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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十三章 異世界捕食大戦
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23-11 ソコへと向かう

 A案。最初に思い付いたからAと付けただけであり、意味は特にない。が、強いて言えば(Adjust)案となるだろうか。異世界に開いたワームホールを直し、正常化するという意味をAに持たせられる。

 怪生物共は異世界に開いた穴、禁忌の大空洞を通じて現れているのは明白だった。穴から現れる害虫を潰すよりも先に穴をふさぐというのは作戦という程に高尚なものではない。

 誰だって考え付く。

 そして、誰もがあきらめる。


「禁忌の大洞窟付近は最も敵が集中している。お前、無駄死にするつもりか?」


 黒曜の指摘は作戦が失敗する事前提だ。平時であればナキナから半日以内に到着できる場所であるが、空も既に怪生物の支配圏である。辿たどり着ける可能性は極小。

 仮に辿り着けたとして、何千年も開き続けている穴をどうやって閉じるのかという問題がある。


「大空洞の破壊は、お前の従僕ペットの主砲でも不可能だ」

「辿り着けさえすれば穴はどうにかなる、とは思っている」


 虚勢に聞こえるかもしれないが、厄介な穴を封じる事に関しては第一人者を自負している。日常的に行っていると黒いベネチアンマスクを示す。

「怪物共が大人しく待ってくれるとでも思っているのか。穴の付近にはお前の『魔王殺し』で弱体化させてなお異常性を失わない奴がいないとでも?」

 竜頭魔王という前例があるため、強敵の登場は予想しておくのが正しい。

 時間経過と共に怪生物の数と種類が増えていく傾向からも、大空洞から想定外の敵が現れる可能性が高い。所詮、ナキナまで遠征してきている怪生物は、穴から真っ先に押し出された下位捕食者、雑魚に過ぎないのだ。


「……何が潜んでいたとしても、もうA案以外に解決策がない」


 心痛な表情で皆を説得しているが、この台詞は正しくない。

 禁忌の大空洞を今更封じたところで……既に無数の怪生物が異世界に現れて増殖を開始している状況で、何か意味があるのかという疑念を語っていないからだ。

 俺の思考を模倣可能な黒曜は当然気付いているだろう。

 きっと、ほとんどの者達が気付いているはずだろう。

 今更、異世界が助かるはずがない。


「それでも、これ以外にできる事がない」


 人類に可能な反撃手段が他にない事も分かっていたため、反論は一切上がらなくなった。

 こうして、俺達はA案を発動させて、禁忌の大空洞に向けて出撃する。




 大雑把に言ってA案とは奇襲作戦であり、大空洞に鉄砲玉として俺を送り込むだけの作戦である。大人数で殴り込む必要性はない。

 だというのに、我先にと神格戦艦に乗り込んでいく獣の種族と森の種族共。ナキナからも有志が参加して五百名近い大所帯となっていく。どうしてこうなった。


「皆止めてくれ! こんなに乗り込んでも、神格戦艦で空飛んでいる間は戦いようがない。現地に到着したら俺一人で大空洞に突入するつもりなのだぞ」


 鹿の角を持つ少女ジャルネ。熊の部族のガフェイン。兎の部族のローネ。

 三人を代表とする完全装備の屈強な獣の戦士が部族ごとに独特の雄叫おたけびを上げ、甲板で武器を振り上げ戦意を高めあっている。


「人類最後の反撃になるかもしれぬ戦いに、わし等を置いて行こうなどと水臭い。一緒に合唱魔王や山羊魔王を倒した仲というのを忘れておらぬか?」

「まったく、お嬢の言う通りだ」

「そういうガフェインは私を置いて行こうとした癖に」


 遠足気分で乗り込んだ訳ではないと分かっているが、戦場に乗り込むにしては雰囲気が柔らかだ。獣の種族の気質が戦いに向いているのは分かっていた事だが、彼等彼女等にも死に対する恐怖は存在する。

 どうしてワザワザ、死亡率の高い戦場におもむこうとするのかが分からない。


「そういう御影も死ぬつもりはないのであろう。大洞窟に向かう間や、お主が大洞窟に入っている間はこの船を守る護衛が必要であろう。それを我等、獣の種族を担おうというのだ!」

「近接戦闘がメインの獣の種族が戦う自体って、もうそれは完全に押し込まれてしまっている事態な訳で!」

「――そのための森の種族だ。精霊戦士の矢と魔法が、この船に近付く敵をすべて撃ち落そう」


 話に割り込んできたのはゼナである。

 ゼナも精霊戦士の一団を引き連れて戦艦に乗り込んでいた。

 魔獣の毛皮で防御を固めた獣の種族二百人。

 ミスリルの鎧で防御を固めた森の種族二百人。

 人間族も百人はいるので合計で五百人の総兵力。数だけを考えれば少ないものの、平均レベルが50に達している彼等と神格戦艦は圧倒的な武力となる。国を落とすぐらい容易たやすいものだ。異世界にもう国と呼べるものがほとんど残っていないが。


「ゼナまで参加するなんて。無謀に付き合わないでくれ!」

「世界を救うのは救世主職の専売特許ではないぞ。我等は好きに乗り込んだだけだ。ネズミかロバだとでも思って気にするな」

「ゼナが皆をたしなめてくれなくて、どうするんだっ」


 千歳オーバーのゼナを言葉で説得するの無理があった。一度乗り込んでしまった者を降ろすのも時間の無駄になる。


「我よりも若いエルフの乗船を許しておいて。御影よ、それは我侭わがままだ」


 ……それに、ジャルネやゼナよりも先に乗り込んでいた者達を降ろせなかった時点で、説得はできないと諦めていた。

 俺と同じ救世主職の黒曜は断りきれなかった。それは仕方がない。

 だが、アイサとリリームの二人を許したために、他の同行者を拒否できなくなってしまったのはマズかった。


「アイサ。どうしても付いてくるのか。地球に行った経験のあるアイサなら、避難民と一緒に行ってくれた方がむしろ――」


 未練がましくも、傍から離れてくれない年下のエルフに地球行きを勧める。


「――駄目だよ。凶鳥」


 分かっていた事だが、アイサは顔を左右に振った。


「凶鳥の戦いが始まった時、傍には僕だけがいたんだよ。だから、凶鳥が戦いを終わらせる時にも僕が傍にいないと」


 アイサは地球に追放されても異世界に戻ってきてしまう程に頑固者だ。何度説得しても答えは決まっている。


「妹は責任を持って私が守護します」

「リリームにも言っているんだけどな」

「きょ、恐縮であります!」


 心配されて喜ぶぐらいならリリームにも地球に戻っていて欲しい。

 甲板に大量に矢筒が並べられ、斧が立てかけられていく。

 出撃の延期はありえない。乗り込んだ全員を連れて、神格戦艦はナキナより旅立った。




「結果的に連れてきて良かったのう、旦那様よ」


 ナキナを飛び立って三時間。

 俺が跳び下りたばかりの艦橋が、高速飛行する複数の怪生物の突入により傾斜する。

 貫通するはずだった長い体が『魔王殺し』の効果で力を失い停止。そこへ、ガフェインが指揮する獣の戦士が大斧片手に飛びかかりブツ切りにしていった。


「絶賛、集中攻撃中だな」

「連れてきて良かった。連れてきて良かった!」


 禁忌の大空洞までの安全に向かうために甲板にいても息苦しくならないギリギリの高度で飛行していたというのに、結局、複数の怪生物のむれに捕捉されて戦闘状態に突入していた。

 神格戦艦は対空兵装こそ装備しているが、弾がないため案山子かかし代わりにしかなっていない。主砲は小回りと残弾からいって論外だ。

 エルフの弓が敵を撃ち落してくれなければとっくの昔に艦は沈んでいた。沈みかけの艦で飛行を続けられるのは、陸戦隊たる獣の戦士達が取り付いた敵を始末して回っているからだ。


「側面よりピカイア型無数! 迎撃せよ!!」


 ゼナの示した方向から不気味な形の飛行魚がせまる。飛行している艦の上から射っているというのに矢は気流を引き裂いてまっすぐ飛び、ピカイアの体を引き裂いて撃墜していった。

 だが、弓である以上、速射には不向き。エルフの技量は人間族を圧倒していたもののCIWS《近接防御火器システム》にはかなり劣る。

 矢の雨を潜り抜けた数体が甲板に乗り上げる。


「押し出せぇえッ!!」


 危険を無視してジャルネが甲板を走り、獣の戦士達が後に続く。エルフの部隊が襲われるよりも先に甲板に現れた怪生物を倒していっている。


「天竜! 速度を上げろ! このままでは突破する前に数に押し込まれる」

「小娘共を置いてきたのは旦那様ではないか! 『魔』が足りん!」


 忘れた訳ではないが天竜は神霊。生きていないため自分で『魔』を生成できず、何をするにも外部から供給を受けなければならない。


「御影様。わたくしをお使いください!」


 当然のごとく乗り込んでいた月桂花がエンジンルームへと駆けていく。残れと命じられるのが嫌で、今まで姿を消していたに違いない。

 混乱激しいが、まだ禁忌の大空洞の道中であり、本番はこれからだ。




 地面が見えない。

 以前、迷宮魔王の体内を巡って目撃した時よりも、大空洞は大きくなって地表に現れてしまっている。神格戦艦さえも引っかかる事なく入り込む。竜頭魔王の口と比べれば良い勝負となるだろう。

 盆地形状とは異なった。エレベーターシャフトに近い。氷の上に熱した鉄球を置いたかのごとく、綺麗な形で垂直に続く大穴が開いてしまっている。穴の底は黒く染まっていて何も見えない。


 地面が見えない。

 禁忌の大空洞の側面をよじ登った怪生物共がとめどなくあふれ出してしまっている。いびつな生物の大行進。後ろから追い付かれた瞬間、同種であっても喰われてしまう食物連鎖がそこら中で発生しているため、怪生物共は必死だ。必死に、異世界へと現れている。


 地面が見えない。

 怪生物の群は地面だけでなく、空にも多く存在する。一斉に飛び立つムクドリが空を覆い尽くしてしまうように、飛行する怪生物が禁忌の大洞窟周辺を黒いモザイクで隠してしまっている。




「旦那様よ。こんな場所へ、本当に突入するつもりなのか?」


 からくも到着した目的地の光景は、酷く異常なものだった。

 生物が絶えず現れ続ける大空洞。世界のおわりの光景にしては生態系に富んでいるが、悪夢の光景には違いない。


「行くしかない、だろ!」


 穴の外からでは怪生物の数が多過ぎる。穴の内にも多いだろうが、きっと外よりはマシだ。

 内部へと突入して、世界の境目付近で仮面を外す。そして蟲星ちきゅうと異世界の間に黒い海、隠世かくりよを割り込ませて世界を分断、世界間の接続を断つ。

 そのためにも、まずは神格戦艦からパラシュートなしで降下を開始しよう。降下中は『暗躍』スキルで可能な限り気配を殺す。そのまま空飛ぶ怪生物に悟られる事なく、穴の中へ。

 脳内でシミュレートを行って、深く息を吸い込む。


「中央をかすめる時に跳ぶぞ。十秒前……五、四、三――」


 神格戦艦は各所が大きく損傷し、艦底はかなりえぐられてしまっている。表層構造物も随分と減っていた。甲板にいる者達も消耗が激しく、長くはとどまっていられない。

 俺が飛んだ後は速やかに過ぎ去って、俺が仕事を終えた頃にUターンしてきてもらい乗せてもらう。

 だから、穴のほぼ中心に辿り着いても神格戦艦は速度を落とさなかった。高度も維持している。



「二、一、今――ァッ?!」



 ……ならば、どうして急激に停止したのだろうか。

 壁もないのに壁に衝突したみたいに艦が止まって、高度が下がっているではないか。


「――天竜ッ!!」

つかまったッ?! 引っ張られて、我の『力』が負けている!!」


==========

“『マジックハンド』、遠くの物を掴むスキル。


 『魔』を消費して手で触れていないものを近くに引き寄せるスキル”


“≪追記≫

 スキル名に反するが本スキル所持者は手を有していない”

==========


 神格戦艦が傾斜していく。凹凸だらけの艦が更に凹んで太い溝が走った。巨大な手に掴れたかのごとく、艦首が底のない穴へと向けられて引っ張られていく。

 何も見えない穴の底だというのに、ソコに五つの目が光って見える。 

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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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