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山王工業の絶対的エース・沢北栄治の魅力を徹底解説!剽軽な性格の裏に滲む沢北の苦悩とは?湘北のスーパールーキー・流川との違いも考察

さて、「スラダン」のライバル校コラムもいよいよ真の全国No.1・山王工業を残すのみとなったが、この山王戦の素晴らしさについては今更大きくクローズアップすることはない。
もう当時から山王戦の素晴らしさは語られ続けて来たわけであり、特にラストの展開はもう一枚一枚の絵が美しすぎて言葉で語るのは野暮なので、原作を見てもらう方がいいだろう。
そんな山王工業のコラムはチーム全体のことについてマクロに語るよりも、1人のキャラクターに絞ってミクロに掘り下げた解説をしていく方が私としても非常に楽しく感じられる。
そこで今回取り上げるのは湘北のスーパールーキー・流川楓の完全な上位互換として描かれる山王工業の絶対的エース・沢北栄治であり、山王工業の中でも彼は非常に人間味があるキャラクターだ。

湘北高校については主人校なのもあってか物語の掘り下げやドラマも濃く、それぞれ単品でもコラムが書けるのだが、ライバル校はどうしても湘北が関わる試合の中で一面的にしかそのキャラが描かれない。
それは山王工業においても同じことであり、山王工業の中で器用な天才肌のセンターである河田兄やポイントガードにしてキャプテンの深津については内面の心理描写が乏しいためどうしても書きにくい。
しかし沢北栄治はその点山王工業の中で唯一その生い立ちと半生が描かれ、流川や仙道との対比の中で彼自身の細かい人間性や背景がしっかり描き込まれており、それがひいては山王工業のチームカラーにも深みを与えている。
今回の記事ではそんな山王工業の絶対的エース・沢北が劇中でどのような人物として描かれていたか、プレースタイルや人間性なども含めてその魅力へ迫ってみよう。

天才バスケットプレイヤーの父・テツ沢北の英才教育を受けたバスケの申し子


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沢北の父

沢北栄治というキャラクターの大きな特徴は劇中で唯一(?)「父親」が登場し、その存在が人格形成に大きな影響を与えているということだ。
「SLAM DUNK」という作品において単に肉親が出てくるだけなら、桜木も回想で父親が出たことがあるし河田や赤木はそれぞれに弟・妹という近しい肉親がいる。
しかし、肉親の存在によって幼少期から己の人生がバスケ一色であることが宿命づけられたキャラクターは今の所山王の沢北だけではないだろうか。
沢北栄治は天才バスケットプレイヤーの父・テツ沢北の英才教育を受けて育ち、バスケットという世界で活躍するために生まれ育てられて来た唯一無二の存在だ。


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3人のブロックを余裕でかわす沢北

プレースタイルははっきり言えば湘北の流川楓の完全な上位互換であり、少なくとも1 on 1のオフェンスにおいて覚醒する前の流川を除いて沢北に勝てるやつは日本に存在しなかった。
陵南の天才・仙道ですら中学時代に唯一勝てなかった相手としてその名が挙がっており、また前年の準決勝でも帝王・牧を相手に圧倒しており一切の隙がない男として描かれている。
それは湘北戦においても例外ではなく、流川との1 on 1において覚醒前の流川の攻撃を全部防ぎきり、更には赤木・桜木・流川の3人のブロックをかわしてなおシュートを決めてみせた。
それまで何があろうと負け知らずだった流川が初めてその弱点・欠点を誤魔化しようのない形で曝け出してみせたのが沢北栄治という男であり、単独で彼に敵う男はほとんどいない。

また、沢北の恐ろしいところはプレースタイルだけではなく鋭い観察眼にもあり、試合前の湘北の選手のデータを分析した時に真っ先に赤木の弱点がどこにあるかを指摘してみせた。
県内ではほとんど負けなしのセンター・赤木の弱点はオフェンス・ディフェンスの双方においてゴール下でしか仕事ができずワンパターンでしかないことだったが、それを的確に言語化する。
更には赤木をどうすれば攻略できるかまで含めて河田に提示しており、単純に実力が優れているだけではなく分析力においても相当に優秀で、こんな選手は今までに存在しなかった。
もっとも、直後に「顔がごつい割に」と余計な一言を言って河田をキレさせてしまうわけだが、そんなお調子者の側面もありながらベースはとても優秀なキャラクターであることが伺える。


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赤木の弱点を分析する沢北

また、流川と対等に並ばれた終盤においてもその絶対的エースとしての強さや格がブレることはなく、土壇場でもしっかりシュートを決めて逆転してみせる胆力や度胸も持ち合わせている。
流川のような鋭く尖ったかっこよさに仙道のような剽軽さを掛け合わせているのだが、それが単なる「記号」ではなく父親の英才教育を受けたという明確な理由が示されたのは沢北が初めてだ。
沢北が読者に人気の理由はその絶対的エースとしての実力はもちろんのこと、何よりもそのエースになるまでの過去が克明に描かれたことで立体的な人間味のある存在に見えてくるからである。
余談ではあるが、この沢北の「天才プレイヤーの父親の英才教育を受けて育った」という背景設定と流川のスーパールーキーとを掛け合わせたのが「テニスの王子様」の主人公・越前リョーマだ。

中学以降の沢北を待ち受けていたのは退屈という名の孤独


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父親を超えた栄治

そんな沢北栄治は幼少の頃からバスケの虫であり、テツ沢北と来る日も来る日も1 on 1を挑み続け、とうとう中学生になった時に初めて父親を超えるという快挙を成し遂げた。
この自信は沢北の中でとても大きな成功体験になったに違いなく、劇中では大泣きしていたくらいだからよほど勝てたことへの達成感・充実感があったのではないだろうか。
ところが、中学に入りたての頃に天才プレイヤーだった父を超えてしまった沢北栄治を待ち受けていたのは「退屈」という名の孤独、停滞した日々である。
バスケ部に体験入部したその日に先輩たちをコテンパンに打ち負かした上に「どいつもこいつも弱い、つまんねえ」と挑発的な物言いで煽って校舎裏でボコボコにされてしまった。

何せあの天才・仙道が1 on 1で負けた位だから、少なくとも流川が現れるまでは自分を脅かす者が日本にはいなかったというのが沢北の苦悩の原因だったのではないだろうか。
少なくとも、沢北にとって「強さ」の基準はずっと父親であったわけだが、逆にいえば沢北にとっての強さの基準が「自分の父親よりも強いかどうか」になってしまっていたと言える。
しかし、自分と同年代で父親に匹敵する強さを持った天才プレイヤーなどそうそういるわけもなく、よくよく考えれば沢北が英才教育で育ったことはかえってマイナスに作用したようだ。
白髪鬼・安西の軍隊方式の指導法しかり田岡監督のずれた指導法しかり、そして沢北家の英才教育しかり行き過ぎた詰め込み教育が人間性を歪めてしまうという問題点が浮き彫りになっている。

言ってみれば沢北栄治という男は通常では絶対にありえない裏ルートを使って強くなったわけであり、そもそも生まれた時点で人生の勝ち組であることは約束されていた。
しかし、だからこそそれによって圧倒的な強さを得て高みに上り詰めた先に待ち受けている孤独と戦わなければならないことがどれ程辛かったのかはその立場に立った者にしかわからない。
父親であるテツはそんな息子の孤独に気づいていたからこそ、日本最強の山王工業からスカウトが来たことは大変ありがたいことだったとすら述べている。
少なくとも山王に入るまでの沢北は自分と肩を並べて競い合える存在や頼れる先輩、慕ってくれる後輩に恵まれない孤独な日々を送っており、そこに読者は共感した。

沢北と似たような「最強故の孤独」は湘北のスーパールーキー・流川も抱えていたわけだが、沢北の場合経緯があまりにも特殊だったが故にその孤独は流川以上である。
流川もまた高校に入るまでは最強故の孤独を抱えていたといえるが、その孤独を決して表に出すことなく自分が強くなればいいと気持ちを前向きに変えることができていた。
そして何より中学時代の後輩に慕われているところや自分が黄色い声援を浴びているからといって浮かれることなど一切ないストイックな性格の持ち主として描かれている。
そんな流川に比べると沢北栄治はある意味でとても人間臭いキャラクターであり、流川に今一つ足りなかった愛想や情緒などを持ち合わせているのがチャーミングなポイントだろう。

アメリカ遠征で成功した沢北は谷沢龍二の成功例


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アメリカ遠征

そんな沢北はアメリカ遠征でとんでもない壁にぶち当たるわけだが、ここで示されているのは沢北栄治が谷沢龍二の成功例でもあるということであり、単なる流川の上位互換に終わっていない。
谷沢の場合は失敗に終わったアメリカ遠征だが、沢北は失敗に終わるどころかむしろ更なる高みができたことで嬉しそうであり、流川と同じ根っからの挑戦者であることが示されている。
そんな沢北と谷沢で何が大きく違っていたかというと、やはり「基礎能力を完璧に極めて日本一の強さに到達している」かどうかが大事だったのではないだろうか。
日本一の指導者と言われた白髪鬼・安西の元で育った谷沢と天才プレイヤーの父親・テツに鍛えられた沢北は才能や資質そのものに大きな差はないはずだが、大きく違ったのはそこである。

谷沢の場合は典型的なダニング=クルーガー効果で「俺は完全に理解した」という初期にありがちな勘違い状態でアメリカに渡り、また自身の能力にかまけて基礎基本の反復を疎かにしていた。
まだ白髪鬼・安西の免許皆伝をしていないでアメリカに渡ってしまったものだから失敗してしまい、しかしプライドだけは無駄に高いものだから自暴自棄になって薬物に手を出して失敗している。
しかし沢北の場合は谷沢とは真逆であり、天才プレイヤーの父に1 on 1を挑む中でバスケのイロハをオフェンス・ディフェンス共に叩き込まれ、それらを全てに身につけて中学に上がりたての頃に父親に勝った。
この時点で沢北はもう父親から学ぶことはもちろんのこと日本のプレイヤーから学ぶことはほとんどなくなっていたわけであり、アメリカ遠征にしたってあくまでテツから堂本監督に持ちかけられたものである。

そう、沢北栄治が谷沢龍二の成功例である理由は何よりもきちんと免許皆伝を果たしてからそれを行った為であり、おそらく安西先生はそのことを噂か何かで知っていたのかもしれない。
流川がアメリカ留学の相談を持ちかけた時に「全国にはもっと上がいるかも」と言ったのは、単なる可能性のことだけではなく沢北という実例を知っていたという可能性は十分に考えられる。
何せ同期の北野からもらった山王戦のビデオで山王のメンバーのうち河田・深津・沢北の3人が残っていることは把握済みだったのだから、沢北のこともどこかで聞いて知っていたのではないだろうか。
だからこそ、安西先生は流川に対して「日本一の高校生になりなさい」と言っていたわけであり、流川が超えるべき目標としての沢北栄治が目の前に現れたということだろう。

その意味では湘北と山王が全国大会の2回戦という早い段階で戦うことになったのは単なる作者の都合だけではなく、お互いに出会うべくして出会ったということかもしれない。
日本一の高校生になることを志した流川の意思が沢北の存在を引き寄せ、そして沢北が谷沢の成功例として流川の前に立ちふさがることによって綺麗な1本のストーリーが出来上がった。
湘北VS山王はそれぞれのキャラクターの成長が結実を迎える重要な試合なのだが、その中でもこの流川と沢北という2人の絶対的エースの出会いが非常にドラマチックである。
だからこそ私は山王戦における物語上の主役は誰なのかというと流川と沢北であり、この2人の物語が私の中で深く印象に残っており、こうして記事にしようと思ったわけだ。

湘北のスーパールーキー・流川との大きな違いは高め合える同期の有無



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桜木というイレギュラーの存在

そんな風に縁がやおら形を成して出会った流川と沢北という2人の絶対的エースだが、最終的には流川が覚醒し対等になったが、同時にもう1つ流川と沢北で決定的な違いがある。
それは高め合える同期の存在であり、流川にはありがたいことに桜木花道という切磋琢磨できる終生のライバルがいて、それが沢北の精神を戸惑わせることになった。
初心者で荒削りだからこそ何をしでかすかわからない桜木の存在は沢北にとって別の意味で脅威となり得るわけであり、またある意味ではそれが山王の敗因にもなっている。
沢北はずっと自分の父親、山王の頼れる先輩、そしてアメリカの選手たちなどを相手に戦ってきたが、いずれもが自分の「格上」であり「対等」と言える存在ではない。

よくスポーツにおいては「1人でやるよりもライバルがいる方がより早く高め合える」ということが言えるが、最強山王の絶対的エース・沢北の欠点らしい欠点はそこである。
流川には桜木がいるし、赤木にも三井がいて、仙道にも福田がいるなど自分の同期に切削琢磨できる存在がいるかどうかの差は沢北の成長に大きな影響を与えた。
試合の中で流川ほど大きくな確変を見せられなかったこと、そして桜木という思わぬ伏兵の存在に対してうまく対処できないという課題をクリアできなかったこと。
完璧な強さを持つ沢北は不確定要素・イレギュラーへの対応を苦手としており、今後アメリカに渡るにしてもそこをクリアしていくことが課題ではないだろうか。

また、これは流川にも共通していることだが、沢北はもう少し人間性とチーム内のコミュニケーション能力といったところも克服した方がいいだろう。
谷沢がアメリカ留学して失敗した要因の1つはそうした人間関係やチーム内での円滑なコミュニケーションができていないからであり、それができないとパスはもらえないだろう。
実際に作者が書いた後日談では英語でのコミュニケーションに苦労している様子が描かれており、やはりまだまだアメリカ留学で克服すべき課題は多いようだ。
しかし、彼の存在が山王工業のチームカラーにも大きく貢献し、また「もう1人の流川楓」に終わらない名キャラクターとして未来永劫語られ続けるであろう。

過去の記事も併せてどうぞ。

湘北のコラム

ライバル校のコラム


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