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日乗(三十三)

日常(三十三)【酒と金と女性で問題をおこして妻子に捨てられた中年(四十四才)が、別居する妻子に我が愛をアピールするため、いい年こいて、体もボロボロなのに妻子が推しているプロレス団体に入門。そこでプロレスラーを目指すことを決意したがもちろん何も上手くいかない(四十五才の現在も)という、ドブ底ヘドロみたいな日々】

 今日は西村賢太先生が生誕された日である。タノスケは心から西村賢太を敬愛、尊崇している。もしも先生がいなければ、そもタノスケは妻子に愛をアピールするためとはいえ、この年でプロレスを始めるなぞいう、そんな奇天烈な行動には絶対に出なかったし、またプロレスを始めなければこうして人様が目にする場所へ我が恥部を晒した文章をのせるなぞいう大層小っ恥ずかしい露出狂のような行動にも絶対出なかった。
 タノスケは文章を書いて発表することはプロレスの一部だと思っていて、それで選択の余地なくやっているところがある。技のキレは五流、技の種類も五流、レスラーとしてのルックスも五流、今後の伸び代も五流、キャラ作り込み力も五流、マイクも五流、しかも、ありえない年齢(四十五)で、かつ格闘技経験もなし、またさらには処理しないとすぐに伸び放題に伸びて繁茂を極めるタノスケのヘソ毛は実に汚く、またその雨林のごとき茂みの中心にて蔵されている彼の熟成ヘソゴマは実にコク深く、まろやかテイスティーなのである(食ったんかい)。ともかく、事ほど左様にまるでとる所がないタノスケが妻子に愛を伝えるためプロレスラーとしてデビューするには、そしてまた、その伝達が完了するまで、すなわち熱き試合ができるほどの実力とそれにふさわしい舞台が整うまでレスラーとして生き残るには、どうしても彼にはプラスアルファ何かが必要だったのである。
 ゆえに、その必要に迫られ、考え抜いた末、タノスケは西村賢太先生をお手本に、〝自分本然の稟性を伝える(晒す)〟ということをやってみようと思った次第なのである。〝自分本然の稟性を伝える(晒す)〟とは、よくプロレス界で行われている〝作り込んだキャラを伝える〟ということとは似て非なるものである(※以前、「自分のキャラを伝えるっきゃねえ」などと書いた気がするが、それはこの事に関し、今よりも更に考えが浅く、言葉を厳密に使えていなかったためです。該当箇所は後で修正します)。そも、プロレスはディズニーのごときキャラ産業の面もあり、だからそのためキャラを作り上げ、その作り上げたキャラを24時間365日、内心では人知れず歯噛みの形相でもって死守するという、それは並大抵のことではないだろうとタノスケは拝察する。だからタノスケはキャラ作り&維持は間違いなく偉大すぎるほどに偉大なことだと思うし、そのような表現でなければ表現できず伝わらないこともきっとあるに違いないとも思い、憧れもあり、ゆえに現実にそれをやっているレスラー達を心から最大限尊敬する。だから、もしもの話だが、タノスケが何らかのキャラを作ってそれを人生を通じて演じ切ることが、すなわち、そのキャラを生き切りそのキャラと心中することがタノスケに可能であるのならば、そういう方向の選択肢ももしかしたら頭に浮かんだのかもしれない。
 だがしかし、そんなのはちょっと考えただけで自分には絶対に不可能だとタノスケは確信するのである。だから早々にタノスケはその選択肢を遙か彼方へとうっちゃってしまったのだった。なぜといえば、理由はたくさんあるのだが、その最たるものを述べれば、実はタノスケ、〝ヘソごまテイスティーの星〟の下だけでなく、〝脇汁スウィーティーの星〟の下にも生を受けてしまっており、そのせいで、彼は実に脇が甘い男なのだ。甘すぎて、容易にボロを出す男なのだ。そんな男が四六時中キャラを生きるなんてこと、できるはずがないのだ。ほんと、どれぼどタノスケは脇が甘いかと言えば、それはもう甘いのなんの、甘甘も甘甘、甘すぎてベタベタもベタベタのベッタベタで、だから言ってしまえば、このタノスケという男は、僕の脇汁、もうこれはもはや樹液だよー昆虫たち集まれー体質な、そういう男なのだ。だから、と言ってはなんだが、カブトムシ? ウエルカム。クワガタ? 超ウエルカム。コガネムシ? うーむ、まあ、ウエルカム。スズメバチ? う……こ、こわい、でも、格好いいし……何もしなければ刺してこないから、ギリギリ……ウエル、カム。アブ? ア、アブ? あのキモイ、しかもしつこく刺してくるあのアブ? ノーノー! ナットウエルカム! ……んなわけで、準備が整ったタノスケは徐に両手を頭上で組む。そして脇を盛大に露出すると、クワッと目を見開き、唾飛ばしながら、こう叫ぶのだ!
「来ぉぉぉぉぉい!」
  ↑
 なんそれ!

 失礼しました。話を戻すと、というわけで実に脇が甘いとの自覚があるタノスケは、24時間365日キャラを守るなんてことは自分には絶対にできないという、そういう確固たる自信が絶対的にあるのである。
 そこで、話が前後しているような気がして申し訳ないが、色々と、どうしようと考える日々を過ごしていたのだが、そうして、日々熟読している西村賢太先生の私小説の影響を受けまくりに受けている脳みそで思い付いたのが、
━━よし! 恥ずかしいけど、僕、プロレスラーとしての生き残りかかけて、自分の浅ましさ、愚劣さを言葉で表現し、伝えよう(晒そう)! そうすれば、伝わる人には伝わるはずだ。言葉では表現できないものを言葉で表現しようとした西村賢太の筆先の熱が、そのほんの一部の一部のそのまた一片でも、著作の熟読を通じてこの僕の中に受け継がれたのならば、絶対に絶対に絶対に、伝わる人(愛戦士達)には伝わるはずだ!━━
 というもの。デビューもできていないくせに、入門二年経過しても未だにデビュー出来る気配すらないくせに、しかも先日なんぞプロになるまでにある五段階の関門のうち三つ目の関門の前にいとも簡単にはじき返され子どもみたいに泣いたくせに、なのに〝生き残りをかけて〟なぞ、まったくどの口が言ってんだという話だが、そういう身の程知らずな愚かさもまた紛れもなくタノスケの本然備える稟性の一部だと思えば、情けないが、ほんと、身の内から震えが生じるほどに情けないが、でも、やはりどうあっても、
「意地ずくで書くしかねえ」
 そうタノスケは至誠極まる、脱糞時とまったく同じ顔のまま、そう独り言ちるのである。
 一文字一文字、我が愚劣破廉恥な本然を通過した稚拙で世迷いな言葉を出力していく。それしか、こんな自分のような非才な者には、もはやそれしか、やりようは残されていない、そう思うのである。
 だがしかし、そも、国語力ゼロの、しかもたぶん生まれつき左脳ばかりか右脳までも左右の睾丸内に収まっている悲しさで、そのため頭蓋内は空洞という、もう人間の構造として完全にバグっている、タノスケという男はそういう完全に絶望の身の上なのである。
 だからそんな人間には本来書けるわけがないのであるが、しかし有り難いことに、書く技術(?)、力(?)に関しては西村賢太私小説の押し込みが、あれだけ読んだのだ、さすがに少しはあり、だから、その押し込みにより宿ったその技術だか力だか知らぬが、それだけを頼りに書き始め、今も描き続けているという、簡単に言うとそういうわけなのだが、ではその結果はというと、このnoteをご覧の通り、散々たるものである。
 文章からタノスケの下劣な稟性を滲み出させるということには少しは成功していると思う。そのことは狙い通りで、その点だけは良いのだが、しかしそれ以外は、プロレスと同様、まったく何の成果も出ていない。
 ほぼ誰にも読まれていないのだ。一番読んで欲しい妻冬美にも、まったく読まれていないし、読者も増えず、どんなに書いても誰の目にも止まらぬまま、ただネット空間のゴミとしてタノスケの書いた文章は無残な蓄積を続けているだけなのである。このままではいけない。愛をアピるという、人生を棒に振ってでも成し遂げたいことが、これではその挑戦権すら得られぬままご破算となってしまう。
 だから、この事態を打開すべくタノスケ今度、ZINEフェスや文フリにも出店しようと計画しているが、しかし、そこで十部や二十部がところ売ってみたところで、そんな些少も些少なことでは何がどうなるということもないだろう。正直、もうどうしたらいいか分からず、こんなことを続けて一体何になるのだろう、妻子に愛を伝えるなんてことは結局は自分のようなクズには不可能なんじゃないかと、毎日思っている。
 しかし、そんな弱気になると、タノスケの胸には幾つもの熱いものが蠢くのだ。
 もちろんその熱の本体はこんな自分と家族になってくれた妻子(冬美、夏緒、春子)に対しての愛なのだが、有り難いことにそれだけでは決してなく、他にも色々あるのだが二三挙げるとたとえば、タノスケが入門した灼熱プロレスで出会った人々だ。彼ら彼女らの、どんな些少なことでも、大きな目標に向け継続し、積み上げていく姿である。その姿が何度もタノスケの目に焼き付いた末に胸に落ち、今も熱き蠢きとなって消えないのだ。
 また当然に、西村賢太が人生を棒に振りながら歩んだ〝歿後弟子道〟ももちろんそうだ。大逆風の四面楚歌に背を丸め、しかし、目には鈍い光をぬらぬらに湛え、口からは孤狼の吐息を吐きながら、どこまでもどこまでも真っ直ぐに突き進むそのお姿、それもタノスケの胸の熱、その温度を決して下げさせぬ絶対不滅の熾火として彼の中心にて常に炎々、赤く熱く輝いているのだ。
 そしてそこからさらに思い出すのは、西村賢太の本と初めて出会った時、大変ご迷惑をかけた図書館の方々のことだ。あの日、妻子と別居し、ボロボロになっていたタノスケは、小説なぞほとんど読んだこともないし興味もないくせに、今でも何故だか分からないが、ふいに目に止まった西村賢太の本を無意識に本棚から引き抜いた。そして、たちまちに本の世界に吸い込まれ、号泣。その場にへたり込み、薬物常習者のような奮える手で次から次へと西村賢太の著作を引き抜き、いつしか館内に夕日が差し込み、もう全部がオレンジ色になり、閉館時間になったのにも気が付かず、床に座ったまま読み続けていたのだ。何人もの困った顔の職員に囲まれても読むのをやめず、ついにゴリラみたいな館長が出てきたのだが、彼は少しの間、座り込む無残な中年を観察した後、信じられないほど優しい手つきでタノスケの背に手を当て、そして、パソコンの前の席に誘導すると、もう時間外なのに、貸し出しカードを持たぬタノスケのため手続きして、カードを作ってくれたのである。そして、他の職員の方は、方々の本棚から西村賢太の小説が載っている本や雑誌を持ってきてくれ、また別の職員の方は、どこから持ってきてくれたのかデパートの、しっかりとした作りの、取っ手がついた紙袋を二重にしてタノスケに持たせてくれたのだ。そしてその日、タノスケはその紙袋いっぱいに西村賢太の本を詰め込むと、せっかく取っ手があるのにそれは使わず、袋ごとぜんぶ抱き締め、泣きながら家に帰ったのである。
 その思い出も、間違いなくタノスケの胸の熱が決して冷めぬ理由の一つである。館長や職員の方々、また、彼ら彼女らを育んだ全ての人々に対する感謝の念が、タノスケが打ち立てた〝愛を表現し、妻子に伝える〟という目標を燃え上がらせる燃料となり常に流れ込んで来ている、そういう感覚があるのである。
 書けば、他にももっと、いくらでもある。しかし今日はここまでの確認で終えようと思う。明日も朝から練習があるのである。シャツが五枚も汗だくに濡れ、練習後にまとめて持つと二リットルのペットボトルくらいの重さとなる、そういう練習である。その練習に備え、もう寝ようと思う。だがそれにしても西村賢太先生、その生誕の日に、思い出を書けてよかった。相変わらずの愚文だが、書けて本当によかった。
 スッキリした顔のタノスケは大きく背伸びをすると我が守護星達が数多煌めく戸外へと出た。そして大きく息を吸い込み、吐き、腕と首を二三回グルグルと回した後、バサッとTシャツを脱いだ。そして、その上裸スタイルのまま、両腕を頭上でクロスさせて組み、両脇を完全露出。そして西村賢太先生が歿後弟子道を歩む、そのお姿を再度思い浮かべた後、目をクワッと見開き、叫んだのだった。
「来ぉぉぉぉぉぉぉい!!!」

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日乗(三十三)|たのすけ@ZINEフェス出店(9/14. 10/4)
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