8-1 空での第二戦目
『――哨戒機一一八より電脳機へ通達。
所属不明の飛行物体を目視。約一.一州の速度で西から東へ向けて領域侵犯しているが、本機の性能では追撃困難と思われる。指示を乞う』
『――電脳機より哨戒機一一八へ。
撃墜は緊急発進した特機一が引き継ぐ。貴機は可能な限り追尾せよ』
赤天をかなりの速度で飛ぶ黄金の雲がある。速度や色はともかく、雲が空にある事自体は不思議ではない。
マネキン人形のような物が浮かんでいる異様さよりは、という相対的な評価であるが。
マネキン人形は頭上の大きな輪っかを用いて飛行している様子だ。原理が分からないので宝貝だろう。セスナ機に匹敵する速度で飛行している。とはいえ、それでも同じ宝貝たる黄金の雲に追いつくのは難しい。
『――哨戒機一一八、指示受領。
本機も特機一を目視。約三.五州の速度で飛行中。所属不明飛行物体まで残り――』
しかし、マネキン人形を追い抜いて飛び去った機体は、黄金の雲よりも更に速い。
マネキン人形とは大きく異なる、その大気を切り裂く流線形の機体。炎と風の混合物で得た莫大な推進力を利用した飛行方式も異なった。
機体下部には空力的に不利となる追加装備が見受けられるが、それでも速度は黄昏世界の多くを圧倒する。
『――特機一、コードネームNATA。ターゲットを目視。戦闘モードへ移行。ターゲットに対して外部接続追尾兵装、識別名、宝貝『乾坤圏』による攻撃を開始する』
窓がないので外の様子は一切、分からない。ただ、耳抜きを必要とするこの気圧変化は、グアム行きに乗った時のものと同じだ。かなりの高度を俺達は飛行していると思われる。
俺達は全員、黄金の雲の内側に入った状態で運ばれていた。気圧変化や上空気流を考えれば、雲の上に乗るなど危険以外の何ものでもない。
古の時代には多くのショッピングモールやスーパーマーケットの屋上にさえ存在したという、空気を充満させたエアー遊具を彷彿とさせる弾力ある雲の内壁。ある種のノスタルジーを呼び起こすが、黄昏世界の人間はその限りではない。慣れない空間に押し込まれて運ばれる村人は終始困惑している。
「グェぇ、出して。私をこの牢獄から、出して」
「外に出たら真っ逆さまだぞ」
「それでもいいから、出してぇぇ」
クゥのように酔っぱらって死にそうな顔をしている人間もそこそこだ。
必然的に休憩を多く挟む事になってしまっている。それでも、そろそろ西海岸くらいには到達していてもいい頃合いだろう。
「目的地の桃源にはまだ到着しないのか?」
「もうすぐだから黙って待っていろ……と言いたかったが、ちぃ、面倒な奴に発見された。太乙真人の野郎の人形だ」
雲の先頭部分にいる機長、角一本の女妖怪に飛行状況を訊ねにいった時だった。彼女は額に汗を浮かべて、外が見えないというのに後方を窺い始めた。
「救い出す人数が多過ぎたか。雲が大きくなり過ぎた。クソ、後悔しても仕方がねぇよな!」
突如、女妖怪はモコモコしている操縦席へとバイクのように跨ると、スロットルを握り締めて、回す。
黄金の雲は急激に速度を増したため、乗客は位置エネルギーの赴くまま床や壁にぶつかる。弾力ある雲なのでぶつかっても負傷はない。
「えー、お客様。このたびは当機への乗車ありがとうございますだ、この野郎!」
「おい、突然どうしたっ」
「追尾されてんだよッ。振り切れるかは分からねぇ。いや、この速度で追尾してくる相手となれば、太乙お気に入りの人形で間違いないな。ほぼ間違いなく撃墜される」
黄昏世界は空の旅も安全とは言えないらしい。
「お前、ちょっと外に出てどうにかしてこい」
「いや、無茶を言うなよ?!」
「何もしなければ、もれなく全員で自由落下だ。俺は操縦で忙しいから、手の空いているお前がどうにかしてみせろ」
無理難題をふっかけられたものの、俺だってパラシュートなしでフリーホールしたい訳ではない。
できるか、ではなく、やらねば死ぬ、という背水の陣で迎撃作戦に従事する。
「どこから外に出られる?」
「強く頭から突っ込めばどこからでも。回避で動きまくるから、振り落とされねぇように行ってこい!」
言われた通りに天井の雲へと頭から潜る。狭い中を平泳ぎで突き進むと、赤い太陽の光に目が眩んだ。
上半身まで外に出して、進行方向の反対側へと体を向け直す。
風が強く、上半身を押されまくるものの耐えられない程ではない。
「……アイツは、高速飛行でレーザー狙撃してきた奴かッ!」
高速で飛行しているはずの黄金雲を楽々と抜き去った影が、俺の顔を一瞬で過ぎ去っていく。
妖怪共が次々と襲来し、世界樹やパ……混世魔王まで現れたあの夜に現れた強敵、高速飛行体のシルエットそのものだ。
『コントロールZ』で時間を巻き戻してなお、照準補正したレーザー狙撃で殺しにきただけに殺傷能力が高い。対処方法を間違えれば、一瞬で敗北しかねない。
『――仮面の人類を目視。救世主職の可能性を留意。頭部損失を回避するため、先んじて救世主職を攻撃し、頭部を回収する』
「戦闘機というか、無理に変形しているというか。妙な形状だ」
『『乾坤圏』、回転数上昇。規定値をクリア。三輪バースト』
「うぉ、何か撃ってきたぞ!」
追い抜いた高速飛行体――女妖怪は人形と言っていたが人形に見えない――は高速旋回した後、黄金の雲の後ろに迫る。と、同時に機首の下側にある平べったい発射口より何かを撃ってきた。
以前とは異なりレーザー光ではない。実体弾だ。レーザーなら新スキルで反射できたというのに武器を変えてきたか。
フリスビーに似た円盤形状の物が回転しながら向かってきている。しかも数は三つも。
足場としては最悪な雲の上で足を使った回避は考えられない。だからと言って、防御できるかというと、回転しているところに嫌な雰囲気がしている。
『宝貝『乾坤圏』の特性は自動追尾、自動帰還。されど、一番の特性は『守』無視攻撃にあり。それを、念には念を入れた三輪同時攻撃。だが、それすらも布石でしかない――』
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“宝貝『乾坤圏』。
円形の刃で出来た武器。投げれば自動で対象を追い、一定時間経てば自動で手元に戻ってくる。
されど、その真髄は鋭利な刃に備わる『守無視』効果にある。対象の『守』を完全に無視してダメージを与える事が可能”
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「安易だが、『暗影』発動――」
『――回避先の測定完了。時間を五秒遡行した後、照準補正を実施する。『コントロールZ』実施――』
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▼人形、NATA
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“●レベル:128”
“ステータス詳細
●力:193 ●守:458 ●速:931
●魔:64/64 → 14/64
●運:0”
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『――遡行完了。世界を救える可能性を有する救世主職に反撃の機会を与えはしない。三輪放出の後、搭載されている残輪七つをすべて放出する』
「うぉ、何か撃ってきたぞ!」
……妙なデジャヴを感じつつも、向かってくる円盤に対処する事にした。
足場としては最悪な雲の上で足を使った回避は考えられない。だからと言って、防御できるかというと、回転しているところに嫌な雰囲気がしている。
ここは一つ、試してみるか。
「安易だが、『暗影』発動――」
どうにもならない攻撃に対しては『暗影』を使う。お手軽でありながら確実な手段でもあるアサシン職のSランクスキル。が、無敵のスキルという訳ではない。
たとえば、何らかの手段で回避先を狙われた場合である。連続使用で逃げるにしても多少の隙が存在する。ミリ秒単位の隙であるが、それを狙える敵がワザワザ狙わない理由がない。
今回がまさにそうだ。
三輪を避けて空間跳躍した先には……より高スピードで射出された七つの円盤が存在した。
「三つの円盤はチェンジアップか! ワザと遅い攻撃を『暗影』で避けさせて本命を――ッ?!」
後から放たれた七つ円盤は全方向より包囲を絞り、俺の首を七方向より斬り刻む。
チェンジアップ以降の言葉は、ボトりと落ちていった俺の首が喋っていた。
『目標キル。落とした頭部を回収する』
「――まったく、『分身』した自分の首でも、見たいものではないな」
『目標が元の位置で健在ッ?!』
俺が使ったスキルは『暗影』ではない。『既知スキル習得』経由の『擬態(怪)』と『分身』である。
『擬態(怪)』で乗っている黄金の雲に化けて俺自身は同じ場所にとどまっていた。跳躍したのは『分身』後の俺だ。『暗影』以外の新しい回避方法として使えるな、これ。範囲攻撃されると厳しいが。
残念ながら、分身体を首チョンパされた所為で『擬態(怪)』は一瞬で解除されてしまった。本当なら、三輪も擬態したままやり過ごすつもりだったのに、仕方がない。
まあ、俺が目で追える程度に遅い円盤なら対応できるか。
「一つ目を『暗器』格納ッ」
首を狙って直線的に向かってくる円盤の一つ目を、手の平で受け止めて格納する。いい加減、飛び道具を『暗器』で格納する紙一重にも慣れてきたものである。
「すぐに『暗器』解放で、二つ目とぶつける」
格納したばかりの一つ目と、直後に来た二つ目の円盤を衝突させて相殺する。互いを斬りつけた円盤はガラスのように粉々だ。
「三つ目をまた『暗器』格納ッ。奇数で撃ってきたのが悪かったな。返してやるよ、『暗器』解放!」
同じ軌道にあるので、三つ目も危なげなく格納に成功した。
手の平を構え直して、分身体の転がる頭の方に向かっていた敵に向けて円盤を返してやる。
命中させられるとは正直思っていなかった円盤は、勝手に軌道修正して敵の胴体を斬って貫通していく。
『――解析不能。解析不能! 本機の維持を最優先。『コントロールZ』による遡行で『乾坤圏』の射出機を盾にッ。武器喪失! 戦闘能力縮小により戦闘区域より離脱する――』
胴体を貫通させたと思ったが、機体下部の発射装置を盾にしたか。
それでも、お得意の高速飛行で敵は急速に遠ざかっていく。
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“ステータスが更新されました
ステータス更新詳細
●実績達成ボーナススキル『武器強奪(強)』を取得しました”
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“『武器強奪(強)』、相手の武器を奪う不届きな輩のスキル。
戦闘中だろうと休憩中だろうとお構いなく、武器の強奪確率が上昇する。
強奪時には所有権を含めて奪うため、盗み対策が施されていたとしても無効化できる”
“実績達成条件。
戦闘中ばかり、他人の大剣やら矢やら宝貝やらを奪い続けた結果の強達成”
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誰が強奪だと。俺に向かって捨てられた武器を再利用しただけだというのに、失敬な!