映画「国宝」に関しての私なりの感想を書かせて頂きます。
あくまでも、歌舞伎役者である私の一個人の感想ですので、
そのあたりはよろしくお願いいたします。
まず感じましたのは歌舞伎の世界を扱った映画ですが、
私が現実に暮らす歌舞伎の世界ではなく、映画の中の
全く別の世界軸の歌舞伎の世界のように思えました。
歌舞伎は虚飾と誇張の世界ですが華やかな嘘ですので
映画の中で描かれていた嘘は、現実の歌舞伎界と比べますと、
まさにあり得ない嘘でしたね。
別に批判している訳ではありませんので誤解のなきように。
これ以降、がっつりとネタバレしておりますので、
これから見ようと思われる方は、読まない方がよいかも知れません
ご注意ください。
お話の設定でどうしても仕方がないのでしょうが、
江戸時代や戦前のさまざまな土地での歌舞伎役者さんは存じませんが
現実の歌舞伎の世界では背中に彫り物を入れた女形はまず
存在しません
弁天小僧や夏祭りの団七など彫り物を入れたお役は
多くありますがそれはあくまでも肉襦袢と云われるものに
描かれた虚飾の彫り物です。
だから綺麗なのです。
本物ですと現実に引き戻されてしまいます。
また肌を直接見せなくてはならないお役も存在します。
その時に本物の彫り物はどうしても邪魔になってしまいますね。
これは別次元の世界での「歌舞伎」であると云う前提でないと
と思いました。
この映画で初めて「歌舞伎」と云うものに触れている人は、
おそらく多いと思います。
私と同じ上映会を見た300人弱の方で、歌舞伎を実際に見た事
ある方はどのくらいいたでしょうか。
半分どころか、もっともっと少なかったかもしれません。
東京でさえ(埼玉ですが・・・笑)そうですので、歌舞伎を知らずに
この映画を見る方は多いと思います。
虚構の世界の「歌舞伎」と実際の世界の歌舞伎はまた別物だと
思って見て頂けているといいのですが・・・
ですが、それを良しとしてお話しを進めましょう。
渡辺謙さんの名優、花井半二郎
その実子、横浜流星さんの花井半弥と
吉沢亮さんの部屋子の花井東一郎
その血筋と部屋子の気持ちの争いが焦点となりますね。
この世界ではよほどの事がない限り部屋子は
実子には及ばないと云う描き方はまさにその通りだと思います。
ただ、東一郎の実力を認めて怪我をした半二郎の代役を
半弥ではなく東一郎に持って行った半二郎の気持ちはわかります。
なくはないと思います。
でも私にとりましては、ポイントはそこではありませんでした(笑)
その代役のお役が「曽根崎心中」のお初と云うのに驚きました。
もちろん女形にこだわったのでしょうが渡辺謙さんの(半二郎)の
天満屋お初は配役にかなり無理があるなあと、ぎょっとしました(笑)
ちょっと見てみたかった気もしますが。
上方では、立役と女形の両方を勤める役者が多いのは事実ですが、
女形をしていると云う描写がなかったので、余計にそう思うのでしょうね。
でも吉沢亮さん(東一郎)の天満屋お初の劇中劇は好演でした。
鴈治郎さんのご指導の賜物でしょうね。
ただし云えます事は映像美とカメラワークとBGMで
かなり助けられていると云う事、
舞踊の場面でもそうでしたが吉沢亮さんに限らず
映像は綺麗なのですが急拵えの女形の所作はどうしても
足元までに意識が行かず足運びが所々かなり男性でした。
これは一朝一夕には行かないものですから仕方ありません
話は変わりますが師匠の花井半二郎(渡辺謙さん)が亡くなり
後ろ盾がなくなった襲名後の三代目花井半二郎(吉沢亮さん)が
頼りとした吾妻千五郎(鴈治郎さん)
その娘とねんごろとなり千五郎の怒りを買い
さらに落ちぶれて宴会場などの舞台で踊る
どさ回りのような状態になります。
お客の興味本位で見られるようになりますが
どんな事があっても衣裳を着たまま喧嘩をするのは頂けません
役者にとって衣裳かつらはとても大事なものです。
個人のものとしてももっと大切に扱ってほしかったですね。
それほどまでに気持ちがすさんでしまったと云う描写なのでしょうが、
私たちはどうしても衣裳に対しての思い入れや、意識があります。
出来るだけ汚さないように、丁寧に、そして舞台が終わったら
すぐに脱いで、翌日の公演に備えてお手入れをしてくださる
衣裳さんに任せる。
そうどうしても身についておりますので、見ていて少し辛く
感じてしまいました。
そしてお化粧を落とさずに布団に入る事もありません
舞台が終わったら必ずまずお化粧を落とします。
でないとそこら中真っ白になってしまいますよ(笑)
気持ちを切り替えるためにも、必ず綺麗にまず落とします。
映画の批判とか、クレームととらないでいただきたいのですが、
それこそ、中途半端に落とさないとどうなるのか知っておりますので
(実際にはやった事はありませんが)うわ~大惨事になりそう・・・
と思ってしまいました(笑)
すみません、変なところにばかり目が行ってしまいまして。
花井半二郎(渡辺謙さん)の先輩として描かれている田中泯さんの
老練な女形の存在感は大したものでした。
私はモデルというか、イメージは六代目中村歌右衛門丈かなと
勝手に思いました。そのくらいの存在感でした。
最後に足を切断した花井半弥(横浜流星さん)のお初で共演する
「曽根崎心中」での花井半二郎(吉沢亮さん)の平野屋の徳兵衛。
二人の天満屋から逃げて行く場面ですが気持ちの表れとしての
表現でしょうが、所作や衣裳の着崩れお化粧の落ち具合など
映画の中の客席のお客様が見ていても辛くなられるのではないでしょうか?
これは私の想像ですが、あくまでも映画の中の客席に居られるお客様は
着崩れていない、綺麗な二人を見ていて
映像のあのボロボロなのは、2人の気持ちや心情、
これが最後と思う悲痛さを表しているのではないかと。
心象風景に近いものだったのではないかと思いました。
これを話しましたら、同じくあの場面に違和感を抱いていた家人が
「なるほど、そう考えたらストンとはまった気がする」
と。
勝手な解釈かも知れませんが、私にはそう感じられました。
まだまだ書きたいことはたくさんあるのですがいろんな事を
考えさせてくれる映画でした。
吉沢亮さんと云えば、『なつぞら』での天陽くん、
『キングダム』シリーズの漂とえいせい、ドラマ『PICU』
出られている作品でいつも凄いなあと思っておりましたが、
さらに一つすごみが加わったと思います。
家人のお気に入りの俳優さんのお一人。もちろん私も好きです。
そして横浜流星さん、知っているけど、ちゃんと見たことあるかな?
って感じだったのですが、『べらぼう』と『正体』を立て続けに見て
急に気になる役者さんになっておりました。
今の若い俳優さんで、気になる人を5人上げてと云われましたら
絶対に入るお二人の共演。
歌舞伎と云う特殊な世界。
おそらく長い時間をかけて、いろいろな事をお稽古されたと思います。
見えていないところでの努力は並大抵のものではないと。
歩き方、姿勢、声の出し方ひとつとっても、今までとは
全く違ったと思います。
それに、あの衣裳を着て、かつらをかぶって舞台上で実際に踊っているのですから。
そうそうできることではないと思います。
これから先のお二人にとって、きっと大きな財産になると思います。
たくさんの引出しが増えたと思います。
これからのお二人の新しい作品がますます楽しみになりました。
お二人のファンの方をはじめ、この作品で初めて歌舞伎に触れ、
歌舞伎と云うものにも興味を持たれた方も居られるかもしれません
ぜひ、一度劇場まで見に来てみて下さい。
『道成寺』を生で見てみて下さい(笑)
『曽根崎心中』でどうして死ななければならないのか、
前半も見てみて下さい(笑)
歌舞伎興味なかったけど、見てみたいな そういう人がいれば
歌舞伎に携わるものとして嬉しいですね。
それにしても、3時間がアッと云う間の映画でした。
お手洗い、今は2時間の映画でも怖いのですが、
それを忘れるくらいの映画だったと思います。
もう一回、今度は10列目ぐらいで見たいかな?
3列目はくたびれました(笑)










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ハルモニ
2025-07-11 11:07:00
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