任天堂が「Nintendo Switch」の後継機として8年ぶりに家庭用ゲーム機「Switch2」を6月5日に発売し、発売4日での世界販売台数が同社史上最高となる350万台を突破するなど好調な滑り出しを見せている。
ゲーム専門メディア「ファミ通」も日本国内での初週販売台数が94万7000台(推計)と、これまで家庭用ゲーム機の初週販売台数として過去最高だった「PlayStation 2」(63万台)を上回る販売(実売)台数になったとの集計結果を自社の記事で報じた。旧Switchの発売3日間での国内販売台数は33万1000台(推計)だったため、Switch 2は3倍近い販売数を記録したことになる。
ゲーム市場が拡大する中、旧機種からのスペック向上を求めるユーザーのニーズを背景に国内外で歴史的なロケットスタートを切ったSwitch2は任天堂の戦略にどのような影響を与えるのか。ゲーム市場専門のアナリストの立場から考察する。
※本記事は、2025年7月2日初出です。
販売初週で成功が約束された「Switch2」
8年越しの後継機として、旧機種からグラフィック性能などが大きく向上したSwitch2は、ゲームソフトの容量増などに対応した仕様となっている。筆者は米ブルームバーグの取材に対し、事前に業界関係者への取材に基づき「日本国内での初週売り上げ台数は80〜100万台」と予測していたため、この94万台という数字はほぼ予想通りの数値ではあった。
とはいえ、この数値は客観的に見て、とてつもない規模感だ。他社製品を含めた、発売から25週の主な家庭用ゲーム機の販売動向をプロットしたグラフを用意し、以下に可視化した(筆者作成)。
上記のグラフを見ると、非常に興味深いことに、初週40万台前半を境にゲーム機の明暗がはっきり分かれていることが分かる。成否ラインの2倍以上という数値を記録したSwitch2は、2週目を待たずして成功は確定してしまったといえるだろう。
任天堂は過去、DSから3DS(1億5402万台→7594万台)、WiiからWii U(1億163万台→1356万台)と連続して後継機の販売台数が低迷していたために、「2代目のジンクス」に苦しんでいた。Switch2は見事、このジンクスを打ち破ったともいえる。
海外でも好調だ。ゲーム専門の国際メディア「Wccftech」は6月13日付けの記事において、アメリカでSwitch2が「PlayStation 4」(PS4)を上回る初週110万台以上の実売だったとの調査結果を報じた。この数値には任天堂直販が含まれていないことから、過去最高だったのはほぼ確実な情勢だ。
「PS5」販売低迷を教訓にした任天堂
このようにして、記録的なスタートを切ったSwitch2。発売4日間での全世界販売台数を公式発表したのは異例だ。同製品の販売が好調に推移している要因として、大きく3つの要因がある。
1. 大規模投資で初期生産台数を確保できた
1つ目の要因が、大規模な資金投資で潤沢な初期生産台数を確保したことだ。筆者が業界関係者に行った取材では、任天堂は発売までに6000億円程度(推計)を投資し、サプライチェーンの確立と在庫の確保に努めたとみられる。
この規模の在庫投資は多数の部品を円滑に調達するとともに工場で組み立て、船輸送することで初めて実現できる。任天堂の古川俊太郎社長が2025年3月期3Q決算発表の説明会で「なるべく大きな需要を満たせるように、リスクをとって生産を進めている」と初期在庫の確保に自信を見せたのも納得できる。
任天堂が初期在庫の確保に注力した背景には、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が手がけるPS5の販売低迷がある。ファミ通の発表によると、PS5の発売4日間の国内販売台数は11万8000台(推定)にとどまったという。
筆者は親会社ソニーグループのIRから電話で「PS4(の出荷数)は日本は後発、PS5は同発で出荷数が少なくなった」という釈明を聞いたが、Switchが発売3日間で国内約33万台(推定)、Switch 2が約94万台(推定)だったのと比較すると「ソニーは日本市場を軽視していたのではないか」と思われても仕方ない数値だ。
その後、コロナ禍を経て、品薄が改善され、今では店頭で購入できるようになったPS5だが、発売初期の日本国内での品薄が販売台数低迷の一因になっている。
任天堂は、こうした日本におけるPS5の致命的と言っていい失敗を強く教訓にしている。結果的に任天堂公式の抽選には220万人が応募し、想定以上の申し込み数になったが、多くの初期出荷数を確保するとともに、多言語版よりも2万円安い「国内専用モデル」も用意し、ユーザーの需要に最大限応えた。
在庫確保に関連して、任天堂が抽選申し込みに設けた(1)Nintendo Switchソフトのプレイ時間が50時間以上であること(2025年2月28日時点)、(2)応募時点で「Nintendo Switch Online」に累積1年以上の加入期間があり、応募時にも加入していること ──という応募資格も、事実上の「転売ヤー」対策として機能した。
任天堂が応募条件を設け、基準を作ったことで他の家電量販店も独自の応募条件を設けるなど追従する動きが広がった。
ただし、任天堂が「転売対策」と公式に明言しているものは、実はない。倫理的な問題の議論はあえてここでは触れないが、転売行為自体は違法ではないからだ。
だが、任天堂や各量販店の取り組みによって「任天堂はできる限りの努力をして、日本の消費者に本気で向き合っている」というユーザーへのメッセージを発信することに成功しているように思える。
事実、SNSなどでの反応を見ていると、任天堂と不正出品防止に向けた対策で合意しながら、相次ぐ高額出品やメルカリなど大手プラットフォーム側に対する意見は根強い。
2. あえて遊び方を変えなかった「現状維持バイアス」
Switch2好調の2つ目の要因が「遊び方を変えなかった」という点だ。「これまで任天堂は革新性でゲーム機を成功させてきた」とする見方が多いが、心理学や行動経済学では人間の行動傾向として「利益よりも損失に敏感である」、「小さな変化も嫌っている」(現状維持バイアス)ということが分かっている。
Switch2はSwitchと遊び方に変わりはなく、互換性もあるため、幅広い層のユーザーから、「Switchと何も変わっていない」という点がポジティブに受け止められたということになる。
3. NVIDIA製チップで「PS5」と差を埋めた本体性能
3つ目の要因として、大幅なスペック向上も好調な販売に一役買っている。米ブルームバーグは5月20日付けの記事で、Switch2のメインチップはNVIDIAが開発し、サムスンが受託製造していると報じている。
NVIDIAのチップには、よりリアルな表現を可能にするレイトレーシングや、テンサーコアと呼ばれる人工知能に特化した機能が搭載されており、DLSS(ディープラーニングスーパーサンプリング)と呼ばれる超解像(低解像のデータから元の高解像度を推論してコンバートする技術)もできる。これによってPS5との性能差を埋めている。
任天堂へのIR取材でも「任天堂はPCでしか出せないようなゲームでもなければ展開できる」としているし、ソニーグループのIR担当も「今後はSwitch2とPS5のマルチなコンテンツ展開が増えるだろう」としていた。
年度内2000万台の可能性。4年後には売上高3兆円超か
これら3つの要因で好調なスタートを切ったSwitch2が任天堂の事業展開に与えるインパクトは大きい。発売後の動きが判明した今となっては「Switch2の価格は安い」と思われているが、絶対値としては大きく引き上げられている。例えば、通常版のSwitch2は、日本で4万9980円、アメリカで449ドルとなっているが、旧Switch(日本で3万2978円、アメリカで299ドル)よりも50%以上高い。
任天堂はソフトも、SwitchよりSwitch2の価格レンジを引き上げている。本体同梱版(日本では5万3980円)も同時展開している『マリオカートワールド』はパッケージ版が9980円、79.99ドルと、従来よりも10%以上引き上げている(価格レンジはソフトごとに変わるとしている)。
単価が上昇し、販売数量も増加することで業績は大幅に拡大すると見ている。任天堂の古川社長は2025年3月期通期決算の説明会で「2026年3月期の予想販売台数は(全世界で)1500万台」と発言した。筆者は発売後の動向を鑑み、2000万台(2026年3月期)、3000万台(2027年3月期)と販売台数が伸びていくと予想している。
この予想に加え、販売がピークになるであろう2029年3月期に為替レートが1ドル140円程度であれば、売上高は25年3月期(1兆1649万円)の倍以上となる3兆円を超えてくることになる。
ゲームソフトの開発費が大作では200億円を超えることも多くなり、リスクが増大しているゲームソフトメーカーにとっても、ゲーム機販売台数の増加は朗報になるはずだ。Switch2がけん引する形で2030年代にかけてコンシューマゲーム市場は再成長を遂げることになるだろう。
モデルチェンジ時期に注目。SIE次世代機の方針も変化か
ただ、Switch2にも小さな課題が見えている。販売をけん引する人気タイトルが少ない点だ。現在、人気作『マリオカート』シリーズの最新作『マリオカートワールド』が発売中だが、それ以外で発売日が確定しているメガヒット作品は少ない。
ゲームキューブの名作『カービィのエアライド』の22年振りの新作が、桜井政博氏監修で年内発売予定となっているが、他メーカーの作品を含め、まだ情報が少ない。
また、筆者はソフトがハードをけん引するというのは迷信だと見ているため、在庫の安定供給とともに、適切な時期にモデルチェンジを行えるかも課題になると見ている。旧Switchでは、特に有機ELモデルとソフトタイトルをデザインした特別モデルが、延命と売上拡大に寄与した。モデルチェンジのタイミングも注目を集めるだろう。
Switch2の好調とゲームユーザーの反応は、競合であるSIEの事業展開にも影響を与えることにもなる。もともと、任天堂がゲームをあまりしない層も含め幅広い層をターゲットとしているのに対し、「PlayStation」シリーズ(特にPS5)は高性能を求めるコアなユーザー層をメインにしているため、純粋な競合として比較するには難しい面もあった。
しかしながら、“後継機のジンクス“を克服したSwitch2の登場で、ゲーム機の成否に性能やAAA(開発会社が開発に巨額を投じるタイトル)が関係していないことが分かった。このため、SIEはPS5とは違い、小型で量産性に優れた次世代機を投入してくるはずだ。
筆者が「次世代機の戦略を考え直す必要がある」とソニー関係者に提言した際、特に否定する反応はなかった。SIEがスリムで、量産性に優れた次世代機を投入できれば、2030年代半ばまでゲーム市場の活況が続くかもしれない。
いずれにせよ、ゲーム市場は、一部の愛好家向けでは無く、「メインカルチャー」として年齢、文化、地域に左右されない大衆文化に昇華していくことになると筆者は予想している。Switch 2の快進撃を通して、われわれは歴史的な大変化を目撃している。
安田秀樹(やすだ・ひでき)
東洋証券アナリスト。1972年生まれ。近畿大学大学院修了(商学修士号)後、1996年にエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当のアナリストとして活動。2022年に東洋証券に移籍し、現職。任天堂やSIEだけでなく、部品メーカーを含めた幅広い企業からのヒアリングを通じたゲーム業界分析には定評がある。証券アナリスト協会認定アナリスト、国際公認投資アナリスト。
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