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『侍戦隊シンケンジャー』第一幕から改めて感じ取れる「命」「死生観」に対する疑念と引っかかり

昨日、公私共に仲良くさせていただいているフォロワーさんがそれぞれ『星獣戦隊ギンガマン』と『侍戦隊シンケンジャー』の第一話を視聴した感想を私に明かしてくれた。
その感想がとても衒いや飾り気がない新鮮なもので、長らく戦隊ファンをやっていると聞かない率直な意見が逆に思わぬ虚を衝くものになるとは私は想像し得なかったのだ。
私は基本的に外野の言葉を信用してはいないのだが、一方で何も知らない外野だからこそ出せる意見も時に無視できないなあと思うのである。

先に述べると「ギンガマン」の評価は◎、本当に見ていてスカッとするような「これこそエンターテイメント」というべき第一話で見ていてスカッとするとのこと。
次に「シンケンジャー」の評価は△、つまらないわけではないけど作品の世界観に乗り切ることができず見ていて高揚感を得られなかったとのこと。
同じ小林靖子脚本であるにも関わらずこの差はどうしたことかと思ったわけだが、理由自体はいくつか挙げられていたので箇条書きにしてみる。

  • 松坂桃李の演技が大根過ぎて感情移入できない。

  • 外道衆と戦うために選ばれた宿命の戦士という設定でありながら、緑と桃が変に現実世界の俗っぽさに染まっている。

  • 主人公が侍たちを危険な戦いに巻き込むことに反対しているのに、お目付役に絆されて戦場に出てしまっている。

  • ファンタジーなのか現実なのかがよくわからず、見ていてその世界観とストーリーに入り込めない。

こういった理由だったが、まあ確かにその通りであるなと……特に緑の千明と桃の茉子が中途半端に現実世界と関わりを持ってしまっているのは個人的に当時から好きではなかった。
「もっと練習しておくんだった」と言っているが、そんな心構えも準備も不足しているような奴を家臣として戦いに参加せるなという気持ちになるのもわからないでもない。
だが、特に私が「そうだ」と頷いてしまったのは3つ目の意見であり、家臣たちを呼び出す前に丈瑠と彦馬爺さんにはこなやり取りが見受けられた。

「待て!俺一人でやるって言っただろ!」
「いつまでそんなことを?意地を張ってる場合ではありませんぞ。ドウコクの強さはご存知のはず」
「だからだ!だから、そんな奴との戦いに巻き込んでいいのか?会ったこともない奴らを……」

それこそ昨日の記事で言及した「仲間の命を危険な目に合わせたルフィを叱り飛ばすナミ」とこのシーンの丈瑠が言っていることは似ているが、よくよく考えると変である。

本当に侍としての心構えや覚悟ができているのであれば家臣たちを集めることに反対なんてしないだろうし、戦いとなれば命が十把一絡げに扱われることはよくあることだ。
そこに良し悪しなどあるわけがない、というのは昨日も書いたので割愛するが、改めて見直すと終盤の展開まで含めてみると「何でこんな設定にしたんだろう?」という疑念と引っかかりが湧いてくる。
「家臣たちの命を預かることを怖がっている」なんて明らかに当主失格だし、「だったら戦いを別の奴に任せろよ」ということにもなりかねないのだが、これにはいくつかの理由がある。

まず1つ目に、「殿と家臣の主従関係」というテーマ自体が現代の子供達には馴染みのない設定であり、それを説得力を持って描くのは苦労するからではないだろうか。
例えば私が子供の頃は日立のCMで有名な水戸黄門シリーズが放送されていたが、あれは正に典型的なチャンバラ時代劇の文化であり、私たちの世代はそれに熱狂していた。
街の中で悪事を働く者がいてその真相を解き明かし、水戸光圀公が「スケさんカクさん!」と言うとチャンバラへなだれ込み、カクさんが「この紋所が目に入らぬか!」と印籠を出す。
その家紋に悪の侍たちがたじろいでひれ伏し罪を裁くわけであるが、こういうわかりやすい「」が時代劇にあって、それをお約束として楽しんでいたものだ。

しかし、「シンケンジャー」の頃にはすっかりテレビ文化としての「時代劇」が失われつつあり、「シンケンジャー」はその再生と復権を戦隊シリーズという枠で果たそうとした。
そんな中で殿に傅く家臣たちという設定をそのまま描いてしまうと、何やらファシズム(結束主義)じみていて気持ち悪いという風に受け止められてしまうのではないだろうか?
確かに水戸黄門や暴れん坊将軍のような型にはまった時代劇をそのまま工夫なく描いても、例えば「忍者キャプター」がそうであるように安っぽい時代劇コントになりかねない。
また、時代劇となるとそれだけ芝居がかった重厚感のある演技力が必要となるため、それだけ重みのある芝居を当時の若者たちができるとは到底思えなかった。

私たちは時代劇において描かれる主従関係がどんなものかはテレビ文化として日常に存在しているから知っているが、今はもうNHKの大河ドラマくらいでしか時代劇は見られない。
そんな中でガチガチの主従関係を描いてしまうと、それこそ『超力戦隊オーレンジャー』がそうであるように主体性のない操り人形のように見えてしまう危険性がある。
千明や茉子のような現代社会の俗っぽさに染まってスレてしまっている奴を出したのもそういう「現代っ子目線」となる奴を出すことでバランスを取ろうとしたのだろう。
同時にそこが「ギンガマン」との大きな違いになっており、「ギンガマン」は5人全員がギンガの森の中でバルバンとの戦いに備えてきた戦闘民族であるから、そこが大きく違っている。

2つ目にこれが大きな問題だが、主従関係を描くということは当然家臣たちが命を投げ打つ展開、そしてその逆の殿が命を投げ打つ展開が予想される。
その度に丈瑠たちは命を背負うことの重さを実感することになるのだが、もしそれが原因で誰かが死んでしまったり戦いが嫌になったらどうするのか?という問題があるのだ。
幸いシンケンジャーは何だかんだ戦いには前向きとはいえ、決して自発的ではなく「丈瑠がそう言うから戦う」という一種の操り人形のような存在である。
そこにおいて丈瑠が「お前らは所詮駒だからいつでも命を投げうて」と言い出すような暴君だったらどうするのか?という疑念や引っかかりはあるだろう。

つまり何が言いたいかというと、例えば「ジェットマン」で度々描かれていたが、戦いが嫌になって二度と戻ってこない場合どうするのか?という問題を戦隊シリーズはなぜか描かない。
また、組織を裏切ったり不義理を働いたりしたという理由で別の人間に戦士を交代するといった展開も決して描かれることがないのが不思議である。
まあそれは組織のリアルを戦隊の枠組みで描きすぎると「ヒーローとしてどうなの?」となるだろうし、組織として見ても大問題だろう。
じゃあここで、かつての学生運動やオウム真理教のようにメンバーの脱退を許さずに同士討ちに走られたり、地下鉄にサリンを巻くテロ行為をされたりしても困る。

「シンケンジャー」の第一話で「何で殿がそこまで家臣たちを巻き込むのを反対するのか?」ということを真面目に議論しようとする戦隊ファンはほとんどいない。
ほとんどが終盤の展開でその理由に納得してしまうわけだが、今回フォロワーさんに率直な感想を貰えたおかげで戦隊シリーズの昨今の「命」「死生観」に対する疑念・引っ掛かりが明らかとなった気がする。
今のスーパー戦隊シリーズは表向き「命が大事」などと能天気なことを言いつつ、戦時における命の扱いをよくわかっていないが為に既成のテンプレートをなぞっただけの展開が多いということだ。
もっとも、何でもかんでも説明しないと理解できないくらい読解力・理解力が下がっている若い人たちがそんなところまで考えながら作品を見ているかというと怪しいところだが。

要するに、正義の戦争と不正義の平和、どちらが望ましいか?という本質的な問いに答えられるかどうか、ここが1つスーパー戦隊シリーズを読み解くキーになるのではないかと思う。


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『侍戦隊シンケンジャー』第一幕から改めて感じ取れる「命」「死生観」に対する疑念と引っかかり|ヒュウガ・クロサキ
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