映画『レイニーブルー』公開にあたって
映画「レイニーブルー」監督の柳明日菜です。
このたび本作の公開を前に、まず皆様に心からのお礼と、私自身の思いをお伝えさせてください。
「レイニーブルー」は、〈20歳までに監督デビューする〉という、自分自身に課した大きな目標のもとに始まった企画です。
私が初めて映画を撮りたいと思ったのは、16歳の時でした。
それまで映画を熱心に観てきたわけでもないのに、高校演劇で創作にハマってから、「映画を作ってみたい」という直感的な思いに突き動かされ、熊本県の観光振興課や南阿蘇の旅館組合、さらには行定勲監督に、当時の私が構想した3000万円規模の映画企画書30枚を直接持ち込みました。
あまりに非現実的な企画であったにもかかわらず、皆さん真剣に耳を傾けてくださり、特に行定監督は「映画を観ないで映画は作れない。柳の本気を見せなさい。」と、くまもと復興映画祭に私を含め高校生約30名を3日間招待してくださいました。
その復興映画祭で、私は初めて“芸術としての映画”に出会い、心に火が灯りました。
「私もこんな映画を作りたい」――その想いを胸に、私は1年半、高校を休学し、脚本や演出の勉強を始め、実際に映画の現場にもスタッフ・キャストとして参加するようになりました。
現場では常に、「私は監督になりたい」「脚本を読んでください」「次の現場があれば呼んでください」と伝え、5〜6本の作品に関わらせていただきました。
最初に参加した現場は、夏都愛未監督の作品でした。
そしてその中で渡辺紘文監督と出会いました。実は、私が映画に強く惹かれるきっかけとなったくまもと復興映画祭で、偶然にも渡辺監督の作品を観て衝撃を受けたことを覚えており、その記憶と再会が重なった瞬間でした。
神宮寺亀吉、りこちゃんの日常、モノクロームの画面、構図、しりとりの長回し、美しい音楽――監督の個性が色濃く映し出された作品に、私は強く心を揺さぶられました。
その後、渡辺監督にはたくさんの映画を教えていただきました。
ジャームッシュ、小津安二郎、デシーカ、ゴダール、コーエン兄弟、フェリーニ――私にとって「映画」とは何かを考える上で、欠かせない存在たちです。
映画を観ては脚本を書き、また現場に入って学び、そして書いた脚本を渡辺監督に送り、すぐに批評をいただく。そんな日々を、夢中で過ごしました。
そして、18歳の時に書いた脚本が、この「レイニーブルー」です。
初稿直後、映画24区の三谷さんがすぐに読んでくださり(もちろん渡辺監督も)、「やりたい!」と言っていただき、熊本まわりを株式会社桃の濵島さんが応援するということでプロジェクトが立ち上がりました。現プロデューサーは濵島さんです。
ゼロからのスタートでした。
制作資金がまったくないところから始まり、クラウドファンディング、ご協賛、物資や宿泊の支援など、本当に多くの方々のご厚意によって、現場がなんとか成立することになりました。
撮影監督の渡部さん、音楽の雄司さん、録音の北原さんをはじめとする素晴らしいスタッフの皆様、地元のスタッフ陣、そして俳優の皆様には、長期間の拘束をお願いしたにもかかわらず、限られた予算の中で、正当な対価とは言えない条件での参加をお願いすることになりました。
それでもなお、誰一人として妥協せず、全身全霊でこの作品に向き合ってくださいました。
この場を借りて、心より感謝申し上げます。
映画「レイニーブルー」に込めた想いについて、少しお話しさせてください。
私は、映画監督になるという目標のために、これまで必死で走ってきました。
けれどその道のりは、ただ夢を追いかけるだけのものではありませんでした。
「日本映画学校は、人間の尊厳、公平、自由と個性を尊重する。
個々の人間に相対し、人間とはかくも汚濁にまみれているものか、
人間とはかくもピュアなるものか、何とうさんくさいものか、何と助平なものか、
何と優しいものか、何と弱々しいものか、人間とは何と滑稽なものなのかを、真剣に問い、
総じて人間とは何と面白いものかを知って欲しい。
そしてこれを問う己は一体何なのかと反問して欲しい。
個々の人間観察をなし遂げる為にこの学校はある。」
これは、日本映画大学創設者・今村昌平監督の言葉です。
この言葉も、私に映画の道を示してくれた渡辺紘文監督から教わりました。(レイニーブルーの脚本は、日本映画大学の現学長でいらっしゃる天願大介監督にも直接お送りし、ありがたいことに批評をいただきました。)
この言葉に出会ってから、私は脚本を書くことが、自分自身への問い直しであり、
人間をまっすぐに見つめる訓練なのだと感じるようになりました。
人間のきたなさ、やさしさ、ずるさ、哀しさ、まぬけさ、美しさ……
その全てを引き受けるような視点を持ちたい。
そして「その人間を描こうとする自分自身とは、一体何者なのか?」という問いから、逃げずにいたいと思いました。
レイニーブルーの脚本は、まさにそのような自己探求の時間から生まれたものです。
「自分とは何か」「自分はどうありたいのか」「自分の見ている“世界”とはどんなものなのか」。
誰かのために、というよりも、まず自分自身と誠実に向き合うために――私はこの物語を書きました。
この自己探求は、私だけではなくて、今の社会に通づる物があると思います。
日本ではさまざまな事情で学校に通えない子どもたちが増え続けています。
私自身もそのような経験をしてきたひとりです。(学校を休学して映画の現場に行ってたので・・・)
人の顔色を伺いながら物事を判断し、何が正解かばかりを気にして、自分の感じていることを信じられなくなってしまったり、本音で人と話すことが怖くなったり…。
評価されることに敏感になりすぎて、「自分の好き」をどこかに隠してしまう。そんな同年代の声を、たくさん耳にしてきました。
「親の期待に応えるため」「友だちに好かれるため」――
そんな“他人の物差し”で生きていくうちに、自分自身が何を好きで、何を大切にしたいのか、見えなくなってしまうことがあります。
この映画には、「自分の心の声に正直でいていい」というメッセージを込めています。
“他人軸”ではなく、“自分軸”で生きていくことの大切さ。
何かから一歩離れることでしか見えない景色があり、その中にこそ自分の居場所があるのかもしれない。
撮影を終えたあと、まず渡辺監督に荒編集(撮影データを脚本通りに並べたもの)をつくっていただいたのですが、その時点で映像は約4時間半にも及びました。
そこからまず、2時間半のバージョンに削り込まれ、音楽や効果音をつけていただき、
そして最終的に私自身がさらに絞り込み、現在の107分バージョンにたどり着きました。
4時間半版も、2時間半版も、本当にとても大切なもので、惜しいと思う瞬間もあります。
ですが、107分になったことで、より引き締まり、映画としてのテンポや強度が生まれ、
作品としてぐっと“面白く”、“映画的に”なったと感じています。
雄司さんが手がけてくださった音楽、渡部さんの美しく繊細なグレーディング、北原さんが拾い上げた丁寧な音のひとつひとつ、皆田さんの美しい写真の数々、そして俳優部の皆さんの心からの演技――
そのすべてが、もうこれ以上ないほどに美しく、「OK」だと心から思っています。
映画『レイニーブルー』は、本当に本当に、多くの方々に愛され、支えられて生まれた作品です。
資金も人手も足りないなかで、どうすればこの物語をかたちにできるか、
一人では絶対にたどり着けなかった場所に、みんなと一緒に向かうことができました。
とにかく、たくさんの方にこの映画を観ていただきたいです。
主人公・蒼のままならなさや葛藤、
どこまでも広がる熊本の夏の風景、
そして、柳明日菜の初監督作。
その空気を、ぜひ感じてほしいと思っています。
私はこの映画『レイニーブルー』を、初めての監督作品として作ることができて
本当に、心から「最高だった」と思っています。
……とはいえ、正直に言えば、まだまだ『レイニーブルー』には、山積みの課題があります。
たとえば、一部の素材に関しては、著作権や使用許諾の調整が現在も継続中です。
また、撮影期間が長期にわたったこともあり、キャストやスタッフの皆さまには、限られた予算の中で無理をお願いしてしまった部分がありました。
こういった課題は、本来であれば、映画をつくる側の責任として、あらかじめきちんとクリアにしておくべきものであると、強く自覚しています。
ただ正直に申し上げると、私は本作に監督として関わる一方で、制作体制上、製作委員会とは別の立場にありました。そのため、予算の全体的な流れや契約に関わる実務的な部分を、完全には把握しきれていなかったというのが実情です。
監督として、現場や作品の内容に集中するあまり、制作全体を見渡すという責任の一部を、十分に果たしきれなかった部分があったと反省しています。
その結果、スタッフ・キャストの皆さまにご迷惑やご心配をおかけしてしまったこと、本当に申し訳なく思っています。
それでも関わってくださった皆さまが、状況を理解し、支えてくださったことに、言葉では言い尽くせないほどの感謝があります。
この作品を届けたいという気持ちは、今も変わらず、胸の真ん中にあります。
どうか、この映画が誰かにとっての「小さな灯り」になりますように。
そして私は、すでに次の作品に向けて動きはじめています。
『レイニーブルー』に全力を注いできたからこそ、次の物語をもっと良いものにしたい。
悔いのないように、でも、立ち止まらずに前に進みたい。
いつまでも『レイニーブルー』だけをやっているわけにはいかない。
この初監督作を超えるような作品をつくれるように頑張ります。
レイニーブルーを何卒よろしくお願いいたします。
柳明日菜
スチール:皆田さん


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