガジェット】の無断使用と破損。3つ目の、採石場の破壊の立て替え。ここまで話したわけなのだが……」
そう言って、カイザーは俺の方を向き直り……
「さて、改めてこう問おうか? ──“【カオス・ワールド】に入って、少しでも返済しないか?”」
「────────。────────スゥー…………」
その言葉に、俺は顔を天井に向けて深い息を放ち……
「……ティアーさん、ティアーさん」
「なあに?」
「……アルバイト、確か募集中でしたよね?」
「……! うん、そうよ! よく知ってたわね!」
「────“せめてアルバイトでも、いいですか?”」
俺はそう言って、頭を下げた。
「──! 全然いいよ! 大歓迎!!」
「クっ、ククク!! そうだよなあ!! アーッハッハ!!」
ティアーは嬉しそうな表情で。カイザーは高笑いを上げて面白そうに笑っていた。
まんまと。まんまと、カイザーに乗せられてしまった形だ。
これを無視すると、正義と悪以前に、人として無視するのはどうかと言う形に追い込まれてしまっていた……
「と言うわけで、ようこそクロス君!! 【カオス・ワールド】へ!!」
「ああ、歓迎するぞ。新規アルバイターよ!」
「そうだ! カイちゃん、彼にウチの組織のこと説明した?」
「いや、まだだが?」
「そう! それじゃあ説明がいるわよね! ちょっと要項とか取ってくるー!」
「あ、ちょっと!?」
そう言って、止める間も無くティアーは部屋を走り去っていく。
残ったのは、俺とカイザーの二人だけ。
「お前……普通に脅迫するより、嫌な手を使ってきやがって……」
「貴様には効くだろう? 下手な脅迫するより、ルールに則って正式に理論詰に迫った方が、な」
俺のジト目に対して、そう言ってカイザーはニヤリとした笑い顔を見せてくる。
まんまとしてやられた形だ。俺ははぁー……とため息を吐いた。
「何、ずっといろ、と言うわけでは無いさ。アルバイトの通り、ある程度いたら、辞めてもらっても構わんよ」
「本当だろうな……全額、返済出来る気がしないんだが……」
「そうか? 意外とあっさり、貴様なら稼げるような気もするがな。十分な貢献度で」
クック、とおかしそうに笑うカイザー。
まあ、絶対辞められないってわけじゃ無いのが救いか……
「まあ何はともあれ、よろしくなクロス君」
そう言って、ポンと肩を叩いてくるカイザー。
そこで俺は、改めて気になった事を問いかける。
「そういえばカイザー。俺の名前、何で“サタン・クロス”にしたんだ? サンタクロースじゃダメなのか?」
「ああ。アレは単純に、サンタクロースを元に軽く文字を並び替えて、それっぽくしたのだ。ちょうど良いだろう?」
なるほど、サンタクロースから、サンタを、サタン。クロースから、クロス。
それで、“サタン・クロス”か。なるほど。
「まあ、確かに。サンタクロースって名乗るよりは、ヴィランとしてそれっぽい名前になったか」
「ああ、即興にしては中々いいセンスだろう?」
「まあな。と言う事は、サンタクロースはお気に召さなかったって事か? お前に取っては」
俺は何となく、そう言った疑問を問いかけた。
まあ確かに、ヴィラン名がサンタクロースって締まらないようなあ、と納得していると……
「いや? 我は別にいいと思うがな。サンタクロースは、貴様にぴったりだと思うぞ」
「へ? じゃあ何で?」
「何って、決まっているだろう?」
そう言って、カイザーは俺に近づいて……俺の顎に手を添えて、顔を近づけてきた。
互いの顔の距離が近くなった状態で。
「──“サンタクロースは、私だけの物だ”。せっかくのプレゼントを、他の奴になど渡すものか」
そう、ギラついた目で、そう言った。
「────」
「……ま。と言うわけで、だ。貴様は普段はサタン・クロスを名乗れ。我との配信の時。または、我と二人っきりの時だけ、これまで通りサンタクロースでいろ。いいな?」
「……分かったよ。全く、欲張りなこって」
「ふふ。自分でも意外だが、我は思った以上に独占欲が高かったらしい。──サンタとしての貴様のプレゼントは、全て私だけのものにしてやる」
呆れたような俺の声に対し、そんな言葉と共に笑うカイザー。
そうして、俺の顎から手を離して、ようやく離れていく。
「と言うわけで、だ……
──ようこそ、サンタクロース。我らの【カオス・ワールド】へ」
そう言ったカイザーの表情は、とても楽しそうな笑顔だった。
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
サンタクロース改め、サタン・クロス。
晴れて今回、【カオス・ワールド】にアルバイトとして所属する事になった。
流石に借りが多すぎて人として無視出来なかった模様。
最悪、【カオス・ワールド】の内部情報集めて組織ごと道連れにしようと画策しようとしている。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
期待の新人が入ってくれて、とても大喜び。
レッドが悪堕ちした場合に近い理想な彼が現れて、とてもワクワク。
それでも、恋人としてはレッドの方が好きなのは変わらず。
恋愛としては一途なのです。
★カイザー
22歳
172cm
紫髪
混沌・悪
【カオス・ワールド】のボス。
ティアーの幼馴染み。
自分にとってのライバルが、目の前に現れた事に大層大喜び中。
彼の扱いは、毎度の配信の時の会話である程度分かっていたからこその、組織入隊への誘導だった。
サンタクロースとしての彼は、自分だけの物。
新しい呼び名を付けたのも、サンタを独占するためのものだった。
思った以上に自分でもびっくりなほど独占欲が高かった。
<CM>
次章、カオスワールドアルバイト編、開幕
「と言うわけで、新メンバーのサタン・クロス君でーす!!」
「納得いきませんわあああぁぁぁッッッ!!」
ティアー以外の、幹部との会合
『と言うわけで、何度目かの【ジャスティス戦隊】の説明だったんだけど、ここで前から思っていた疑問』
『“レッド・ギフト” is 何あれ?』
【カオス・ワールド】でのティアーの配信
「【ダーク・ガジェット】が壊れたアアア?!!」
「あっちゃあー……」
またも壊れるガジェット
「まだだ……“セレクト・エッジ”には、その先がある!!」
必殺技の進化
「──ヴィラン共よ。貴様らに、生きる価値など無い」
断罪の時
以上、全部回収出来るか分からないけど、大体の予定!
乞うご期待!
以上で三章終了です!
この小説が面白いと思ってくれたなら、
評価10、高評価や感想を沢山くれると、作者は凄く喜びます!