おかいあげ

世に言う実装ブームに乗って
ここホームセンターのペットコーナーにも実装石ブースが設けられることになった
とは言え、あくまでホームセンターなので実装ショップのような対面販売ではなく
店の一角に特設コーナーが建った、という程度のお話し


ある客が蛆実装が入った水槽を指差して言う
「あの子を下さい」
「はい、少々お待ちください」
俺はさっさと水槽に向かうと、トングを手にとって客の指す蛆を探す

水槽には蛆実装が一杯、だが、俺には客の指す蛆が人目でわかった
水槽の真ん中にあおむけでゆったりし、ころころと丸くけづやが良い

俺は実装石には詳しくないが、ここの水槽の手入れをしていて知ったことがある
この水槽では、元気で体格の良いものほど水槽の真ん中に集まり
逆に元気がなく、体格の悪いものは水槽の隅に集まっていくことである

隅に集まっているものは糞食や共食いも平気な不潔なものであることが多く
客は大概の場合、真ん中の集団にいる者から飼うものを選ぶ
指定が無い客に提供するものはもちろん、真ん中の集団だ

この水槽の法則は成体や仔と引き離され、蛆のみの不自然な水槽の中だけのことかもしれないが
それでも手入れをする店にとっては非常にやりやすいものだった

「レー?」「レフー」「プニフー」
イゴイゴ動く蛆実装をより分け、スポンジのついたトングで目当ての蛆実装を捕らえると
そっと虫かごに入れて客に渡す

「こちら、お買い上げになりますか?」
「あ、その前に、ほかに買う物があるので」
客は俺の言葉を遮って実装石コーナーの中を歩き始めた
愛護用品を買っていくつもりらしい

本来、こいつら実装石は客によっても好悪が別れるナマモノなので
買うかどうかの状態で店をうろつかれると非常に困るのだが
実装石は本体は赤字ギリギリ、飼育用品で元を取っているケースが多い
つまり実装石だけを買われるとちょっと困るのだ

まあ、ペットコーナーから出ないならいいか、と思いそのままにさせておいた

さて、その客は蛆実装の入った虫かごを片手に店内のペットコーナーをあっちにうろうろ、こっちにうろうろ…
俺は閑散としたコーナーの番にも飽きたことだし

店頭デモ用の実装石リンガルの表示を見て見た
そこには蛆実装の言葉が翻訳されて表示されていた
「ウジチャ、飼いウジチャレフ?アマアマとコンペイトウもらえるレフ?」
「飼いウジチャになったらオフトンで寝たいレフ!プニプニもしてほしいレフ!」

客のほうを見ると、虫かごの蛆実装は立ち上がらんばかりに上体を反らして
ピスピスと鼻息荒く男へ向かってレフレフプニフーと鳴きかけていた

客はそんな蛆実装を優しく見やると、虫かごを買い物かごへ入れ、そして買い物かごにゆっくり吟味しながら様々な商品を入れていった

ペット用ミニステーキ、コンペイトウ、スポンジボール
商品がひとつ、またひとつとかごに入るたびに、蛆実装はレフー!と歓喜の声を上げ
千切れんばかりに尻尾を左右に振りながら喜びを表現する
リンガルのほうも飼い主となる客への感謝の言葉で一杯になった

「お会計、お願いします」
「あっ、はい!」
いかんいかん、リンガルに夢中でレジに戻ってきていたのに気づかなかった
俺は客からかごを受け取ると、ひとつずつレジに通していく
ひとつ、またひとつと商品がレジに通り、最後に蛆実装に差し掛かったとき…

「あ、すみません、やっぱ蛆だけ別の仔と替えてください」
客の口から出たのは意外な一言だった
確かに、まだ会計は済ませていない

さっきまでの様子を思い返し、困惑したが、こういうのは別におかしなことじゃない
俺はさっと平静を取り戻し、客をもう一度水槽へ案内する
しかし、蛆実装の方はと言うとそうではない
何が起きたか、どういうことかわからず困惑している

しかし水槽の前に戻り、見覚えのあるトングを自分を掴もうとした時
自分の置かれた現状に気付いて騒ぎ始めた

束の間とは言え飼い実装の身分となり、飼い気分を味わってしまった蛆実装
それが取り上げられると知って激しく抵抗する
必死で身をよじってトングから逃れようとイゴイゴと蠢き、軟便を撒き散らしながらレヒィ!と威嚇する
こんなことに手間隙をかけているわけにもいかないので、俺は無理やりトングで挟むと水槽の隅にぽいと放る

「こっちにしてください」
客に示された別の蛆実装をトングで掴み、虫かごに入れる前にもう一度聞く
「こちらでよろしかったでしょうか?」
「はい、それで」

また替えてなどと言い出されては溜まらないので、念を入れる
「一応、状態の方をご確認ください」
「………はい、この仔にします」

確認を取った後で、改めて新しい蛆を虫かごに入れる
その間、ずっと水槽から先ほどの蛆実装がレフー!レフー!と叫んでいたが
新しい蛆が虫かごに入る頃にはパキン、という乾いた音の後、水槽が静かになった

客は会計を済ませて帰り、水槽に戻った俺は両目を灰色にしたよく肥えた蛆実装の死骸を処分した


汚飼上<おかいあげ>
実装ブームに乗って昨今急増したショップにおいて
虐待派の間で最近流行しだした新たなスポーツである

実装石を扱う店内、店員の目の中でいかに実装石をパキン死させるかというもの
もちろん、店員の目があるので暴力や暴言は不可能
よって勝負の大部分はいかに短時間で上げて、いかに落とすか、というものである

この実装の大波(ビッグウェーブ)から、目が離せない!

スク引用元:【虐観察】 こちらの蛆実装、おかいあげになりますか?

イラスト作者のホームページ:仔蟲