第7話 YORUがかける

「皆んな〜!今日はきてくれてありがとー!」

狭めの会場に熱気がかけめぐる

「よーるちゃん!」

普段は知らない人には口ごもり気味な順治もこの日だけはテンションをあげているようだ。


地下アイドルはファンとの距離が近い。ファン側からしてみればありがたいことこの上ないがアイドルたちは大丈夫だろうか。朝話した『布酢怒』のことも気になりそわそわしてきた。


「山ちゃん来てくれたんだ!よく事務所前で似てる人がウロウロしてたからついに勇気出してくれたんだね!」

怖いといえただろうに彼女らは気高に僕たちをもてなそうとする

「YORUちゃん、信じてくれないと思うけど…」

事の顛末を話し思わず弱気になる。


「そうなんだ。ならそんな悪い偽者にはバイバイしないとね!」

そう言うとYORUはチェキに「偽者バイバイ!」と書いた

「あ、ごめん!ほかに書きたいことあったよね?もう一枚とろっか?」

「いや、そうじゃなくて…信じてくれるの?」

「うちらはファンを信じるのが当たり前だよ。ずっと推してくれたからね。またきてね」

ああ、やっぱりYORUちゃんは天使だ。そんな自慢のチェキをSNSにアップした


田中は作業所から帰りグループホームの自室でくつろいでいた

「山ちゃん、明日企業の偉い人と会うんだよな。大丈夫かな」

田中は順治より歳下である。しかし彼はずっと順治を心配していた。作業所にきたばかりの目の前の人全てを敵と見てみた眼光、鋭い言葉のトゲ、忘れられなかった。

「まあ、今は大丈夫。彼を信じよう」

そう思い床に入ろうとしたその時不審な音を耳にした


ギッギッ、フスードンドンドン!

「なんだこの音…臭っ!」

強烈な刺激臭が鼻を突くと同時に脳内に膨大な場所情報がかけめぐる

そこには順治がセクハラをしたり未成年者に卑猥な行為をしたり、更には独裁者として反対者を虐殺する姿がうつっていた

「なんだこれ、うわああああ」

グループホームの同居人が119番通報した結果、田中は統合失調症の再発と判断され精神科病棟に入院することになった


ジュンジ、タナカ、オバエノセイダデ

小さいながらも粘っこい声ががらんとした部屋に響いた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

向こう側からきた布酢怒 山岡裕曲 @beachcape

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ