ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う?   作:新月

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俺たちの戦隊がランキングを上げたいんだけど、どうすればいいと思う?

「ランキング、上げるわよ!」

 

 バンッ! と机を叩きながらそう宣言して来たのはブルーだった。

 戦隊のみんなが各々休憩時間を過ごしている時に、そう言って来たのだ。

 

「ん。急にどうしたの、ブルー」

「どうしたもこうしたもないわ! 前から思ってたけど、私たちの戦隊、ランキングが低過ぎてたと思うの!」

「そうッスねー。それは私も思ってたっス」

 

 ティアーの言葉に賛同したのはイエローだった。

 顔を上げて顎に指を当てながら、似た様なことを思っていたとみんなに言ってくる。

 残ったピンクは、うーんと顔を傾げており……

 

「私は、そんなにランキングの事について考えた事は無かったなー」

「ピンクはそれでいいと思うぞ。と言うか、今の俺たちの順位って“71位”だよな? 言っておくけど、これ全体で見たらかなり優秀な数字だからな?」

 

 俺は一応ブルー達に客観的事実を言う様に、そう伝えた。

 ヒーロー全体の数を、仮に【ライト・ガジェット】約5000個と同等としよう。紛失や強奪といったものは一旦置いておく。

 その上で、一つの戦隊5人が平均と考えると、戦隊の数は世界中で“1000”はいる事になる。

 ランキング自体は300位以上しか表示されないが、全体の中で上位10%に入っている時点で、かなりエリートと言ってもいいだろう。

 

「とまあ、単純に71位/1000ってだけでも、十分すごいからな? そこんところは理解しとけよ?」

「でも、それでも50位以上じゃないと街中に被害出すヴィラン達の相手出来ないじゃない! 私たちの実力上、この順位で満足してるわけにはいかないと思うの!」

 

 俺の言葉に反論する様に、ブルーがそう力説する。

 お前はただ、ティアーとして俺と戦うために順位あげて欲しいだけだろーが。

 そんな内心の本音は、何とか隠すことが出来ていた。

 

 そんな事を考えていると、イエローがふと疑問を溢す。

 

「にしても、そう考えるとヒーロー戦隊の数って1000っスか。うーん、戦隊自体の数はめっちゃ多いんスけど、世界中で見るとやっぱり少ないッスよねえ」

「ん。確か200弱程度、世界の国の数。平均すると、一つの国で5つの戦隊」

「スックな!? いや、ガチで少ないッスよね!? いや待って下さいっス、私“日本だけでも、最低100個は戦隊ある”って知ってるッスけど、あれ? 数おかしくないッスか!?」

「代わりに、主要ヴィランが大国あたりに集中しているらしいからな。その分、戦力もその国に集中出来る」

 

 イエローは本気で、改めて世界の戦隊の数が少ないと驚愕していた。

 一応、主なヴィランが出てくるのは主要国がメインだ。インフラメインだか、理由は知らないが、日本やアメリカ、中国などに集中しやすい。

 だから、一応これらの国に戦隊は複数所属していることになっているのだが……

 

 ここでピンクが、素朴な疑問を出した。

 

「んー、でもこれってさ。どうしても戦隊の数が少ない国とか出てるよね? 戦隊一つとか、下手したらいない国。それって大丈夫なの?」

「ああ、それはな……」

 

 俺はその質問に対して、端的に事実を言った。

 

 ──大丈夫なわけないだろ。手が回らない国は、ヴィランの格好の餌食。既に国ごと支配されてるところもある

 

「「っ!??」」

 

 この事実に、先ほど以上にイエローとピンクは驚愕の表情をしていた。

 そう、実際足らないのだ。既にヒーローが。

 だからこそ、手が回らない国は見捨てるしかなくなっている。

 

「ん。言っておくけど、そう言う国も救援に向かうこともある。上位10位以内の“テンペスト”が、時折出張して国ごと救ってくる話も少なくない」

「でも、常にいる訳じゃないから、いつの間にかまた支配されていて、イタチごっこになってるって言うのが現状なんだよなあ……」

 

 俺はガシガシと頭を掻きながら、そんな世界の現状に対してままならないよなあ、と口を溢す。

 無論、ヒーローに頼らない警察組織や自衛隊は一応存在はしているが、凶悪な能力を持ったヴィラン全てに対応出来るかと言うと、無理というのが正直なところだろう。

 

 ……はっきり言って、着実に世界は徐々に追い込まれてしまっている。

 どんどん増え続けるヴィランに対して、後手後手の対応するのが精一杯なのだ。

 

 それでも、世界がまだ維持できているのは、“ヴィラン組織同士が仲が悪い”と言うのが大きいだろう。

 敵組織同士で潰し合うことも珍しくないから、結果的に群雄割拠の時代になっているのだ。

【カオス・ワールド】がいい例だ。あいつら、特に旧世代に対してはっきり敵対してくれてるから、そこの潰し合いで膠着状態になってくれてる事が多い。

 ヴィランという大きい括りで行動されることはないからこそ、いまだヒーロー組織は対応出来ている、と言うのが正解だろう。

 

 ……けど、いつまでもこの現状が続いてくれるとは限らない。

 こんな不確かな安定な状況に、身を委ね続けているわけにはいかない。

 根本的な解決方法を、いつか思いつかなくてはいずれ世界は崩壊するだろう。

 

 例えば、5000しかいないヒーローを大幅に増やすなどしない限り。

 

 ──だからこそ、【ライト・ガジェット】に頼らない新たな力が必要なのだ──

 

 ……俺は、そう思ってる。そのきっかけになってくれるかもしれないのが、俺の自宅の引き出しに入っている──

 

「……っと、話が逸れたな。何の話だっけ?」

「だから、ランキングの話! 私たちの戦隊の順位を上げる話ー!!」

 

 バンッバンッ! と机をもっと叩きながら、ブルーがそう訴えてくる。

 えー。

 

「今の話を聞いて、俄然上げる必要が出て来たわ!! 世界がヴィランに押さえ込まれようとしている中、選ばれたヒーローである私達がのんびりしている暇はないと思うの!! もっと普段から、実力を上げる様努力して、上位ヒーローになるべく頑張るべきだと思うの!」

「お前そんなヒーローの鑑の様な事言う様なやつだったっけ?」

 

 この力説の裏で、本音がティアーとして俺と戦う、と言うか構いたい、なのがある意味スゲーと思うわコイツ。

 ある意味自己中のヴィランにふさわしい。いや他に理由あるかもしれないけどさあ……

 

「うおお! 私も燃えて来たッス! にっくきヴィラン共を、この手で全て根絶やしにするために、私もランキング上昇に賛成ッス!!」

「イエローも燃えちゃった!? わ、私は、どうしよう……!?」

「ん、ピンクはそれでいいと思う。本当に。そんなに熱心にランキング上げに集中しすぎても良くない」

 

 隣でイエローとブルーが燃え上がっている中、よしよし、とグリーンはピンクをなだめている。

 それを見て、ブルーは疑問に思ったのか質問して来た。

 

「逆に聞くけど、レッド達何でそんなにランキングに頓着してないのよ? 贔屓目なしに見ても、私達50位以上は余裕で狙えない? 何でそんなに興味ないのよ」

「それは、なあ……」

「ん……」

 

 俺はふと、横にいたグリーンさんと目があった。

 お互い、似た様な事を思っていた様だ。

 

「何? グリーンさんと一緒に、何かあったの?」

「そういえば……よくよく考えると、グリーン先輩とレッド先輩って古参の類で、後から私達3人が入って来た形なんッスよね? ブルー先輩、私、ピンクちゃんの順番で」

「そうだよー? 私は一番最後!」

 

 イエローがふと気づいた様に、入ったときの順番を思い出していた。

 そしてブルーがついでにと追加情報を出す。

 

「私が入った時は、順位150位台だったわよね確か? でも、それまでレッドとグリーンの二人しかいなかったらしいわよ?」

「ッハ?! レッド先輩とグリーン先輩の二人!? ほ、他のメンバーは!? イエロー、ブルー、ピンクの先代は!?」

「ん。とっくに引退済み」

「嘘お!? ッス!?」

 

 イエローが口をあんぐりと開けて驚いていた。

 まあ、そうなんだよな。俺とグリーンさんしかいない時代が長かったからなあ……

 

「だから、ランキング上げたくても上げられなかったんだよ。5人の戦隊なのに、二人しかいない状態で。これじゃあ戦隊としての成果も人気も上げられるわけないだろ?」

「それでも、150位あたりをキープしてたのは逆に凄いと思うべきね……」

「え、あれ? ど、どれくらいの期間を二人だけで回してたんっスか……?」

「えっと……」

 

 イエローの疑問の言葉に、グリーンさんが冷静に指をたたんで数えていた。

 ヒーフーミーの……あー。

 

「ん。ざっと、“10年前”くらい」

「俺が正式に入った時が、それくらいだったな」

「ちなみに私は、“4年前”」

「じゃあ6年間二人で回してたんっスか!? しかもレッド先輩、中学生ッスよね!?」

「ピンクだって今10歳で小学生だろーが」

「えへへー」

 

 ちなみにイエローが2年前。

 ピンクが1年前の入隊となっている。

 それでようやく、10年ぶりに【ジャスティス戦隊】メンバー5人が勢揃いした、と言う形だ。

 

「二人しかいなかったって……臨時の部隊の話とかは無かったんスか? 前、【クロス戦隊】の時にチラッとそんな話してたッスよね?」

「ああ、メンバーが足りない同士の戦隊で、臨時のチームを組むやつ。あれ断ってたんだよなあ。あの時期グリーンさん手が離せなくて」

「手が離せないって?」

 

 疑問の声をあげたイエローとブルーに、俺はちょいちょい、と指を自分に向けてこっちにくる様に指示する。

 二人は疑問に思いながらも、こっちに来てくれた。残ったピンクはグリーンさんが話してくれている。

 

「……ほら、あれだよ。10年前と言ったら……」

「言ったら?」

──ピンクの年齢。ちょうど今年で10歳

「それがどうし……あ。あー……あー、なるほど」

 

 俺の言った言葉に、先にブルーが納得の声を上げていた。

 遅れてイエローもようやく気付く。

 

「そう、“ちょうどグリーンさんがピンクを拾った時期”なんだよ。そうなると、子育てにグリーンさんが忙しくて、そんなにしっかりヒーロー活動している暇がなかったんだ」

「あー、だからランキング上がって無かったんスね……残った中学生のレッド先輩だけじゃ、活動がそんなに出来なかったと」

「……ねえ、他の“候補者”はどうしたのよ? 一つのガジェットにつき、2,3人はいる筈でしょ? ちょっと失礼だけど、今のグリーンさんも当時忙しくてヒーロー活動出来なかったなら、他の候補者が優先で入れ替えさせられてもおかしく無かったんじゃ……」

 

 ブルーの質問に、俺はちょっと言いづらいが……とりあえず、答える。

 

「あー……“俺以外、候補者いない状態”だったからなあ。【ジャスティス戦隊】って」

「は!? いなかったッスか!?」

「ああ。レッドは俺一人。ブルー、イエロー、グリーン、ピンク。残りの候補者、全員無し」

「それは……珍しいわね。そんなに見つからなかったなんて」

「まあ、“間が悪かった”からなあ……」

 

 ふーん……と。

 俺の言葉に、ブルーとイエローはひとまず納得した様な表情をしてくれた。

 よしよし、とりあえず一応飲み込んでくれた様で何よりだ。

 

 ……間が悪かった、のはある意味本当だ。

 

 

 ──本当は、俺以外の候補者が全滅、ないしは辞退したのが真相なんだよな

 

 

 ……“10年前のあの日の出来事のせい”、なのは……一旦、話すのは置いておく。

 わざわざブルーとイエローに言って、今怖がらせるのもどうかと思ったからだ。

 

 ……というより、旧世代のヴィラン嫌いのイエローに言って、暴走しないかどうかが心配だから、今は言いたくない。

 

 ぶっちゃけ、俺とグリーンさんがランキングを積極的に狙わなかった本当の理由が、ある意味10年前のこの出来事に関係してくるのだが……

 

「……まあ、今のこのメンバーには関係ないか」

「何が?」

「いや、なんでもない。ちょっと思い直していただけ」

 

 とりあえず、こっそり話しておきたい事は話したし、グリーンとピンクのところに戻った。

 改めて、今後の方針の話をしていくことにする。

 

「さて、と。じゃあ改めてだけど……ランキング、真面目に上げていくことにするか?」

「っ!! 良いわね、ようやくやる気になったわね!!」

「うおお! 燃えて来るッス!」

「……ん。みんながやる気なら、良いよ」

「私もー! やるなら頑張りたい!」

 

 よしよし、とりあえず全員やる気満々の様で何よりだ。

 じゃあ、ランキング積極的に上がるのも悪くはない、か。

 

「それじゃあ、具体案だけど。どうやって、ランキングを上げていくかについてだが……」

「そんなの簡単な話よ、レッド」

「……一応聞くけど、なんだ?」

 

 そう聞くと、ブルーはふふん、と自信満々に……

 

「──入れ替え戦で、どんどんランキングを入れ替えていく。これ一択よ!」

 

「やっぱり」

 

 予想できた答えを、言って来た。

 

「お前、それ大丈夫なのかよ? 【クロス戦隊】と戦った時、それで65位になったのに、71位まで下がっちゃっただろうが。戦い方の人気のせいで」

「逆にいうと、それくらいしか下がらなかったって事よね? だったら、どんどん上位と戦って入れ替わっていく。多少の下がった分は、それ込みでまた戦って上げましょう!」

「そうッスね! もう一気に、30位台くらいと戦うのも悪くないんじゃ無いッスか?」

「ん、それ無理」

 

 ブルーとイエローが盛り上がってる中、グリーンさんが止めに入る。

 二人が疑問の声を上げる中、グリーンさんが理由を答え始めた。

 

「ランキング50位以上になるためには、“資格”が必要。専用の講習と、試験を受けた上で、ランキング上位に入るための資格を得る事が出来る。これを“上位資格試験”と呼んでるけど……」

「え? そうなんっスか? それじゃあ、30位くらいとの入れ替え戦は……」

「ん、今は無理。まずは“上位資格試験”を受けなきゃ。受験資格は、55位〜51位に入っている事。メンバー全員が受かる必要がある」

「へー……」

 

 イエローが感心した様に、グリーンさんの言葉を聞いていた。

 つまり、俺たちにはまだ上位ランキングに入る資格が無いって事だな。

 まあ、上位勢は仕事の難易度も大きく変わっちゃうから、妥当な試験だな。

 

「という事は、まずは55位〜51位の範囲まで、ランキングを上げる事が必須ね」

「今私たちって、71位なんだよね?」

「なあに、仮にも65位まで一瞬でも行ったんッスよ! 55位くらいまでなんてすぐっス、すぐ!!」

 

 女性3人組が、そんな話で盛り上がっていた。

 まあ、言ってる内容は間違ってはいない。

 ……そう簡単に出来る話じゃ無いって事は、置いておくとして。

 

「それじゃあ、話を纏めるぞ。今後の目標としては、まずは55位〜51位を目指すって事で、異論はないな?」

「ええ、もちろん!」

「やる気が湧いて来たっス!」

「ん、分かりやすい」

「うん! 頑張るー!!」

 

 そうして、全員の了承を得ることが出来た。

 よし、これなら俺も異論は無い。

 

「それじゃあ、上位ランキング目指して頑張るぞー!」

『おおー!!』

 

 そうして、俺たちは上位ランキングに入るために、入れ替え戦を積極的に行っていくことにした。

 

 

──そして、割と早い段階でつまづくことになるとは、全員(グリーンさん以外)思っていなかった……

 

 


 

 ★佐藤聖夜(さとうせいや)

 

 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 男

 

 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。

 

 10年前に【ジャスティス戦隊】に正式入隊した過去がある。

 

 ……同時に、当時先代【ジャスティス戦隊】が“壊滅した日”に遭遇した少年でもあった。

 当時の見学でいた他の候補者たちと一緒に、巻き込まれてしまった。

 結果的に、候補者としての唯一の生き残りとなってしまう。

 鮮烈なデビュー戦となってしまった思い出がある。

 

 

 

 ★天野涙(あまのるい)

 

 22歳

 168cm

 青髪

 混沌・善

 女

 

【ジャスティス戦隊】のブルー。

 兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。

 

 4年前に入隊。

【ジャスティス戦隊】に入隊した理由が、ヒーロー側でこっそりやりたい事があった事が半分。

 もう半分が、佐藤聖夜がいるから、というのが半分だったりする。

 彼がいないなら、どの隊でも別にこだわりは無かった。

 

 

 ★空雲雷子(そらくもらいこ)

 21歳

 167cm

 黄髪

 秩序・善

 

【ジャスティス戦隊】のイエロー。

 レッドの後輩。

 

 2年前入隊。

【ジャスティス戦隊】の歴史については、詳しくは知らない。

 ランキング上位に向けて、ブルーの次に積極的な意思を持っている。

 

 

 ★大地鋼(だいちはがね)

 

 34歳

 184cm

 緑髪

 秩序・善

 男

 

【ジャスティス戦隊】のグリーン。

 

 先代【ジャスティス戦隊】の構成メンバーだった男。

 実は、かつて30位台だった【ジャスティス戦隊】に所属経験あり。

 

 ──それが壊れたのは、10年前のあの日の出来事のせいだった

 

 旧世代の3大ヴィラン組織の内一つと、大きな因縁があると言える。

 

 

 ★大地心(だいちこころ)

 

 10歳

 130cm

 ピンク髪

 秩序・善

 女

 

【ジャスティス戦隊】のピンク。

 

 入隊一年前。

 歴代最年少で入隊した。

 

【ジャスティス戦隊】の過去については、全然知らない。

 グリーンが、教えてくれない。教えられない。

 ……彼女も、10年前の被害者などと。

 

 

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