8-4 鑑定不能にも様々
『鑑定』には嘘を見破る機能もあったのだ、などという新事実はない。どうもアイサの洞察力が高いから嘘が通じない、というのが理由らしい――なお、俺限定。
「黒曜が捕まったって聞いていたけど」
「人質というか、体を捕らわれているからには無事だと思いたいが」
「……ちょっと待って。今、意味と言葉が一致しない単語がなかった?? 御影君の交友関係どうなっているの」
アイサの現在のレベルは20中盤。皐月やラベンダー達とは異なり、魔界遠征によるレベリングを行ってはいないようだ。
「魔界の一部が地獄化して、モンスターさえ生息できない領域が出来上がっているって話をリリーム姉が」
あの魔法少女共は何を仕出かしているのか。
「僕もレベルアップする予定があったけど、中止したんだ」
黒八卦炉を使った召喚は今なお謎であるが、考察はある程度行われている。
レベルが低い分、脅威度も低いと見積もられ、黄昏世界の警報システムをすり抜け易くなる。結果、滞在時間が伸びるというのが地球組の見解らしい。実際、アイサの滞在時間はラベンダーの滞在時間をもう超過している。
「その警報システムによって強制送還されるという訳か」
「少し違うみたい。警報システムに発見される直前に地球に戻されているって。凶鳥に管理神から直接攻撃がないのは、発見されていないからだって僕達は考えている。管理神は人類の個人特定が苦手みたいだから。僕達の世界の使えない神様がそうだし」
「管理神、御母様が敵なのはほぼ確定なのか……」
「……ちょっと待って。今、聞き逃せない重大事実がなかった??」
アイサの感覚では、最低でも半日くらいは黄昏世界に滞在できそうという話だ。
余裕があるなら、アイサには『鑑定』でもっと調べてもらおうか。例えば、丁度話題に挙がった黒八卦炉の宝玉とか。
起動状態の黒八卦炉の宝玉をアイサに手渡して、鑑定を頼んでみる。
「――鑑定結果は、神性遺骸。ナンバーは壱。未成熟のまま終わった星の残炎。詳細はUnTouchableって現れた。凶鳥のVoid属性とも違う。UnTouchable属性は管理神以外では初めて」
地球組は、ウィズ・アニッシュ・ワールドの管理神たる初代救世主と地球の管理神たるエキドナの二柱の全面協力を取りつけている。管理神を鑑定できる奇跡的な機会がアイサには多かったようだ。
「UnTouchable属性ってどういう意味だ?」
「隠されていないけれども、神性の情報に安易に触れるのは危険って意味らしい。怒りっぽい神性だと、視た瞬間に神罰で頭が弾け飛ぶかも」
「触らぬ神に祟りなしか。ちなみに、俺のVoid属性ってのは?」
「神性も解析不能の何か。触れたくない深淵?」
俺のVoid属性は『正体不明(?)』の影響だろう。決して、俺が神様でさえ触れたくない程にばっちい訳ではない。
「正体不明ならUnKnownになりそうなのに、空って意味のVoidなのか」
「鑑定不能なのは同じだけどね。……そこにいる人みたいに」
ははっ、アイサは妙な事を言う。
俺の後方に控えている現パーティーメンバーを見ながら「鑑定不能がこんなに集中しているのは凶鳥らしいけど」とか警戒心高く言っちゃって。ユウタロウは普通の大学生だって。
機嫌悪そうにユウタロウは鼻から息を吐く。
「森の種族の不躾さは今更だが、他人の秘密を探る実に不愉快な目だ」
「ラベンダーさんから聞いていたけど、本当にオークがいるなんて。オークなら、僕と同じ世界出身で間違いない? ネームドのオークはそんなに多くないはずだけど」
「黙れ、何も暴くな。無関係なエルフの小娘ごときが名前を言い当ててみろ、その首を引き千切るだけでは許さんからな」
「お、おい、ユウタロウ。言い過ぎだろ」
アイサを完全に拒絶した青春オーク野郎は小屋から出て行ってしまった。失礼な奴である。カワイイ子との会話に慣れていないからって、仕方がない奴だ。
言いたい事を言われたアイサも神妙な顔付きだ。
気分を変える必要があるな。俺達も外に出よう。もう少し後で、桃源に怪しい場所がないかを調べてもらおうとも思っていた。
扉を開いて一人で外に出る。ユウタロウの後ろ姿は見えず、気まずくなる心配はなさそうだ。
「アイサ、外も鑑定してもらいたいが問題ないか」
家にいるアイサを呼んだ。
少し遅れて、アイサとクゥの二人が出てくる。物騒なアンチマテリアルライフルを置いてきてくれたようだ。
上空の見慣れない巨大な太陽を見て、クゥは頭を押さえていた。
「さて、行くか」
「ぅ、うん……」
黄昏世界では貴重な涼しい里を散策する。
不穏なものは特に見当たらない。普通に田舎の風景だ。人間以外もたまに見かけるが、農民の農作業を手伝っているだけだったりする。
強いて言えば、植生の偏りに違和感を覚える。生えている木が一種類だけで、すべてにモモが実っている。遠くに見える山もすべて果樹園のごとく同じ木だけだ。
「なんだか、人工的な感じがする」
「本当に作り物なんだと思う。この里全体が大きな容器みたいな感じになっていて、一種類の果物を育てているみたい」
「食用なのかな」
「うーん、甘ったるい。はい、どうぞ、アイサさんに御影君」
クゥが既に一つもいで食っていた。低い位置に生えている実から、俺とアイサの分も取って手渡してくれる。
毒に耐性のある俺はまったく警戒せずに皮ごと食べる。
アイサは鑑定してから口をつけた。
「桃そのものだ。糖度もかなり高い」
「すごく美味しい」
そういえば避暑地を作り出す宝貝に人間を保護している、と紅孩児が言っていたな。人工的な理想郷であれば甘い実が育っているというもの。ここまで甘く、形も揃ったモモが自生しているはずがない。
「あそこが気になるから行っていいかな、凶鳥」
気になる場所を感じ取ったアイサが指差したのは、里から少し離れた山の方角だ。俺は特に感じ取っていなかったものの、鑑定スキル持ちのアイサが気になるのであれば調査しない訳にはいかない。
里の境界を越えて、山を登る俺達三人。
「……ちょっと止まってもらって、いいかしら」
気配を巧妙に消していた白い女性の妖怪が突然現れて道を塞いだ。
会議で紹介された妖怪の女性だった。彼女一人ではなく、武装している妖怪が少し遠くから俺達を見張っている。
「救世主の人達でも、無断の立ち入りは遠慮してもらいたいわ」
「白娘子さん、でしたよね。ここには何が?」
「ごめんなさい。それを教える事も私の一存では……いえ、紅孩児が来てくれたようね」
里の方角から黄金雲が飛び、上空を通過する。
雲から飛び降りたのか、チューブトップ姿の妖怪、紅孩児が降って現れる。
「目聡いじゃねえか、御影。言っていなくても、やっぱり気になるか」
「物々しい感じだな。桃源の秘密の場所だったら遠慮しておくが」
紅孩児は考える仕草を見せたものの、すぐに顎をクイっと動かして俺達を道の向こう側に誘う。
「桃源に呼んだ時点で隠すつもりはねぇよ。それに、もうお前等も持っているようだからな」
俺達も所持しているとは何の事だろうか。
「ここを維持する『魔』の供給源に、黒八卦炉の宝玉を使ってんだ」