11-5 究極と恒星の頂上決戦
妖怪の都を木端微塵にした皐月の重唱七節“N2”。
人類が用いる破壊方法としては頂点に君臨するだろう。魔法、科学、どちらの分野においても皐月ほどに巧みに広域破壊を実現した者はいない。
しかし、まぁ、所詮は人類という種の枠組みの内側での偉業に過ぎない。幼稚園児のお遊戯会でとても元気よく台詞を読む幼児は素晴らしいと絶賛される。そういった賞賛を得るにふさわしい。
見下げている訳ではない。本来、不憫に思える程の脆弱種たる人類が原子の理において足跡を残せたのだ。拍手喝采だ。お遊戯会を見た神性はブラボーと褒めてくれるだろう。
……なお、太陽の化身たる御母様は、より完成度が高く、より高威力な核融合を引き起こし、竜頭魔王を消し炭にしてしまったが。
“太陽の権能を前に、何ができると勘違いしていたのですか。惑星表面に巣食う害虫ごときが抗えるはずがないというのに、酷い思い上がりです”
黄昏世界における太陽は御母様なのだ。太陽系の中心で絶えず爛々と輝く恒星が本性である女神にとって、核融合爆発の一つや二つ、小指を動かす程度の些事に過ぎないのである。
自身の権能の小数点未満を差し向けて生成した恒星現象は、小規模とはいえ太陽そのもの。流体のように燃え盛る熱球に竜頭魔王は巻き込まれて姿をかき消される。
究極生物と称される化物とて、所詮は惑星生まれの怪物の延長線上、大気圏下。宇宙的な事象の前では下等な微生物に過ぎない。大陸に修復不能な燃え穴が生じる代わりに、究極生物の脅威は過ぎ去った。
“ああ、此方はなんと娘思いな母なのでしょう”
世界の危機を救うという管理神らしい大義は皆無であり、娘を奪う愚かな竜に類似する害虫に神罰を与えるという私情で御母様は竜頭魔王を葬った。
いや、本人は娘のためと信じているかもしれないが、実際のところはただの憂さ晴らしだ。そうでなければ、過去に竜頭魔王が現れたからといって、冤罪で竜種を根絶させはしないだろう。
ただ、竜頭魔王を討伐し終えた今も、憂さ晴らしできた様子はない。もう、赤色巨星と成ってしまった御母様に正常性を求める事の方が酷なのだろう。
ブクブクと泡立つ地上の太陽にそっぽを向く空の太陽。
“――まだ、食べ足りない~~~っ!!”
究極生物がどうして究極と呼ばれているのか。そんな事さえ分かっていない油断が御母様にあった。
竜頭魔王の死因は、御影パーティーによる融合魔王の起爆である。魔王が溜めに溜め込んだ破滅の炎により竜頭魔王は滅んだものの、死してなお、終わらない進化を続ける体は強化の過程にある。一度目の死因で二度も死ぬなど、究極生物の名折れだ。
怪生物は、核融合にさえ耐性を得つつあった。
“まだ、足りない。お腹空いた~~~”
神罰の炎にすら竜頭魔王は耐えた。火球の中から名の由来となっている特徴的な頭部を覗かせる。
多少は溶けて焦げてもいるが、形を保っている。
“足りない~~~。もっと、もっとお食事~~~”
左右に連なる鰓を動かして空を泳ぐ竜頭魔王。優雅なる遊泳はまさに究極に辿り着いた生物に相応しい。
竜頭魔王は上昇し続けている。おそらく、食事を邪魔する発生源にして、太陽系で最も大きくエネルギー量の高い存在を理解したのだろう。
竜頭魔王は宇宙を目指している。
最終目標は、御母様そのもの、太陽だ。
“美味しい~~? お不味い~~? どっ――”
“――飽きた。もう消えるがいい”
野望を抱いた竜頭魔王であるが、御母様の興味を失った事が致命傷となった。
遊びも加減もなく、再現された太陽内部領域により頭部をごっそり蒸発させられた。
“――母に抱かれて死ね。世界を照らし育む我が名にして、我が権能、羲和”
もし、仮に竜頭魔王が空へと上昇していなければ。
もし、仮に御母様、神性羲和が後数ミリ秒長く太陽内部領域の展開を続けていたならば。
黄昏世界たる第三惑星は、大気をすべて吹き飛ばされ、地表をすべて溶かされ、燃え落ちた死の星になっていただろう。遠くない未来にそうなるとしても、女神の気分一つで滅亡が早まるところであった。
本来、惑星上での使用は禁忌である惑星系全体を育む熱エネルギーを発する権能だった。罰するために調整されている神罰執行とは訳が違う。
竜頭魔王の頭部は丸く刳り貫かれて消滅してしまった。その直後、爆発的に膨張した大気により、残った尾の部分はいずこかへ飛んでいく。
衝撃波はその後、惑星上を三周巡るまで続いた。
各地に存在する妖怪の街や壁村にも倒壊といった被害をもたらしたが、その程度で済んだのはむしろ幸運だっただろう。
今度こそ、間違いなく黄昏世界の食害は回避された。
義和も完全に興味を失い、惑星地表部は静けさを取り戻す。
“――御母様でなければ止められなかったとはいえ、一歩間違えれば世界は滅びていたところだ。このような危機を招いた仮面の救世主職、お前の罪は計り知れない”
そんな中、最初に動いたのは白い山のごとき巨大牛、牛魔王である。
数千年を生きる妖怪のタフネスは、他の雑多な妖怪と異なり嘘偽りなく本物だ。重傷を負いながらも意識を手放さず、頂上決戦のすべてを目撃していた。
“妖怪聴訟でどういう判決が下されるか分からぬが、お前の破滅は確定したぞ。仮面の救世主職”
牛魔王がもたげた頭の下には……気を失っている御影と紅孩児がいる。
牛魔王が守ったのは紅孩児だけである。御影は思わぬ戦利品に過ぎない。
黄昏世界は窮地を脱したものの、御影の窮地はこれからが本番なのだろう。
御影は戦いの余波で気絶していたが、戦いの前に頭痛で気絶していた村娘がいる。
気絶している間の出来事は当然ながら分からない。周囲の地形は大幅に変わっていたかもしれないが、地形破壊が頻発していた所為で村娘には判断できないだろう。
「――あの子の、気配だ」