『ヴァージン・パンク』梅津泰臣監督が語る、R18+作品との違いと美少女キャラへのフェチズム「ピンスポットなポジションにこだわる」
「A KITE」(98)や「MEZZO FORTE」(00)など、唯一無二の世界観で国内外から根強い人気を誇る日本アニメーション界の鬼才、梅津泰臣。約10年ぶりの監督作であり、自ら企画、原作を担ったオリジナルアニメーションシリーズ第1弾『ヴァージン・パンク Clockwork Girl』が現在公開中だ。 【写真を見る】なぜ猫耳…!?梅津泰臣だからこそ描ける、“危険”な美少女キャラ 西暦2099年、医療用人工人体技術「ソーマディア」の発達により、ケガや病気を克服できるようになった世界。だが、この技術を悪用した犯罪が急増したことで、政府はバウンティハンター制度を策定する。バウンティハンターとして登録された民間人は、違法ソーマディア指名手配犯の殺処分が認められ、その代価として多額の懸賞金を手に入れられるようになった。神氷羽舞(声:宮下早紀)はバウンティハンターとして生計を立てるが、ある日、因縁の男Mr.エレガンス(声:小西克幸)が現れたことで運命が狂い始める。 「魔法少女まどか☆マギカ」などで知られるアニメスタジオ、シャフトとタッグを組み、35分の上映時間のなかに、圧巻のアニメーション表現で“梅津泰臣らしさ”が濃縮された本作。MOVIE WALKER PRESS では、本作公開直後の梅津監督に直撃インタビュー!美少女がアクションすることへのこだわりや、約10年と長期にわたった企画経緯、参考にした映画などたっぷり語ってもらった。 ■「この作品を観て『こんなヘンタイ、気持ち悪すぎる』なんていう反応はむしろウェルカム」 ――徹頭徹尾、梅津泰臣色満載のアニメーションでした。その徹底ぶりに驚いたのですが。 「それは誉め言葉です(笑)。というのも『ヴァージン・パンク』の企画は、アニプレックス社長・岩上(敦宏)さん、シャフト社長・久保田(光俊)さんたちと『昨今の流行や価値観に囚われず、やりたいことをやりましょう』と言われたところから始まったんです。『まずは好きにやってみて』とも言ってくれました。お約束事や枷などは一切、考えずにやってやる!という意気込みで出発したんです。そう思ってくださったなら、初心貫徹したということになりますね。 もう一つ、僕のなかに、ここ数年、現実の出来事にフィクションが負けているという思いがあった。まさに“事実は小説よりも奇なり”という出来事や事件がたくさん起きていたからです。僕としてはやっぱりフィクションも頑張ってもらわなければいけないという気持ちが強くて、それを意識しながら作ったというのもあります。現実より明らかに過激で、そんなことありえないだろうというくらいの話を作ってもいいかなって。この作品を観て『えーっ!』とか『ありえないだろう』とか『こんなヘンタイ、気持ち悪すぎる』なんていう反応はむしろウェルカム。僕にとってはこういうのも誉め言葉で、ニヤニヤ笑っちゃうくらい(笑)」 ――とはいえレーティングはR18+ではなくR15+です。梅津さん、そのあたりは抑えたんですか? 「別にR18+でもよかったんですが、それだとエロのイメージが強くなってしまう。今回は、そういう意味での絡みのシーンはありませんし、そもそもR15+になったのはグロのほう。流血しまくり首が飛び、腕が飛ぶからです。エロのせいじゃない。 というのも僕はこの作品、いままでよりもっとマス向けにしたかったんです。もうちょっとだけターゲットを拡げる感じかな。だからといって王道に乗りたいわけでもなく、僕らしさ、僕じゃないと作れない作品を作りたい。そういうピンスポットなポジションにこだわったんです」 ――確かにそっちのエロはありませんが、それでも十分エロしていました。梅津さんも親しい押井(守)さんが「あいつはエロ事師だ」と言っていましたが、それは正しいと思いました。この解釈、どうでしょうか? 「当たっています(笑)。当たっていますけどこの作品は、違うと思っています。僕のなかではエロ要素、そう言われるほど表面化してないと思っているんですが…。今回のエレガンスという男性キャラは、自分のフィジカルな欲望を満たしたいというヤツじゃない。そこがこれまでの僕のR18+作品とは大きく違うんです。彼は女の子に精神的なものを求めている。自分好みの女の子を征服したい、所有したいという欲望は強いけれど、だからといってその子で自分の性欲を満たしたいわけではない――押井さんがこの作品を観たら“エロ事師”とは言わないと思うんですけどね(笑)」 ■「そのキャラクターに合ったアクションを表現したい」 ――エレガンスは成人した女性をサイボーグ化した時、わざわざ14歳の少女に戻し、自分好みにしたわけですから、ある意味、ピグマリオン・コンプレックスですよね?『マイ・フェア・レディ』(64)みたいな感じ。 「言われてみればそうかもしれません。自分になびいてくれないけど、それでも自分好みの姿に変えたいという男性の欲望。ただし、エレガンスの場合、フィジカルな関係になりたいわけではなく、側に置いて眺めていたいという感じ。『わたしの人形になれ』でしょうか(笑)。ただ僕には、あそこまでの支配欲はないし年齢的なストライク・ゾーンはティーンエイジャーではありません(笑)。あくまで外見的なフェチズムは若干投影してます」 ――ということは梅津さん、美少女大好きなわけですね、今更ですが。 「はい(笑)。それも、彼女たちがアクションをするのが大好きです。僕が抱えている企画のなかには、おじいちゃんとおばあちゃんがアクションするという作品もあるんですが、誰もいいとは言ってくれない(笑)。そこには、美少女じゃないと観客に受け入れられにくいというのがあるし、僕がやるならやっぱり美少女がいいという人が多い。まだ14歳で、身長も140cmくらいの小柄な羽舞(うぶ)ちゃんが、むくつけき野郎どもをバッタバッタと倒して行くのが爽快という感想をたくさん聞きました。エレガンスに囲われているのはイヤでしょうがないんだけど、その気持ちを抑え復讐の機会を狙っている姿がいじらしいって。あとは彼女の武器の可動式のブーメラン。女の子なので、でっかい野郎たちと接近戦では不利になる。もちろん銃はいいんですが、ほかにも特徴的な武器が欲しいと思い、考えついたのがブーメランだったんです。距離感を保ったうえで相手を仕留められるでしょ。アニメではあまりブーメランを武器として使った作品はないんじゃないかな。なにを出してくるのか最初はわからないというふうにしたのは、相手を油断させるためです。ちっちゃな女の子が武器を持つのはやっぱりかっこいい。大好きですよ(笑)」 ――羽舞ちゃん、身体がサイボーグ化され、ナイフを腕に突き刺しても跳ね返す堅い身体になりますが、なぜか胸だけは柔らかくて揺れていますよね?これ、梅津さんの趣味ですよね? 「いやいや、ちゃんと根拠があるんですよ(笑)。そういう強度のあるシリコンが実際に存在しているという事実をスタッフが見つけてくれて」 ――ということは、胸を揺らしたいから理屈を探した? 「違います(笑)!皮膚を貫かない素材って実際にあるんだろうかという僕の疑問に対して、そうやって答えを出してくれた人がいたんです。『そうか、だったら胸が揺れてもいい』『それだったらやっぱり揺れるだろう』って」 ――なるほど!本作では、そういう胸の揺れも含め、梅津さんらしいアクションも炸裂していますよね。 「僕のアクションは、カットを短く割って、ちょっとつまんでハリウッドのアクション映画のテイストを入れたスタイル。それを『A KITE』で初めてやったんですが以来、特徴的なアクションだと言われるようになりました。最近は長回しのアクションが流行っていますが、僕の場合はカットを割ってテンポよく見せるアクション。もう一つの特徴はスローモーションを使わない。リアルタイムでアクションを見せることが、アクションのキモだと思っているからです。そのほうがポンポンとテンポよく進むので、観ているほうは気持ちいいんだと思っています。それに、僕は自分の技術を見せるためにアクションさせるのではなく、そのキャラクターに合ったアクションを表現したい。つまり、アニメーターの特徴やクセでアクションを構築するのではなく、自分が考えるキャラクターのアクションに落とし込むんです。 実はこのスタイル、ある人に褒められて導入したところもありますね。それは『A KITE』の編集をお願いした瀬山(武司)さん。ジブリ作品や『AKIRA』(88)を担当した大ベテランの方なんですが、そんな瀬山さんに『梅津くんのカット割りは日本のアニメ界ではやってないスタイルだよ』と言われてすごくうれしかったんです。そうか、だったらそれを自分の個性にしようって」 ――そういう独自のスタイルをもっているから、テレビシリーズなどでは後半、見るからに違う“絵”や“動き”になってしまうんでしょうか。 「なぜか僕だけそう言われるんですよ(笑)。テレビシリーズの場合、すべてをひとりでやることは不可能です。2話以降は自分の手を離れ、ほかの人が絵コンテを切り作画監督をする。それがデフォルトと言ってもいいくらいなのは、さほど問題が起きないからです。にもかかわらず、僕の場合はほかのエピソードと違い過ぎると言われてしまう。回を重ねるごとに梅津濃度が薄くなって行くようなんですね。だから僕はテレビシリーズじゃなく映画向きなのかもしれない。映画の場合は、自分の濃度で最後まで走れるから。『ヴァージン・パンク』はシリーズ化の予定なので後半、梅津濃度が薄くならないようにするのが使命だと思っています」 ――その梅津濃度をキープするためもあって制作に10年もかかったんですか? 「時間にとらわれず丁寧に作ったから、その結果として梅津濃度をキープできたという言い方が正しいと思います。段取りをちゃんと踏み、労働時間的にも無理をせず丁寧に作った。精神的にも肉体的にもしんどい思いせずに作れたんです。出来上がったパートも、僕が気に入らなければやり直すということもやらせてもらった。アニメの制作というのは基本、マイナスの発想で動くんですが、本作のシャフトスタジオの場合はプラスで動いてくれた。僕が最後までやれる環境を整えてくれたから、徹頭徹尾、梅津色を出せたんだと思います…。まあ、だからといって、その恵まれた状況に100%甘えなかったとは言えないのが問題かもしれませんが(笑)」 ■「『ブレードランナー』の呪縛から解放されたかった」 ――美術もいいですよね。カラフルなのに目に痛くないし、そもそも舞台はずっと太陽の下でした。 「舞台として意識したのはポルトガルです。確か、スタッフから出たアイデアだったと思います。リスボンは起伏の多い地形で、坂道がたくさんある。美術チームからそれをちゃんと表現できたら立体的な空間が生まれるから是非、挑戦したいと言われました。アニメで坂道を描くの、とてもハードルが高いですからね。チャレンジしただけの見応えはあったと思います。 昼間にこだわったのは『ブレードランナー』(83)の呪縛から解放されたかったから。夜間シーンもなし、雨もほぼ降らせない。カラフルでカラっと晴れたような世界観にしたかったんです」 ――梅津さんは映画も大好きなことで知られていますが、参考にした映画などあれば教えてください。 「具体的に挙げるなら『L.A.コンフィデンシャル』(97)とドラマシリーズの『ブレイキング・バッド』(08~13)です。前者は黒幕が、ケビン・スペイシーを振り向きざまに撃つシーン。ここ、すごく衝撃を受けたので今回、エレガンスが羽舞ちゃんを撃つシーンで使いました。後者も大好きなドラマ。主人公が死体を溶かすシーンが印象的だったので、エレガンスが羽舞ちゃんの身体を溶かすシーンの参考にしました。 作品のトーンを決めるうえで意識したのはカメラマンです。『レヴェナント:蘇えりし者』(15)のエマニュエル・ルベツキとか、ロジャー・ディーキンスとか。撮影さんには言ってないですが、僕は意識した。ディーキンスの『ボーダーライン』(15)、『007 スカイフォール』(12)の上海のシーンがすばらしく、ああいうのをやりたいと思いました。光と闇のコントラストやその空間の空気感。とりわけ室内シーン、羽舞ちゃんが自分の部屋に戻るまでの室内シーン、ドアを開けてからの部屋の雰囲気等、常に照明や色合いを考えながら作っていったんです。最後のほう、曇り空で小雨が降っていますが、このシーンも徹底的に映像にこだわりました」 ――映画と言えば、意味ありげな女の子、ヴェスパ(声:上坂すみれ)の部屋に『座頭市二段斬り』(65)のポスターが貼られていましたね。 「あの子は『座頭市』の大ファンという設定なんです。なので『座頭市』シリーズのポスターを貼りたくなって、一番デザイン的にフィットしたのが『二段斬り』だった。もちろん、ちゃんと許諾を取って使っています」 ――最後にタイトルのことをお伺いします。『ヴァージン・パンク』というタイトルとは違うアイデアがあったとお伺いしていますが。 「僕が当初、考えていたのは『スプラッシュ・ベイビー』だったんです。でも、脚本の高橋(悠也)さんが『ヴァージン・パンク』というアイデアを出してくれた。もしかしたら“羽舞(ウブ)”という名前から“ヴァージン”という発想をしたのかもしれない」 ――いや、絶対『ヴァージン・パンク』のほうがいいですよ。 「わかってます(笑)。だからそっちを使ったんです」 取材・文/渡辺麻紀