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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十九章 太陽の女神の黄昏
219/220

19-2 女神羲和2

 溶鉱炉のような黄金の瞳でありながら寒気のする目線を向けてくる女神、義和ぎわ

 たまらなく不快な虫を目撃してしまって殺虫剤を撒く。そんな程度の気分で周辺の虚空から即死級のレーザーを発生させて人様を射抜いてくるのだから、神性のなんと傲慢な事か。

 数を増やして格子状に照射されたスピキュールにより、憐れ俺の体はサイコロステーキになってしまった……にはならない。スキルという法則の前には神罰さえも反射されてしまう。


「ただの光の反射ではありませんね。熱量の受け取りも拒絶している様子。であれば通常の太陽光も反射して凍え死にしてしまえばよいものを、生きるために必要なものだけをかすめとる徒人ただびとらしいいやしきスキルです」

御母みおも様。いや、女神義和。最後の確認になるが、真っ当な管理神らしく人類を救わないか?」

「特に、外からやってきた害虫きゅうせいしゅともなれば、同じ徒人の中でも桁違いに不愉快な。……直接、あぶるか」


 義和はまったく俺の話を聞いていない。

 ただ、どうすれば俺を始末できるかを思案しており、その結果、生み出したのは東洋竜のような炎だ。



「燃やせ。神罰執行“プロミネンス”」



 高温の炎が俺目指して飛んでくる。スピキュールよりは遅いものの追尾式だ。遠赤外線ならばともかく、炎による直火焼きについては『レーザー・リフレクター』の適用範囲外なのでかなり不味い。

 とはいえ、この攻撃は黄昏世界の旅で履修済みだ。規模は随分と抑えられているものの白骨夫人が行使してきた攻撃と同じである。初見だった時には何も対応策を思いつかなかったが、今は違う。

 あえて追尾してくる炎から逃げずに真正面に立つ。そうしないとうまく手の平の位置を調整できない。


「『武器強奪ぶんどる』発動」


==========

“『武器強奪ぶんどる(強)』、相手の武器を奪う不届きなやからのスキル。


 戦闘中だろうと休憩中だろうとお構いなく、武器の強奪確率が上昇する。

 強奪時には所有権を含めて奪うため、盗み対策がほどこされていたとしても無効化できる”

==========


 剣だろうと魔法だろうと炎という現象だろうと、問答無用に奪い取る。『暗器』との併用であれば奪い取った後に手を負傷する事もない。

 吸い込むようにではなく、奪った瞬間に炎全体が異空間へと格納されて消えてなくなる。


「『暗器』解放!」


 せっかく奪ったばかりの炎であるが、元は他人のものなのですぐに返却する。

 追尾性を失い、ただ一直線に飛ぶだけになった炎は羲和の横を通り過ぎていった。


此方こなたの権能が奪われた?」


 眉一つ分くらいの反応をようやく義和は見せた。俺の言葉を完全に無視していたが、今なら耳に入れるくらいはするだろう。



「……娘を奪った救世主職が、また奪ったのかッ!!」



 ……この神性。ゼロか百の反応しか見せないらしい。背後に疑似的な太陽を展開して、発狂モードに突入した。説得できるとは考えていないとはいえ、こうも気難しいダイナマイトのような女神だと語り掛ける事さえも危険か。


「どこからともなく現れる救世主職。世界の害虫め。何度潰しても現れる」


 いや、もう怒っているなら何を言っても同じか。意思疎通可能な相手ならば、魔王だろうと神性だろうと話しかけるべきだというのが持論である。パラメーターでは見えない精神の部分の弱点を突けるかもしれないからだ。

 というか何でもいいから弱点を突かないとマズい。スピキュールが雨のように撃たれているのはともかく、プロミネンスの複数攻撃は危険だ。『暗器』で隠せるのは一度に一つまで。単純な物量のみで押し込まれる。


「お前の教育が悪かったから、娘達が仕事中に遊び始めたのだろう。つまり、お前が悪い」

「娘を殺された此方こなたが、悪い訳がないでしょう!!」


 怒らせる分には分かり易いな、この女神。

 プロミネンスを同じ方向、時間差なしで放ってくれるのであれば、『暗影』で簡単に回避できる。


「それを言うなら、十の太陽が昇った所為で人類の中にも子供を失った者は多かったはずだ。そこについてはどう釈明してくれる?」

「子供を失って悲しかったでしょう? 辛かったでしょう? 徒人に母性の何たるかを理解できるかは置いておくにしても、苦しかったでしょう? だったら、此方の苦しみも理解できるでしょう!」

「……何を言っている?」

「娘を失った此方の苦しみは、娘を殺めた徒人を家畜たらしめて長く苦しめても癒されない程に深く、深く深く深く深く深くッ、深いものです。それが理解できない? 分からない? つまり、徒人の愛情とはその程度のものなのです!」


 金色こんじきにごった義和の瞳が更によどむ。

 精神的な弱点を突くつもりで行った会話の所為で、むしろ俺が一歩引かされた。ヒステリックな論法には一切の共感性はないというのに、どうしてか引き込まれてしまいそうな引力がある。


「徒人を壁村に囲い込んだのは妖怪の食糧難解決のためですらなく、お前の私怨だったというのか!」

「娘をいやしき矢で射抜いた種族は、世界が滅びるその日まで生かさず殺さず恐怖を覚えさせて当然では? 多少は溜飲が下がりましたよ。可視化した精神状態、『陽』の残量に一喜一憂する愚かな死にぎわは」


 これ以上は羲和の精神に引きずり込まれる。どんな追及も娘を殺された母という立場を補強するためだけに使われてるだけだ。

 もう少し、手札を切らせてから反撃に移りたかったが悠長な事は言ってられない。回避のために『暗影』を使い切らされるのもしゃくだ。

 一度、攻め込んで羲和の力量を測る。

 神話の中での羲和は決して武闘派な女神ではない。黄昏世界では他の仏神を滅ぼした経歴があるため経験値が異なるだろうが、対仏神に慣れてはいても対人類の戦闘経験はほぼ無いはずだ。

 地域一帯を焦土にする力は使えても、小さな人間を正確に殺すのは難しい。


「『暗影』発動!」


==========

“『暗影』、やったか、を実現可能なアサシン職のスキル。


 体の表面に影をまとい、攻撃に対する身代わりとして使用可能。本人は、半径七メートルの任意の場所に空間転移できる。

 決して移動スキルではないが、無理をすれば使えない事もない。

 スキルを連発して酷使した場合、しばらく使用不能となる”

==========


 ジリジリと近づいていたので階段上の羲和までの距離はおよそ五十メートル強。すべてを『暗影』で跳ぶとクールタイム突入は必至なので、跳んだ先にある壁を走っては跳び、柱を踏み台にしては再度跳び、断続的な移動で距離を稼ぐ。

 ただ、このまま近づいても芸がない。

 そこで、何故か灼熱宮殿内にいた金角が見えたので、途中下車して金角の背後へと跳ぶ。


「救世主職っ?!」

「お前は人質。『暗澹あんたん』発動」


 『暗澹』で視界を奪って金角を拘束。そのまま金角と一緒に階段を駆け上がった。



「覚悟! 女神、羲和」



 金角を肉の盾としながらナイフを構えたが、羲和は動かない。

 ……動くまでもなかったのだ。羲和の足元の影が鞭のごとく伸びてしなる。と、金角の体を縦に裂いてしまった。まったく人質としての効果はなく盾にもならない。

 黒く焼け焦げた断面を通じて黒い鞭が左腕に巻きつく。香ばしい焼肉の臭いさえ発生させる時間さえなく、瞬時に炭化してボロボロと崩れ落ちていく。


「腕が……あ、アアあああァアアアッ」

「神罰執行“ダークフィラメント”。金よ、どうして救世主職ごときに掴まって死んでいるのです。死んでいないで早く娘を蘇らせるのです。できなければ貴方を殺しますよ?」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
発狂してるので人質なんて通じません、はそれはそうだよね なんだったら会話も成立してないようなもんだし ただ嘘はついてない気がするのよね。最初だけは純然たる被害者って感じだし、のちの加害がでかすぎるけど…
やっぱり思考回路がバグってるなー。普通に打つ手が一つくらいしか思い浮かばないけどどうするんだろうか? 巻き込まれて死んだ金角に合掌
娘が死んだんだから世界を目茶苦茶にしてもしょうがないよねぇ~  それを見た娘が責任取って親殺しに来てもしょうがないよねぇ~
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