リンク先の番組で他の当事者の声やミッドライフクライシスを乗り越えるヒントとなる取り組みを紹介します↓↓
その不安「ミッドライフクライシス」かも? 乗り越え方は?
「どうしていいかさっぱり分からなくて、パニックになった」
長年システムエンジニアとして働き、2人の息子を育てあげた50代の男性。会社で受けたセカンドライフ研修がきっかけで、定年を強く意識し、“心の危機”におちいったといいます。
40代~50代の中年期に「人生このままでいいのか」と悩む“ミッドライフクライシス”。心理学の専門家がすすめる乗り越え方とは。
(首都圏局ディレクター 阿部愛香・社会番組部ディレクター 田淵奈央)
クローズアップ現代「中高年が陥る心の危機 モヤモヤから抜け出すには?」
NHKプラスで7月16日午後7:57まで配信
突如として意識した「定年」 漠然とした不安が襲う
システムエンジニアとして働いている西村秀久さん(54)です。
これまで約30年間、勤務が長時間にわたることもありましたが、妻と2人の息子のために黙々と働いてきました。
西村さんが“心の危機”におちいったきっかけは2年前、会社でセカンドライフ研修を受けたことでした。
研修の内容は、55歳で迎える役職定年や65歳で迎える定年退職についてなど。西村さんは突如として「今後の人生」を強く意識するようになったといいます。
西村秀久さん
「定年というのがひと事だったのが自分事になってきました。研修で情報はたくさんもらったけども、自分がどうしていいかはさっぱり分からなかったです。研修を受けたあとは漠然とした不安、先が見えない不安がありました」
不安を解消するための何かヒントがほしい。西村さんは関連しそうな本を図書館で借りて読みあさりました。
そうしたなかで自分が「ミッドライフクライシス」にあたると理解できたのです。
しかし対処法について本から得られたのは「趣味を見つけましょう」といった一般的なアドバイスだけ。自分の場合はどうすればいいのかを知ることはできませんでした。
逆に本を読むなかで、定年のことだけでなく年金のことや健康に関する情報にも触れ混乱する瞬間があったといいます。
西村秀久さん
「いろんな情報を頭で考えていると収拾がつかなくなって、ある意味パニックのような状態におちいってしまいました。情報が絡みあうということがミッドライフクライシスなのかなと思います」
育児が一段落し40歳で「人生このままでいいのか」
子育てが一段落したとき、残りの人生に迷いが生じたという人もいます。
11歳と19歳の2人の子どもを育てる佐藤奈津子さん(仮名・42)です。
佐藤さんは19歳のときに地方から上京し、23歳のときに第一子を出産。その後、第二子も生まれました。
地元を離れていたため周りに頼れる親戚はおらず、パートで働いてもいた佐藤さん。孤独な子育てだったといいます。
佐藤奈津子さん(仮名)
「無我夢中で必死で自分のリフレッシュの時間もなかなか取れなかったです。子育ても家事もやることがいっぱいあって、『自分だけが大変だ』みたいな気持ちになっていました」
料理を作るときは、子どもが何を食べたいか。休日に出かけるときは、家族がどこに行きたいか。さまざまなことを家族優先で考えるうちに、自分の気持ちにふたをするようになりました。
そして上の子どもがほぼ手を離れ、佐藤さんが40歳になろうというときでした。「自分の人生はもっとよくできたのではないか」「このままでいいのだろうか」と迷いが生じたのです。
佐藤奈津子さん
「40歳になるとき、すごく嫌だなと思ってしまったんです。目の前のことを一生懸命やってきたんですけど、その先のことはなかなか考える余裕がなかった。残りの人生のことを考えると、どんどん年だけとってしまって『どうしよう』と焦りを感じました」
誰しもおちいりうる心の危機 “自分を責めることではない”
定年を意識することや子育てが一段落するなど、社会的変化がきっかけとなるミッドライフクライシス。
生物学的にも「起こるべくして起こる」と指摘する人がいます。加齢が脳に及ぼす影響について研究している、東北大学の瀧靖之教授です。
瀧教授がミッドライフクライシスの要因の一つだとするのが、脳のある領域の萎縮です。
それが「前頭前野」と「海馬」。どちらも不安やストレスを抑える働きを持っています。この領域が加齢によって萎縮することで、“心の危機”におちいるといいます。
東北大学 瀧靖之教授
「中年期は多くの社会的ストレスがかかりますが、生物学的にもミッドライフクライシスが起きやすい条件がそろっていると言えます。『ミッドライフクライシスになってしまった』と自分を責めるようなことでは決してないです」
瀧教授は、ミッドライフクライシスを乗り越えるためには「運動」と「趣味」が重要だといいます。
東北大学 瀧靖之教授
「有酸素運動、息がはずむような運動によって海馬の神経が新しく生まれることが分かっています。また、前頭前野の加齢による変化は、知的好奇心を持つことで抑えられるという報告もあります。趣味などを通じて何かに“ワクワク”することがとても重要です」
カギは「領域別に具体化」と「過去の自分を探る」
では不安や悩みそのものには、どう対処したらよいのでしょうか。
公認心理師でミッドライフクライシスにおちいる人へのカウンセリングも行う中島美鈴さんは「悩み方にも正しい手順」があるといいます。
中島さんが挙げるポイントが「領域別に具体化」することと「過去の自分を探る」ことです。
ポイント1「領域別に具体化」
まずは感情を書き出すことがおすすめです。感情との距離が近いと、人は視野が狭くなり思考がネガティブになりがちです。感情を書き出せば「文字」となって外在化され、それが視覚から取り入れられることで感情と距離をとることができます。
またひとことでミッドライフクライシスといっても何に悩んでいるのか具体的に考えず、問題が見えてこないケースも多いです。そんなときは領域別に書き出してみる方法がおすすめです。例えば下の図のように「からだ、心理、趣味・教養、生活、仕事、お金、人づきあい、その他」といったようにモヤモヤを仕分けて書き出す方法はいかがでしょうか。
このとき注意してほしいのは「悩み」ではなく「希望」の形で書き出すことです。例えば、からだについて“足腰は大丈夫だろうか”といった形で書き出していくと、“こんなに解決できない!”とむしろ落ち込んでしまう可能性もあります。“健康に歩き続けたい”などといった「希望」の形で書き出すのが肝です。
実は定年を意識してミッドライフクライシスにおちいった西村さんも、スマートフォンのメモを活用して「書き出す」ことを実践していました。
健康面や経済面、仕事といった自分なりの仕分け方で定年後の希望を書いたことで、「モヤモヤを“少し横に置いておく”ことができるようになった」と話していました。
ポイント2「過去の自分を探る」
希望を書き出そうとするとき、“こうあるべき”と自分以外のどこかから基準を引っぱってきてしまう人が多いです。本当に自分の価値観=「好き」に沿って書いたか自問しながら書き出してみてください。
とはいっても、大切にしたい価値が何か分からないという相談も多いです。そんなとき手がかりになるのは、自分の過去を振り返る「自分史」です。例えば、横軸を0歳から現在の年齢にして、縦軸を人生の“浮き沈み”にして、グラフを書きます。グラフが高い部分で何があったのかを探ることで大切にしたい価値観のヒントが見えてきます。
子育てが一段落し、残りの人生に迷いが生じた佐藤さんもこの方法を実践。浮き沈みのあるグラフを見て「頑張ってきたんだなと自分の過去を肯定できるようになった」と話していました。
他にも大きい書店を歩いてみて足がとまりがちな分野はどこか確認してみる、スマートフォンの写真フォルダを見てどんな写真が多く入っているか確認する、小学生くらいのときに利害関係抜きで夢中になっていたものを思い出す、といった方法もおすすめです。
カウンセリングなどで「好き」がなかなか出てこない人には、“嫌いな人を3人思い浮かべてください”と伝えています。そして嫌いな人たちに共通する要素を考え、それを裏返すことで「好き」を掘り出すといった方法です。
公認心理師 中島美鈴さん
「40代~50代の中年期ではそれまでにかけてきた『コスト』を意識するあまり、未来への一歩を踏み出せないケースをよく見ます。人には自分のポリシーに沿ってやってきたことや会社や親のためにやってきたことがそれぞれあると思いますが、その過去を否定したくない気持ちが働きます。一方で40代であれば平均寿命で計算してあと40年ほどは人生が続きます。未来の機会損失を生まないようにするためにも自分の『好き』を掘り起こし、それに沿って残りの人生を考えてみてはいかがでしょうか」
“危機はよりよく過ごすきっかけ”
取材では西村さんや佐藤さん以外にも、自分なりに向き合い方を模索しているたくさんの方にお話を聞かせていただきました。そのなかで感じたのは、多くの人が目の前の仕事や子育て、介護など「やらなければならないこと」に一生懸命に取り組んできたということです。
また心の危機に直面したことを「よりよく過ごす方法を見つけるきっかけになった」と前向きに捉えている人もいました。
誰もが直面する可能性がある「ミッドライフクライシス」。この記事が危機を乗り越えるヒントになったらうれしいです。
阿部愛香
2023年入局後、現所属
田淵奈央
2014年入局
松江局、首都圏局、あさイチなど経て現所属