春はドラッグストア、スーパーマーケット、コンビニエンスストアの棚替えシーズンだ。各メーカーは小売店の棚の確保に奔走するため、テレビCMの出稿量を増やす。では、その成果はいかほどだろうか。本稿では、ビデオリサーチのデータを基に、2024年に1年間を通じて出稿本数の多かった花王の「アタック」とP&Gの「アリエール」を選定。各ブランドのテレビCMの効果をMMMで徹底検証した。
小売店が主な販売チャネルのメーカーにとって、テレビCMは消費者に対する商品・ブランドの認知度向上という側面の他、小売店のバイヤーとの商談を有利に進め、棚を確保するという、BtoB(企業間取引)強化の目的がある。
特に4月と10月の店舗の棚替え時期には、メーカーはテレビCMを強化することで、競合ブランドよりも目立つ店頭環境を目指して流通企業と交渉する。
しかし、認知された商品が店頭で視認されなければ購買にはつながりにくい。日経クロストレンドに掲載された花王の「アタックZERO パーフェクトスティック」の事例は、この課題を象徴する。
▼関連記事 花王アタック、1万GRP投下のテレビCMで失敗 戦略転換で認知度が急回復1万GRP(延べ視聴率)を投じたテレビCMによって商品の認知度は広がったが、店頭でのパッケージの視認率は低かった。その原因は、商品パッケージとテレビCMの表現のギャップだ。
花王は広告クリエイティブを改善し、商品パッケージを強調したシーンを追加することで、パッケージ認知度を44%に引き上げて課題の解決につなげた。この事例から、店頭視認をアシストするテレビCMのクリエイティブの重要性が浮き彫りになる。
アタックとアリエールのテレビCM効果を検証
そこで、今回は家庭用消耗品の代表となる洗濯用洗剤におけるテレビCMの効果をテーマとして分析した。
まず、広告代理店のムサシノ広告社(東京・新宿)の協力の下、テレビデータ分析のビデオリサーチ(東京・千代田)が提供する「テレビ広告統計」のデータを参考に、効果分析の調査を設計。2024年に関東で投下本数が多かった数ブランドを対象に25年3月1日から2日にかけてセルフリサーチの「Freeasy(フリージー)」で2万5000人に調査を実施した。
本稿で紹介するのは、特にCMの投下本数が多かった花王「アタック」とP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)ジャパンの「アリエール」の分析結果だ。洗濯用洗剤を象徴する2つのブランドを徹底検証する。
「消費者調査MMM」を用いて検証
分析には「消費者調査MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」を用いた。消費者調査MMMは、マーケティング施策への接触が引き起こす消費者の能動的行動(例:店頭で商品を見る)と、それによる売り上げ増加を段階的に分析する手法だ。一般的なMMMは時系列データを用いるが、消費者調査MMMは調査データから売り上げへの具体的な金額換算を可能にする。
詳細は24年6月に出版した拙著『「その決定に根拠はありますか?」確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』(マイナビ出版)で解説しているが、やや専門性が高い。
そこで、本稿では簡潔に分析手順を紹介する。補足として、詳細な解説を加えた動画も用意した。
テレビCMの接触率と店頭行動
調査結果によると、アタック、アリエールの両ブランドとも消費者との接触率の1位はテレビCMで、アタックが57.34%、アリエールが57.21%となった。次いで、両ブランドとも店舗で掲出された広告や販促物が2位となっている。
続いて、更に能動的に行ったアクション(要因)の該当率を集計する。両ブランドとも該当率の1位は「実店舗(ドラッグストア)で商品を見た」で、アタックは55.62%、アリエールは52.40%となった。2位は「実店舗(スーパーマーケット)で商品を見た」となっていた。ドラッグストアが家庭用消耗品の主要購買チャネルであることは予想通りだが、テレビCMがこの行動をどの程度アシストしているかが鍵となる。
テレビCMが店頭視認を押し上げる仕組み
前述したアタックZERO パーフェクトスティックの事例では、初期のテレビCMで最後の1~2秒しかパッケージが登場しなかった。これが原因で店頭での商品の視認率低下を招いていた。そこで、俳優がパッケージを持ち、スティックを取り出して洗濯機に投げ込むシーンを追加。パッケージを強調し、計量不要の使いやすさも訴求した。結果として、パッケージ認知度が44%に向上し、店頭での商品認識が劇的に改善している。
この話はテレビCMのクリエイティブ設計の重要性を示しているが、実際に店頭での視認はテレビCMによりどれだけアシストされているのだろうか。
ここまでの調査データから、消費者調査MMMを用いてテレビCMが「ドラッグストアで商品を見た」アクションをどの程度増加させ、売り上げに貢献したかを推定する。以下の計算式(1)と(2)は、アタックの20代女性を例にした計算式だ。各年代の人口は日本政府の人口推計などで算出している。
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