第3回北海道の原野で続く儀式、二つの教団の関係は 現実味帯びる「解散」

北野隆一 高島曜介 定塚遼

 北海道十勝地方の霊峰・剣山の登山口近くに「聖火の郷 世界平和統一家庭連合」と書かれた看板が立つ。山林の中の広大な敷地に、慰霊塔や広場がある。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)のウェブサイトなどによると、教団は例年、この地で千人規模の儀式を催す。昨年9月も、田中富広会長らが出席した。

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世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の「聖火の郷」と書かれた看板=2025年6月22日午後3時51分、北海道清水町、北野隆一撮影

 登記簿などによると、教団は2003年と14年に一帯の土地(計約83ヘクタール)を取得した。以前の所有者は北海道帯広市の宗教法人「天地正教」だった。

 今年3月、その天地正教の名が注目された。東京地裁が旧統一教会に解散を命じた決定文に、次のような趣旨の記載があったからだ。教団は09年、解散時の残余財産の帰属先を天地正教とすることを決めた――。

 天地正教関係者によると、1956年に創始した前身教団の初代教主(94年死去)が旧統一教会に傾倒し、接点ができたという。旧統一教会によると、天地正教は99年、旧統一教会との「和合」を宣言した。帯広市の施設は今、入り口が施錠され、住民によると人の出入りはないという。

銃撃事件から3年

 安倍晋三元首相(当時67)が参院選の演説中に撃たれ、死亡した事件から8日で3年が経った。解散を命じられた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)がいま何を考え、どこに向かおうとしているのかを描く連載の3回目。

 旧統一教会関連の訴訟の経験が多い郷路征記(ごうろまさき)弁護士(札幌弁護士会)は「天地正教は旧統一教会の名を隠して伝道する一部門だった。旧統一教会に吸収されたことが、その事実を裏づけている」とみる。

 霊感商法や高額献金をめぐる過去のトラブルでも天地正教はたびたび名前が登場する。「信者が天地正教名を利用して、献金の勧誘行為をさせた」(2002年京都地裁判決)など、両者の関係を認定する判決も出た。

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天地正教の施設=2025年6月22日午後2時2分、北海道帯広市、北野隆一撮影

 約30年前、帯広市周辺で天地正教の施設建設に反対運動が起きた。元市議で運動に関わった稲葉典昭さん(71)は「霊感商法や統一教会との関係が取りざたされた上に、オウム真理教の事件があり、住民の不安や恐怖感が広がった。反対署名もすぐに集まった」と振り返る。

 旧統一教会と天地正教に詳しい桜井義秀・北海道大特任教授(宗教社会学)は、旧統一教会が解散すれば「天地正教に財産を移して活動を続ける可能性がある」とみる。

 その場合、「不法行為を理由に解散を命じられた教団が、実質的に不活動状態の宗教法人を活用して活動を続けるのは、宗教法人法の適正な運用上、問題がある」と指摘する。

 解散命令の審理は、東京地裁の決定を不服として教団が即時抗告したため、東京高裁に移った。高裁も解散を命じた場合、教団の清算手続きが始まる。

明るみに出た巨額の資産

 総資産1136億円、うち現預金820億円――。地裁の決定文には、これまでベールに包まれていた21年度末時点の教団の資産も記されていた。収入の99%以上が信者からの献金。安倍晋三元首相銃撃事件が起きた22年度まで資産が増え続けていた。教団内部からは、巨額の資産のうち、特に不動産の行方に不安が漏れる。

 教団によると、東京都内屈指の高級住宅街・渋谷区松濤にある本部などのほか、全国に約280ある教会のうち108カ所が所有物件。また、かつての教団重鎮や信者約1450人が埋葬された群馬県・尾瀬山中など全国5カ所に霊園を保有する。

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世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の本部=2025年3月25日午後、東京都渋谷区、小宮健撮影

 解散を命じられた場合、これら教会や霊園も清算の対象になる可能性があるとみる教団関係者は「信徒をつなぎとめるよりどころがなくなる」と話す。賃貸物件に入居している施設では、地裁の解散命令後、契約更新を拒まれた例が数件あるという。

 教団は、信者数約60万人、毎週の礼拝参加者は約10万人とする。教団関係者によると、近年は新規信者の大半が信者の2世で、各教会に勤める人も多い。しかし、解散後は、雇用継続も難しくなる可能性があるとみる。

 宗教法人が不法行為を理由に解散すると、どう清算されるのか。詳しい仕組みを検討中の文化庁が先月、案を示した。

 清算は、被害者による損害賠償請求への対応が「中核」だと明記した。相当な長期間にわたる場合もあるとする一方、礼拝施設の使用継続などの配慮も盛り込んだ。法人解散後も、信者に信仰の自由はある。文化庁担当者は「『信教の自由』への影響ができる限り少ないほうが良い。例えば、清算人が所有する礼拝所での集会は何の問題もない」と強調する。

「被害」と「解決金」

 教団は今月、取材に文書回答した。安倍晋三元首相銃撃事件から今年1月までに、献金トラブルがあった元信者らへの解決金などの趣旨で計約61億2千万円(882件)を支払ったと説明した。

 一方、1987年発足の全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、高額献金や霊感商法などの被害相談は総額1200億円超に上るとする。教団解散の場合、その後の被害申告が同規模になるとも推計している。

 東京高裁は年内にも判断を示すとみられている。解散が命じられれば、教団はどこへ向かうのか。

 教団は取材に、天地正教は「友好団体」だと回答。解散を命じられた場合の資産移転についての質問には「当法人の解散が決定するとは考えていません」と答えた。また、天地正教の代表役員宅を記者が訪ねると、男性が質問に「よく分からない」などと話した。天地正教のホームページで質問を送ったが、7日夕までに回答がなかった。

 元帯広市議の稲葉さんは話す。「地元では忘れられていたが、まだ天地正教が残っていたことや、旧統一教会が催しを続けていたことに驚いている。注視していきたい」

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この記事を書いた人
北野隆一
東京社会部
専門・関心分野
北朝鮮拉致問題、人権・差別、ハンセン病、水俣病、皇室、現代史
高島曜介
東京社会部|調査報道担当
専門・関心分野
事件、外交、安全保障

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