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■まとめ記事
(2021年12月26日の放送内容を基にしています)
スクランブル=緊急発進の訓練を繰り返す、台湾空軍。毎日のように飛来する中国軍機に対し、警戒監視にあたっています。台湾の防空識別圏に相次ぐ、中国軍機の進入。中国は、主権と領土を守ることが目的だとしています。
緊張の高まる台湾海峡をめぐって、何が起きているのか。私たちは、安全保障の最前線を取材することにしました。
中国の動きに懸念を深める、アメリカ。台湾侵攻も現実味を増していると見て、抑止力の強化をはかっています。アメリカの危機感の背景にあるのは、東アジアでの中国との軍事バランスの逆転です。
東アジア周辺で、数年以内にアメリカを上回る軍事力を持つとも言われる中国。力を背景に、台湾をめぐり一歩も譲らない姿勢を強めています。
米中対立の影響は、日本にも及び始めています。自衛隊は、台湾に近い南西諸島周辺に、活動の軸足を移す動きを加速。軍事的な動きが活発化する中で、地域の住民は不安を感じています。
台湾海峡での軍事衝突を想定したシミュレーションも始まっています。事態が悪化したとき、日本はどう対応するのか。日本の安全保障の中枢を担ってきた人々が、検証しています。
ひとたび起きれば、多くの国を巻き込み、甚大な被害をもたらしかねない、“勝者のいない戦争”。
米中“新冷戦”の中で、軍事の動きがせめぎ合う現場を見つめます。
<台湾はいま>
街中に鳴り響くサイレン。中国からの空襲を想定して、人々に避難を呼びかける訓練です。台湾では、半世紀近く、毎年行われています。中国との緊張関係は、日常のものとなっています。
台湾市民「中国が台湾に侵攻する可能性はあると思います。中国はたぶん本気で準備しているかもしれません」
台湾市民「警戒はしておかなければならないと思います。いつでも対応できるような準備は必要だと思います」
台湾は中国の脅威に、どのように備えているのか。私たちは、台湾南部の台南空軍基地で、取材する許可を得ました。日本のメディアが台南基地を撮影するのは、これが初めてです。台湾の南西空域を管轄し、飛来する中国機に対応する最前線。スクランブルで戦闘機が飛び立つ回数は、台湾で最も多くなっています。
これは、台湾国防部が発表している、去年9月からの中国軍機の航跡を表した図です。
台湾が防衛のために設定している防空識別圏。ほぼ毎日のように進入しており、その数はこの1年で倍増しています。
台南基地の主力戦闘機は、アメリカの技術協力を受けて台湾が開発しました。兵器の自主開発にこだわって生産され、年々、改良が重ねられています。戦闘機の発進が急増し、現場の業務はこれまでになくひっ迫しているといいます。
この日も、スクランブルの訓練が行われていました。
教官「海岸線を出たら500ノットまで加速し、最速で中国軍機を迎撃する操作を行う。中国軍機なのか友軍なのかを確認し、中国軍機と確認できれば、戦術的な方向転換と操作を行う」
この女性は、元々、軍の事務の仕事をしていましたが、防衛の最前線に立ちたいと、配置転換を希望。戦闘機のパイロットになって、3年になります。
女性パイロット「私の目標は台湾海峡の安全を守ることです。家族は反対していましたが、いまは応援してくれています」
命令を受けて、訓練開始。5分以内に飛び立たなければなりません。激増する任務に対応するため、練度の高いパイロットの育成を急ぐ台湾空軍。かつて経験したことのない、中国からの圧力と向き合っていました。
台湾の人々の間には、警戒感が広がっています。2021年10月、台湾が「建国記念日」とするこの日、蔡英文(さい・えいぶん)総統は、中国へのメッセージを表明しました。
台湾・蔡英文総統「現状維持が我々の主張だ。台湾の人たちが、圧力に屈するとは思わないでほしい」
10月に行われた世論調査では、中国による台湾攻撃がありうると考える人は28.1パーセント。前回、一昨年の同じ調査からは、およそ12ポイント増えていました。
<中国のスタンス>
台湾統一を悲願としてきた中国。平和的な統一を目指すとする一方で、台湾が独立の動きを見せれば、武力行使も否定しない姿勢を示しています。
中国・習近平国家主席「台湾問題は中国の内政であり、外部からのいかなる干渉も許さない。祖国の完全な統一という、歴史的な任務は必ず実現しなければならないし、実現できる」
公表されている国防予算は、日本円で年間およそ20兆円。この20年で10倍近くに膨らんでいます。5年前、中国が「独立志向が強い」と見なす民進党の蔡英文政権が発足して以来、軍事的圧力を一層強めています。
<危機感強めるアメリカ>
台湾をめぐる中国の動きを深刻に捉えているのがアメリカです。
2021年11月、議会にある報告書が提出されました。中国の軍事力を詳細に分析。急激な増強がもたらす変化に、警鐘を鳴らしています。
「数十年にわたる人民解放軍の近代化により、台湾海峡での軍事バランスが大きく変わり、抑止力が危険なまでに低下している」(米議会年次報告書より)
こうした懸念を強く表明していたのが、インド太平洋軍司令官だった、フィリップ・デービッドソン氏。2021年3月、議会での報告で、中国が台湾に侵攻する可能性に言及し、衝撃が広がりました。
米インド太平洋軍 フィリップ・デービッドソン司令官(当時)「中国が野望を加速させるのを懸念する。台湾は野望の一つであり、今後6年以内に脅威が明白になる」(米議会公聴会より)
“6年以内”という具体的な時期をあげたデービッドソン氏。その根拠を尋ねました。
デービッドソン氏「人民解放軍は、米情報機関の分析よりも早いペースで兵器を開発している。これに習近平氏の任期を合わせて考えると、この時期が特に重要となる」
現在、習近平氏の党のトップとしての任期は、2期目の終わりを迎えています。来年は異例の3期目に突入する可能性があります。その終わりにあたる6年後の2027年までには、政治的な成果を求めるだろうというのです。
デービッドソン氏は議会に資料を示し、東アジアでの米中の軍事バランスが、いかに変化しているか訴えました。その資料に基づく、米中の戦力の比較です。
1999年。アメリカは1隻の空母のほか、強襲揚陸艦を4隻配備していますが、中国にはそうした艦艇はありません。中国軍の影響力が及ぶ範囲は、沖縄や台湾を結ぶ、第1列島線と呼ばれるラインの内側にとどまっていました。
ところが、その後、中国の軍用機の数は大幅に増加。空母も2隻保有し、強襲揚陸艦、潜水艦などの数でもアメリカを上回っています。その影響力は、第1列島線を越え、グアムなどを結ぶ、第2列島線と呼ばれるラインにまで達したとしています。
さらに2025年の予測では、中国は、アメリカの戦力を大きく上回り、その影響力は西太平洋全域に広がるとしています。
中国が台湾侵攻の意図を持った時、アメリカは、抑止することができないばかりか、この地域での優位な立場を失うと危機感を持っているのです。
デービッドソン氏「この地域での、アメリカと同盟国の能力の低下を懸念している。台湾での危機は地域全体の危機にもなる」
<せめぎ合うアメリカと中国>
「1958年、中国は台湾の離島に2時間で5万発もの集中砲火を浴びせました」(当時の米ニュース映像より)
これまで、アメリカと中国の対立の火種となってきた台湾。かつて内戦で共産党に敗れ、台湾に逃れた国民党をアメリカは支援しました。
一方、中国共産党にとって台湾を統一することは、統治の正統性を示す上で不可欠でした。
1996年、米中は「台湾海峡危機」という大きな緊張を迎えます。
台湾・李登輝(り・とうき)総統(当時)「共産主義と我々の民主主義は相いれない」
当時、独立姿勢を強めていると、中国が警戒した李登輝総統。初の民主的な選挙で選ばれる可能性が高まると、中国は激しく反発しました。台湾海峡の2つの海域を封鎖し、演習としてミサイルを発射。軍事力を誇示して、台湾の選挙に圧力をかけたのです。台湾では、中国との全面的な戦争への懸念が広がりました。これに対しアメリカは、台湾周辺に2隻の空母を派遣。当時、空母のなかった中国は、押さえこまれる形となりました。
あれから25年。中国は、軍備を増強し続けてきました。習近平主席が掲げる「中国の夢」。そのスローガンに影響を与えたとされる、国防大学の劉明福(りゅう・めいふく)教授。習近平氏の考えを知る劉教授に、中国が何を目指しているか、尋ねました。
劉教授「1996年の台湾海峡危機の時は、改革開放の後で、多くの人たちの国防への意識や、情熱が低下していたかもしれない。習近平の新時代に入ってから、経済が安定した上に、国防や軍隊の建設も加速している」
劉氏が去年記した、『強軍の夢』。中国は、海軍力を高めることで、世界一の軍隊となり、アメリカの覇権を崩すことができると唱えています。
「中国が国家の主権を堅く守り、国家の統一をはかり、民族の復興を実現する主戦場は海洋である。海洋を制する者が世界を制する」(『強軍の夢』より)
劉教授「中国の国力がアメリカを超え、アメリカが西太平洋から東太平洋に後退するまで、それほど時間はかからないだろう」
危機感を強めるアメリカ。今、アジアの海で各国との共同訓練を増やして、中国へのけん制を強めています。2021年8月にはイギリスの空母クイーン・エリザベス、11月にはドイツの艦艇も東アジアに展開。カナダや日本も含む6か国の共同訓練なども行われ、同盟国の力を得ながら、中国に対抗していく姿勢を打ち出しています。
対する中国も、友好国との軍事的な結びつきを強めています。2021年10月、中国の艦艇と共に日本の津軽海峡を通過したのは、ロシアの艦艇。その数は、両国合わせて10隻。同時に津軽海峡を航行するのは、初めてのことです。
自衛隊はこれまでにない特異な活動だとして、一連の動きを追跡・監視しました。中ロの艦艇は、津軽海峡を通過した後、伊豆諸島付近まで南下。日本列島に沿うように航行した後、大隅海峡を初めて通り、東シナ海に入りました。
米中ともに、他の国を引き込みながら、互いにけん制する動きが続いています。
中国は、台湾海峡周辺での緊張を高めているのはアメリカだと主張しています。北京に拠点を置くシンクタンクで、アメリカ軍の活動を分析している胡波(こ・は)氏です。
南シナ海戦略態勢計画・胡波主任「もし中国が毎年、のべ数千機の偵察機をアメリカの東海岸と西海岸に送り込んだら、アメリカはどう思うだろう。アメリカの行動は、隣人が毎日、家の前で包丁を研ぎながら、あなたはルールを守らないと批判しているようなものだ」
<米中対立でよみがえる”台湾海峡危機”の記憶>
米中の対立が激しさを増す中、今、台湾では、かつての危機を描いたドラマが注目を集めています。
描かれるのは、1996年の「台湾海峡危機」。「アイランド・ネーション」と題して、戦争の一歩手前の過酷な状況に置かれた兵士たちの現実が映し出されます。ドラマを制作した、プロデューサーの、汪怡昕(おう・いきん)さん。汪さん自身、危機の時、最前線の島を守る部隊にいました。
ドラマプロデューサー・汪怡昕さん「これは当時の私です。あの時の私は士官だったのです」
台湾でもあまり知られていない当時の状況を、自分自身の体験を基に描きました。
汪さん「ここ1、2年は、台湾海峡危機の時のような状況に戻っている気がします。しかしどれほど緊迫し、何が起きていたのか、あまり知られていません。平和を維持するのは容易ではないと知ってほしい」
舞台は、中国大陸から9キロしか離れていない、台湾の高登島(こうとうとう)。戦争になれば、最初に攻撃を受ける可能性があり、兵士たちは極度の緊張にさらされていました。汪さんはドラマの制作にあたり、高登島にいた元兵士たちにたびたび話を聞いてきました。元兵士たちは、当時の過酷な状況が、今も脳裏に焼き付いていると言います。
元兵士「パンと急に照明弾が打ち上がり、中国側が打ち上げたか、島の兵士が打ち上げたか分からなかった。泣きながら陣地に戻った。あと3日で退役だったのに」
中国から相次いで挑発を受けながら、一触即発の日々を送っていました。
元士官「受け取った国防部の電報は、私の記憶が正しければ、(攻撃される)可能性が一番高いのは高登島だという内容だった。パニックを起こさないよう、兵士たちには隠していた」
今、あの時の過酷な状況が、再び繰り返されるのか。アメリカと中国、2つの大国の狭間で、台湾の置かれている状況に話が及びました。
元兵士「台湾は、中国とアメリカの間のばくちの駒だ。他の国が助けに来るまで、どれくらい持ちこたえられるか。自力で守れなければ、他人に助けてもらうほどの価値があるだろうか」
汪さん「国際政治は、義理も人情もない。利益を駆け引きするゲームだ。台湾はあくまで、自らの価値を高める努力をしないといけない。価値がなければ誰も相手にしない」
<米中の軍事的せめぎ合い 影響は日本にも>
軍事的なせめぎ合いが激しさを増す台湾海峡。その影響は今、日本にも及び始めています。
台湾からわずか100キロ、日本最西端の沖縄県与那国島です。近年、台湾軍による演習が増加し、地元の漁協では、漁に影響が出ているといいます。国から漁協に届く、安全情報。島の沖合で、軍事演習などが行われる場合、その予定の海域を示し、事前に警告する文書です。台湾軍による演習は、今年だけで200日あまり。回数は過去最多となっています。
与那国町漁業協同組合・嵩西茂則組合長「だんだん狭まっているんですよ、我々の漁がね。それは当然、緊張感を持って操業しないといけないし、これまで通りの操業では、いかないんじゃないかという不安は抱えております」
影響は沖縄県だけではありません。西日本各地で在日アメリカ軍の活動が活発化しています。四国の山間にある高知県本山町。この町の保育園で、たびたび目撃されるようになったのが、アメリカ軍とみられる軍用機です。
保育士「本当に体感は、あの山すれすれを飛んでいるようなイメージ」
先月は、わずか40分の間に、8機が相次いで飛行してきたといいます。
子どもたち「うるさくて嫌だった」「着陸するかと思って怖かった」
保育士「お昼寝真っ最中に、本当に往復で何回も飛んでくることがあったので。小さい子どもも泣いて、なかなか寝られなくなる」
目撃された機体の多くは、アメリカ軍・岩国基地の所属だとみられています。4年前(2017年)に、アメリカ国外の基地として初めて、垂直での着陸が可能な最新鋭の戦闘機を配備。所属する軍用機の数では、沖縄県の嘉手納基地を抜いて、「東アジア最大規模」となっています。
さらに、2021年10月以降、「遠征洋上基地」と呼ばれる大型艦艇や、戦闘機などを搭載できる、新型の強襲揚陸艦が初めて入港。岩国基地は、中国に対応するアメリカ軍の一大拠点となっているのです。
台湾海峡周辺で、アメリカ軍が活動を活発化させる中、歩調を合わせるように動いているのが、日本の自衛隊です。2021年11月、その最前線である「東シナ海」での活動に、初めてカメラが入りました。
海上自衛隊の補給艦「おうみ」。全長が221メートル、幅が27メールあり、海上自衛隊で2番目に大きな艦艇です。
任務は、備え付けられたホースなどを使って、燃料や物資を洋上で他の艦艇に補給すること。艦内には、巨大な燃料タンクとともに、食料庫や弾薬庫を備え、後方支援の要としての役割を担っています。
いま「おうみ」は、アメリカ軍の艦艇への補給が日常的な任務になっています。
この日やってきたのは、アメリカ軍のミサイル駆逐艦。数週間前には、台湾海峡を通過していた艦艇です。
憲法のもと、自国の防衛に徹してきた自衛隊。かつて、アメリカ軍への補給は、訓練など限られた場面でのみ行われてきました。アメリカのテロとの戦いを支援した、インド洋への自衛隊派遣。このときは、特別法を定め、期間と地域を区切って活動しました。
この状況を大きく変えたのが、2016年に施行された安全保障関連法。警戒監視などの任務にあたっているアメリカ軍に対し、「平時」から補給ができるようになったのです。
「おうみ」は、この1週間前にも、同じ駆逐艦に補給していました。防衛省関係者によると、いま東シナ海には、常時、補給艦が展開。アメリカ軍への補給は、ここ数年、急激に増えているといいます。
海上自衛隊 補給艦「おうみ」・吉福俊彦艦長「要求のあった場所に、要求のあった時間に、要求量をしっかりお渡しできる。そういう意味で言えば、日米の相互運用性というのは、もう垣根がなくなっている」
かつてないほど進んでいる、日米の一体化。アメリカ政府に安全保障政策を提言する専門家は、今後、同盟国・日本の役割が増していくと指摘します。
ランド研究所 ジェフリー・ホーナン上級研究員「東シナ海での危機において、日本は何をするのか。アメリカが紛争に巻き込まれ、日本が攻撃を受けていない段階で、日本は何をするのか。アメリカの戦略にどう価値を加え、戦力の増強につなげられるか、具体化していく必要がある」
<”危機のシナリオ” 日本はどう対応するのか>
台湾の状況がより切迫したものになれば、日本はどう対応するのか。
2021年8月、東京・市ヶ谷。防衛省にほど近いホテルの一室で、ある会合が開かれました。
元陸上幕僚長・岩田清文氏「おはようございます。これより台湾有事の机上演習を開始したいと思います」
呼びかけたのは、安全保障政策を提言するシンクタンク、「日本戦略研究フォーラム」。台湾周辺で軍事的緊張が高まった場合のシミュレーションを行いました。参加したのは、安全保障関連法の策定に関わるなど、最近まで日本の安保政策の中枢にいた元官僚や、自衛隊の元最高幹部。
あくまで外交による平和的な解決を目指す日本。しかし、万が一の時にどのような対応を迫られるのか。政府とは別の立場で、独自に検証しようとしていました。
元海上幕僚長・武居智久氏「シナリオはすべて、どれも以前あった事件を盛り込んであります。それを若干広げてあると。政治的な決断、意思決定に重きを置いたシナリオを組んでございます」
現職の国会議員も招かれ、それぞれ総理大臣や防衛大臣、官房長官役として参加します。
元陸上幕僚長・岩田氏「では、台湾有事研究 9時半、状況開始します。よろしくお願いします」
シミュレーションのシナリオは、別室にいる自衛隊の元最高幹部らが作成しました。モニターを通して議論の進行を見ながら、新たな状況を付与し、判断を迫ります。
元国家安全保障局次長・兼原信克氏「台湾有事が始まると、実体面の9割はアメリカがやるんですよ。『日本は付き合え』と言われるんですよね。『自分のとこ、しっかりやれ』とか、ばんばん出てくるのと、『米軍を展開するぞ』というのが出てきて、そこですよね、日本が一番重たいのは」
シミュレーションで与えられた、架空のシナリオです。台湾で総統選挙が行われ、独立を主張する総統が誕生。すると、台湾海峡の沿岸で、中国軍が、強襲揚陸訓練を繰り返していることが判明。内陸部の基地からも、数千両の軍用車両が沿岸部に移動しているという想定です。
陸上幕僚長役「人員とか車両といった、戦闘火器等が集結しているということは、陸軍種としては、まさにこれは侵攻企図ありという、有力な兆候だと考えます」
最大の焦点となったのが、政府による「事態認定」です。安全保障関連法により、政府がその時の事態をどのレベルと認定するかで、自衛隊の取れる行動が変わってくるからです。
航空幕僚長役「もう既に今この状況は、『重要影響事態』という認定をすべき要件が満たされていると思います」
**「重要影響事態」**とは、放置すれば、日本への攻撃につながるおそれがあるなど、「日本の平和と安全に、重要な影響を与える事態」とされます。アメリカ軍などへの様々な後方支援ができます。
この時、重要影響事態にとどまらず、次の事態を見越した対応が必要ではないか、という声も上がりました。
航空幕僚長役「先程からあるように、最悪の事態にエスカレートすることを考えると、『武力攻撃事態』等、あるいは『存立危機事態』の発出・認定の準備をすべきだと思います」
この場で指摘された2つの事態。**「存立危機事態」**とは、密接な関係にある外国が攻撃を受け、日本の存立が脅かされる事態、などとされています。日本が直接攻撃を受けていなくても、集団的自衛権の行使が可能となります。
さらに事態が進んで、日本が攻撃を受ければ、**「武力攻撃事態」**となります。自衛隊が必要最小限度の武力行使を行います。
海上幕僚長役「米軍が武力行使を開始した時点で、自衛隊に対しても『存立危機事態』以上の権限が付与されないと、全く米軍との共同ができない、ということをご認識いただけたらと思います」
外務大臣役「対話をもって平和的に解決するというのが、日本の一貫した立場でございます」
しかし台湾の状況に応じて、どの事態と認定するべきか、そもそも明確な基準がない、と指摘する声もありました。
官房長官役「国会でこの議論はほとんどやってないんですね。台湾有事が『存立危機事態』になると政府が答弁した記憶は私にもないし、ましてや『重要影響事態』に直結するという議論も、ほとんどしていないんですね」
集団的自衛権をめぐって、国会が激しく紛糾した安全保障関連法。集団的自衛権を行使する事例として、国会で主に議論されたのは、中東のホルムズ海峡と朝鮮半島での有事でした。台湾については、当時、大きな論点にはなっていませんでした。
事態認定について結論が出ないまま、ここで、さらに新たな状況が加えられました。
台湾海峡、バシー海峡、与那国島との間の海域が、軍事的に封鎖。さらに、台湾に向けて、武力が行使されます。この時、日本がアメリカ軍を支援すれば、軍事目標と見なされるリスクもあるという想定です。
防衛大臣役「台湾に対して、ミサイルが撃ち込まれているという状況ですから、これ台湾有事が勃発することは間違いないと。日本有事の一歩手前の状況が発生している」
台湾は攻撃されても、日本は攻撃されていないこの時点で、どの事態の準備をすれば良いのか。
統合幕僚長役「事態認定をしてもらわないと始まらないところがありますので、いつ頃からそういうことを着手するのかということを念頭に置きながら、その作戦、いざ『武力攻撃事態』となったときに、間に合わないようなことがないように、そのイメージについては、これから早急に詰めて、大臣に諮りたいと思います」
陸上幕僚長役からは、このままでは対応が遅れてしまう、との指摘もありました。
陸上幕僚長役「陸上自衛隊の場合は、陸軍種というのは非常に鈍重でありまして、非常に作戦準備に時間がかかります。そういう意味でも、前倒し、あるいは、この状況を見ながら先行的に命令をどんどんかけていただくことが重要かと」
いずれかの事態と認定すれば、日本も紛争の当事国と見なされ、攻撃されるリスクが高まる。難しい決断を迫られました。
総理大臣役「まさに国の安全保障に関わることでありますので、思い切った議論ができるような場を作らないと、なかなか前に進まないのかな、というふうに認識しておりますので」
刻々と変わる状況の中で、経済や外交への影響、さらに、国民にどのような説明を行うかも考えなければなりません。
明確な結論が出ないまま、議論は終わりました。政治の決断の重みが、改めて浮き彫りになりました。
元海上幕僚長・武居智久氏「恐らく実際の場面で、日本が攻撃されてない段階においては、実際の政府内の議論、もっともっと激しくなるんだろうと思うんですね。シミュレーションでもこれだけ難しいということは、実際の場面はもっともっと難しいんだろうと思います」
<自衛隊 最前線はいま 加速する”南西防衛” >
政府による事態認定がない段階で、どれだけ迅速に動けるのか、いま自衛隊は、独自に検証を始めています。
北海道旭川市の陸上自衛隊「第2師団」です。隊員数は、全国最大規模の8000人。最新鋭の装備を持ち、本来は、北方の防衛を担う部隊です。
この秋、第2師団は、南西諸島の防衛を念頭に置いた大規模な演習に参加。部隊のほぼすべてを九州まで移動させることになりました。戦車やトラックなど、およそ2000台の車両に加え、弾薬や銃など、あらゆる装備を持ち出しました。移動距離、およそ2000キロ。これだけの規模で部隊が動くのは初めてのことです。事態認定がない「平時」では、自衛隊にも道路法など、一般の法律が適用されます。たとえば、道路を通行できる車の高さには制限があります。搭載する大型車両は、タイヤの空気を抜き、車高を低くして運んでいました。戦車などは法律により、夜間にしか運べないものもあります。日中は、市民生活への影響が懸念されるためです。
陸上自衛隊 第2師団・冨樫勇一師団長「ルールに従いながら、手続きを踏みながら、速やかに移動するという現実の中で訓練ができることだと認識しています。そこには、いろいろな教訓とか、課題を得ることができるんじゃないかと。まさに自衛隊、我々の運用の実効性の向上というものが真に求められている」
今回の演習で自衛隊は「民間企業」にも協力を求めていました。移動の際、隊員たちが乗り込んだのは、一般客も乗る、定期便のフェリー。戦車や大型の重機を運んでいたのは、民間の貨物船です。
さまざまな輸送路を確認するため、鉄道も使われました。さらに、弾薬の一部は、運送業者が運んでいました。今回の輸送で、自衛隊は、20社以上から協力を得ていたといいます。
第2後方支援連隊・菊地康治連隊長「どうしても民間の輸送力に頼らないと、すべては動かせませんので、そういった協力関係も逐次、いまできてきていると思います」
しかし、武器や弾薬を運んでいた民間企業の中には、「事態がより切迫すれば、なし崩し的に協力の幅が広がり、巻き込まれるのではないか」といった戸惑いの声もありました。
およそ2週間かけて、九州への移動を完了した第2師団。離島防衛を想定したとみられる、戦闘訓練も行われました。
「赤警報!(防空警報)」
「敵航空機、回転翼はヘリボーン。距離13キロ。各部隊は、警戒を厳にせよ」
「機関銃。敵機、確認できたならば各個、射撃せよ」
弾薬などの補給物資が、次々と前線に送られていきます。
多数のけが人を想定し、救護の訓練も行われました。
第2後方支援連帯・菊地康治連隊長「近年の情勢を見れば、(訓練の)重要性というのは高まっておりますので、当然プレッシャーはありますし、指揮官として隊員の安全、命を預かっていますので、緊張の中でやっています」
列島を縦断して2か月あまり行われた演習。見えてきたのは、現実の有事を想定して、南西諸島防衛の備えを加速させる自衛隊の姿でした。
<”危機のシナリオ” 住民避難はできるのか>
台湾での紛争を想定した、自衛隊元最高幹部らのシミュレーション。この場でもう一つ議論となったのは、近隣の住民をどう避難させるか、という深刻な課題でした。台湾海峡で緊張が高まった場合、どのタイミングで避難を呼びかければ良いのか。
自衛隊による国民保護の活動は、事態認定とどのような関係にあるのか、閣僚役から質問が上がりました。
防衛大臣役「事態認定と国民保護というのは、どの程度リンクしているものなんでしょうか。つまり事態認定がなくても、住民の広域避難というのは、多分平時でもできる話だろうと思うので、そこは前広に始めていくのかなと思っていたんですけど、もう『重要影響事態』ということであれば、国民保護の発動もしやすいのでしょうか」
国家安全保障局長役「いや、『重要影響事態』と国民保護のところは・・・」
統合幕僚長役「『武力攻撃事態等』で認定・・・ですね」
日本が攻撃を受ける、**「武力攻撃事態等」**にならなければ、自衛隊は、法律に基づいた国民保護はできないと指摘されました。
これに対して、他の法律を適用できないかという案が出されます。地震や豪雨などの、自然災害の際の対応を定めた『災害対策基本法』によって、住民の避難を促すことができるというのです。しかし、これに異論が出ました。
官房長官役「これは実質戦時を想定した避難ですから、災対法(災害対策基本法)による避難とは、ベース的に全く違いますので、『武力攻撃事態』を想定して、早めに国民保護に入るという枠組みですね」
防衛大臣役「むしろ事態認定はいろいろな要件があるので難しいので、早めに広域避難、つまり災対法に基づく広域避難をかけておいたほうがいいんじゃないか、という意味で申し上げたんですけど、ここは法律の解釈の大事なところで、議論していただければと思いますが」
官房長官役「災対法というエクスキューズ(説明)をしないほうがいいと思います。しっかりそこは法的にも、そういう有事を想定した避難なんだ、ということを説明できるようにしたほうがいいと思います」
どうすれば住民を速やかに避難させることができるのか。制度上の課題が浮かび上がりました。
台湾から、わずか100キロにある沖縄県与那国島。万が一の事態に備えた、国民保護の具体的な計画は、自治体が策定することになっています。
与那国町では、去年から一人の職員が対応に追われています。
与那国町総務課・田島政之係長「島を出ないといけない。避難場所が住み慣れたところの施設じゃないところに、避難しないといけないというところが一番、他の災害とは違う。専門知識がないので、本当にこれでいいのか」
1700人いる住民の避難の手段として検討しているのが、週に2便の民間フェリーです。しかし、1度に乗れるのは120人あまり。
もしもの時、どうやって輸送手段を確保するのか。どのタイミングで避難を呼びかけるべきか。
与那国町総務課・田島政之係長「1回で全員避難できればいいんですけど、そこは無理なので、高齢の方、障害がある方、本当にいろいろな要素があると思うんですけど、優先順位をどうするかというのが一番難しくなってくる」
南西諸島の防衛力の強化を進める自衛隊。およそ5万人が暮らす沖縄県宮古島では、先月、新たにミサイルとみられる弾薬が運び込まれました。
サトウキビ農家の平良長勇(たいら・ちょうゆう)さん、82歳。自宅は、弾薬庫から300mの場所にあります。10年前に自宅を新築したとき、弾薬庫はなく、将来は東京に住む子や孫に家を残したいと考えていました。
平良さんは、最近の情勢を考えれば、自衛隊の部隊の強化について、理解はできるといいます。しかし、かつての戦争の記憶が今も頭から離れません。当時、この場所には旧日本軍の弾薬庫がありました。平良さんが4歳の時、そこで爆発が起き、2人の友人を亡くしました。
平良さん「恐怖感を感じますね。幼い頃の悪い思い出がよみがえってね。もし有事になったら、犠牲になるのは地域の我々でしょう。ミサイルが入ってきて撃ち合いになると、どこに逃げましょうか。不安ですね」
<米中対立はどこへ 衝突を避けるために>
2021年11月。世界が見守る中で開かれた、アメリカのバイデン大統領と、中国の習近平国家主席による、オンラインでの初めての首脳会談。公開された冒頭の映像では、一見穏やかなやりとりが交わされていました。
しかし、会談後に発表された声明では、台湾をめぐる双方の主張は、全く相容れないままでした。
「アメリカは台湾海峡の現状変更や、平和と安定を損なう一方的な動きには強く反対する」
「最大の努力で平和的統一を目指すが『台湾独立』勢力が一線を越えるならば、断固たる措置をとらざるを得ない」
半世紀前に国交を樹立した、アメリカと中国。交渉に向けて、キッシンジャー大統領補佐官とともに、中国を訪れた、ウィンストン・ロード氏。外交官として、中国とどう向き合うか、生涯をかけて取り組んできました。そのロード氏も、今後の米中の軍事的な緊張が何をもたらすのか、見通すことは難しいといいます。
元アメリカ駐中国大使 ウィンストン・ロード氏「中国が今後どうなるか、50年関わってきた私のような者ですら予測するのは難しい。問題は事故や誤算が起きる可能性があることだ。東シナ海、南シナ海、そして台湾、どこでも起こりうる。そうならないための“ガードレール”が必要だ。今後も厳しい競争は続くだろうが、衝突は避けなければならないし、避けられることを願う」
台湾では、いまも連日、中国軍の動きが伝えられています。台湾海峡危機のドラマを作った、汪怡昕(おう・いきん)さん。家族の間で、万が一のことを話題にすることが増えました。
汪さんの妻「中国軍機が頻繁にやってくるから、台湾機も飛んでいくけれど、ずっと続くと疲れてしまう。この子が大きくなって、戦場に行く日が来るかもしれないと思うと心配だわ」
中国との緊張関係は、どこに向かうのか。先の見えない不安な日々が続きます。
台湾での紛争を想定した、シミュレーション。2日間の議論を終え、参加者たちは提言をまとめるため、それぞれの感想を述べ合っていました。
元航空幕僚長・荒木淳一氏「改めて事態認定の難しさということを痛感しまして、あの混乱の中でそれを決めるというのは、いかに難しいかと」
元国家安全保障局次長・兼原信克氏「まとめて総理に判断してもらう事項を、絞り込んで上げるということを、関係省庁全部でやるという訓練をしておかないと、本番では使えないんじゃないかなと思いました」
元外務省国際法局長・石井正文氏「今回やってみて思うのは、こんなシナリオに入ったら、勝者は誰もいないということは、非常にはっきりしていると思うので、こういうところに入ったら、もうある意味負けだと思うんですね。ですから、平時からいかに、こういうシナリオに入らないような対応を取るべきか。抑止を強めながら、同時に中国に対しては、“ここに入ったら大変なことになるぞ”ということを、平素から繰り返し話をするということ。平時の抑止がやっぱり一番大事なことじゃないかと 」
“勝者のいない戦争”が起きないようにするには、どうすればいいのか。
日本の役割とは何なのか。重い問いが残されました。
台湾海峡をめぐる、米中の対立と、そのはざまに立たされる日本。この海から、片時も、目を離すことができない日々が続きます。