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メイカーズブームメントの光と影──鉄道模型はなぜメイカーズ文化の火を灯し続けるのか?

はじめに:2010年代、日本に巻き起こったメイカーズブームメント


2010年代半ば、日本では「自分でモノを作る人たち=メイカーズ」たちの熱気が高まりました。3Dプリンタの特許が期限切れとなって一般に普及しはじめ、Fusion 360など高機能な3DCADが誰でも使えるようになり、家庭用CNC加工機まで登場。「誰でもメーカーになれる時代」が現実味を帯びてきたのです。
こうした動向を背景に、「メイカーズブームメント」と呼ばれる個人で行うものづくりが大きく盛り上がりました。

教育現場でもSTEM教育の一環として、3Dプリンタやレーザー加工機が次々に導入されました。都市部ではファブラボやメイカースペースが誕生し、誰もが気軽にものづくりに参加できるようになる、そんな時代の到来が予見されていました。

しかし、実際にはそうはなりませんでした。2010年代のメイカーズブームメントは本格的な産業構造の変化を促すことはなく、ニッチな盛り上がりのみで2020年代初頭のコロナ禍を契機にあっさり終焉を迎えることとなります。



なぜメイカーズブームメントは続かなかったのか?

メイカーズブームメントが下火となった背景には、コロナ禍によるファブスペースの閉鎖などもありますが、そのほかにいくつかの現実的な壁がありました。

1.製造コストと人材の壁


モノづくりには、試作、製造、品質管理、流通──といった、多くのプロセスが必要です。モノを「製品」として届けるには、個人の力だけでは越えられないハードルが多くあります。
メイカーズブームメントは、あくまで「個人のものづくり」にフィーチャーした一連の動向でしたので、ここから波及してプロジェクトを拡大しようとしても、思うように資金や人材が集まらずにプロジェクトが頓挫する例が相次ぎました。

2.収益モデルを構築することの難しさ


メイカーズブームメントを支えた背景には、SNSやブログによる情報発信の活発化や、クラウドファンディングなどの資金調達プラットフォームが整備されたことで、個人でも資金調達が比較的容易になったことが挙げられます。
しかし、一時的な話題性から開業資金や当面の運転資金を確保できても、継続的な収益モデルを構築することができず、じわじわと失速していくケースが目立ちました。メイカーズのプロジェクトは社会的課題の解決や潜在的なニーズの開拓には至ることが少なく、市場ニーズをつかめずに一過性の話題として消えていった製品が無数にあります。

3.実際の製造業の方々から敬遠されていた

個人ではカバーできない分野、特に射出成型や鋳造、メッキ処理など大規模な設備と高度な技術が必要な分野では、個人が技術を有する町工場に依頼することがあります。
私もかつて何度かお世話になりましたが、実際に依頼してみると、「個人」との取引は非常に煙たがられます。
理由は簡単で、企業側からすると個人との取引は「利益が見込めない上に、リスクが高い」からです。
一般に、製造業は大量の製品を安定した品質で製造することに特化した経営を行っています。ですので、メイカーズ達が提示してくる「多品種小ロット」の加工は、時間的、金銭的なコストに対して収益が見合わず、大口顧客との取引を圧迫することに繋がりかねないので、敬遠される傾向にあります。
結果として、個人のものづくりでは超えられない技術的なハードルに対して、技術を有する企業の協力が得られず失敗するプロジェクトが多くありました。

4.そもそもマニア向けの盛り上がりで、一般に浸透しなかった

これは筆者の一個人的の感覚ですが、メイカーズブームメント自体が、筆者を含め一部のマニアが盛り上がるニッチなブームで終始していたことが、ブーム終焉の遠因であるように感じます。
そもそも日本では、子供の頃に工作経験のある人そのものの人口が減っており、プラモデルを作ったことがない、ニッパーやカッターナイフを満足に触ったことがない子どもも珍しくありません。そのような中で、3Dプリンターやファブラボの存在は、「面白そうけではあるが、自分には関係ない」存在に留まり、一般層への浸透は非常に限定的だったように感じます。
メイカーズブームメントは、もともと好きだった人たちが一時的に盛り上がって、ある程度盛り上がったところで話題性が乏しくなり、日常化した、というのが実際のところで、工作に興味のある人を増やすことにはあまり影響がなかったのかもしれません。


鉄道模型は、なぜメイカーズの火が残ったのか?

そのような中で、2020年後半に入ってもメイカーズ文化が静かに継続しているジャンルがあります。それが鉄道模型です。

SNSを覗けば、鉄道模型をCADでモデリングして3Dプリンタで造形する人が多数います。なぜ鉄道模型ではメイカーズの火が消えなかったのでしょうか?その背景には、以下のような要因があると考えられます。

1.車両のモデリングが比較的容易

一般に鉄道車両は細長く左右対称であり、流線形の新幹線車両や特急型車両を除き、角ばった形状をしています。
左右対称の外観は3Dデータを作成する上での難易度が低く、モデリングが比較的容易に行えます。
このため、CAD初心者でも、練習すれば十分に3Dデータをモデリングすることができます。さらに操作に覚えのある人なら流線形の先頭車や新幹線車両のノーズ部分もモデリングできます。

2.自己完結型のモノづくりが可能

鉄道模型は、アッセンブリ(ASSY)パーツがかなり充実していおり、必要な機構部品を既製品で補える環境が整っています。そのため、自作の模型であっても走行用パーツ(モーター、台車など)を手配し組み込めれば走らせられるようになります。
さらに、NゲージからHOゲージほどのスケールの模型であれは質量も軽いので、機械的強度が不足しやすい3Dプリント品であっても、個人で楽しむ分には十分に実用に耐えうる強度を出すことができます。
つまり、足回りやカプラーなどの機械部品や、強度が必要なパンタグラフなどは既製品を流用することで、CADと3Dプリンターさえ扱えれば製品化されていない自分だけの模型を家庭で作ることができるのです。
こうしたことから、近年デジタルネイティブ世代の若い鉄道模型ファンを中心に、一から模型を作る動きが加速しています。

3.情報収集がしやすい

戦車や戦闘機、戦闘用ロボットとは異なり、鉄道は身近な公共交通機関です。ミリタリーモデルなどは、図面が存在しない(公開されていない)、容易に近づけないなどの理由から、資料の入手に苦労することがありますが、鉄道車両の資料は、比較的容易に入手できます。
webや専門誌には図面や寸法情報が豊富に存在しますし、現役の車両であれば、実際動いているところを「写真を撮ったり」「乗ったり」して資料を収集することもできます。再現性の高い模型を作るための情報環境が整っているのです。

4.もともと自作文化が根付いていた

鉄道模型の世界では、昔から「ペーパー工作」や「プラ板車両の自作」が一つの文化として根付いていました。その流れを汲み、新たなツールとして3DプリンタやCADを導入する人たちがごく自然に現れたのです。
こうして「デジタル模型鉄=CAD鉄」という新たなジャンルが静かに成長しています。


終わりに:鉄道模型は、これからのメイカーズ文化の道標かもしれない

メイカーズブームメントが一段落した今も、鉄道模型という奥深い趣味の中では、その精神が静かに息づいています。旧来のアナログ的な工作に、デジタルファブリケーションの技術が自然に溶け込んだ環境、情報の豊富さ、さらに同好の士によるコミュニティで作品を公開し合い、お互いに切磋琢磨する土壌があったからこそ、鉄道模型ファンたちの間でメイカーズの火が灯し続けているのです。

もしかすると、こんにちの鉄道模型は「個人による持続可能なものづくり」がどうあるべきかを教えてくれる、ひとつのヒントなのかもしれません。


次回予告:Fusion で始める、鉄道模型モデリング入門


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次回の記事では、autodesk Fusionを活用した鉄道模型の3Dモデリングプロセスについて、具体的なノウハウやコツを交えてご紹介します。


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