男尊女卑の「黒歴史」を超えて 世界有数の男女平等で豊かな国、アイルランドの今

「母と子の家」という名の「強制収容所」

 かつてアイルランドには「母と子の家」という名の未婚妊婦と子供の保護施設があった。1922~98年の76年間、途中で開設されたり閉鎖されたりしたものもあるが、のべ18カ所、その多くはカトリックの修道女会、一部は国により運営されていた。

 ドメスティックバイオレンス(DV)から身を守る弱者のためのDVシェルターのような「母と子の家」という名称。そして運営は「カトリックの修道女会」または「国」。そう聞くと、そこは未婚の母やその子にとっての理想郷だろうと思われる方もいるかもしれない。

 だが実態は正反対であった。当時のカトリック的価値観では、未婚での妊娠は大罪とされ、本人のみならず、家族の破滅も意味した。

 ゆえに家族は「堕落女性」を出したという秘密を隠蔽(いんぺい)するために、半ば強制的に彼女たちを「母と子の家」に送り込む。女性たちはそこで暮らし、出産することを余儀なくされた。「母と子の家」とは、そのやさしげな名称とは裏腹な「強制収容所」だったのである。

 さて、アイルランド西部にある人口約1万人の小さな町チュアムにも、25~61年にかけて、「母と子の家」があった。

 敷地内の古い汚水槽で大量の人骨が発見されたのは75年のこと。だが、当初これは19世紀中頃の「ジャガイモ大飢饉(ききん)時(主要作物であるジャガイモの壊滅的な不作により、当時800万人台だった人口のうち約150万人が死亡し、約100万人が食料を求めて米加豪などに移住した)」の遺骨と考えられた。

 ところが後に、これは「秘密裏に埋葬された子供たちの集団墓地」だといううわさが立つ。

 アイルランドでは何度も、教会や国の不祥事が隠蔽されてきた過去から、歴史家キャサリン・コーレスは、入念な調査を行い、うわさを裏付ける結果を2014年5月、全国紙に発表。それは、チュアムの「母と子の家」では運営期間中に約800人の子供が死亡、うち796人の死亡証明書はあるが埋葬記録は存在せず、乳幼児の遺骨は墓標もなく、施設の汚水槽に埋められているというものだった。

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