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【5/24発売】あなたの注意を無限に奪う「作業文脈の切り替え(コンテキスト・スイッチ)」とは? カル・ニューポート『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』訳者あとがき

スマホに依存せず、「本当に大切なこと」に使うための集中力を取り戻す方法を説き、世界25か国以上で刊行された『デジタル・ミニマリスト』の著者カル・ニューポートの最新作『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』は、いよいよ明日5月24日発売です。

メールや社内チャットのチェックに集中力を奪われているビジネスパーソンが「集中力」「生産性」「充実感」「プライベート」「健康」を取り戻すための科学的メソッドとは?
同じくカル・ニューポート『デジタル・ミニマリスト』訳者の池田真紀子氏が、本書の読みどころを語ります。

カル・ニューポート『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』

訳者あとがき


カル・ニューポートの前々作『大事なことに集中する──気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』(ダイヤモンド社)は、注意散漫がはびこる時代にあって集中する能力がいかに大きな強みになりえるか「本当に大事なこと」にそれを発揮するにはどうすべきかを論じた。

前作『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)はスマートフォンをスロットマシンにたとえ、私たちがどれほど多くの時間と集中力を〝注意経済(アテンション・エコノミー)〟に奪われているかを明らかにし、その誘惑に抗う術(すべ)を提案した。

そして本書『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』が立ち向かうのは、現代の職場に蔓延する注意散漫だ。
 
職場の注意散漫の最大の原因は、電子メールやSlack に代表されるメッセンジャー・ツールにあると著者は言う。リサーチにもよるが、平均的な知識労働者(ナレッジワーカー)は、ざっと6分おきに新着メールやメッセージをチェックし、1日あたりおよそ120通、時間にして2〜3時間を送受信に費やしているとされる。メールだって仕事のうちだし、計算のうえでは5時間くらい実作業に取り組んでいるのだから問題ないのでは──と思われるだろうか。

問題は時間の長さではなく〝作業文脈の切り替え(コンテキスト・スイッチ)〟だと著者は指摘する。

メールやメッセンジャー・ツールの一番のメリットは、いつでも都合のよいタイミングで送信し、都合のよいタイミングで開封して返信できる非同期性にある……はずなのだが、現実にはそうはいかない。やりとりの総数を考えると、「隙間時間にまとめてメール処理」などとのんびりかまえていては処理が追いつかないし、本文で詳しく説明されているように、人間の脳の〝社交回路〟が災いして、メールが届いていることを知りながら即座に返信せずにいるだけで不安が蓄積する。結果として現代のナレッジワーカーの多くは、メールやメッセージが散発的に届くたび、やりかけのことを中断してそれに対応している。

この中断こそが〝作業文脈の切り替え〟であり、集中して仕事に没頭すべき時間が細切れになることが一番の問題なのだ。いったん注意がそれてしまうと、元の集中を取り戻すのに10分かかるとも28分かかるともいわれ、「集中が戻るまでの時間×120通」という単純な掛け算は当てはまらないにしても、本来の仕事に集中できていない時間が1日の大半を占めることになる。つまりナレッジワーカーの1日は注意散漫な細切れの時間のつぎはぎになりがちで、実作業が思うように進まない。その結果、長時間労働が蔓延し、燃えつき症候群(バーンアウト)の危険が増す

著者は、メールやインスタント・メッセージが導入される前(1991年ごろ)と後の職場の違いを次のように端的に説明する。

私たちは、メールを〝追加された何か〟と考えがちだ──2021年のオフィスは、1991年のオフィスに手軽で速い連絡手段がプラスされたものである、と。だが、それは間違いだ。メールは追加されたのではない。2021年のオフィスは……(中略)……現実にはまったくの別物だ。延々と続く、思いつきベースの、散発的なメッセージの奔流のなかで──私が〝注意散漫な集合精神(ハ イパーアクティブ・ハイブマインド)〟と命名したワークフローに沿って──仕事が進む場所だ。

では、職場からメールやメッセージを追放すれば問題は解決するのだろうか。
 
いま私たちが打倒すべき悪役(ヴィラン)は、メールというテクノロジーそのものではなく、注意の断片化を招きやすいメールありきのワークフローである、というのが著者の考えだ。

ヴィラン退治にはまず、工程(プロセス)と実作業を明確に切り分けるところから始めなくてはならないと著者は言う。前者のプロセスとは、本書の定義にしたがえば「実際の生産活動と、その活動を調整するすべての情報と意思決定とを合わせたもの」、つまり実作業を進めるための決まりごとや枠組みを指す。これを策定する責任はナレッジワーカー個人ではなく、組織やチーム全体にある。後者の実作業は、そのものずばり成果を生むための仕事およびその進め方を指し、実際にどうこなすかはナレッジワーカーの自主性にゆだねられる。

この2つのうち本書が改善のターゲットとするのは前者のプロセスで、組織やチームで共同作業を進めるための枠組みからメールやメッセージを可能なかぎり排除し、時間が細切れになるのを防ぐことによって、実作業に集中できる時間を十分に確保することが本書の最終目標だ。そしてこの「メールありきのワークフローから離れ、本来の仕事に集中できる時間やスペース」こそ、原題の〝メールのない世界(A World without Email)〟なのだ。

本書では、メールのない世界にすでに移行した組織やチームの実例を数多く紹介しながら、現在のプロセスのどんなポイントに改善の余地があるかを詳しく解説している。小規模な組織やチーム、フリーで働く個人が明日からさっそく取り入れられそうなアイデアがかならず見つかるのではないかと思う。

本書の「結び」に次のような一節がある。いまこの時代のラッダイトは、ノスタルジアから注意散漫な集合精神にしがみつき、世界でいよいよハイテク化が進もうと、そこでの働き方を改善する努力など必要ないと言い張る人々だ。

なんとも耳の痛い警鐘ではあるが、本書を読めば、そのとおりと納得するしかない。残すべきものは残し、変えるべきところは変える。何もかもが目まぐるしく変化を続ける時代、ナレッジワーカー一人ひとりに成長や進化を求めるだけでなく、職場そのものもバージョンアップを図っていく必要がある。

2022年4月


カル・ニューポート『超没入: メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』(訳:池田真紀子)は早川書房より5月24日発売です。

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★読者モニターからのコメントは以下でご紹介中です。
①「もうこれなしでは今後の働き方を考えることはできなくなりました」
②「21世紀のナレッジワークにおける「産業革命」の起爆剤となり得る一冊」

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『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』

著者:カル・ニューポート
訳者:池田真紀子
判型:四六判並製単行本
定価:2,090円(10%税込)

著者紹介

カル・ニューポート(Cal Newport)
ジョージタウン大学准教授(コンピューター科学)。1982年生まれ。ダートマス大学で学士号を、MIT(マサチューセッツ工科大学)で修士号と博士号を取得。2011年より現職。学業や仕事の生産性を上げ充実した人生を送るためのアドバイスをブログ「Study Hacks」で行なっており、年間アクセス数は300万を超える。著書にニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとなった『デジタル・ミニマリスト』(早川書房刊)のほか、『今いる場所で突き抜けろ! 』『大事なことに集中する』などがある。

訳者紹介

池田真紀子(いけだ・まきこ)
翻訳家。1966年生まれ。上智大学卒業。訳書にニューポート『デジタル・ミニマリスト』、パラニューク『ファイト・クラブ』『サバイバー』、ジェイムズ『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』、タッデオ『三人の女たちの抗えない欲望』(以上早川書房刊)ほか多数。


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