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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十八章 灼熱に燃える太陽の居城
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18-8 パンジャンドら……

 突然のスノーフィールドの告白にフリーズを起こすユウタロウ。

 この女、こんな敵に包囲された雰囲気ゼロの逃げ場のない中で何を告白しているのか、五割。

 オークの子供を所望するなどふざけているのか、四割。

 子供ってどうやって作るものだっけ、カエルだと卵生? 一割。


「突然、このような衆人の場所で、恥ずかしい」

「こうでも言わないと止められないでしょう。神になるなど止めなさい。神格などに頼らず精一杯、生きてしまえばいいのですわ!」

「だが、この状況だ。選択肢はない。俺が石油を引きつけて時間を稼ぐ以外に手立てがあるはずが――」


 ――ふと、ガラガラと派手でやかましい、山を転がり落ちてくる音に会話を邪魔されてしまう。

 大事な話をさえぎったのは誰なのかと見上げたユウタロウとスノーフィールド。石油の擬態恐竜までもが顔を上げた。



「お二人さんお熱い事で、ヒューヒューっ!」



 顔を上げるべきではなかった。

 顔を上げなければ、バカが車輪に玉乗りして現れる光景を目撃せずに済んだ。蛇行しながら高速回転しているために今にも振り落とされそうになっているのに、なかなか落ちてくれない。


「お前、何しているッ!」

「灼熱宮殿まで行くのに丁度良い足が襲ってきたから、乗ったんだ」

「乗っている車輪。不格好だろうとソイツは混世魔王だぞ。分かっているのか!」

『人類よ、復讐を受けよッ。爆――』

「まだ早いぞ、混世魔王。お前はこんな所で爆発して満足なのか? お前の人類への恨みはこの程度か?」

『――なに?』


 どうみても危なっかしい方法で現れたバカがバカな混世魔王を乗りこなしている。山から下りてきた勢いそのままに、しかし酔っぱらったような動きでユウタロウ達を包囲していた群れをいていった。


「何ですの、アレ……」

「ただのバカだ。魔王にとっては想定外な行動を取ってくる、最も恐れるべきバカだ」


 遠心力に負けて片輪走行となり落下しかける。何かしらのスキルと思しき見えない手で車輪を掴んで振り回され放題だ。


「ユウタロウ、黒八卦炉の宝玉をっ!」

「ふんっ。任せて大丈夫なんだろうな!」


 バカの乱入により包囲はかき乱されている。脱出用に残しておいた黒八卦炉の宝玉は使い所を失ったので躊躇ちゅうちょなく投げ渡す。

 危うい体勢だというのにしっかりと受け止めた仮面のバカは、車輪の上へと舞い戻った。


「石油はこれで倒せる。後は任せろ!」





 転がってきた車輪の混世魔王の背――車輪と車輪を接合するシャフト部分。ジャイロはなく車輪と一緒にシャフトも回転する――に乗って、石油が席巻する戦場にやってきた。

 ユウタロウの救援も目的であったが、ユウタロウが所持していた黒八卦炉の宝玉の確保も主目的である。


『我が望みは嘲笑する人類への復讐。場所はどこだろうと人類を爆散できればそれでよし』

「ハハ、それこそ嘲笑ものだな。人類復讐者職ともあろう者が情けない」

『笑うな、笑うなッ。人類ごときが我を笑うな!』

「人類を火薬で吹き飛ばして晴れる程度の復讐心で、どうして人類復讐者職を名乗れる。人類に絶滅させられたり壊されたりした他の者達は数多あまたいるというのにその程度で、恥ずかしくないのか? 笑われるぞ」

『笑うなッ』


 石油を討伐するには黒八卦炉の宝玉が多数必要だ。

 だが、黒八卦炉の宝玉だけでは不足する。石油討伐のもう一つのピースは、車輪の混世魔王だ。



「石油に満ちたここは海峡で、向こうに見える灼熱宮殿はパ・ド・カレーだ。フォーティテュード作戦を欺瞞作戦で終わらせず達成しなければ、お前の汚名は永遠にそそがれない」


==========

“『フォーティテュード作戦』、失敗前提、いや、失敗を目的とした作戦が元となったスキル。


 本スキル所持者の行動は、欺瞞作戦により失敗が決定付けられている。成功を求められていない。無様に失敗して嘲笑されてこそ意味がある。ゆえに失敗する”

==========



 第二次世界大戦においてナチス・ドイツに支配されたフランスへと上陸するノルマンディー上陸作戦。

 大反攻作戦ゆえ失敗は許されない。絶対の成功のために国家規模の嘘がつかれた。

 その嘘がフォーティテュード作戦だ。上陸目標がノルマンディーではなくパ・ド・カレーだとドイツに誤認させるべく、専用部隊の発足や専用兵器の開発が実際に行われた。


『パ・ド・カレー……』

「そうだ。あの宮殿がパ・ド・カレーだ。石油が防御を固めている分、本物以上に上陸は難しい。お前に黒い海峡を越えられるか?」

『海峡を越える。上陸を果たす。……我が大望はそこにあり!』


 車輪が灼熱宮殿へと向けられる。俺を乗せたまま前進を開始する。

 車輪の混世魔王が黄昏世界に召喚されたのは人類への復讐心以上に、嘘の作戦と妖怪の親和性が高かったからだろう。現代でこそ失敗兵器として笑われているが――当時も笑われていたかもしれないが――、それが敵国の油断を誘い、本命の作戦を成功に繋げた。


『パ・ド・カレー。さあ、パ・ド・カレーに!』


 石油は当然、防衛行動に移る。黒く擬態する恐竜の群れは車輪の進路を妨害するように動く。


『曲りなりにも人類復讐者が! 血迷ったか。車輪のッ』

『我が本懐を達成せん。ブーストON!』


 されど、車輪に直接ポン付けされたロケット推進は左右の車輪で同期が取られていない。同じパワーが加えられなければ車輪は予期せぬ方向へと回る。車輪の混世魔王本人すら分からない方向へとターンして恐竜の群れを迂回。灼熱宮殿へと接近する。

 花火のように火花を散らしながら黒く浸った大地を回る。

 人類復讐者職のスキルは人類復讐者職には通じない。ユウタロウが考えていたであろう石油対策は車輪でも使える。生物ではないので毒も効かない。



『数合わせのDランクがっ。弾けろ!!』



 巨大草食恐竜、ブラキオサウルスが大量生成された。首の先には頭ではなくヒガンバナを生やしている。

 物量で車輪の混世魔王を止めるつもりだ。巨大な体を詰めて並べて壁とする。進路を読めなくても移動先すべてを埋めてしまえば突破は不能だ。

 騎兵に対する長槍を用いた防御戦術に類似する。ブラキオサウルスの首が突き出されて、火薬の詰まった車輪の本体を強く刺激した。


『――爆散ッ!!』


 車輪の混世魔王は半分も踏破できずに爆発した。『フォーティテュード作戦』の束縛からは逃れられなかったのだ。破片は散らばり、元はどこの部位だったのかも定かではない金属片が石油に沈んでいく。

 ブラキオサウルスの群れは爆発に巻き込めて一網打尽にできた。けれども、石油にとっては爪先を削られた程度。飛び散った石油は再融合させられるので収支はゼロだろう。

 いや、石油にとっては大きなプラスだ。大爆発により石油に火が引火したために黒い大地は燃え上がっている。灼熱宮殿も炎の中にあり近付けたものではない。

 また、燃焼により石油の気化速度は遥かに上昇し、周囲一帯は毒素で満たされた。状況はただただ悪化したのみである。


『我は最強の復讐者職、石油なれば! どのような策略も我が復讐心の前には無駄である! 人類よ、滅びよ! 『正体不明(?)』の怪物に手を出してしまった事を後悔しながら絶滅するがよい』


 勝利宣言の高笑いが響いた。石油を倒す事はやはり不可能なのだろうか。



「――その、よく分からないのだが、凶鳥。いや、御影よ? このような地獄の光景がナキナでよいのか?」



 灼熱の大地の境界線に俺は退避していた。車軸ごと回る奴の上にいつまでも乗り続けられるはずがない。

 言葉でかどわかした後は一番近くの安全な土地まで逃げていた。車輪は火花まで散らして大いに目立っていたので、コソコソと逃げるのは案外簡単だった。


「大丈夫。魔王職の『領土宣言』を『既知スキル習得』で使って、一時的にだがこの土地を黄昏世界にあるナキナの飛び地として定義した。昔は俺もナキナ王族の親族だったから有効、たぶん」

「このような知らない場所を飛び地として頂戴してもなぁ。それに……伯母上は離婚を認めておらんかったような」

「えっ??」


==========

“『領土宣言』、縄張りを主張する王が有するスキル。


 支配した土地の内部であれば、どんな生物とも言葉が通じるようになる。

 また、ある程度の知能を有する忠臣ちゅうしんも、領土支配のために他生物と言葉が通じるようになる”

==========


 炎は避けられているものの毒は流れてくる。『耐毒』はあっても突破された前例があるので吸い込みたくはない。

 ユウタロウより授かった宝玉で呼び寄せた隣の人物は『耐毒』さえないので、早々に用事を済ませてもらおう。


「復興や併合で多忙な国王を気軽に召喚できるのは御影くらいなものだ」

「ささ、俺の時のように頼むぞ、アニッシュ」

「恩義を返す良い機会か。まずは『国民資格』指定。そこの魔王をナキナ国の国民とする」


==========

“『国籍授与』、王たる者、国に住む者の資格を授けて当然――税金的に――なスキル。


 国籍を与えて国民を国の管理下に置く事ができる。

 なお、ナキナの王なのでナキナの国籍限定”

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「続けて、ナキナ王たるアニッシュ・カールド・ナキナが『国民看破』してみせよう。そこの燃えている魔王の正体は……ヒガンバナなる女性である」


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▼アニッシュ

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“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●勇者固有スキル『諦めない心』

 ●勇者固有スキル『知恵比べ』

 ●勇者固有スキル『耳を傾けるべき声質』

 ●王様固有スキル『国民看破』

 ●王様固有スキル『国籍授与』

 ●実績達成スキル『剣術』

 ●実績達成スキル『ショートスリーパ―』

 ●実績達成スキル『栄養剤効果上昇(小)』”


“職業詳細

 ●勇者《勇敢なる者》(Cランク)

 ●王様 (Dランク)”

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“『国民看破』、王たる者、国に住む者の事が分かって当然――税金的に――なスキル。


 国民の顔を見るだけで名前と出身地を看破できる。

 なお、ナキナの王なのでナキナの国民限定”

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▼石油

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 ●人類復讐者固有スキル『人類萎縮権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類断罪権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類平伏権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類搾取権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類報復権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類抹殺権』

 ×実績達成スキル『正体不明』(無効)

 ◎実績達成スキル『正体不明(?)』(発動中)

 ●実績達成スキル『億年の蓄積』

 ●実績達成スキル『猛毒』

 ●実績達成スキル『粘着性』

 ●実績達成スキル『文明の燃料』(無効) New

 ●実績達成スキル『????説』 → 『ヒガンバナ説』(決めつけ) New

 ●実績達成スキル『????説』”


“職業詳細

 ●人類復讐者(Sランク)”

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
無機起源説はパンジャン?
ひゅーひゅー、オークと姫騎士(両生類)のカップルとか熱すぎるぜひゅーひゅー。 パンジャンに乗って冷やかしに来る救世主職...絵面が面白すぎる。 正体不明を国民認定からの国民看破で破るとかある意味最…
他の魔法少女が強化パーツを獲得するなか、逆に強化パーツにされてしまったヒガンバナに救いはあるのか? ヒガンバナと石油の相性が良すぎたのが悪い「毒性」「植物と有機物の類似」「復讐」「天竜川の魔法使いと…
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