ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う?   作:新月

41 / 51
どう考えても俺が悪いんだけど、どうすればいいと思う?

「“ライトニング・スティングッ!!”」

 

 ッ!? 

 俺の目の前で、トールが消えた。

 いや、消えたんじゃない。黄色い閃光となってジグザグ状に移動し、接近して来てる!? 

 俺はとっさに黒刀を横に構えて、全力でガード体勢を取った。

 

 バチバチガキィッ!! 

 

 帯電された状態の突きが襲いかかって来て、黒刀越しに電気で痺れる!? 

 手を離すわけにはいかず、気合だけで武器を手放さずなんとか耐える! 

 しかし衝撃が凄まじく、地に立っている足がズザザザザーッっと勢いよく下がっていく!? 

 

「ぐうぅぅッ!?」

「っ?! これを防ぎますか、なら!!」

 

 ガードされたと分かると、トールはその移動速度のままバックステップして距離を取る。

 ズザーっと止まりながら、レイピアを天高く掲げ始めた。

 そして直後、バチバチとレイピアの先に帯電していき、ゴロゴロと辺りの天気が悪くなっていく! 

 

「っ空が……!?」

「“ジャッジメント・サンダーッ!!”」

 

 その言葉とともに、見覚えのある雷が降ってくる!! 初めて会った時と、ついさっき落とされたものと同じだ!? 

 俺は驚きながらも、冷静にステップを踏んでその場から離れて回避する。

 何度も見た事ある上、回避自体はそう難しくな……っ!? 

 

「誰が1発だけと申しましたかッ!?」

「嘘だろ?!」

 

 俺が避けた先にも、雷が降ってくる!? 

 よく見ると、上空に雷雨が集まっており、あたり一面ゴロゴロと音が鳴っている!? 

 避け続ける俺を追いかけるように、次々と雷が落とされていく!! 

 なんとか回避し続けるが……! 

 

「“ボルテージ・スナイプッ!!”」

 

 上空の雷とは別に、トール本人が帯電した突きを離れた位置で放つ。

 すると、レイピアの先から刺の弾丸のような電気の塊が放たれる!! 

 それが一発じゃない、2,3,4……10発!? 

 

「くっ、このっ……ガアッ?!!」

 

 上空、真横。二方向からの連続攻撃を回避し続ける事は出来ず、とうとう1発被弾してしまう。

 電気で体中が痺れ、動きが麻痺してしまう!! 

 

「今度こそ!! “ライトニング・スティングッ!!”」

「しまッ!? どわああああッ?!!」

 

 今度はあの電光石火の突きを、モロに胴体に喰らってしまう。

 鎧越しで貫通はされなかったが、高速移動の衝突の衝撃を受けきれず、背後にそのまま吹っ飛ばされる。

 

 

「っぐ、ゲホ、ゴホッ!! くそ、あっぶねえ!? 腹に穴開く所だった!?」

「ック!! 頑丈な鎧ですね!? 仮にも私の必殺技の一つをまともに受けて、穴ひとつ開かないなんて……!!」

 

 俺は自分のお腹辺りに手を当てて、思わずサスサスと撫でて確かめている。

 この鎧は、【ダーク・ガジェット】の自動変身機能で作成されたものだ。

 仮にもティアーが関わってる機能、格好だけでも並の耐久力ではないのがよく分かった。

 今回は完全に、その機能に助けられた……

 

 しかし、流石にこのまま一方的は不味い。

 俺はまだ迷ってはいたが、ようやく反撃の意思を決めて黒刀を構える。

 まだ名も無い技で、斬撃を放つ!! イメージはさっきの飛ぶ斬撃!! 

 

「オラアッ!!」

 

 斬撃は、飛び出た。

 先ほど採石場に傷をつけたのと同様の斬撃が飛んでいく。

 

 ただし、“サイズが明らかに小さいが

 

「っ!? なっ……」

「そんな弱い攻撃、効くわけないでしょう!!」

 

 トールは避けるどころか、飛んでくる斬撃に向かって必殺技すら放たず、ただの突きで迎撃する。

 斬撃はトールのレイピアに当たった所から衝撃が霧散していた。

 

「あなた、私を舐めてますね!? こんな牽制にもならない攻撃、放つ意味がありますか!? あそこの傷を作った程の威力はどうしたのです!?」

「そ、そんな事言ったって!?」

「……まさか、出せない? まだ不安定? ……いいえ、いいえ!! それならそれで良し! まだコントロール出来ていない今の内に、あなたを倒させて貰います!!」

「ッくそ!?」

 

 そうして、一瞬戸惑いの様子を見せたトールだったが、直ぐに意識を切り替えて俺をこのまま倒す決意を決めていた。

 俺は黒刀を構えながらも、“想定よりも一段と下がった威力”でどうするか急いで考察し始める。

 しかし、そんな時間を与えないとでもいうように、トールの次の攻撃が放たれる。

 

「“ライトニング・スティングッ!!”」

「っまたあの突きか!! それ単体なら十分防げ……何!?」

 

 また真正面から突きが来ると思って構えたら、トールは“俺じゃない場所に向かって”高速移動をする。

 あらぬ方向に向かったと思ったら……

 

「“ライトニングッ!!”」

「っ!?」

「“ライトニング、ライトニング、ライトニング、ライトニング──”」

「これは……っ?!」

 

 俺の周囲を囲うように、黄色い閃光が大量にジグザグと現れる!? 

 技を重ねる毎に、本気で目で追えないほど加速され続け──

 

「“──ライトニング・スティングぅぅぅッ!!”」

「ッッッ?! グアアアアアァ────っ??!!!」

 

 初撃とは比べ物にならないほどの衝撃が体に襲いかかり。

 

 ──“胴体に、穴が開き”。

 

 そのまま、衝撃を受けてレイピアが再び抜け、俺は背後に吹っ飛ばされる。

 採石場の壁の一つにドゴォンッ!! とぶつかって……ようやくそこで、止まった。

 あたり一面に、砂埃が舞い上がり視界が悪くなる。

 

「……私の技は、何度も使う“連続発動前提”のものばかり」

 

 トールは、ゆっくりと歩きながら近づいてそう説明し始める。

 

「一般的なヒーローは、一度か二度の必殺技を中心に攻防を組み立てるそうですが……私の場合は、それを一度に最低10回以上……数が段違いなのです」

 

 レイピアに付いた“俺の血”を振り払いながら、自分が如何に優れているか、相手の心を挫き思い知らせるように話していく。

 

「更に言うと、私はこれらの必殺技を使ってもスタミナ消費がほぼありません。“必殺技がほぼ通常攻撃”として使用可能状態なのです」

 

 歩きながら、レイピアに帯電状態を付与させ、バチバチと音が聞こえてくる。

 

「……まあ。強いて言うなら【ジャスティス戦隊】のレッド。彼は初期の必殺技程度なら連続発動出来るそうなので、ある意味私に迫る素質はありますね。流石私の……コホン、今は関係ない話でしたね」

 

 そう言って、軽く咳払いして。改めてトールは、俺のいるだろう方角に目を向ける。

 

「──さあ、覚悟なさい。名も無きヴィラン。あなたはここで終わりです」

 

 ☆★☆

 

「──ッゲホ、ゴホぅ、ゴポッ!? ゴホ、ゴッホ……」

 

 ──あー、駄目だこれ。全然勝てねえー。

 

 お腹から血が流れていくのを自覚しながら、俺は内心そう思っていた。

 だって無理だもん。技の威力が全然違いすぎるもん。

 それと言うのも……

 

 ──だって、“完全に悪いの俺だもん。法破ったの俺だし”。あっち全然悪くねーもん。

 

 そう、俺は自己を振り返って、どう考えてもこの状況が自業自得でしかない事に自覚を持っていた。

 完全にトールが正論で、俺が悪者。全く正しい。

 そのせいでやる気が一切湧かず、テンション駄々下がり。

 

【ダーク・ガジェット】は、感情によって出力が大きく変わる道具。

 つまり、“自分が悪いと自覚的”な今の状況だと、一切威力が出ない鈍道具と化していた。

 ここに来て、【ダーク・ガジェット】のデメリット効果が思いっきり影響してしまっている。

 おそらく出力は、先ほどの採石場に傷をつけた時の威力の10%が現状限度だろう。下がり過ぎだろおい。

 

 ──あー、お腹いてー。やっぱ悪い事するとバチ当たるって本当なんだなー。

 

 そんな明後日な方向に思考を割きながら、現実逃避気味にあたりを見渡していた。

 砂埃がまだ舞っており、トールの姿は見えない。けれど、それも時間の問題だろう。

(じき)にトールに見つかり、おそらく俺はヒーロー連合か、警察に連行される。

 

 ──まあ、仕方ない、か。まだ法で許されていない【ダーク・ガジェット】を使ったのは俺だし。

 

 俺はもう、完全に諦めムードになっていた。

 おそらく重要な臓器は避けたとはいえ、腹から背中まで貫通する一撃。

 これを喰らった状態で、しかも向こうが圧倒的に正しい状況で抵抗するほどやる気は湧いて来なかった。

 

 ──まあ、捕まるのはしゃーないか。後でグリーンさん辺りに面会して、【ダーク・ガジェット】を使った感想を伝えられれば十分だろ

 

 既に捕まった後に、どうするか思考を切り替えている。

 仮に俺が捕まったとしても、実際にヒーローが【ダーク・ガジェット】を使った使用感が分かると言うのは大きな進歩と言える筈だ。

 俺と言う一人のヒーローを差し引いても、ヒーロー連合にとっては大きなメリットになるだろう。

 

 ……ま、“ヒーロー連合が元々知っていた”と言う場合。つまり“”だった場合は意味がないかもしれないが。

 

 まあ、仮にそうだったとしても。

 グリーンさんには悪いが、あの人に俺の手に入れた情報を伝えられれば、あの人なら上手く情報を活かせるだろう。

 あの人なら。どんな状況でも、全体をいい方向に行かせてくれる筈だ。そう信じていた。

 

【ジャスティス戦隊】を続けられそうにない事だけは、申し訳ないけれど。

 まあ、謝ればみんな許してくれるかな? ……くれないだろうなあ、みんな。特にグリーンさん。けどまあ、やっちゃったものは仕方ないし、このままお願い押し付けよう。

 

「……ッゲポ! ゴポポ……」

 

 ──あー、血がまた口から溢れて来た……あー、お空綺麗ー。お星様キラキラだー。

 

 これこのままだと死ぬかもなあ。

 さっさと捕まって、出来れば早めに治療してもらえると助かるんだけど……

 ヘルメットの一部が破損して、片目が露出しているせいで、空がよく見える。

 認識阻害が働いているだろうが、この状況だと実質意味は無いだろう。どうせ直ぐ捕まる。

 

 そう思っていると、砂埃が晴れて……トールの姿が見えた。

 

「……既に瀕死の状態ですね」

「ゲホッ……まあ、ね」

 

 トールの言葉に、俺はそう軽く返す。

 もう歯向かう気は無いと伝わるように。

 

「そうですか……」

 

 そう言って、トールはレイピアを構え直し、俺に向ける。

 

「……何か、言い残す事はありますか?」

「……? 出来れば、早めに病院に行くか、治療してくれると助かるんだけど……」

「……言いたい事はそれだけですか」

 

 そうして、バチバチと鳴っているレイピアを大きく引き──

 

「安心しなさい。痛みは一瞬です。直ぐに楽になるでしょう」

 

 そうして、そのレイピアを俺に向けて突き刺し──

 

 

 

 

「──“ちょっと待て。何トドメ刺そうとしてるんだよおい”」

 

 

 

 俺は、そのレイピアを片手で掴んで堰き止めた。

 

「──ッ?!!」

 

 バチバチと電気が掴んだ箇所から伝わってくるが、今は“その程度”の事気にする場合じゃ無かった。

 

「……お前。“俺を殺すつもりか?”」

「はあ? “当然でしょう?” あんな出力を出せる可能性のあるヴィラン、放置出来るわけ無いでしょう? 不安定とはいえ、見逃す理由にはなりません」

 

「……へえ」

 

 俺はレイピアを掴みながら、ゆっくりと立ち上がる。

 トールが何か戸惑ったように武器を引き抜こうとしているが、俺の握力のせいでうんともすんとも言わない状態だ。

 段々トールに焦りの様子が湧いて来ていた。

 

「……“法に照らし合わせると”俺の罪状は、現状“【ダーク・ガジェット】を使った”事。ついでに言うと、使われなくなった“採石場の一部に傷を付けた事”くらいだと思うんだが……おかしいな。俺って、“それだけで死刑になるような罪を犯したっけ?”」

 

 正直、採石場の方はどれくらいの重さになるかは正確には分かっていないが……

【ダーク・ガジェット】を使った“だけ”なら、確実に死刑になるほどの罪の重さにはならない筈だ。

 せいぜい、数ヶ月。長くても1、2年程度の収監で収まる程度だったと思う。

 

 “なのに、この場で殺す?

 

「……ええ、そうですね」

 

 そうトールは言って……

 

「このままだと、“あなたは軽い罪扱いで簡単に出て来られる”でしょう。“いつ暴れだすか分からない凶悪な力を持ったヴィランが野放しにされる”……それでは困るのです。だからこの場で、引導を渡さねばなりません」

 

 そう、力強く言い放った。

 

 ……へえ。へえー……

 

「そんな事、法は許さないと思うけど?」

「法が許す必要はありません。私の行為は、“神の名の下”に許されます」

 

 

「法の下に許せよ」

 

「ッ?!!」

 

 

 俺はトールのレイピアを真下に降ろして片足で踏みつけて固定、一瞬固まったトールに向かってゼロ距離斬撃を放つ。

 驚いたトールはとっさに“ライトニング・スティング”の応用でレイピアごと離れていった。ッチ! 

 

「あなた……ッ!!」

「……このまま、ただ俺を捕まえて警察に突き出すってだけだったなら。大人しく従ったんだけどな……」

 

 そうして俺は、歩きだす。

 先ほどと違ってはっきりと、力強く踏み締めて。

 

「──けど、俺の命を。“法に照らし合わさず、お前だけの判断で殺す”って言うなら……全力で抗わせて貰う」

 

 ああ、前提が違っていた。

 向こうが正義で、俺が悪。そう思っていた。

 

 けれど違った。

 俺にとって、もはや“向こう(トール)は正義とは言えない”。

 

 ならば、“俺のやる気が下がる理由は無くなった”。

 

「っ、減らず口を!! その死に体で一体何が出来ると──ッ」

 

 ザンッ!!! 

 

「──言うので、す、か……あ、え?」

 

 トールの、少し上。

 わざと外したその斬撃は、トールの遥か離れた背後の採石場の壁に、新しい傷跡を残していた。

 その傷は、トールが警戒した“最初の傷”と殆どサイズが変わらなかった。

 

「ほら。お望みの威力の高い斬撃だよ」

「──あな、た、は──ッ!?」

「ああ。確かお前、必殺技が通常技と同等とかなんとか言ってたっけ? 奇遇だなあ。俺も今の、必殺技と言えないんだよねえ。まだ決まった技が無いから、ただ刀を振っただけなんだよねえ」

「──ッ?!!」

 

 おお、驚いてる驚いてる。

 トールの表情は見えないが、明らかにビビったような態度に少しだけ溜飲が下がる。

 

 ……お腹の傷は、貫通している。

 今も血をドクドク流しているだろう。痛覚もかなり訴えている。

 

 “それがどうした”。

 

 この程度の傷、戦えない理由になんてなりはしない。

 

 さあ、心を燃やせ。テンションを上げろ。感情を逆立たせろ。

 目の前にいるのは正義じゃ無い。俺の“敵だ”。

 

「さて、今度は俺が言わせて貰おうか」

 

 そう言って、俺は黒刀を構えて言い放つ。

 

「──覚悟しろ、トール。“通りすがりのヴィラン”の底力、見せてやるよ」

 

 

「きゃー!? ちょっと何何!? 何の戦い!? あの黒い鎧ってどちら様!?」

「これは……!? クックック、面白くなって来たな……!!」

 

 


 

 ★佐藤聖夜(さとうせいや)

 

 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 男

 

 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。

 

 悪いことをしたら捕まる。そんなの常識的な事。

 けどそれは、罪を償う機会を与える為のものだという事も知っていた。

 その機会を上げずに勝手に裁こうとするのなら……全力で抗ってやる。

 

 

 ★トール

 

 ──歳

 ──cm

 ──髪

 秩序・善

 女

 

【ジャッジメント】の一人。電気使い

 今まで、たくさん殺して来た。

 凶悪なヴィラン達は勿論。いずれ巨大な悪になり得る芽も。

 神の名の下に。それを理由にして。

 

 ──知った事か。

 そのヘルムの下にある本当の理由に、聖なる夜はまだ気付いていない。

 

 

 ★???&???

 

 見学中。トールとほぼ同タイミングで気付いて別でこっそり見に来てます。

 




<CM>

「俺の家がセーブポイントにされてるんだけど!?」

ハーメルン側で、評価を凄く募集中!!
してもらえると、作者はとても嬉しくなります!

https://syosetu.org/novel/365124/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。