ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う? 作:新月
そして大変お待たせ致しました。
久しぶりなので、簡単なあらすじです。
<三章のあらすじ>
ヒーローランキングを挙げる事を目標にした【ジャスティス戦隊】
入れ替え戦を最初考えるが、ヒーローらしくない戦いを最初したため中々相手が見つからず。
担当ヴィランも現れない為、他の活動で人気を得ようと画策していた。
その一環としてボランティアしたり、後輩の育成をこの間まで実施していたのだった……
壊れちゃったんだけど、どうすればいいと思う?
……それは、いつものように街の郊外でヴィランと対決していた時の話だった。
この間の後輩の特訓から一月ほど経ち、ようやく【ジャスティス戦隊】が担当するヴィランが再び出てきた最近の頃。
「“レッド・ツインギフト”!! セット!!」
「「「や、ヤバイッ!?」」」
「必殺! “レッド・ウルトラエッジィ”!!」
「「「ぎゃああああああああッ?!!」」」
【ジャスティス戦隊】は、最近の必勝パターンとして“レッド・ウルトラエッジ”で決めるのが定型戦法となっていた。
ド派手な必殺技で締めるのは、シンプルに見栄えがいいのだ。
「“アクア・スパイラル”!! 今よ、レッド!!」
「ああ! “レッド・ウルトラエッジ”ッ!!」
「「「ぐぎゃああああああああッ?!!」」」
──ピシッ
勿論、必殺技を当てるまで他のメンバーのサポートがあるのは間違いない。
ブルーが多いのは勿論、イエロー、グリーン、ピンクもその日によってはメインのサポーターが代わり、様々なサポートバリエーションがある。
「“イエロー・ウィップ”!! レッド先輩!!」
「了解! “レッド・ウルトラエッジ”ッ!!」
「「「びゃああああああああッ?!!」」」
──ピシッ、ピシッ
しかしそれでも、最終的に分かりやすい決め技があると言うのは人気に直結しやすく、最後にド派手な必殺技でトドメを刺すと言う絵面は、ランキングを上げる方法として近道だった事に最近気づいたのだ。
と言うわけで、暫くはこの戦法中心で行こうとメンバーと話し、最近はそれを繰り返している。
「ん、レッド! 囲まれた!!」
「全員しゃがめッ!! ミックス技!! “レッド・サークル・ウルトラエッジ”ッ!!」
「「「おぎゃああああああああッ?!!」」」
──ピシッピシシッ
勿論、マンネリと言われるような事を避けるため、単に“レッド・ウルトラエッジ”と言っても、微妙にバリエーションを変えている。
“レッド・サークルエッジ”と組み合わせて、最強火力の広範囲技を開発したり。
「レッド!! ボス級が一人だよっ!! でも空中に浮いてる!?」
「だったらこうだ!! 正式決定! “レッド・ウルトラエッジ・ストライク”!!」
「グォああああああああッ?!!」
──ピシシッピシシシシ……
以前のウルトラエッジの勢いのまま、大剣をぶん投げる攻撃を正式技として採用し、遠距離単体攻撃にしたり。
シンプルに最強技と言っても、バリエーションをいくつか作れた為飽きられにくく丁度良かったのだ。
こうして“レッド・ウルトラエッジ”シリーズでトドメを刺すと言うのがとてもハマり、最近も徐々にランキングが上がり続けていた。
──だから、まあ。調子に乗っていたんだろう。
大いなる力に、安易に頼り続ける代償。
そのしっぺ返しを、【ジャスティス戦隊】は受ける事になる。
まあ何が起こったかと言うと……
「レッド!! 今よ、トドメ!!」
「ああ、“レッド・ツインギフト”!!」
──ピシッ、バギッ
「トドメッ!! “レッド・ウルトラエ──ッ”」
──バギャアアアアアアアアンッ!!!
「ジっ、は? ──ええッ?!!」
『ええええええええええッ?!!』
【レッド・ガジェット】、壊れました
☆★☆
「いやあー、これはまた……見事に粉々だねえ……」
本部に戻った俺たちは、神矢長官に壊れた【レッド・ガジェット】を見せていた。
ものの見事に大破状態で、ちょっとくっつけた程度で直るような状態では無いと素人目にも分かる。
ちなみに、戦っていたボスはグリーンとイエローがなんとか代わりにトドメを刺してくれていた。
今日ほど優秀な仲間がいた事を感謝したことはなかっただろう。
それはともかく、【レッド・ガジェット】だ。
もう粉々になったせいで、内部の大量のコードやパーツなども、バラバラになった状態で机の上にある。
元々【ライト・ガジェット】は内部構造が複雑なものだった。
例えパーツが無事だったとしても、俺だけではどの道組み立ては不可能だっただろう。
「ねえ、直りそうー? レッドのガジェット、跡形もなくなっちゃったけど……」
「そうだねえ、グリーン」「ピンクだよー?」
長官の机にしがみつきながら、ピンクが机の上を覗き込むような姿勢でそう質問していた。
いつものように名前を間違えながら、長官はとある“結晶”を摘み上げる。
「一応、“コアパーツ”は無事だねえ。これさえ無事なら、修復自体は可能だよ」
「本当!? 良かったー」
「まあ……問題は、その他のパーツが一切再利用出来ないくらい破損していることなんだけど」
そう言って長官が視線を落とした先には、破損したCPUらしきパーツや、ショートでもしたのか焦げ付いて断線したコード、物理的にひしゃげたネジなどが机の上に乱雑に並べられていた。
素人目に見ても、どう考えてももう使えないパーツだと一目で分かる。
「一体、何があったらこんなに原形留めないくらい破損するんだい? 一応【レッド・ガジェット】、細かいメンテナンスがあったとはいえ、元々100年近く無事に受け継がれてきたものなんだけど?」
「何もしてないのに壊れました」
「そんなパソコン素人の言い訳じゃ無いんだからさ……」
俺の言葉に、呆れたようなジト目で眼鏡越しに見つめてくる長官。
いや、だってマジで急に壊れたし……
「何があったらも何も、原因は明白でしょう?」
「理由を知ってるのかい、ピンク?」「ブルーよ」
「“レッド・ギフト”。あれ使いまくったのが原因よ、絶対」
「え、なんでっスか?」
腕を組みながら決めつけるブルーに対して、イエローが質問をする。
「あれ、人体に使ったら酷く負担が掛かるでしょう? ガジェットに対して使っても、負荷がなかったとは考えづらいわ」
『あー』
その説明に、全員感心の声を漏らした。
そう、“レッド・ギフト”は破格の瞬間的出力を得る事を引き換えに、結構な負担が掛かる技だ。
「特にレッド、最近あからさまに“レッド・エッジ”ばかり強化してたわよね? 逆に“メガ・フレイム”、“ギガ・フレイム”の腕から発動する技はほとんど使ってなかったわね。それは何故かしらねー?」
「いや、その……使った後両腕痛くなるから、それなら大剣強化した方が肉体にダメージが無くて、つい……」
初めて“メガ・フレイム”を使った時、片腕が火傷状態で負傷した事は記憶に新しい。
あれ以来、何度練習したとしても、負担の軽減は殆ど出来なかった。
その為、どうしても必要な時以外は、フレイム系の強化技はあまり使用しないようにしてた訳なのだが……
「ん、その結果がこれ。ガジェットにだけ負担を押し付け続けたせいで、とうとう耐えきれなくなった」
「歴史上、【ライト・ガジェット】が壊れた事はゼロでは無いけどさあ……ここまで原型無くなったのは、歴史上見ても初めてじゃないかい?」
100年の歴史のある物体を粉々にした事に、流石の長官も経験が無いのか困り気味だ。
壊れた破片の一つを指で弄りながら、そう呟いていた。
「でも、コアパーツが無事だったから直るっスよね? だったら、特に問題はないっスよね?」
「早くても2,3ヶ月は掛かるけどねー。予備パーツは用意していても、総取っ替えは想定してないから、追加でパーツ発注が必要なんだよ」
「……え? じゃあ、その間まさかレッド先輩は……」
「戦えないね、勿論」
嘘っスよね!? とイエローの叫び声が響き渡る。
俺自身、マジかー……と、頭を抱えていた。
長官の言う通りなら、2,3ヶ月俺は丸々戦いに参加出来ない事になる。
そう思っていると、長官はかぶりを振った。
「いや、ちょっと言い過ぎたね。“コアパーツだけでも、変身は出来るよ”? スーツは自動装着されないけど、肉体強化までならいけるね。ただ単純に、“武器が無い状態”だから、戦えないと言っただけなんだけど……」
実際、ガジェットが壊れた時、レッドの変身がすぐ解けた訳じゃないでしょ? と、長官が聞いて来た。
言われてみれば、確かに……その言葉の通りだった。
だからこそ、無事にここまで撤退出来たのだが。
それを聞いて、ピンクが素朴な疑問を溢す。
「んー……。えっと、じゃあレッド、変身は出来るんでしょ? 大剣が無いだけで? ──じゃあ、大丈夫なんじゃないの? だってレッド、素手でも“レッド・フレイム”も“レッド・ギフト”も使えるでしょ?」
「あー、試してないから分からないけど……多分、出来るな」
……あれ、意外と行けるか?
その二種類使えるなら、炎で相手焼く事も、仲間に対してギフトも使えるから、それほど痛くは無いか?
そう思っていると、流石に武器調整の為にコアパーツは常に必要だから、それは止めて欲しいとの事。
「レッドが変身でコアパーツ持っていっちゃうと、武器製作が一切進まなくなっちゃうんだよ。一生武器無しでいいなら問題無いかもしれないけど、流石にそれは困るでしょ? いつか君が引退した際、引き継ぎの事も考えないといけないんだからさあ」
「じゃあ、だめかー」
つまり、やっぱり2,3ヶ月ヒーロー活動休止は免れないと言う事か……
「と言うか、“レッド・ギフト”って確か、【レッド・ガジェット】以外にも使ってたよね確か? 【ブルー・ガジェット】、【イエロー・ガジェット】、【グリーン・ガジェット】、【ピンク・ガジェット】……これ他のみんなの武器も、緊急メンテが必要じゃないかい?」
「あちゃー……」
「え!? 私たちもっスか!?」
「ん、困る……」
「えー!?」
事が俺の武器だけの問題じゃ無くなって、全員に飛び火した。
それぞれ頭を抱えたり、驚きの声を上げている。
「全員同時とは言わないけれど、交代で大掛かりなメンテナンス提出は必要そうだね。今後も“レッド・ギフト”を使っていくなら、根本的にコアパーツ以外のパーツの強化が必要そうだし……」
「あれ? 使うなとは言わないんスね?」
「もう“レッド・ギフト”は必要不可欠な技になってしまっているからねえ。あれ使うなと言うには、私から見ても勿体無いと感じてしまうよ。負荷を差っ引いても、それだけ魅力的だねあの技は」
だから根本的に、“レッド・ギフト”の負荷に耐え切れるように作り替える。
そう長官は画策しているようだった。
「と言うわけで、日程はこちらで決めるからレッド以外の武器も一旦順番に預からせてもらうよ。その間【ジャスティス戦隊】としての活動は縮小せざるを得ないけれど……まあ、仕方ないね」
「それじゃあ、せっかく上げたヒーローランキングが下がっちゃうんじゃ無いっスか?」
「多少の下りは、仕方ないね」
「そんな〜ッス!?」
「……いえ、ここはプラスに考えてみましょう」
イエローがそう頭を抱え込んでいると、ブルーがそう口を出していた。
「長官。確か、コアパーツから武器を作り出す時って、“別に決まった形があるわけじゃないわよね? ”」
「んー? えーっと……まあ、確かにそうだね? よく知ってるね?」
「ん? え? どう言う事?」
ブルーの言葉に、ピンクがどう言う事かよく分からないと言った表情をしていた。
「つまり、別に“大剣”にこだわる必要はないと言う事よ。レッドの武器を、全く新しい武器として作り替えると言うことも可能なの」
「そうなのー!?」
「ん、でも、慣れていない武器を使うのは、ちょっと非効率。レッドにわざわざ剣以外を使わせるのは、どうかと思う」
ブルーのその言葉に否定の意見を述べたのは、グリーンだった。
その言葉に対して、ブルーは否定しない。
「ええ、そうね。私も“大剣”を使えなくさせるのはどうかと思うわ。でもこうも考えてみて。“大剣”以外も使えるようにしちゃえばいいんだって」
「え、それってどういう事っスか?」
「まだ分からない?」
「──そう、“変形機構”の採用を!!」
『ッ?!!』
その言葉に、全員が驚いていた。
変形機構。ヒーローグッズもので、あると子供達に大人気になる機能。
ブルーはその機能を是非実装するべきだと力説する。
「どうせヒーロー活動暫く自粛しなくちゃいけないんだから、この際考えられる新しい機能追加しちゃいましょうよ!! パワーアップして帰ってきたレッド! このキャッチコピーで行けば、期間が空いてもランキング上昇はお釣りが来るわ!!」
「おお!? 長官どうっスか!?」
「んー……まあ、ありではあるね。変形機構、出来ない事はないだろうから、提出時に申告するよ」
「やったわ!!」
そう言って、ガッツポーズするブルー。何故か俺より喜んでいる。
と言うか、俺の意見は? いやまあ、異論自体はないけどさあ。
「と言うわけで、どんな変形機構が欲しいんだい? 案があるなら言ってくれると助かるんだけど」
「そうねー。大剣は勿論、盾があったらいいかも! あと、細身の剣もあると使いやすいと思うわ」
「すみません、鞭形態採用するのはどうッスかね!!」
「私もー! 弓矢形態採用しよー!」
「ん、どうせならスナイパーライフルも」
「みんな自分の武器推しすぎじゃない!? それだったら私も二丁拳銃って言うわよ!?」
そう言って、ギャーギャーと、俺を置いて盛り上がるメンバー達。
お前ら、一応俺の武器なんだけど……
んー、まあ、いっか……
俺はそう思って、ひとまず形態についてはブルー達に任せる事にする。
俺自身は、大剣のモードが残っているなら文句はないからだ。
その他の追加機能に関しては、あったら使うと言う位で、特に希望があるわけじゃない。
それより、問題なのは……【ジャスティス戦隊】としての活動が、暫く縮小されると言う事。
つまり、本格的に空き時間が開くわけで……
──この際、本格的に試すか
そう俺は、自宅の机の引き出しの中に眠ってるものに対して、意識を向けていたのだった。
──これが、大きな運命の分岐点になるとも思わずに。
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
男
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
【レッド・ガジェット】壊した張本人。本人はそのつもりがなかったと自供しており……
“レッド・ギフト”の負担は人間だけでなく、物体にも負荷が掛かると判明。
使用した対象は瞬間的な強化の後、多大な負荷を受けてしまうらしい。
ガジェットは元々耐久性能が並外れて高かったせいで、数回の使用では壊れなかっただけ。
しかし流石に何十回の使用には耐えきれなかったらしい。
仮にレッドが自分の腕に対して何度も使用していたならば、腕の方が耐えきれなかっただろう。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
女
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
レッドのガジェットを、変形機構追加しようと提案。
ランキングを上げるなら、現状のレッドを更にパワーアップする必要があると考え、ちょうど良いと考えたらしい。
★
21歳
167cm
黄髪
秩序・善
【ジャスティス戦隊】のイエロー。
レッドの後輩。
自分の武器を推している。
★
34歳
184cm
緑髪
秩序・善
男
【ジャスティス戦隊】のグリーン。
自分の武器を推しているが、レッドにはその必要ないだろうなとも思っている。
★
10歳
130cm
ピンク髪
秩序・善
女
【ジャスティス戦隊】のピンク。
自分の武器を推している。
★
28歳
167cm
くすんだ金髪
秩序・善
女
【ジャスティス戦隊】の長官。
白衣でぼさぼさ髪をしている。
相変わらず、人の名前を間違える。
流石にガジェットが粉々に壊れたのは初めて見たのか、見た目よりビビっていた。
ヒーローが強くなるなら、変形機構も別に採用してもいいや程度に思っている。