「どうした、ただおみ。」
「どうせ湯に浸かれぬのなら、先に身体を洗ってしまおうと思ってな。ほれ、行くぞ。」
俺の腕はただおみに引っ張られて風呂椅子に座らされる。
「相変わらず貴様の身体はごつごつしてて洗いにくいな。普段から洗いにくいのなら、この際、念入りに洗ってやろう。」
垢落としを手に、ただおみは俺の身体の隅から隅まで念入りに洗っていく。
「...結構痛いのだが、もう少し優しくは出来ないのか?」
「?これだけ筋肉があっても痛むのか?それはすまん、強く擦っても少々かゆい程度かと思ってた。」
「脇を上げろ」「前も洗うぞ」「頭は痒いところ無いか?」とまるで子供のような扱いを受けながらもただおみに全身を隈なく洗われた。
「ほれ、」 ザバーーンと頭上から水をぶっかけられる。「...冷たいのだが。」
「夏だからな、どうだ?さっぱりしたであろう?」
確かに、夏の蒸し暑さを消し飛ばすような冷たさは心地良かった。
「どれ、次は我の背中も洗ってもらおう。」
「俺も洗うのか?」
「それはそうであろう。我の背中を任せられるのは貴様しかおらんしな。」
「...そうか。」
ただおみの背中はその壮大な態度とは裏腹に若い男の背中、そのものだった。
「グスタフ、もう少し強く擦ってもよいぞ。」
「...こうか?」 「おお、そうだ。そのくらいがちょうどよい。」
普段から人の背中など流した事のない俺には少し難しかったが、ただおみからは「初めてにしては上出来だ。次も頼むぞ。」と言われた。
ーーー
「どれ、我もそろそろ湯を上がるか。グスタフよ、我に遠慮せずに好きなだけ入っておれ。」
「...いや、俺もこれ以上入っていてはのぼせてしまう。」
ーーー
湯気が体から出るほどに温まった俺はただおみと共にフルーツ牛乳とアイスを買って銭湯を出た。
「っはー。やはり風呂上がりのふるーつ牛乳は格別だな。グスタフ!」
「うまいな」
俺がそう言うとただおみが笑い出す。?何かしたか?
「貴様、口の周りに牛乳びんの跡が付いておるぞ。」
どれ、我が拭ってやろう。 ただおみはそう言って、自身の首にかけた汗拭き用のタオルで俺の口を拭う。
「ありがとう。」
「よいよい、いちいち礼など。それより早くあいすも食べてしまわねば溶けてしまうぞ?」
忘れていた。俺は急いでホームランバーを食べる。溶けかけていたからか口の中がキンキンに冷えずちょうどよかった。
「お?」
「どうした?グスタフ。」
「...2P当たったぞ。」
「やるではないか、我ははずれだったか...このアイス4P貯まると景品がもらえるらしいな。」
「...そうみたいだ。」
「また次来た時には当てるぞ、グスタフよ。」
「俺が当てる。」
「はっ、よい心意気よ。さて風呂も浴びたしそろそろ家に帰るか。」
「もう帰るのか?ただおみ...」
「どうした?貴様、さては寂しいのか?」
冗談混じりに言ったただおみのセリフに対して、俺は返答をしなかった。
「また近いうちに我が訪ねてやる。今度はきゃんぷばーべきゅーとやらをやってみたいな。今は暑すぎるからもう少し涼しくなったらな。」
「...そうだな。」
「よし!では、また会おう。グスタフ。」
こっちの姿を見ずに背中越しに手を振るただおみの姿を見送った。
ーーー
俺は一人、部屋に帰った。部屋の電気をつけると、テーブルの周りにはただおみの飲んだビールの空き缶と、ただおみが抱いて寝たであろうしぼんだクッション達が散らかっていた。
「...片付けるのは明日でも良いか。」
普段から酒を飲まないせいか、風呂にのぼせたのかは分からないが突然強い眠気がやってきた。
俺はそのまま布団の上に倒れ込んだ。
ーーー
突然目が覚めた。夏の暑さからか、寝ているうちに脱いでしまった服が周囲に散らばっている。
肌にべっとりと張り付いた汗を感じ、そこでようやくエアコンを付けていなかった事に気がついた。
近くに置いてあったエアコンのリモコンを手に取り、電源を付けると、夏の暑さを吹き飛ばすような冷たい風が吹く。
俺は麦茶でも飲もうかと冷蔵庫を開けると、
ぴん、ぽーーん!
ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴんぽーん!
突然鳴り出されるうざいほどに連打されたインターホン、その正体には一つだけ心当たりがあった。
(まさか...な。)
俺は扉の鍵を開け、ゆっくりとドアを開けるとそこには見慣れた上京シャツではなく、俺が貸したブカブカの白シャツを着た奴の姿があった。
「すまんな、我とした事が部屋の鍵を此処に置いて行ったみたいでな。悪いがもう一泊して行ってもよいか?」
「...それとグスタフ、貴様いつも部屋では全裸なのか?」