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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十二章 妖怪聴訟
151/220

12-4 スイラン

 会場は不気味なくらいに静かだ。コソコソと俺の味について語っていた妖怪共が一言も喋ろうとしていない。

 唯一、乾いた喉で言葉を発せたのは牛魔王。実の娘の事だから声にできた。


「仮面の救世主職は、人の形をくずせば何が起きるか分からない猛毒にございます。どうか、ご再考を!」

「ならばこそ、この場で確かめておくべきでしょう。それに骨まで残さず食せとは言っておりません。腕の一本だけで十分です。さあ、娘。食しなさい」


 食事に邪魔となる拘束が解かれた紅孩児こうがいじが、矛や槍で突かれながら俺の真正面へと誘導された。

 紅孩児は立ち止まって抵抗しているものの、そのたびに刺し傷が増えていく。


「俺はッ、喰わねぇよ!」

徒人ただびとを食する義務を果たさない妖怪は、此方こなたの世界に不要です」

「誰が喰うかッ。絶対に、もうッ、喰わねえェ」

「紅孩児っ、食べなさい!」

「クソ親父。てめぇが図体ばかりデカい癖に、御母様に従うばかりで情けないから! 御母様の命令だからと、お前はまたそうッ!!」


 紅孩児は頑丈な妖怪である。牛魔王が親ならば納得できるとはいえ、血を吹き出すくらいに背中を刺されて動かないのは耐え過ぎだ。

 称賛されるべき強情さは、命令を無視される側にとっては不敬にあたる。

 御母様が鎮座する階段上にて熱量が上昇していく。



「勅命に従わない妖怪には罰を。神罰執――」

「――紅孩児。俺を、喰え」



 手も足も、スキルも何も出せない俺が紅孩児を助ける手段は限られた。遺憾ながら我が身を生贄とする他ない。

 声だけは出せたので紅孩児に俺を喰うように勧めてみたが、当然のように激怒だ。


「黙っていろよ、御影ッ」


 まあ、刺されても従わない頑固者が言葉だけで従うはずもない。

 そこで紅孩児を刺している妖怪兵に対し、俺の腕を刺すようにうながす。


「おい、そこの妖怪。俺を刺して血を流させろ」

「救世主職は黙っていろ。お前には手出しするなと言われている」

「そんな事を言っている場合か。あまり御母様の機嫌を損ねない方がいい。世界さえ気分一つで滅ぼす女が周囲に気を配るはずがない。紅孩児への罰に巻き込まれて蒸発したくはないだろう、お前?」


 妖怪兵の不安をあおる。事実、この聴訟ちょうしょう会の中だけでも無実の妖怪――いや、妖怪が無実なはずがないが――が巻き沿いで数回死にかけている。御母様の命令は確実に遂行するべきだ。


「一滴でいい。俺の血を流せ」


 逡巡しゅんじゅんしていた妖怪兵も命はしむ。

 救世主職を刺す事には一切の躊躇ためらいがないため、俺の腕をきっちり刺してきた。……クソ痛い。誰もエグるようにしろとまでは言っていない。


「どうだ、紅孩児。俺の血の匂い」

「ッ、てめェ!」

「紅孩児。お前の職業は妖怪職だ。妖怪職へのクラスチェンジ条件は、人肉を口にする事ではないのか?」


==========

●捕食者寿命+100年

==========

“『捕食者寿命+100年』、生贄いけにえなれば一世紀程度の寿命を延長する栄養価が含まれていて当然なスキル。


 本スキル所持者を捕食した相手の寿命を100年延長する。味や匂いも、高級食材並に魅力度が増す。

 一口食べたら止まらないくらいの味なので、一気に食べられないように注意しよう”

==========


「だったら、紅孩児。お前は……人の肉の味を知っているな?」


 桃源郷ピーチベースではモモしか食べていなかった偏食の紅孩児。牛が父親ならば草食であってもおかしくはないとはいえ、食人職の妖怪としてはおかしいのだ。

 黄昏世界の現体制に不満があって反乱を起こしていても、紅孩児は妖怪なのだ。

 妖怪ならば、人を喰った経験がある。

 一度、人の味を知った熊は好んで人を襲い続けると言われている。水分ばかりで人肉はマズいらしいが獰猛な肉食動物は気にしない。妖怪も同様だ。紅孩児は理性で食欲を抑えつけているに過ぎない。

 普通の人間が相手なら耐えられた。

 だがただよっている血臭が、妖怪にとってはたまらない高級食品のものならば、妖怪としての本能が勝手に動いてしまう。


「やめろ。やめて、くれ。俺は徒人なんて、もう喰いたくなんて、ないッ」

「俺を喰え。この場を生き延びるためなら仕方がない」

「傷口を見せつけるな。嫌なんだ。駄目なんだ。俺はッ……イヤっ」


 拒絶なんて言葉だけだった。

 紅孩児の焦点はとろけてしまっている。俺の腕の傷だけをうっとりと見つめていて、ゆったりと口付けでも行うかのように顔を近付けていく。

 だが、それも血を一滴、一舐めするまでだ。

 以降は捕食動物らしく、獲物を逃がさないように牙で噛み付き顎で締め付け、俺の二の腕をごっそりと千切り取った。


「――美味ぃ。なんて美味い。…………オェッェエッ、美味しい。ゲァ、美味しい。オエエェエエ」





 私はこう。お父様にはあまり似ていない、お母様に似た愛娘。

 でも、私はお父様が大好き。優しくて、大きくて、優しいから好き。いつも大きな手で私の頭を撫でてくれるからとっても嬉しい。

 でも、最近はお父様とお母様以外にも好きな友人が出来たの。

 名前はスイラン。お父様が、私もいい歳になったのだから、と紹介してくれたとても優しい子。出合ったその日からお友達になって沢山遊んだわ。私と違ってつのもないし、力も弱いけれども、そんなの全然気にならない。

 お母様にどうしてスイランには角がないのかいてみたの。そうしたら、お母様は「スイランは徒人だからよ」と教えてくれた。タダビトって何だろう。知らない。


 その日も沢山スイランと遊んだわ。

 スイランはとってもお人形遊びが得意で、今日はずっと二人で部屋の中で遊んでいたの。いつの間にか夕方になっていて、スイランは門限だからと帰っていっちゃった。私と一緒に夕食を食べていけばいいのに断るのよ。いつもより美味しいお肉だったから食べていけば良かったのに。きっと、お父様が大きい所為ね。


 次の日もスイランは遊びに来てくれた。

 けど、変なスイラン。昨日は一緒にしてくれたお人形遊びをしてくれない。よく見たら片腕がなくなっていて驚いた。腕が一本しかないからもうお人形遊びはできなさそう。だから、外で走って遊んだの。

 お父様にどうしてスイランは片腕がなくなったのか訊いてみたの。そうしたら、お父様は「スイランは徒人だからだ」と教えてくれた。タダビドって日によって腕の数が変わるのかしら。変なの。

 今日こそ夕食はどう、って誘ったのに、やっぱり夕方には帰っちゃうスイラン。今日の夕飯は美味しい目玉焼きってお母様が言っていたのに。


 次の日もスイランは遊びに来てくれた。

 けど、今日も変なスイラン。包帯で右の目のあたりを隠しているの。

 お母様にどうしてスイランは目を隠しているのか訊いていたの。そうしたら、お母様は「スイランは徒人だからよ」と教えてくれた。タダビトって何なの。分からない。

 ちなみに、今日の夕飯は大きな動物のモモ肉でした。どうしてこんなに美味しいの。


 次の日もスイランは遊びに来てくれたのだけど。

 スイラン、今日からもう歩けなくて外では遊べなくなっちゃった。だから私、スイランを車椅子で運んでお庭を一緒に散歩したの。スイランはありがとう、ってお礼ばかり言っちゃって。スイランのためならこのくらい何でもない。

 お父様にどうしてスイランは歩けなくなったのか訊いてみたの。そうしたら、お父様は「スイランは徒人だからだ」と教えてくれた。タダビドってどういう事と訊いても教えてくれない。スイランが心配なのに、最近のお父様は優しくない。

 私の機嫌が悪いからか、お母様は夕飯に大好物の汉堡包ハンバーグを作ってくれていたの。

 でも、スイランは今日も夕方には帰っちゃって、少し寂しい。


 次の日もスイランは遊びに来てくれたのに、とっても顔色が悪くて遊ぶどころではなかったの。

 スイランは全然痛くないし、そうしてもらっているって言って、私と遊ぼうとするの。今日はめておいたらと言ったのに、今日で私にあげられる所が残らないから、って言って遊ぼうとするの。

 仕方がないから遊んでいたのだけど、スイラン、歩けないのに夕方にはどこかに消えちゃった。

 だから、私は探したの。

 でも、私は見つけられなかったの。

 お父様にスイランはどこかって訊ねてみたら「スイランは夕飯で会える」と言ってくれた。体調が悪いから、今日は夕食を食べてくれるのねって私は喜んだ。


 ……喜んだのに。


 …………ねえ、どうして?

 どうして、夕飯として■■■■の頭が中央の大皿に乗せられている、の。

 ■■■■の目玉焼きや、■■■■のモモ肉や、■■■■の汉堡包ハンバーグが、周りに並んでいるの。

 こんなのはおかしい。


「――紅。世界が黄昏る前に胎児となっていたお前は仏神のままだった。成人するまでに徒人を喰い殺し、妖怪に堕ちなければならなかったのだ」


 両方の目がくぼんでいる■■■■が笑っているのは、おかしい。



「スイランは己の家族が無税となるのであればと立候補してくれた娘であったが、それだけではない。お前の肉となれるならと最後まで逃げはしなかった。あのような娘は、もう世界には多くおるまい。紅に食べさせるなら、スイラン以外にはいなかった」



 ――私はその日に、スイランも、優しいと勘違いしていたお父様もお母様も、すべて失ったの。






==========

“ステータスが更新されました(非表示)


 ステータス更新詳細

 ●人身御供ヴィクティム(Cランク)(非表示) → (Bランク)(非表示)

 ●人身御供ヴィクティム固有スキル『捕食者寿命+500年』(非表示)を取得しました””

==========

“『捕食者寿命+500年』、生贄いけにえなれば歴史程度の寿命を延長する栄養価が含まれていて当然なスキル。


 本スキル所持者を捕食した相手の寿命を500年延長する。体臭だけで魅了し始めるレベル。寿命が長い種族に対して、より素敵な食材として目に映るようになる。

 汗一滴すら欲しがられてむらがられる状態となるので注意しよう”


“取得条件。

 人身御供ヴィクティムをBランクにする”

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[良い点] ついに御影を実食っっ!!吐きそうなほど美味しいとは御影も喜んでいるだろう(白目) [気になる点] 御影って死者の肉でちょいちょい肉体を補ったりしてたけどあれって他人限定だっけ?欠損した部位…
[一言] この世界の妖怪全て人食い人種なのかな
[気になる点] 仏神から妖怪になるときに食べる人間は重要なのかな? なにを食べてもいいならその辺の面識のない人間をこっそり食事に混ぜればいいだけだし
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