今回取材したのは、原子力規制庁。
原発の審査や検査などを行う原子力規制委員会の事務を担っています。
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人材不足 原発の安全を守る現場でも
「ほとんど若手がいないこの職場の状況をぜひ見てください」
原子力規制庁の担当者から聞かれたことばです。
「人材不足」といえば、ネガティブなイメージ。
取材を断られるかも…と思っていた私にとって、予想外の反応でした。
原子力発電所は6月の法改正で、上限の60年を超える運転が可能に。
一方で、原発の安全を守る現場は人材不足が深刻になっています。
今、何が起きているのでしょうか。
(科学・文化部記者 國友真理子)
現場で目立つ“50代以上”
この日、職員たちが向かったのは福井県にある高浜原発。
1号機は、あと9年余りで運転期間が60年になる、現在国内で最も古い原発です。
原子力規制庁の職員たちは、原発を運転する関西電力が行う非常用の冷却ポンプを動かす試験に立ち会いました。
試験がきちんと行われているか、確認していきます。
ここで注目してほしいのが、年齢です。
高浜町内に常駐する職員8人のうち、30代の2人を除いて、残りは全員50代以上。
55歳の職員にこう言われ、驚きました。
55歳職員
「電力会社を早期退職して原子力規制庁に転職しましたが、ここに来たら『若手だ』と言われます」
原子力規制庁の職員の年齢構成です。
全職員(1064人)のうち、半数を占めるのが50代以上。高浜のように、全国各地の原発などの近くに常駐する職員に限ると、8割に上ります。
東京電力福島第一原発の事故を教訓に、2012年に新しく発足した原子力規制庁。専門的な知識が求められるため、メーカーなどから積極的に経験者を採用しました。
事故後にすべての原発が一時的に停止したことで、若手の職員たちは運転中の原発での業務が減りました。結果として、知識や経験を持つ職員が50代以上に偏っているのです。
高浜原子力規制事務所 山西忠敏 所長
「毎年リタイアしていく人が増えていくから(人が)確実に足りなくなると思います。経験者もそうですし、プロパー(新卒者)も入れていかないと、たぶん回らなくなるんじゃないか」
政府が進める原発利用 60年超運転が可能に
原発の利用をめぐる状況は、大きく変化しています。
福島第一原発事故のあと、「原則40年、最長60年」とされた原発の運転期間。
6月に改正法が施行され、経済産業大臣が認可すれば、原子力規制委員会の審査や裁判所の仮処分命令などで停止した期間の分だけ運転を延長できるようになり、60年を超えて運転することができるようになりました。
25年後の2050年には、国内に33基ある原発のうちおよそ半数の15基が、運転期間が60年を超えます。
政府のねらいは「2050年の脱炭素社会の実現などのため、原発を最大限活用したい」。法改正はその一環です。
高浜原発の周辺で住民に話を聞くと、安全を求める声も聞かれました。
40代男性
「新しい代替のエネルギーがきちんと決まってないみたいですし、せめてそれが決まるくらいは動かしておいたほうがいいと思います」
50代女性
「大丈夫かな?とは思います。最低限の安全を確保してくれたらと思います」
厳しい安全管理が求められるように
懸念される「安全性」。原発は、長期間運転すると放射線や熱の影響などで機器や設備が劣化します。
このため法改正後には、電力会社などの事業者が運転開始から30年以降は、10年を超えない期間ごとに管理計画を策定し、原子力規制委員会の認可を得ることが義務づけられました。
また、40年を超える運転に必要な「特別点検」と同様に、60年を超える場合にも点検が求められるようになりました。
事業者による安全管理は当然のこと、国による、より厳しい審査や検査が求められます。
しかし、原子力規制庁は審査や検査を行う若い人材の確保に苦慮しています。
原子力規制庁 金子修一 次長 (取材当時)
「目指してくれる方がいなくなるっていうのは非常に危機的な状況かと思います。採用難とかいろいろなことがあるのでそういうところをどう乗り越えていくかというのはわれわれの課題かと思います」
人材確保の取り組みは
国は原子力分野に進む学生を少しでも増やそうと、試行錯誤を続けています。
取り組みに一役買っているのが、近畿大学にある研究用原子炉です。
全国で研究用の原子炉を持つ大学は減り、今は2つだけ。そのうちの1つです。
この日は、原子力に関心のある学生を募って、実習が行われていました。
原子炉の出力を調整し、中性子の量を計測するため制御盤を操作します。原子炉の運転など、より実践的に理解を深めてもらうのがねらいです。
こうした設備のない東北大学や九州大学の学生も参加。
国が中心となって、全国44の大学などでネットワークを作り、学生たちが参加できるようになっています。学生の交通費や宿泊費は国が全額負担しています。
東北大学 大学院生
「専攻は核融合ですが、実用化まで時間がかかります。この講義にも参加させていただいて、原発の道もいいかもなという気分にはなりました」
九州大学 大学院生
「原子炉を動かすということはたぶん今後できないことだと思うので、いい体験ができました」
学生の進路は…コンサルも
ただ、原子力を学んだ学生がこうした分野に就職するかは不透明な状況です。
原子力分野に多くの人材を送り込んできた東京大学です。
原子力を学んでいる学生たちに話を聞くと、学んだ分野に就職するという声もあれば、ほかの分野に進むことを検討しているという声もありました。
修士課程2年
「エネルギー問題に関心があります。今のところ博士課程に進んで、そのあとは原子力メーカーに行こうと思っています」
工学部4年
「これまで自分が学んできた分野とは一致しませんが、外資系のコンサルに就職します。(この分野で)女性の割合が少ないというのが、女性の自分にとっては適応が難しかったです」
工学部4年
「原子力のことを学んだからといって別に原子力をやらないといけないわけでもないので、(進路を選ぶ際に)あまりそこを意識しているということはないです」
修士課程2年
「発電所の建設を新規にやるということがなかったりと日本での状況はあまり魅力的ではないです。(原子力業界は)エキサイティングに感じるところに乏しいかなと思っています。博士課程に進学すればおもしろい研究ができると思いますが、就職すれば高い給料の仕事や広い分野に関われる仕事があるので、迷っています」
この5年間に大学院を修了して就職した学生のうち、電力会社や原子力規制庁、原子力メーカーなどに就職した人は3割を下回っています。
背景には、東京電力福島第一原発の事故による意識の変化や産業としての魅力の低下などがあるとみられています。
国のプロジェクトで人材育成を担う教員は、幅広い分野を学んだ学生に興味を持ってもらえるようにすることが重要だとしています。
近畿大学 若林源一郎 教授
「仮に原子力発電所をこれからやめるにしても、やめるための技術者は必要です。原子力を勉強した人は原子力の分野にまず来てほしいし、でもそれだけでは足りなくて、それ以外の分野からもひきつけられる分野にならないといけません。“すそ野拡大”と最近言うんですけど、そういったことがひとつ重要になってくると思います」
取材後記
原子力規制庁の担当記者として取材をしていますが、原発の検査を実際に見るのは初めてでした。そして感じたのは、安全を守るのに欠かせないのは、機械でもAIでもなく、人だということです。
「原発の活用を進めたい」という推進の声、「原発の安全は大丈夫なのか」という疑問や不安の声など、さまざまな考え方や立場の人を取材することがありますが、どんな主張をするにしても、原発の安全を支える人のことを忘れてはいけないと思いました。
原発をめぐる状況が社会情勢や政策によって左右される中でも、“安全の担い手”がしっかりと技術や知識を持ち、役割を果たしていけるかということは、常に重視されなければいけないと思います。
(6月21日 おはよう日本で放送)
國友真理子
2016年入局
秋田局、水戸局をへて現所属
原子力分野の取材を担当