扁桃腺が爆発して沖縄でぶっ倒れた。三十九度の高熱で頭も関節もバキバキに痛み、三日三晩何も食べられず、帰りの飛行機代もなにもかもが、滞在費に消えた。行く先もなければ、留まるあてもない。万事休すの私を救いに、女性Ｒ様がレスキューに駆けつけてくれた。九死に一生を得たかと思いきや、Ｒ様と八悶着ほどトラブルがあったので、人間関係に角が立たないように長州力と橋本真也のコラコラ問答形式で一部始終を紹介する。

第一幕「簡単にごめんって言うなよ編」

坂「おいコラおまえコラ」
Ｒ「なにコラ」
坂「簡単にごめんとか言ってんなよコラ」
Ｒ「気遣いだろコラ」
坂「被害者になんなよコラ」
Ｒ「なってねえよコラ」
坂「男の人が苦手なのかコラ」
Ｒ「そんなわけねえだろコラ」
坂「俺を加害者にすんなコラ」
Ｒ「してねえよコラ」
坂「してんじゃねえかよコラ」
Ｒ「親の影響だよコラ」
坂「なんだそれ言ってみろコラ」
Ｒ「親から大事にされなかったんだよコラ」
坂「可哀想じゃねえかコラ」
Ｒ「なにかやるとすぐ怒られたんだよコラ」
坂「ふざけた親だなコラ」
Ｒ「いまでも人間にびびっちまうんだよコラ」
坂「俺もこわいのかコラ」
Ｒ「こわくはないけどこんなこと真っ直ぐに言われたことなかったからドキドキしてんだよコラ」
坂「簡単にごめんって言うなよコラ」
Ｒ「わかったよコラ」
坂「わかればいいんだよコラ」

第二幕「事実よりも感情を言えよ編」

坂「おいコラおまえコラ」
Ｒ「なにコラ」
坂「泊まりたいと思っていたホテルが満席で予約できませんでしたとか言ってんじゃねえよコラ」
Ｒ「普通だろコラ」
坂「海沿いのホテルに泊まりたいなら海沿いのホテルに泊まりたいって真っ直ぐに言えよコラ」
Ｒ「薄々勘づいてたんだよコラ」
坂「だったら感情を言えよコラ」
Ｒ「自己完結させがちなのが癖なんだよコラ」
坂「簡単に諦めてんじゃねえぞコラ」
Ｒ「痛いとこ突くんじゃねえよコラ」
坂「伝えると届けるは別物なんだよコラ」
Ｒ「詳しくお聞かせやがれこの野郎コラ」
坂「お前はなんにも届けちゃいないんだよコラ」
Ｒ「言うことがゴールになってんだよコラ」
坂「コミュニケーションのゴールは一緒に気持ちよくなることなんだよコラ」
Ｒ「目からウロコだぜコラ」
坂「第一希望を言えよコラ」
Ｒ「第一希望を言うぜコラ」
坂「お前のレベルに引き摺り下ろすなよコラ」
Ｒ「以後気をつけますから許しやがれコラ」
坂「事実よりも感情を言えよコラ」
Ｒ「わかったよコラ」
坂「わかればいいんだよコラ」

第三幕「そんな笑顔は見たくない編」

坂「おいコラおまえコラ」
Ｒ「なにコラ」
坂「お前今愛想笑いしただろうがコラ」
Ｒ「それが女心ってもんだろうがコラ」
坂「俺はそう言う笑顔が一番嫌いなんだよコラ」
Ｒ「ダテに女張ってんじゃねえぞコラ」
坂「女の張りどころ間違ってんじゃねえぞコラ」
Ｒ「いつも笑顔で可愛らしくいないとみんなから愛されないって小さな頃から思ってんだよコラ」
坂「それのどこが可愛いんだよコラ」
Ｒ「おじさんにはウケるんだよコラ」
坂「おじさんにウケてどうすんだよコラ」
Ｒ「男はみんなこんなのが好きなんだろコラ」
坂「嫌いだっつってんだろーがコラ」
Ｒ「わかったよコラ」
坂「あ、お前、いま、笑ったなコラ」
Ｒ「これは愛想笑いじゃねえよコラ」
坂「なんだか言ってみろコラ」
Ｒ「お前だけに見せる真珠のスマイルだよコラ」
坂「俺に惚れてんじゃねえぞコラ」（Ｒ様退場）

以上。扁桃腺が腫れただけで、エセスピリチュアルの連中から「言いたいことを言えてないからじゃないですか」とお見舞いマウントを取られた。その女性には「お前みたいな人間は死ねばいいと思う」とだけ言って電話を切った。私レベルでもこうなのだから、ガンの人たちは大変だと思う。ただでさえ辛いのに、周囲から「大丈夫？」とか「血の呪い？」とか「我慢は大敵だよ？」とか、口だけは出すが金は一円も出さない連中になんでそんなこと言われなきゃなんないんだよって思うだろう。私が代わりに吠える。お見舞いマウント取ってくんじゃねえよ。浄化だねとか、お焚き上げだねとか、凶方位だったねとか、やかましい。お前は帰れ。土に帰れ。大丈夫？とか、心配してたんだよ？とか、変な笑いの取り方とか、エセスピリチュアルの戯言とか、善意に吸われることもたくさんあると思うけど、そんなのに負けるのって癪だよ。病床の皆様、俺が言うのも変だけど、希望を持って生きよう。心無い人の言葉に力を奪われないで、本当に好きなものを見よう。俺たちには、憎しみではなく、希望が必要だ。俺は悪寒に震えながら、このビートはエイトビートであることに気がついて、大好きな曲をずっと歌っていたよ。こぶしを握って。一緒に歌おう。好きな歌を。そうすると、わかるよ。希望がないから病気になったわけでもなければ、病気がなおる希望がないから元気が出ないわけでもない。俺たちの存在そのものが希望だってことが、わかるはずだ。