色鮮やかな実物? 白黒の活字? デジタルな画像? 達人たちの脳内にはどんな将棋盤や駒が映っているのか
将棋を覚えてある程度上達してくると、脳内に将棋盤ができて、その上で駒が動くようになります。そうなれば、たとえ目の前に盤駒がなくても、自分の頭の中で考えられるようになります。
歩いているうちに、先ほど指して負けた将棋の敗因が思い浮かんだ。
風呂に入っているとき、ずっと考えていた詰将棋が解けた。
寝ている間に夢の中で、誰かと大熱戦の一局を指していた。
将棋愛好者であれば、そんな経験は少なからずあると思われます。
達人同士ともなれば、実際に将棋盤や駒がなくても「▲7六歩」「△8四歩」と符号を言い合うだけで、一局の将棋を最初から最後まで指せたり、対局後にはるか前にまでさかのぼって検討ができたりします。
では将棋を指す人たちの「脳内将棋盤」とは、果たしてどのようなものなのでしょうか?
2024年2月、藤井聡太八冠(現七冠)はそうした質問をされた際、次のように答えています。
「考えたことがないので今浮かべてみます(笑)」
「白黒に近い気がします(笑)」
千差万別の脳内将棋盤
もし将棋が趣味という方は目を閉じて、どんな将棋盤、駒が脳内に現れるのか、試してみていただければと思います。
リアルな将棋盤や駒がそのまま映る、という方もいるでしょう。その中でも、テレビやネットを通してみる、タイトル戦で使われるような高級な榧(かや)の盤、黄楊(つげ)という方もいれば、あるいは普段使っている、普及品のプラスチックの盤や駒、という方もいるでしょう。
あるいは盤駒ともに、本や新聞など、白黒の印刷物に記されているような感じという方もいるでしょう。
また最近では、コンピュータのモニターやスマートフォンに映る画像のような感じ、という方も増えてきていると思われます。
あるいは以上のどれにも当てはまらない、その人オリジナルな盤駒のスタイルもあるでしょう。
見え方も、盤駒ともにはっきりきれいに見えるという方もいれば、なんとなくぼやけて見える、という方もいるでしょう。
筆者もこれまでに棋士、女流棋士からアマチュアまで、いろいろな人に尋ねたことがありますが、まさに千差万別でした。これは学術的な調査の対象にもなるぐらいで、非常に興味深いテーマともいえそうです。
人気漫画「花四段といっしょ」でも、このテーマが取り上げられています。
雑誌の記事には、次のような記述があります。
たとえば、羽生九段は81マスの盤面を4分割した部分図が高速スライドして脳内を動き回っていた。森内九段は盤や駒だけでなく対局室の小物までがオールカラーで脳内に浮かぶ超リアル型、渡辺名人は頭の中に盤自体がなくダークグレーの空間に駒の形や文字もはっきり浮かばない「暗黒星雲型」ともいうべきスタイルだった。
戦前の将棋雑誌には、次のような記述がありました。筆者は金子金五郎八段で、登場するのは弟子の松田茂行四段です。(段位はいずれも当時、両者はのちに九段)
先日、松田四段に向つて「君、盤に向はないで盤面を浮かべた時、駒の形がどう映るね。僕は紙に印刷した字面だけの局面しか映らないがね」と訊いてみた。なんだか、私だけの現象のやうに想へたので内心不安なので訊く気になつたのだらう。処がこの不安は果然、的中した。松田は「へんですね。頭脳に映る駒は対局の時の駒と同じですよ。誰でもさうでせう」と言ふ。
金子金五郎「駒の色」『将棋世界』1941年3月号1p)
古今を問わず、やはりいろんなタイプがあるとわかる一節でした。
達人たちの「脳内将棋盤」もまた、棋風(きふう)と同様に、千差万別というほかはないようです。