アニメ「アポカリプスホテル」 CygamesPictures代表・竹中信広、脚本家・村越繁ロングインタビュー ヤチヨの暴力にもロジックがある
●倫理観がどうこうではなく、ヒッチコック的なサスペンスを目指していた
──話題騒然となった第10話について、ぜひお聞かせください。第9話はポン子の結婚式と、おばあちゃんのムジナと葬儀を同時に行うという、ちょっと倫理観的には危ういかもと不安になりつつも、お父さんのブンブクの「感情が迷子だ!」というセリフに共感できる感動的なお話でした。対して、第10話は「死体を隠そうとする」ブラックコメディーとなっており、おそらくは悪い意味ではない「第9話の感動を返して」という意見も目にしました(笑)。どちらも死体をめぐる物語という共通点がありますが、そのことも意識されたのでしょうか。 村越 企画の初期から、第10話のような殺人事件ものはやりたいと思っていました。物語のベースは竹中さんともお話していましたが、物語の詳細は脚本家の和田さんの力が大きいです。ただ、みな倫理観をあえて崩そうとか、不謹慎なことをおもしろおかしくやろうというよりは、アルフレッド・ヒッチコック監督の「ハリーの災難」に通ずる、「死体をどうするかで右往左往するブラックコメディー」を意識していたんです。 竹中 第9話と第10話を意図的にリンクさせたというよりも、脚本作業を進める上で自然と繋がりができたようなイメージですね。第10話の脚本の決定稿ができたときに、村越さんが「意図してなかったけど、第9話との並びがすごいですね」みたいな話をしていた記憶はあります(笑)。 ──その第9話と第10話のリンクというかギャップが、極に達するのは第10話のラストカットですね。おばあちゃんと、温和宇宙人と強面宇宙人が空に並んだあのカットを見たとき、良い意味で「ひどい」と口に出して大笑いしてしまいました(笑)。 竹中 出来上がった画を見て、うっすらと「こうなるんだ……」と驚いたことは覚えていますね(笑)。そのブラックさは、脚本家の和田さんのセンスなのかと思います。 村越 そこも「お客様は粗末には扱えないから、おばあちゃんと一緒に埋めてあげよう」というややズレながらもヤチヨたちなりに考えた形跡が見て取れるのかなと。 ──それもそうですよね。実際に劇中では(バレないように死臭を消そうとしていたという動機はともかく)ポン子が死体をお風呂で洗っていたことは、丁寧に扱っていたといえなくもないですし。 他にも劇中では「火曜サスペンス劇場」を思わせる映画が上映されていて、ヤチヨが「地球人の倫理観を理解いただくためにご覧いただいている」と言っているので、倫理観については「自覚的」に打ち出しているエピソードであると思いました。 村越 そうですね。あの時のヤチヨやポン子が「ホテルのために行動することを優先した」結果として、「今の地球人の価値観としては倫理感がないように見える」状況になった。もしもオーナーや人類が残っていたら、また違う状況になったとは思います。 ──なるほど。ヤチヨはホテルの存続を、かつて存在した日本の法律よりも優先する、そこは一貫していますよね。それでも、死体遺棄が日本の法律では懲役3年以下の罪になることに対し、ポン子が(ヤチヨと出会ってから527年と75日6時間も経っているから)「3年ってチョロいね」と言うことは、やっぱり「アウトだよ!」と思ってしまいますが(笑) 村越 物語の中ではなく現実ではその通りです。作中でも「日本の法律上では完全にダメ」だと言っていますが、作り手として、あのヤチヨとポン子の行動が正しいとは、もちろん思っていません。 竹中 その上で、「3年ってチョロい」は、2人の長い時の流れを相対的に示した、いいセリフだと思います。
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