エア・インディア機墜落事故、離陸直後に燃料遮断か インド当局が中間報告書

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 インドのアーメダバードで現地時間6月12日に起きたエア・インディア(AIC/AI)のAI171便(ボーイング787-8型機、登録記号VT-ANB)墜落事故で,インドの事故調査当局であるAAIB(航空事故調査局)は7月12日、中間報告書を公表した。フライトレコーダー(EAFR: Enhanced Airborne Flight Recorders)に記録されたデータの初期分析が完了したことを明らかにした。調査は進行中で、回収された音声記録には、コックピットにいたパイロット2人のうち、ひとりが燃料のカットオフ(燃料遮断)についてもうひとりに尋ね、尋ねられたパイロットが否定する様子が記録されていた。

RATが展開された事故機(AAIBの中間報告書から)

—記事の概要—
離陸直後「CUTOFF」位置に
報告書に記載された時系列の流れ
調査目的は「事故やインシデント防止」

離陸直後「CUTOFF」位置に

 フライトレコーダーの記録によると、事故機はUTC(協定世界時)で午前8時8分39秒(インド時間午後1時39分)に離陸直後,2基あるエンジンのうち、同42秒ごろに進行方向左側の第1エンジンと右側の第2エンジンの燃料カットオフスイッチが1秒間の時間差で「RUN」から「CUTOFF」位置に立て続けに切り替わった。また、空港の監視カメラ映像では、離陸直後の上昇中に非常用動力装置のRAT(ラム・エア・タービン)が展開された様子が映し出されていた。

AI171便の墜落事故現場(AAIBの中間報告書から)

AI171便の墜落事故現場(AAIBの中間報告書から)

 その後の記録で、両エンジンでEGT(排気ガス温度)が上昇し再点火の兆候を示したものの、第1エンジンは推力回復に向かい始めたが、第2エンジンはコア速度の減速を止めることができず、回復に至らなかったことを示している。フライトレコーダーの記録は同9分11秒に停止した。

 事故機にはパイロット2人が乗務。機長は事故当時56歳の男性で,副操縦士は32歳の男性。機長は787で8596時間43分の総飛行経験、機長としては8260時間43分の経験があり、副操縦士は787での総飛行経験が1128時間14分だった。また、2人のパイロットは事故前の24時間以内には乗務していなかった。

 機体は2013年に製造され、総飛行時間は4万1868時間。第1エンジンは2012年5月20日製造のGE製GEnx-1B70/75/P2で,総飛行時間2万7791時間43分、4298サイクル。第2エンジンは2013年1月21日製造のGEnx-1B70/P2で,総飛行時間3万3439時間30分、6202サイクルだった。最後のライン整備点検は飛行時間38504時間12分、7255サイクルで実施され,次の主要点検(Dチェック)は今年の12月に予定されていた。

 事故発生時、事故機は4つの「カテゴリーC」のMEL(Minimum Equipment List)項目が有効だった。これらはフライトデッキドア視覚監視、空港地図機能、コアネットワーク、FDプリンターに関するもので,6月9日に発出され、6月19日まで有効だった。また、窒素生成性能に関する「カテゴリーA」のMEL項目が1つあり,6月20日まで有効だった。その他の「カテゴリーD」のMEL項目も有効期限内だった。適用されるすべての耐空性改善命令(AD)および警戒サービス速報(ASB)は、機体、エンジンともに遵守されていた。

 FAA(米国連邦航空局)は、燃料制御スイッチのロック機能に関するSAIB(特別耐空情報公報)を2018年12月17日に発行していたが,エア・インディアの情報によると、SAIBが助言的で義務的ではなかったとして、指摘された検査は実施されなかった。787-8のスロットル制御モジュールは2019年と2023年に交換されていたが,燃料制御スイッチとは無関係の理由によるものだったという。2023年以降、787-8で燃料制御スイッチに関する欠陥は報告されていない。

 事故機の搭乗者数は乗客230人と乗員12人(パイロット2人、客室乗務員10人)の計242人。負傷の程度別では、死亡が乗客229人、乗員12人全員、その他(地上)が19人の計260人で、重傷は乗客1人、地上67人の合わせて68人だった。

 事故機は離陸後、滑走路(RWY23)の離陸端から約1.67キロ(0.9海里)のBJ医科大学(BJ Medical College)の学生寮に衝突した。残骸は、最初の衝突地点から最後に確認された航空機部品まで、約1000フィート×400フィートの範囲に散乱していた。事故機は高度を失いながら、最初に複数の木と焼却炉の煙突に接触し、その後「ビルA」の北東の壁に衝突した。建物と事故機に残された衝突痕は、約8度の機首上げ姿勢で翼が水平であったことを示していた。

 機体の尾部、右主脚、右エンジン、左主脚、左翼の一部、前脚、第1エンジンなどが、衝突した複数の建物(A-F)やその周辺に散乱し、一部は建物にめり込むなどしていた。エンジンや周辺エリアは火災で甚大な損傷を受けていた。APU(補助動力装置)は無傷で空気取入口のドアが開いていた。ランディングギア(主脚)のレバーは「DOWN」位置、フラップハンドルは5度フラップ位置にあった。両推力レバーは後方(アイドル)位置付近だったが、フライトレコーダーの記録では衝突まで離陸推力にあったことを示していた。燃料制御スイッチは両方とも「RUN」位置だった。

AI171便の墜落事故現場周辺(AAIBの中間報告書から)

報告書に記載された時系列の流れ
07:43:00 UTC(インド時間13時13分00秒): 航空機がプッシュバックとスタートアップを要求した。

07:43:13: ATCがプッシュバックを承認した。

07:46:59: ATCがスタートアップを承認した。

07:49:12: ATCが航空機に滑走路23の全長が必要か問い合わせ、航空機は滑走路23の全長が必要であることを確認した。

07:55:15: 航空機がタキシー許可を要求し、ATCによって許可された。

08:02:03: 航空機は地上管制からタワー管制へ移管された。

08:03:45: 航空機は滑走路23上でラインナップするよう指示された。

08:07:33: 航空機は滑走路23からの離陸を許可された。風は240°/06ノット。

08:07:37: 航空機は滑走を開始した。

08:08:33: EAFRデータによると、航空機は離陸決定速度V1(153ノットIAS)を超過した。

08:08:35: Vr速度(155ノット)がEAFRデータによると達成された。

08:08:39: 航空機の対地センサーが離陸と一致して対空モードに移行した。

08:08:42ごろ: 航空機が最大記録対気速度180ノットIASを達成し,直後、エンジン1とエンジン2の燃料遮断スイッチが1秒間の時間差で「RUN」から「CUTOFF」位置に立て続けに移行した。

08:08:47ごろ: EAFRデータによると、両エンジンのN2値が最小アイドル速度を下回り、RAT(ラム・エア・タービン)油圧ポンプが油圧供給を開始した。

08:08:52ごろ: EAFRによると、エンジン1の燃料遮断スイッチが「CUTOFF」から「RUN」に移行した。

08:08:54ごろ: APUインレットドアが開き始めた。

08:08:56: エンジン2の燃料遮断スイッチも「CUTOFF」から「RUN」に移行した。

08:09:05ごろ: パイロットの一人が「メーデー(MAYDAY)」と送信した。

08:09:11: EAFRの記録は同9分11秒に停止した。

調査目的は「事故やインシデント防止」

 AAIBによる残骸現場での活動(ドローンによる写真やビデオの撮影を含む)は完了し、残骸は空港近くの安全な場所に移され、両エンジンや調査に必要な部品が回収・隔離された。給油に使用された燃料サンプルは検査されたが、左翼の燃料バルブ付近からはごく少量の燃料サンプルしか回収できず、特殊施設での検査が予定されている。

事故機のフラップハンドルレバー(AAIBの中間報告書から)

事故機のランディングギアレバーモジュール(AAIBの中間報告書から)

 前方のフライトレコーダーからダウンロードされたデータは詳細に分析されており、目撃者や生存した乗客の証言も得ているという。乗員と乗客の検視報告書の完全な分析が進められ、初期の手がかりに基づいた追加の詳細収集も行われている。

 今回の中間報告書は、調査中に収集された予備的な事実と証拠に基づいて作成されており、今後内容が変更される可能性があるとしている。また、調査の唯一の目的は「事故やインシデントの防止で、非難や責任を追求することではない」と強調している。

 AAIBは6月12日に事故の報告を受け、同日中に調査団がアーメダバードに到着した。国連の専門機関ICAO(国際民間航空機関)による取り決めに基づき、設計・製造国である米国の米国のNTSB(米国家運輸安全委員会)や、死傷者が出た他国(英国、ポルトガル、カナダ)の調査機関にも連絡が入った。

 NTSBの代表者と技術顧問からなるチームは6月15日にアーメダバードに到着。調査に参加している。英国のAAIB職員による調査団も、現地を訪れた。また、経験豊富な専門家(パイロット、エンジニア、航空医学専門家、航空心理学者、フライトレコーダー専門家)も調査を支援している。

 調査の現段階では、787やGEnx-1Bの運航者や製造業者に対する推奨措置は出ていない。調査は継続中であり、追加の証拠、記録、情報のレビューと検証が進められる。

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