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昔から保守主義者で、自分でも周囲からもそう思われていたはずなのに、いまやなぜかリベラルど真ん中になっていた

 閑話休題、移動中に思いのたけを述べる、電車を降りるまでの小一時間一本勝負。

 私は大学時代から当局側についている塾生団体「文化団体連盟(文連)」の委員長を務めさせていただいておりました。平たく言えば、慶應義塾大学のノンポリの塾風を守るため、明治大学やら法政大学やらからやってくる「あなた、本当に大学生ですか」と言いたくなるような皆さんから、文字通り、身体を張って三田・日吉キャンパスを守るド現場をやってきました。

 振り返れば、そのころからロジと情報収集が大好きで、当時日本新党ブームが終わり、平成維新の会が立ち上がり、公明党の皆さんもバリバリで、最後には地下鉄サリン事件(95年3月20日)まであったりで、そういう社会情勢でした。

 私はと言えば、大学をてっきり卒業すると思ったら4年で2単位足りずに留年し、内定先の国際電気(日立製作所)には土下座してお詫びに行き、モラトリアムを一年もらってグズグズしておりましたが、この一年で随分いろんな経験をさせていただき、本も読み、いまに繋がるいろんな人たちと出会い、嫌な思いもしつついま思うと糧になっていたのだなと思いました。いや、大学自治会で慶應の面々と話してやりくりしていた大学生だった私、あのころと、実際いま偉そうなところでやり取りしている仕事の中身ってそれほど難易度変わらないのです。扱う金額や見えている世界は桁4つぐらい違うにしても、人が人であり、人でできた組織を動かすにあたっては必要なノウハウってそんな変わらないんだ、ということはいまでも思います。

 で、そのころ、狂う前の副島隆彦さんの『現代アメリカ政治思想の大研究: 世界覇権国を動かす政治家と知識人たち』を読みました。もちろん、在学中もいろんな政治思想の本を読み、自分なりに理解してきたつもりなのですが(霜野寿亮先生のゼミではパーソンズ研究もしておりました)、あくまで学説としてふわふわとジョンロックやホッブス(リバイアサン)なんてのを呼んで知識として知っていたものの、政治思想の体系として何となく理解できるようになったのは発狂する前の副島さんの書籍を参考に、類書を読み直すなどして、自分の生き方と向き合った結果「私はバーク主義者(バーキアン)なのだ」と得心するに至りました。

 いまでも、私は保守主義者の中でもバーキアンであることは間違いないと思っています。

 保守思想の中でのバーキアンは、私の理解では「この社会を維持するためにたゆまず改革すること」にあります。一代の知性で物事を決めるのではなく、過去から現在にいたるまで、世代を超えた多くの皆さまが積み上げてきた叡智・伝統を大事にし、その営んできた社会を維持するために、技術や制度ほか時代にそった改革を行うことが、社会をより良くしていく知恵なのだ、という話です。

 なぜか菅義偉政権で日本学術会議から外された宇野重規先生の対談記事などもご参考ください。というか、私の話を読むぐらいなら宇野先生のご著書を読まれたほうがいいかと思います。

 他方、実務という観点で言うならば、さすがに私もジジイになってきていろいろガタはきつつも、30年の時を超えていまなおド現場でロジをやったり対応に走り回ったりしているという点では、そこら辺の議員の面々や官僚の皆さまよりもいろんな仕事をさせていただける立場におります。もっとも、降ってくる仕事の8割はブルシットジョブであり、馬鹿じゃねーのと毒づきながらでないとやってられないことばかりですが、でも「お声がかかるうちが華」「置かれたところで咲きましょう」「自らの生きざまは常に神が見ておられる」の精神で、与えられた試練は乗り越えるためにあると考えて頑張っております。

 ところが、昔から自分としては変わらずゴリゴリの保守主義者として、保守思想のど真ん中を歩んできたはずなのに、最近は関係先から「お前はリベラルだから」と言われる機会が本当に多くなりました。いや、私保守主義者であって、リベラリストのつもりはないんでやんすが…。

 ただ、バーキアンは自然法派として、人間どうしの決め事としての人権や民主主義という「伝統」が、リベラルが大事にするそれらを内包するようになってきました。つまり、私たちは日本の伝統として、日本が長年維持し、培ってきた民主主義と普遍的価値観、それフレームにされている旧秩序、その旧秩序によってカバーされている世界的な平和、平和が実現する貿易の拡大、資源のない日本が平和によって保たれている貿易ができる仕組みで国富が維持され、繁栄している現状を考えるに、バーキアンも「人権は大事ですね」と現場で放ってくるわけです。

 私も筋金入りの民主主義者ですから、手続き論に基づいてロジを組んだりレクを入れたり各種調整をしたりする立場である以上、リベラル的な左派が主張する鍵かっこ付の「リベラル」を鼻で笑いつつも、割と本気で「ビジネスと人権」とか「ヒューマンライツ的なものの考え方でミャンマーやチベットなど紛争国の現状を理解する」などのフレームが身についてしまっていることに気が付きます。どうせその辺の話は建前であって、いざとなったら武器持たせた人たちを雇って突っ込むんでしょ、みたいに割り切れなくなってきているという。

 極めつけは、最近の参政党が、いまでも一部の自由民主党の保守派(というか民族主義者)が排外主義的なことを言い始めて、建前ではなく本気で「え、それは良くない方向に我が国は向かっているんじゃないの」と思ってしまうわけです。10年前は、シンガポールみたいに都合の悪くなった外国人労働者は国に帰っていただく形でないとマズいよねとか思っていたりしたんですが、最近は「共生」とまではいかないが日本でルールを守って働いてくれている外国人がいないと地方経済はもう回らないのだから、日本に馴染んでもらい、日本語も話せるようになった善良な外国人はちゃんと帰化していただいて社会全体を良くしようなんてことを思うようになってきています。

 アベノミクスの後遺症もあって通貨が大幅に下落しているのにインフレ率を頑張って押さえたものだから、どんどん日本は貧しくなっている中で見た目の国際収支(経常収支)はインバウンドも含めて過去最高(5月:3兆4,869億円)で、しかしこれもまた、世界が平和で日本に旅行してくれる、日本の製品を海外が買ってくれる、日本が海外に投資した分が順調に収益を挙げて国内に戻ってくる、という世界が平和だからその伝統を維持するために日本人・日本企業が頑張った結果であることは言うまでもありません。

 しかしながら、高齢化が進み、社会保障の改革が先延ばしになり、地方の社会を支えるインフラは医療も介護も教育も買い物もどんどん縮小する中で、高度成長時代に合わせた制度がいまだ一部維持されて、国民負担が重くなっている現状が続いています。これでは国は豊かにならないぞというのはみんな百も承知なのだが、ここに「誰を切り捨てて縮小するか」というトリアージが発生してしまいます。

 ここで、日本を動かす、強くするための改革って何だっけってのが、おそらく本当の意味での参院選の争点になるはずだったかと思うのです。103万円の壁以降、生活苦の人たちやそれを上手く載せていく人たちが、総じて「給付か、減税か」というさして価値のないフレームに国民の審判として課題設定してしまった結果、目の前の生活が苦しい世帯を中心に「いま、どう政府からカネをもらうのか」という矮小化されたバラマキ競争に陥ってしまったのは、保守主義者として極めて残念です。これらをもう少し早期から、分かりやすい形で政策として提言できていれば、また、空手形にならないような制度設計はまだできる余地が残されている以上はそれをきちんと有権者に提示できていれば、もう少し、意味のある政策議論とともに参院選も未来に向けて有権者の意志決定にできたんじゃないのかなあと思うのです。

 「じゃあ何でやらなかったの」という話にどうしてもなるんですが、この手の話は、いまのロジ担当にスライドしてきた今年2月の時点で提案もしてきたし、申し上げたことのごく一部ながらご理解いただいて、ほんのり採用はされているというのは、ささやかながら自分なりの「やった感」にはなっています。ただ、それが誇るべき業績にならないのはひとえに「物価高対策」と「外国人問題」に凝縮された今回の参院選が、必ずしも有効な政策議論になっていないだけでなく、偽情報とポピュリズムという民主主義の根幹を揺るがしかねない問題と地続きになってしまったからに他なりません。

 そういう話をすると、まあ確かに「お前はリベラルなんだな」と言われるのです。そう見られるとそうなのかもしれませんが、なんかこう、しっくりこないなという実感を持ちます。自分に対する評価など、正直もはやどうでもいいのだけれど。


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山本一郎(やまもといちろう) 神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント

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昔から保守主義者で、自分でも周囲からもそう思われていたはずなのに、いまやなぜかリベラルど真ん中になっていた|山本一郎(やまもといちろう)
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