向こう側からきた布酢怒

山岡裕曲

第1話 日常の崩壊

「はい、今日の作業は終わりです。皆さんお疲れ様でした」

職員の方が号令すると作業にいそしんでいた皆が一斉に手を止め、帰宅の準備をする。

「まじで首が痛い…なあ山ちゃん?」

そう気さくに声をかけてくれるのは作業所の先輩田中さんだ。彼は統合失調症を患い一般就労ができなくなりここに来たそうだ。


ここは彼のような障害を抱える人が社会復帰を目指すいわゆるB型作業所である。

僕、山崎順治は軽度の知的障害と自己愛性パーソナリティ障害があるらしい。「らしい」と言うのはまだ実感が持てていないから。確かに勉強は苦手だけどそこまでかな、と思うがさすがに四則演算に苦戦するのはやはり持ってるよ?と田中さんに言われた。


きっとそうなのだろう。僕はかつて配信者のマネごとをしていた。人気者になりたい、そんな漠然な気持ちで高い機材を親に強請り、まんまと悪意ある人にはめられ恥をかいた。そこで普通の人ならやめるところを僕は「成功してアンチを見返すんだ」と懲りずに復活し、また人を失望させた。それでも焦りはなかった、お父さんはきっとなんだかんだ言っても僕を庇ってくれる。そう根拠のない自信で満ち足りていた。そう、あの日までは


「飯食って、うんこして、寝るだけや」

家凸に来たアンチが何をしてるか探りを入れたところお父さんはこう吐き捨てた。僕は見捨てられてるんだ。こう思うと目の前が真っ暗になり…いつの間にかお父さんに「変わりたい」と泣きついていた。そうして作業所に行き始め少しずつ前進している。マイペースに、でも歩みは止めない。これが僕の今のモットーだ。

「山ちゃんのは典型的な『底つき体験』だたね。自分がどん底にいると気づいて変わろうとする力にできた。それはすごいことだよ」と褒めてもらえた

どんなことでも褒められるとうれしい。


そんなこんな話しているとお父さんが迎えに来た。でも何やら今日は機嫌が悪いようで…

「おい業人!変わりたいとか泣きついたのにわしを騙したのか!またバカみたいなことしおって」

と怒鳴りながらスマホを見せてくるとそこには信じられないものが映っていた。

僕そっくりの男が「彼女オーディション」なる企画を動画配信サイトCtubeで配信したようだ。女性を値踏みし「君は合格、君は不合格」となめ回すように卑猥な視線を送る男には嫌悪感を抱かずにはいられない。案の定コメント欄は炎上状態であったが当人には届いていないようだった。

だけどこれには身に覚えがない、なにより

「山ちゃんのお父さん落ち着いてください。この配信の時間は私たちと一緒に作業所にいました」

「え?でもこれあいつだろ」

「本当によく似てますね…でも職員にも聞いてみてください。同じことを言われるはずです」

どうなってるんだいったい。島でマイペースに過ごしていた日々が終わりを告げようとしていた。

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