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不幸が結び付けた二人/Novel by 山風ペルス

不幸が結び付けた二人

9,442 character(s)18 mins

こよいろ小説です。
少し過激な表現があるところがございますので、ご注意ください。

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「…ははっ…馬鹿みたい…」
目の前に転がった死体を見て、ボクは諦めたような笑みがこぼれる。
ボクの命に、そんな価値はあるのだろうか。
なぜボクのことを、殺そうとする。
ただボクは研究者として、必死に働いているだけなのに。
何人の人々が、ボクのことを殺そうとして、返り討ちにあっているのだ。
ボクの命を狙う理由、それはおそらく莫大な富だ。
研究者として名を轟かせているボクは大量のお金を持っている。
それを狙ってボクのことをどうにか殺そうとしている人間が大量にいると思うと、気持ち悪くて仕方がなかった。
返り血を拭いて、その場を離れようとしたときにふと薄く気配を感じた。
こちらのことをじっと見つめている視線、まだ殺し屋がいるのだろうか。
視線を感じる方を見ると、物陰に隠れながらこちらを見る少女と目が合う。
少女は目が合った瞬間、物陰に身を隠した。
誰だろう、あの子は。もしかして、さっきの一幕を見ていた?
ボクは罠である可能性も無視して、物陰に近づく。
そしてさっき少女が隠れたところを覗き込むと、怖そうに震ながらしゃがむ少女がいた。
ボクのことを見つめながら震えている少女は口を開く。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
なぜ謝っているのか理解できないまま少女を観察すると、意味がよく分かった。
彼女の手の中に、古びたナイフが握りしめられていた。
この少女もまた、ボクの命を狙っていたんだ。
見た感じ、ボクよりも幼いがめちゃくちゃ年が離れているようにも見えない。
でも服や髪の毛は酷く汚れていて、明らかに痩せ細っている。
おそらく彼女は捨てられた子なのだろう。
その恵まれない彼女自身をずるく使って、ボクを殺す鉄砲玉にしたのだろう。
そんなことをするごみのような人間にひどく腹が立っていた。
「…念のため聞くけど、なんでボクを殺そうとしてたの?」
「風真が、いつも通りご飯を探してた時に、知らない人が…あ、あなたを殺したら、お腹一杯ご飯を、食べさせてくれるって言っていて…従わないなら、ここで殺すって、言われたからで、ござる…」
やっぱり、弱みに付け込んだクズどもが後ろで手を引いていたんだ。
怒りが抑えられないままの表情を顔に出してしまい、少女はさらに怯えた。
「…それで、君はどうするの?ボクをこの場で殺す?」
そう聞くと、少女は自分の手元のナイフをちらっと見た。
ナイフとボクを交互に見ながら、苦しそうな表所を浮かべた。
そして諦めたようにナイフを手放した。
ボクはその姿を黙ったまま見つめていた。
「…他人に迷惑かけるくらいなら、自分が死ぬでござる」
そう言いながらふらふらと立ち上がった。
そしてボクに一瞥して背を向けて歩き出そうとした。
ボクはそんな少女の手をつかんだ。
少女は驚いたような顔をしながらボクを見つめていた。
「ボクを殺そうとしたくせに、無事に生きて帰れると思ってるの?」
一瞬怯えたような表情を浮かべたが、すぐにすべてを悟った顔をしていた。
何の抵抗もすることもなく、ただただ殺されるのを待っているようだった。
「…ついてきて」
そう言いながら手を引っ張っていく。

黙ったまま歩き続けてついた場所は、ボクの質素な家。
家がばれないために、わざと小さくて質素な部屋に住んでいた。
ボクは何も言わずに少女を家の中に入れる。
リビングまで行って、ボクは座り込んだ。
「…君も座れば?」
困惑している様子でずっと立ちっぱなしの少女に言う。
おずおずとボクの正面に座り込んだ。
「君、名前は?親は?」
「えっと…名前は風真いろはでござる…親、は、いない…」
「いない?捨てられたってこと?」
「…殺され、ました…よくわかんないけど、風真だけ逃がしたでござる…」
親が身を挺して娘を守ったということだろう。
身を、挺してか…。
一つ気になるのはいろはの語尾だった。
「気になるんだけど、語尾のござるって癖?」
「癖、でござる…親も同じだったから、いつの間にかこれが普通になって…」
おそらく彼女はこの街の出身ではないな。
遠くの里かどこからか来たのだろう。
するといろはが震える唇を開いた。
「…風真は、この家で拷問されるでござるか…?」
ボクはそれを聞いて、少し考えた。そして、頷く。
「そう、拷問する。絶対に逃がさないから」
酷くおびえた表情を浮かべた少女に手を伸ばす。
ぎゅっと固く目を瞑るいろはの腕をつかんだ。
「…まずは、お風呂行くよ」
立ち上がって、お風呂場まで連れていく。
ちょっと困惑したような表情をしながらもついてきた。
脱衣所に着くと何も言わないままいろはの服をすべて脱がせた。
酷くやせ細った体は明らかに栄養が足りていないのが見てわかる。
ボクも同じように服を脱いで風呂場に二人で入る。
椅子に座らせて、最初は汚れた髪の毛をお湯で軽く流してからシャンプーをする。
一通り洗い終わったのでシャワーでシャンプーの泡を流した。
するとそこから現れたのは艶やかに光る小麦色の髪の毛だった。
「…髪の毛、綺麗だね」
「あ、ありがとうでござる…」
次に体をボディーソープをつけたタオルで拭いていく。
少しくすぐったかったのか、身をよじることもあったが洗っていった。
体も洗い終わってシャワーで流した。
「よし…じゃあ次はこよを洗いなさい」
「は、はい…えっと…」
「…ボクは博衣こより」
「こより、さん…」
いろはは立ち上がってボクの後ろに回り込む。
ボクは椅子に座ってただじっと待っていた。
慣れない手でシャンプーを泡立ててボクの頭を洗い始めたいろは。
今までずっと一人だったせいで知らなかったが、他人に頭を洗ってもらうのは気持ちいい。
ボクは髪の毛が長いが、いろははしっかりと丁寧に髪の毛全体を洗ってくれた。
「それじゃあ、シャワーで流すでござる…」
長い時間をかけて髪の毛を洗い、シャワーで流し始めた。
おぼつかない手だが、いろはなりに精一杯頑張っているのだろう。
「え、えっと…体は、どうすれば…」
「いろはちゃんが洗いなさい」
「わ、わかったでござる…」
いろはは軽く頬を赤らめてからタオルにボディーソープをなじませた。
そして背中からごしごしと洗っていく。
背中が洗い終わったと思うと、おどおどしながら前に手を回してきた。
お腹や足を洗っていったが、ボクは不満なままだった。
「…ねえ、胸の下って結構汗かくんだけど。それに性器もしっかり綺麗にしてよ」
ビクッと体をはねさせたと思うと、俯きながらコクッと小さく頷いた。
軽く震えた手でボクの胸や性器をしっかり洗っていった。
人に体を洗ってもらうのも、なかなか悪くはない。
シャワーでちゃんと流してもらったあと、二人で一緒に湯船につかる。
あまり広くはない浴槽なので少し狭いが仕方がないことだった。
いろはは疲れているのかぼーっとボクの顔を見つめていた。
「…こよの顔、なんか変?」
わざと意地悪な聞き方をするとハッとして首を横に振った。
「ち、違うでござる!!すごく、綺麗だと思って…」
顔を赤くしながらうつむきがちに声を発する。
つくづく変な子だなって思う。
ボクがきれいだなんて、そんなわけあるはずがない。
「…こより、さん…拷問って、いつからですか…」
すると突然暗い声でつぶやいた。
お風呂だからか、その声はやけに耳に響いてきた。
「何言ってるの?拷問はもう始まってるじゃん」
「…え?どういう…」
「これから死ぬまで、こよの身の回りのことしてもらうから」
ボクがいろはに与える拷問はこれだった。
家事や洗濯、ボクの面倒さえもいろはに見させるということだった。
いろははまだうまく理解できている様子ではなかった。
「え、風真がこよりさんの、身の回りを…そ、それが、拷問…?」
「そうだけど、文句あるの?」
「い、いえ!!それなら精いっぱいやるでござる!!」
さっきまでのおびえた表情はなく、やけにやる気のあるような返事をした。
「で、でも料理とか、レシピがわかんないでござる…」
「…スマホ、買ってあげるから」
「す、すまほ…?」
ボクはその返事にあっけを取られてしまった。
スマホの存在すら知らない人がいるなんて思わなかったからだ。
「スマホは何でも調べることができる機械のこと」
「へぇ…初めて知ったでござる…」
ずっと路上で生活してたからか、田舎から来たからなのかはわからない。
でも世間知らずないろはを自分の思考で染めるというのも、面白そうだ。
英才教育を施してあげようかな、なんてね。

「こよちゃん。もう朝でござるよ」
「んぅ…」
あれから約三年が過ぎた。
栄養不足でがりがりだったいろははちゃんとしたご飯を食べたことで、年相応の女の子となった。
あれからそこそこ打ち解けて、いろははボクのことをこよちゃんと呼ぶようになった。
料理も洗濯も家事全般もちゃんとできるようになっていった。
「今日もお仕事あるんでござるよね?起きないとダメでござる」
「わかったよ…」
まだ眠気が抜けきっていないまま体を起こした。
起き上がるといろはは笑顔でボクのことを見た。
「おはようございます、こよちゃん」
「おはよぉ…」
毎朝のこのおはようを聞くことができるのがなんとなく幸せだった。
それはきっと、満たされない心の穴がちょっと埋まるからだろうな。
「もう朝ごはんできてるでござるよ」
「はぁい…」
ベットから降りて、おぼつかない足取りでリビングに向かうといつも通り朝食が作られていた。
手を合わせていただきますを言って口をつける。
いろはが作る料理はボクの舌に合うように作ってもらっているので、すごくおいしい。
朝食をしっかり食べきって、仕事の支度をしていた。
そして準備を終わらせて出発のために玄関に行くと、いろはがお見送りをしてくれる。
「今日は少し遅くなるかもしれない」
「分かったでござる。気を付けてください」
たまに出る敬語になんだかむず痒さを感じながら、家を出た。

仕事終わり、今日も一人歩いていると目の前に男が現れた。
いかつい見た目をしていて、こちらを見下すように笑っている。
またいつも通りの殺し屋か、なんて心の中で呆れていた。
「お前が博衣こよりだな?」
「…そうだけど、なに?」
「お前を殺しに来た」
やっぱり、いつまでたってもばかは消えない。
いつも通りまた返り討ちに合わせてやると思い、ナイフを持った瞬間だった。
「お前は、ギフテッド。そして親に捨てられた。そうだよな?」
ボクはそれを聞いて動きが固まった。
なぜそれを知っているんだ、なぜわざわざそれを言うんだ。
色々思うことはあったが、一番強い思いがあった。
それは、孤独。
すると急に男が全速力でボクの方に向かってきた。
反応が遅れた瞬間、男は鳩尾を思いっきり蹴りぬいた。
「ぐはっ…!?」
受け身を取ることすらできないまま、ただ吹っ飛ばされた。
内臓が痙攣してしまったのだろうか、上手く呼吸もできなかった。
にやにやと薄気味悪い笑みを浮かべながらこちらに歩いてくる男。
「可哀そうなやつだ。そんじゃ、ばいば…い…」
このまま殺される、そう思った瞬間男は急に糸が切れたかのように倒れこんだ。
何が起きたんだ、そう思いながら周りに目をやると、見覚えのある小麦色の髪を見つけた。
「い、いろは、ちゃ…」
「こよちゃん!!」
必死な形相でボクに近づいてきた。
よく見るといろはの服に返り血が付いているのが見えた。
もしかして、この男を殺したのは…。
だんだんと引いてきた痙攣のおかげで、普通に起き上がることもできた。
「これ、いろはちゃんが…」
あの男以外に人がいる気配なんて全く感じなかった。
実際に男もいろはには気が付いていなかったのだから。
「…こよちゃんが死んじゃうと思うと、怖くて、さ…」
いろはの手には、初めて出会った日にもっていた古びたナイフが握られていた。
「それと…こよちゃんの家族のこと…」
「っ!?」
まさか、さっきの会話さえ聞かれてしまっていたということか。
ボクはここ最近感じていなかった恐怖を感じた。
「…それはまたあとで。いろはちゃんは、なんでここにいるの?」
「なんでだろう…なんだか落ち着かなくて、家の中でそわそわしちゃって…気晴らしに散歩をしたらこよちゃんを見つけてって感じでござる…」
「…噓でしょ、それ」
いろはの体がびくっと跳ねる。
「本当はこの男とグルなんでしょ」
明らかにおかしい。
こんな周りから見えにくい路地裏に散歩。
散歩になぜ古びたナイフを持ってくるのか。
こんなおかしいところだらけで、そんな雑な嘘を見破れないはずもなかった。
「…ごめんなさい」
「…なんで、こんな男とグルを組んだの」
ボクは初めて、悲しいと感じてしまった。
仮にも三年間一緒に暮らしてきたのに。
「…この男が、言って来たんでござる。こよちゃんを殺すのを手伝え。手伝うのなら、こよちゃんを殺す権利をやる。手伝わないのなら、自分が殺すって」
震えた体と唇を必死に動かした離していた。
「こよちゃんを今更殺すなんて、したくないでござる。でも、他の知らない誰かに殺されるくらいなら、いっそ風真が殺してしまいたかった…!!」
ボクは目の前のいろはに唖然としていた。
いろはから感じるのは、殺意なんかではなかった。

初めて感じる、愛だったんだ

「…いざ、本番になった時。こよちゃんが蹴り飛ばされて男が近づいていったとき、風真も後ろからついていってたでござる。でも、なぜか男は風真に気が付いていなくて…だったら、殺すのはこよちゃんじゃなくて、この男だって思って…」
「…いろはちゃんは、知らず知らずの内に気配を消してたんだよ」
「気配を消す…?」
「そう。正直、こよも後ろにいろはちゃんがいることに気が付かなかったもん」
もしかするといろはは、殺しの才能があるのかもしれない。
いろはが本気を出したら、ボクなんてすぐに殺されてしまうだろう。
「…風真は嫌でござる…殺しなんて、嫌」
小さくつぶやいたいろはの瞳から、涙がこぼれる。
「でも、でも…こよちゃんを守るためなら…」
「ダメ」
それ以上先を、言わせてはいけないと思った。
いろはは僕の顔を見つめる。
「こよと同じ世界に来たらだめ。絶対に」
どれだけ残酷で、薄汚い世界か彼女は分かっていない。
だからこそ、いろはには普通に生きてほしかった。
人殺しで、自分の人生を狂わせないでほしかった。
「いろはちゃんならきっと、まともな人生を過ごせる。ちゃんとした仕事について、恋人ができて、幸せな人生を。本来、ボクと一緒にいてはいけないんだ」
優しくて、ボクを愛してくれる君だからこそだ。
きっと優しい君が暴走するときは、ボクのためなんだ。
「本当はボクといろはちゃんは、関わりあったらいけない人間だったんだ」
いろはとボクが出会わなかったら、いろはが幸せな人生を過ごせていたのなら。
きっと、いろはは笑って人生を過ごし、ボクはこの場で死んでいた。
それだけじゃない。
いろはが家で待っている、そう思うとなんだか嬉しくて。
毎朝起こしてくれるのも、美味しいご飯を作ってくれるのも、嬉しかったんだ。
いろはは一日一日を生きていくための楽しみだったんだ。
あはは、なんだ。ボクだって十分、いろはが好きなんじゃん。
「それは、いろはちゃんもよくわかってるでしょ?」
「…わかんない、でござる」
いろはの返事にボクは驚く。
すると急にいろはは立ち上がって、ボクの手をつかんだ。
「早く帰るでござるよ」
「ちょ、ちょっと!?いろはちゃん!?」
ボクの声が聞こえてないのかと思うように無視をしたまま歩き続けていた。

家に着くなり、ソファーに座らされた。
いろはの表情は少し怒っているようにも見えて。
「…なんで、あんなこと言ったでござる。風真のことが、嫌いでござるか?」
いつもよりも低い声がボクの鼓膜を揺らした。
「嫌いなんかじゃ…」
「だったら、もしもなんて考えないでよ…」
震えて、酷くかすれた声にボクは顔を上げる。
目の前には唇を噛みしめ、涙をためているいろはがいた。
「今起きていることは、もう変えられないんでござる!!もしもの世界なんか、どうでもいい…今目の前にいるのは!!こよちゃんを愛している風真でござる!!ちゃんと、風真のことを見てよ!!」
いろはは涙をボロボロ流しながらボクに叫びつけた。
すると急にいろはが近づいてきて

ボクに、柔らかいキスを一つ落とした

突然のことに唖然としていたボクの目の前で、まだ涙が止まっていないいろはが口を開く。
「…風真のことを見て…そして、風真にもこよちゃんのことを見せてよ…過去に、何があったんでござる…?」
ボクは、正直思い出したくもないような過去を持っている。
何度も何度も忘れたい、そう思ってもできなかった、できない体だった。
でも、今のボクは一人なんかじゃ、ないんだ。
「…わかった、話すよ」

♢♢
さっきの男の声で聞こえたかもしれないけど、ボクはギフテッドだったんだ。
知識が実年齢の何歳も先を進んでいる、そんな子供のことをギフテッドっていうんだ。
ボクはその中でも、記憶力が物凄くよかったんだ。
一度行った場所だったらどこに何があって、どんな天候でどんな服装で、そこまで覚えていた。でも、そんなボクのことを親は気味悪がっていたんだ。
いつどこで何をしたか、数年前に読んだこの本に書いてあったものを思い出す。
すべてを正確に記憶しているボクを、白い目で見ていたんだ。
しかし親の二人は子に恵まれずに、子供はボク一人だけだったんだ。
きっと親はボク以外に子供がいたら、ボクなんか相手にしなかっただろう。
そんなことは子供のころのボクにもよくわかっていた。
今は気味悪がられているが、大きくなったらお金持ちになって親に好きになってもらう。
そのためにお父さんの部屋に置いてある本を読み漁っている時期のことだった。
「こより、お出かけするわよ」
急に母親と父親二人が笑顔でボクのことを呼んだ。
お出かけか、どこに行くのだろうかなと思いながらワクワクしながら車に乗った。
車を出発させるとボクはずっと外を眺めていた。
あまり天気はいいとは言えない、空が雲を覆っていて雨が降り出してしまいそうだった。
そんな中でボクは違和感を覚えてしまった。
なんだか妙にたくさん道を曲がるなって思っていた。
この道に行くんだったら曲がらないで、まっすぐ行った方が早いのに。
知っている道から初めて見た道にどんどん変わっていって、遠いところに行っているということが分かった。
約一時間ほど進んだ後、急に車が止まった。
そこは少し大きめの公園の駐車場だったんだ。
始めてくる場所にわくわくさせていると、母親がボクに言った。
「飲み物を買ってくるから、先に行って遊んできなさい」
「分かった!!」
ボクは何の疑いも持たないまま、公園の方へと向かって行った。
大きな公園ということもあり、見たことのない遊具もあってそれを使って遊んでいた。
しかし、三十分たっても親はボクの元へとやってこなかった。
どうしたんだろう、そう思って車が駐車されている場所まで行った。
そこで、ボクは立ち竦んでしまった。

「あれ…なんで、車ないの…?」

ボクが乗って来た車がそこにはなかったんだ。
もしかして、考えたくもないが、親はボクのことをこの公園に捨てていった?
いや、きっとそんなことはない。
なにかあったに違いない、ボクは捨てられたという可能性を認めたくなかった。
こうなったら、ここから自分の足で歩いて帰ってやる。
ボクは外を見ながらここまで来たから、帰り道は覚えていた。
小さい足を踏み出して、大きな公園を出ていった。

約半日をかけて、ボクは家まで帰ったんだ。
すでに外は真っ暗で、体も疲れ果ててしまっていた。
でも死ぬ気で歩いて、家までたどり着いた。
ボクは玄関の扉に開けようとしたが、カギがかかっている。
なんで、どうして、そう思いながら庭に回り込んで窓から家の中を覗いたんだ。
その瞬間、ボクの中の何もかもが一気に崩れ去ってしまった。

家の中には、見たことない女の子が親の二人と一緒に食卓を囲んでいたんだ

ボクは悟ったんだ、ボクは捨てられたんだなって。
途端にボクを嘲笑うかのように雨が降ってきた。
ボクはおぼつかない足で家を出て、ただただ歩いていった。
そして歩くことすらできなくなって、路地裏に倒れ込んだ。
愛情じゃなくて、孤独しか味わうことができないまま死ぬんだ。
ボクはそう思いながら、目を閉じた。

次に目を覚ましたのは、見たこともない研究室のような場所だった。

♢♢
「そこは、浮浪者の子供を使った人体実験をしてる場所だったの。でも僕はほかの子供よりIQが飛びぬけて高くて、実験台じゃなくて研究者として育てられた。その結果が今のボクなんだ」
今考えると、愛情なんて寄せられたことのない人生だった。
こんなバカみたいな人生で生きてきたボク。
「…辛い、よね…辛かったよね、こよちゃん…」
でも、いろははボクのことを抱きしめながら泣きだしてしまった。
まるで自分の不幸ごとを悲しむように。
なんだろうこの気持ち、この心がきゅっと締め付けられてしまうこの気持ちは。
苦しくて、嗚咽が漏れてしまう。
「つらいときは、泣こうよ…風真も一緒に、泣いてあげるでござるから…」

その一言はボクの心を縛り付けていた

孤独感という鎖を溶かしてしまった

「うっ…うあああぁぁぁぁ!!!」
声にならない叫び声を上げながら、ボクは初めて涙を流した。
いろはの肩に顔を押し付けて、子供の様に泣きじゃくった。
いろはは何も言わずに、ただただ背中を撫でながら受け止めてくれていた。
今まで、感情も何もかもを縛り付けていた孤独感はもうどこにもなかった。
あの日、自分が捨てられたと知った日から心の中で溜まっていた涙が全てこぼれてしまう。
「そうでござるよ…どれだけ泣いてもいいんでござる…風真が全部、受け止めるでござるよ」
「つらかった…!!今まで誰にも愛されなくて、孤独だったの…!!」
孤独になんてもう、慣れてしまったと思っていたんだ。
でも本当は、心の奥底では孤独がつらくて寄り添ってくれる相手を探し求めていたんだ。
いろはを家に連れてきたのも、もしかするとそういう理由だったのかもしれない。
心のどこかで、孤独を埋める相手としていろはを求めたのかもしれない。
「もう、大丈夫でござるよ。風真がいるでござる。もう孤独だなんて、思わせない。死ぬまで愛するでござるよ」
いろはの暖かい声に心がひどく軽くなっていく。
愛情が欠落していたボクだからなのかな、好きな人に愛されるのがこんなにうれしいのは。

もし、彼女が幸せだった

もし、ボクが幸せだったのなら

ボクたちは、出逢わなかっただろう

きっと、これからも孤独を恐れながら生きていくだろう

それでも次は、絶対に離したくない

雨でさびた鎖は、貴女の愛情で溶かされた

Comments

  • kana

    こよいろの裏世界の役職が生かされてて良…

    April 10, 2024
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