表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十九章 太陽の女神の黄昏
218/220

19-1 女神羲和1

 黄昏世界の管理神、女神羲和(ぎわ)が地上に唯一降り立つ場所、灼熱宮殿。太陽がそのままより小さな惑星に立つ事はできないため、精神的な部分だけが化身となって姿を見せる。

 つまり、黄昏世界上で唯一、義和に対して決戦を挑める場所がこの灼熱宮殿である。

 宮殿を守る妖怪軍、混世魔王をすべて排除してようやく道が開けた。一戦、一戦が本来であれば大怪獣決戦並みであり、立ち止まって感想戦でも語っていたいものの、黄昏世界には余裕がない。

 もう、夜でも地平に隠れてくれない太陽に、世界の終わりが加速している事をどうしようもなく実感する。


「……行くか」


 地球から召喚した助っ人達は既に退去済み。十分に働いてくれた彼女達にこれ以上は求められない。

 幸い、俺自身の消耗は少ない。直接戦闘せず体力を温存できた。義和との戦力比は如何いかんともしがたいので、せめて、万全の状態でのぞみたい。


「ピザの配達に来ましたー。って、ドアホンはどこだ?」


 灼熱宮殿には当然ながらチャイムのようなものは見当たらない。オリエンタルな建築様式に馬鹿でかい扉が備わっている入口だ。黄昏世界の妖怪建築の中でも高度なものと一目見て分かる。神のための宮殿ならば当然と言えるが、金色に光っているのは成金っぽくて逆にチープだ。

 一人で堂々と、正面から灼熱宮殿の扉を押してくぐる。





 羲和は酷くソワソワと動いていた。赤い御簾すみの奥に隠れているというのに、数秒ごとに上半身を動かしているのが分かる。待ち遠しくて、待てなくて、定位置たる階段の上の小部屋から出てきそうなくらいだ。

 義和にはそれだけ夢中になっている事がある。外の些事さじに気付いていても無視してしまう程に優先度の高い事柄だ。


「ねえ、まだなの? まだなの?」

「もう少しでございます。『世界をこの嘘言で支配する』の展開は終わりました。灼熱宮殿の完全掌握まで、もうすぐです」


==========

“『世界をこの嘘言で支配する(金の特権)』、嘘を極めたあやしげなる存在のスキル。


 自分以外の嘘が成立する常時発動スキル。

 自分の嘘を許容しないかわりに、他人の嘘をすべて許容する”

==========


「もうすぐ、愛しい此方こなたの子が蘇るのですね」

「ええ、御母みおも様の悲願うそは叶うでしょう」


 通路のように奥に長く広い部屋には羲和と金角の二体しかいない。他の妖怪はすべて出払っている。待望の親子の再開を前に赤の他人は邪魔なのだ。

 まして、義和の娘達を葬った徒人ただびとが、ひょっこりと顔を出すなど、即刻死刑が妥当だろう。



「――去れ。神罰執行“スピキュール”」



 羲和と謁見するための長部屋へと入室しようとして顔を出した仮面のひたいが凝集された赤い熱線に撃たれて蒸発した。


「徒人め。我が眼前に姿を現す事そのものが不敬ですよ」

「侵入者ですか?!」

「もう消しました。金よ、愛しい子を蘇らせるのに集中するのです」


 部屋は奥が階段となり、その上に御簾でへだてられた部屋に羲和は鎮座している。

 レーザー光を発したのは羲和なので御簾の一部が燃えていた。疲弊しきった黄昏世界では二度と手に入らない高級品が炭化してしまって勿体もったいないものの、レーザー光の直撃を受けて気化した命ほどに勿体なくはない。

 熱量は徒人を溶かしただけにはとどまらず、着弾地点で熱を発散させて入口が爆破した。実は、以前に混世魔王を召喚した際の暴走で被害を受けて改装したばかりだというのに、またリフォームが必要になるだろう。



「……あぶねッ、初手スピキュールかよ!」



 爆発した入口付近から転がり込んできた徒人が、溶けたはずの安っぽいプラスチック製の仮面を着装していた。

 明らかに不快な息を吐いた羲和は金角に告げる。


「金よ、此方は害虫を駆除します。多少、権能を発揮しますが、巻き込まれて死ぬ事のないように」


 御簾が独りでに巻き上がっていく。

 これまで妖怪共とも直接対面しようとせず御簾の向こう側で怠惰に横たわっていた羲和が、数百年振りに姿を現す。


 手には朱をベースに金で装飾された扇。手遊びで開かれた後に音を立てて閉じられる。

 豪奢ゆえに分厚い服装。冠と髪飾りを多用した頭も服に負けじと重そうだ。

 顔は真っ白な肌に赤い化粧で目の縁を際立たせている。そんな事をせずとも、爛々と溶鉱炉のごとくドロドロと輝く金眼は酷い色合いで目を見張る。


==========

羲和ぎわ

==========

“●レベル4700000000”


“ステータス詳細

 ●力:65535

 ●守:65535

 ●速:65535

 ●魔:18446744073709551615/9223372036854775807(黄昏)

 ●運:0

 ●陽:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●仏神固有スキル『対魔』

 ●仏神固有スキル『文明繁栄』

 ●仏神固有スキル『世界安定』

 ●太陽神固有スキル『権能(太陽)』

 ●太陽神固有スキル『惑星系形成』

 ×太陽神固有スキル『ハビタブルゾーン』(黄昏)

 ●太陽神固有スキル『黄昏』

 ●管理神固有スキル『天啓』

 ●管理神固有スキル『世界システム調整』

 ●妖怪固有スキル『擬態(怪)』

 ●実績達成ボーナススキル『神性創造』

 ●実績達成ボーナススキル『代替わり(失敗)』

 ●実績達成ボーナススキル『子煩悩(狂)』”


“職業詳細

 ●仏神(Cランク)(無効化)

 ●太陽神(Aランク)

 ●管理神(Cランク)

 ●妖怪(初心者)”

==========

“『黄昏』、太陽をつかさどる者の宿命的なスキル。


 惑星系を育む力が陰り、世界が終末へと向かった事を宣言する。

 ハビタブルゾーンの縮小から始まり、最終的には自身の膨張によってこれまで育んできた世界を破壊してしまう。

 パラメーター的には体の内側から膨れ上がるエネルギーが『魔』となって溢れるため、上限以上に永続回復する。

 終末装置と成り果てる自らに精神が反転する副次効果は、正気のまま世界を滅ぼさずに済む温情である”


“取得条件。

 寿命に近付いた恒星の宿命”

==========





 『レーザー・リフレクター』スキルがなければ危なかった。というか、『暗躍』しながら忍び足で入室したというのに簡単に気付かれたな。それだけ実力差があるという事か。


「徒人はにおう」

「風呂に入るのにも苦労する世界だからな」

「性根の悪さが体臭として臭うというのです」


 気付いた時にはスピキュールを三発撃たれていた。また額を撃たれるところを『運』良く首をひねって回避する。本能的にでも光速の数割の速度のレーザーを三本中、一本でも避けられた自分を褒めたい。

 太腿と腹に命中したスピキュールについてもスキルで反射して無傷だ。


==========

“『レーザー・リフレクター』、熱や光を反射するスキル。


 熱や光といった非物質を百パーセントの効率で反射可能。

 強力な防御性能を誇るが、物理弾頭に対しては一切影響しない”

==========


「……目障めざわりな徒人です」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
レーザーリフレクターが必須なラスボスはクソボス過ぎる...しかも太陽神だということを考えると本気をつま先ほども出してないし... 頑張れ御影
ん?若干時間飛んだかな。魔法少女組が姦しくせず帰るわけもないし… いくら妖怪職のSランクスキルとはいえ死者蘇生なんて出来るのか…?魂が黒八卦炉の中にあるなら無理なんじゃ…? そしてついに判明した羲…
Sランクの太陽神だともはや恒星という肉体に縛られなくなるのかな? 基本不老ってイメージの神に寿命があるのも太陽という寿命のある星の神であるが故の縛りだろうし
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。