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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第八章 桃源の人々
105/220

8-20 太乙真人6

お待たせしました。

 音が消失した。

 ……違う。終わらない落雷音に可聴域が飲み込まれて麻痺し、耳が音を認識できなくなったのだ。

 ドームの屋根がひび割れて見えた外界の様子は、まばゆい白。雷光の瀑布に街の半分が沈没してしまっている。方角はユウタロウを向かわせていた黒八卦炉があった方向である。

 膨大な『魔』の供給源になる超アイテム、黒八卦炉の回収は依頼していた。が、誰も街ごと破壊しろとは言っていなかったような。


「なんじゃ、この放電量はッ。雷公鞭らいこうべんとでも言うのか!!」


 俺も十分驚いていたものの、一番驚いているのは太乙真人たいいつしんじんだった。体を格納している球体が一時的に浮力を失い落下しかけたものの、副電源に切り替わったかのように持ち直している。


「炉からの『魔』供給が停止したとな?! これは、たまげた。真なる人よ! ここまで追い込まれては仕方あるまい。遊戯もこれまでじゃ!」

「追い込まれてから本気を出すのは二流の行動だぞ、太乙真人!」

「しかり、しかり。ワシもまだまだ若いという事よ!」


 作戦通り、ユウタロウと地球からの助っ人(すけっと)魔法使い――間違いなく、落花生だろう――が敵のエネルギー供給源をってくれた。作戦は上手くいったものの、問題は太乙真人が本気はどれほどか。

 老人の細く閉じられていた瞳が開かれていく。

 眼球の片側は黒く、片側は白い。渦を巻くような図を成した異様な瞳が回転を始めて、色が混じり合っていく。



「炉はなく、備蓄バッテリーもそう長くは続かんのでな。大人気ないがこれでしまいじゃ。――宝具『太極図たいきょくず』よ、神羅万象を制御せし万能の権能をもって命ずる。真なる人よ、“動くでない”」


==========

宝貝パオペイ太極図たいきょくず』。


 創造神の権限を行使するための証であり、世界の内側のみに対してであるが万能の命令権を有する。

 ありとあらゆる命令が可能であり、世界構造にさえ口出し可能な絶対性を保持する。ただし、稼働させるための『魔』の消費量も創造神並みに求められるため、管理神級であっても世界的なルールの変更は現実的ではない。

 命令内容を限定して使用したとしても、並の仙人ではからびる。”

==========



 体が……動かない。

 指一本どころか鼓動一つできなくなって血の循環が止まる。脳への酸素供給が止まって意識が遠退く。

 足でバランスを取る事も当然できず、ナターシャの高速飛行体から落ちていく。


「残量がごっそり減ったのぅ。まあ、必要経費じゃ。とりあえず、手付けにサンプルを採らせてもらおうかの」


 球体に入ったまま直線移動する太乙真人は、奈落へと降下中だった俺に急接近する。

 格納式のアームが球体から伸びる様子などは、マッドサイエンティストのびっくりドッキリメカそのものだ。

 動けない俺の胴体がアームに掴まれた。

 別方向から伸ばされたアームの先には注射針が接続されており、首を掴むと同時に刺してくる。患者の事などお構いなしに、掃除機で吸い出すみたいに体の中身を吸引していく。


「抵抗できまい。それとも意識がもうないかのぅ。心配せんでも、真なる人のすべてを解析して、不可思議をあばき、取りこぼしなくワシのものとしてくれる。……さて、どのような成分構成をしておるのか――」


==========

 ――Void。

 ――Void。Void。Void。Void。Void。Void。Void。

==========


「鑑定不能。ホホ、そのくらいはお見通しじゃ。できれば、自力で解明したかったが、余裕はないのでな。反則であるが使うとしよう。宝具『太極図』よ、真なる人のすべてを解明せよ」


==========

 ――Void。Voi――物質粒子検出、ゲージ粒子検出。ヒッグス粒子検出、メタ量子検出――、

==========


「ほうほう、それで?」


==========

 ――無より有の発生示唆。創造神因子と目測。観測世界の向こう側にありし存在にいたる道しるべ――

==========


「やはりか! これで、ワシもワシを超えた次なる知性体、創造神の仲間入りじゃな。黄昏たそがれた世界から巣立ち、世界の外で次なる未知に挑むとしよう」


==========

 ――ERROR、定義矛盾。有より無への変化計測。世界の壁の超越性を検知。観測世界の内側から外側へのエネルギー流出は創造神に不可能。不可逆の事象。創造神にあらず――

==========


「なんじゃ、と??」


 太乙真人の回転する瞳が、ぎこちなくなり動きをにぶらせていく。太極図の白と黒が反転し、互いの領域が入れ替わっていく。


==========

 ――ERROR。矛盾。ERROR。未知なる存在。ERROR。感情の超越性。ERROR。太極図の機能オーバー。オーバー。オーバー。オーバー。

 OVER.OVER.OVER.OVER.OVER.

 OVER MIN――

==========


 性能以上の命令を実施しようとして過剰駆動した宝具は、限界に達して吹き飛ぶ。

 目から煙を吐く狼狽ろうばいぶりを見せる太乙真人は、はたして見えただろうか。


「――深淵を覗き込む時、深淵もまたお前を覗き込んでいるのだ」

「お前はッ、なんだ?!」


 動けないはずの俺が動き始めた光景を。

 動けないはずの俺が動いてアームから逃れて、刺突ナイフを取り出して仙人の喉を突いた光景を。



「『暗殺』発動!」



 心のすきは十分に突けた。タイミングとしてはこれ以上ない。

 ……だというのに、あまりにも手ごたえが奇妙だった。肉ではなくゴムを突いたような微妙な感触である。


「太乙真人。この感触は、まさか!」

「ありえぬッ! あえりえぬゥゥッ。ワシは太乙真人。ワシこそが太乙真人! ワシに扱えぬ神秘などあり得ぬわ!!」


 目を失い、首にナイフが突き刺さっても太乙真人はまだ動く。ちょっとしたゾンビのごとくであるが、いや、ゾンビ未満だろう。生命の定義から外れており、『暗殺』が効く手合いではない。


「ナターシャ! ピックアップ!」


 太乙真人の球体を足場にして跳躍する。飛んできたナターシャ機の背に乗って上昇する。


「仙人は不老不死なのか。化物め」

「あいつは駄目だな。『暗殺』できないから、物理的に破壊するしかない。それとも、そろそろ『魔』切れするから、それまで待つか」

のぼりを見ろ。十絶陣を同時使用し始めたぞ」


 十絶陣だけで済めばいいが。球体の中から今まで隠していた鞭やら棒やらがせり出している。エネルギー切れを気にせず、瞬間火力で俺達を粉砕するつもりのようだ。

 いいだろう。真っ向勝負で跳ね返す。

 ……俺ではなく、落花生が。


「そこですか、御影ぇっ!!」

「来たな、落花生。さっそくで悪いが、最大火力でぶっ飛ばせ」

「御影に全力キックをブチかますですッ!!」


 いや、俺に向かって雷キックで跳んでくるな。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[一言] 仙人じゃなくてパオペエでテセウスの船した存在かな
[一言] OVER MIN... ってオーバーマインドか まさかこんなところで他作品と繋がるとは
[一言] あの世ってオーバーマインドの世界かよ 良かったね創造神に至る方法を探してその更に上を見つけたぞ
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