ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う? 作:新月
──それは、レッドとしての休暇が開始して初日の夜の事だった……
『みんな~!! 【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“簡単、よく分かるヒーロー対策”の時間がはーじまーるよー!!』
:わー!!
:始まった!
:待ってました。
【ジャスティス戦隊】のみんなと休暇前の最後の挨拶が終わった後、俺は自宅でティアーの配信を眺めていた。
『……と言っても、はあ……』
:どうかしました?
:元気ないですよ!?
:何かありましたー?
しかし、画面の奥のティアーはタイトルコールを行った後、明らかに元気がない様な態度を取っている。
その様子に、リスナー達もどうしたのだろうと心配の声を上げている。
『あ、ああ。ごめんごめん。ちょっと気分が落ち込むような事があっちゃって』
:もしかして、あれか……?
:あー、この間のヒーロー連合の配信のあれ?
:なになに?
:どういう事ー?
:ティアー様、公言してたもんなあ……
『……そうね。薄々察しは付いてる子もいるらしいから、はっきり言いましょう』
そう言ってティアーは姿勢を正して、ヴィラン達に取って衝撃的な事実を宣言する。
『【ジャスティス戦隊】のレッド。彼が暫くの間、ヒーロー活動出来なくなったわ』
:はっ?! レッドが!?
:あー、やっぱりー
:なんで!? あのレッドが!?
:ティアー様お気に入りの彼が!?
:うっそだろ!?
『理由は【レッド・ガジェット】の破損。バラバラ過ぎて修復の間、事実上の活動停止よ』
:この間、別の組織との対戦中に壊れてましたよね
:あの時の映像見ましたー!
:見事にバラバラ
:あれって壊れるものなの……?
:ふつーは壊れねーよ、100年近く受け継がれてんだぞ!!
:レッドの怪力のせいで……
:こっわ!? 化け物!?
何故かコメント欄で俺の事が化け物扱いされているが、一旦それは無視して大人しく視聴を続ける。
正直、そんなことに構ってられるほど心の余裕が今は無いのだ。
つーかティアー、やっぱり思いっきりバラすのな、レッドとしての活動停止。
まあ、壊れた瞬間の映像配信はされてたし、事実上の公然の情報だから大して痛手では無いけど……
『はいはい、みんな一回大人しくしてねー。とりあえず【カオス・ワールド】……というか、ウチの部隊の今後の方針だけど』
そう言って、ティアーは一呼吸入れて……
『……まあ、“【ジャスティス戦隊】に対しては一旦放置で”。暫くちょっかい掛けるの止めましょう』
:えー!?
:えー!?
:ええええええぇぇぇ──ッ!??
その方針に、画面内が驚きの声で埋められた。
まあ、ある意味当然と言える。
せっかくヒーローが活動不能になったのだ、今が動くチャンスと言えるだろう。
まあ、たがが一戦隊のヒーロー1人が活動不能になっただけで、大した事では無いかもしれないけど。
:じゃあ、今がレッドを倒すチャンスでは?
:居場所分かんねーよ、向こうから来ないと
:そうだ! 【ジャスティス戦隊】にリベンジしましょう!!
:レッドがいない今がチャンス!!
:クッソださくね、それ?
:めんどくせー
:レッド単体こそリベンジしたいでしょーが!!
:やだよあの化け物!! もう相手したくねー!
:あの時楽しかったから、またやりたーい!!
コメント欄でも、行動派と静観派で分かれているようだった。
それはそれとして、とても盛り上がっている。
『そうよねー。またやりたいわよねー。私も再戦希望派ー』
:でしょー!!
:えー?
:まあ、ティアー様がやるなら従いますけど
:ティアー様絶対
『うんうん、言う事聞いてくれる同士を持って嬉しいわー。またレッドと戦いたいわね。
──“まあ、そのレッドが今は居ない状態なのだけど”』
はああぁぁぁ────……と、深いため息を吐きながら上を見上げるティアー。
明らかにやる気を失っている……
『ううっ。推しがいなくなるって、こんなに悲しい事なのね……私知らなかった……』
:ティアー様……
:可哀想……その気持ちよく分かります!
:推しがいなくなるショックは、心が引き裂かれそうです!
:いやただの活動休止だろ
:引退でも、死んだわけでもあるまいし
:それでも大ショックだろーが!!
:正直、レッドに関してはざまあの気分が湧いてくるので嬉しい
:お前ティアー様の前でよく言えるな!?
:レッドざまあっ!! あーっはっはっは!!
:正直レッドには嫉妬してたので。ティアー様の心を奪いやがって
:それはそう
:ティアー様黙秘権を行使するって言ってなかったっけ?
:いやもう、分かりやす過ぎるので……
:あいつブルーと付き合ってるんじゃなかったっけ?
:その上でティアー様に惚れられてるとか、万死に値する
:二股野郎!
……なんか俺に対する殺意が、ちょくちょく湧いてくるな。
いやこれ、俺のせいか? 俺の責任ないよね? 二股とか知らねーし、どっちも
ティアー、コメント欄なんとかしろー。
『やだもう、そんなんじゃ無いって……テレテレ』
駄目だこりゃ。
『というわけで、正直私のやる気がめっちゃダウンしてるから、暫く私も活動自粛したいのよね……正確には、【カオス・ワールド】内での雑用が溜まってるから、そっちを今の内に片付けたいというか』
:えー
:書類仕事ですか?
:めんどくさそう
:それはそれで大変ですねー
あ、ティアーも活動自粛してくれるのか。
それはそれでいいな。ヒーローとして、強いヴィランが積極的に行動しなくなるのは大変助かる。
まあ、理由が
あれ?
『えっとねー。実はその雑用の中にね……』
そう言って、ティアーは背後をゴソゴソする。
そこから、何かチラシのような物を取り出して……
『はい! 【カオス・ワールド】、新規メンバー募集を開始致しまーす!! アルバイトも可!!』
:おおおっ!?
:おおおっ!?
:おおおおおおおぉぉぉっ!??
いや、おおじゃないが!?
とんでもねー見過ごせない事宣伝してるんだけどこの女ぁ!?
活動自粛どこ行った!? ただ規模の拡張するだけじゃねーかぁっ!?
『今回は大量採用の予定!! 大幅拡張、高校生か大学生当たりが狙い目!! 仕入れどきよねー!』
:若い子が沢山くるかな!?
:高校生の頃からヴィラン選んで大丈夫?
:社会の苦味を経験してから選べよ若い奴らは
:↑おっさん大丈夫?
いやマジでそれはそう。高校生はもっとちゃんとよく考えて進路を決めて欲しい。
軽い気持ちでヴィラン入ってくるんじゃねーよ、人生前科付くぞ?
それでも、少なくない数入ってくるから、人間って度し難いと言うか何というか……
:ところで、ここで宣伝する意味あります? ここ元々ティアー様の部隊か他組織のティアー様ファン位しかいませんよね?
:ダメじゃん、ほぼすでに所属済みじゃん
:他組織からのスカウトという意味なら……?
:ティアー様! 私【さわやか爆弾魔】組織所属なんですけど、そっち移っていいですか!?
:いたよ、ここに
:組織名にさわやかさが感じられねえ!?
『いいわよー! ぜひ私の組織に移ってきて!! 面接はしてあげるから! 後、ここを見ているみんなも宣伝の手伝いをお願いしたいわー!!』
:ああ、そっちが目的だったのか
:要はチラシ配り要員と
:納得
あとで長官に、チラシ配ってるやつ見かけたとでも報告しておこう……
『みんなお願いねー!! ……はあ、レッド……』
:あ、テンションまた下がっちゃった
:せっかく元に戻ったと思ったのに!!
:おのれ、レッドぉ!!
画面の奥で、ティアーがまたアンニュイな表情になり……ブルブルと顔を振った。
『……ううん!! いつまでもクヨクヨしちゃいられないわね!! そうよ、レッドは数ヶ月もすれば帰ってくる!! その時の為に、準備は怠ってられないわ!! 打倒レッド!! 目標悪堕ちー!! レッド堕とそうー!!』
:おお、そのいきですティアー様!!
:まだ悪堕ち諦めてなかったんだ
:すでに堕ちてるようなものでは? 化け物的に
:性格の悪さも十分張れない?
叩っ斬ろうかな、こいつら。特にコメント下の二人。
そんなことを考えていると、拳を振り上げていたティアーが終わりの挨拶を開始する。
『それじゃあ、今日はこの辺で。じゃ~ね~!』
:じゃーねー
:じゃーねー
:じゃーねえええええ!!
そう言って、ティアーの配信は終了した。
……ま、何か【ダークガジェット】の新しい情報がないかと見てみたけど……一応別方面の新規情報はあったな……
まさか、新規メンバー募集ねえ……まあ、組織である以上、メンバーの補充はどこも必須か。
放ってはおけないが、それはヒーロー連合本部に対策を任せよう。
「……にしても……」
“:引退でも、死んだわけでもあるまいし”
“『そうよ! レッドは数ヶ月もすれば帰ってくる!!』“
俺は、コメント欄にあった一部のコメントと、ティアーの言葉を、一緒に思い返していた。
「……そうだと、いいけどな」
──もしかしたら、本当にヒーローに帰ってこれないかもしれないから
……俺は、自宅の机の引き出しをガラリと開ける。
そこには、あれから入れっぱなしだった待機状態の【ダークガジェット】二つがあった。
以前のショッピングセンターの騒動で手に入れた、ティアーの落として行ったものが。
「…………ふー……っ」
俺は、その【ダークガジェット】を目の前にして、呼吸を整えて……ゆっくりと、持ち出した。
☆★☆
──長い、長い距離を移動していた。
電車を乗り継ぎ、バスを乗り継ぎ、夜道を歩いて……
そこは、どこかの採石場。使われなくなって、久しい場所。
だーれもいない、人の気配の無い、見られる心配のない場所。
「……ここなら、いっか」
そうして俺は、数少ない手持ちの道具を整理する。
財布は、免許証などの身元に繋がるカードなどは抜いてきた。
スマホは以ての外。自宅に置いてきた。
唯一持ってきたのは、水分補給用のポカリと、そこそこ大きな手鏡。
そして──【ダークガジェット】。
俺は、【ダークガジェット】を一つ手に取って、それをじっと見つめる。
「……………………」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
:実際、どうなんだ? カイザー、お前は【ダーク・ガジェット】を使っているんだろ? 精神を蝕む機能なんて、本当に付いているのか?
『ふむ? 少なくとも、我はそんな機能が付いてるとは聞いた事が無いな。ティアーに聞いても、「そんなの付いてないわよ!」と言われたしな。我自身、いくつか【ダーク・ガジェット】を使用しているが、精神がおかしくなった感覚など無いし』
:じゃあ……
『……けれど、それを証明する手立てが我には無い』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以前、カイザーと話したその言葉。
それを今、思い出していた。
「……………………」
カイザーは、嘘は言っていないと思う。
俺自身、彼女と会話して、その人となりは少しは理解してきたつもりだ。
……“しかし、彼女以外が使って大丈夫だという保証も無い”。
「……………………」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
つまり、【ライト・ガジェット】と【レプリカ・ガジェット】の共存は不可能、と。
そうヒーロー連合は判断した。
精神汚染の危険性があるものなど、百害あって一理無し。
──本当に? ブルー/ティアーが関わったものが?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……………………」
【ダーク・ガジェット】、かつては【レプリカ・ガジェット】と呼ばれていたもの。
ブルー/ティアーが……
そんなものが、本当に危険?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「──“人の法は、完璧ではありません”、か」
俺は、トールが話していた言葉の一部を思い返していた。
……ああ、そうだ。否定はしない。
「……俺も、“今の法が本当に完璧なのか? ” って、思っているよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……………………」
初めて【ダーク・ガジェット】を手に取った時。
俺は……実は、期待をしていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
もしかしたら、本当に法を変えることが出来るかもしれない。
ヒーロー側にとって、頼れる新たな味方を増やせるチャンスかもしれない。
……分かっている。こんなのはただの都合のいい言い訳だ。法は法。
今現在、法に逆らっているのは
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……………………」
だからこそ。準備は、してきた。
──例え、自分が捕まっても(失敗しても)問題無いように。
新しい、ヒーローの後輩を育ててきた。
【ジャスティス戦隊】の、新しいリーダーを選ぼうとした。それは失敗したけど、グリーンが纏めてくれる。
俺が……俺自身の意識が変わったとしても、“悪の俺を倒すように遺書”も残した。
出来ることは、したつもりだ。
──ここから先は、ライン越え。
“法という、破らぬ限り、社会的に守ってくれる保証から抜け出してしまう”
“明確な、違反行為”。
「……………………っ」
覚悟は、した。
恐怖は、ある。
自分が、自分で無くなるかもしれないという恐怖。
「……俺は、“
自分に言い聞かせるように、そう言い放つ。
コレこそが、俺が俺であるという証拠。その証明方法。
コレが言えないなら、俺じゃ無い。そう、ささやかながら基準を設ける。
「……………………っっ」
使え。
使え。
使え。
確かめるんだ。確認するんだ。
成功すれば、ヒーローにとって大きなリターン。
失敗しても、ローリスク。
“ヒーローが一人減って、ヴィランが一人増えるだけ”。
数ある中から、一人が移り変わっても、大きく影響はしない。その筈だ。
だから、俺自身のことは関係無い。
例え、【ダーク・ガジェット】が、どんなに恐れるものだとしても──っ
──「なーに言ってんのよ。私が関わった物よ。そんな洗脳なんて、あるわけないじゃない!」
ふと、そんな
「────ああ、そっか」
恐れる必要は、無かった。
作成者は、すでに分かってる。
あの、ヒーローとヴィランの両刀で、堂々と活動をしている……うっかりもので、お調子者で、メスガキで……けれど、“確かな自分の正義は持ってる女”。
ヴィランである彼女を信用は、出来ない。
けれど、“彼女そのものを信用は、出来る”。
「…………ふー……」
一呼吸。けれど、先ほどより遥かに気楽。
なんて事はない。ただちょっと買い物に行く程度の気分で、気になることを調べるだけ。
それだけの事だった。
「……スイッチ制か、コレ」
改めて、【ダーク・ガジェット】の構造を確認する。
そんな簡単な起動方法の確認すら、疎かにしていた事実に、どれだけ心の余裕がなかったんだろうと自嘲する。
「……よし」
俺は、構える。
【ダーク・ガジェット】のスイッチに、親指を添えて。
ライン越え。法の保証の先を、行くように……
スイッチを、押した。
☆★☆
──光が、走る。
紫色に、包まれる。
この身が、堅いものに包まれていく。
激しい衝撃。変身時の圧が、衝撃波となってあたりに響く。
「────────」
変身は、完了した。
片手を確認する。鎧、鎧だ。“黒い西洋の鎧だ”
全身を見渡すと、それに包まれている。
もう片方の手を確認する。
剣、剣だ。“黒い細身の剣”が、握られていた。
顔を、触ってみる。
固い。鎧が頭まで包んで、顔を隠している。
姿は、確認出来たと思う。
意識は、どうだ。
「──俺、は」
俺は。俺は……
「──俺は、“
……はっきりと、自分の口で。噛み締めるように、そう言えた。
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
男
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
俺は、
今は、それを言えただけで、いい。
悪の道具を、信頼は出来なかった。
けれど、彼女の事を信じる事は、出来たのだ。