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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十三章 異世界捕食大戦
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23-10 A案発動

 アニッシュの叔母、カルテは残留を表明した。自殺行為な事に、怪生物によって蹂躙じゅうりんされるナキナに残るつもりだ。


「ここには父の思い出も残っているの。そう簡単に捨てられるものですか」


 比較的年齢層の高い貴族や大臣がカルテに賛同していく。

 正直言って悪い流れだった。残留はあくまで自由意志によるものだが、年配者が次々と残ると言い出してしまっている。その場の気分や勢いのみで生存の機会を失うのはおろか――、


「――誰が年配ババアですって、貴方ア・ナ・タ? これは私の自由意志なのだけど文句あって?」


 図太いくぎのような視線で思考を刺される。

 カルテの言うとおり、これは自由意志である。その場の勢いのみで決めた事であっても決断には代わりない。そもそも地球への退避をすすめたくても、絶対の安全は保証できない。むしろ、生活基盤のない土地へ万を超える人類を移動させても高い確率で衣食住すべてで不自由する事になるのだ。衰弱する者は必ず現れる。

 ならば、今の生活を守ろうとするカルテの行動は決して間違っていない。


「新天地が安全とは限らないわ。だから、逃げる人達が不自由しないように、私達は私達の居場所で戦いましょう」


 いや、もしかするとカルテは、地球に人が行き過ぎないように真っ先に残留を決意したのかもしれない。

 口減らしだ。姥捨山うばすてやまに捨てられる老人の役目を自らに課す犠牲の――、


「だから、誰が老人ババアですって、貴方ア・ナ・タ?」




==========

“●カウントダウン:残り二日”

==========


 オールのごとく艦に生やしたドラゴンの翼を羽ばたかせて、神格戦艦が飛び立っていく。

 これで二十往復目。天竜をフル稼働させてナキナから地球への人員移動を繰り返している。一度の輸送で千人から二千人の人々を送り出しており、最初の頃と比べれば随分と効率化されてきた。


「押さないでください! 次の便までお待ちください!」


 結局、ナキナからは国民の三分の二、森の種族からは半分の避難希望者が現れた。その他の地域、国からの難民を含めて十五万人の大移動となる。今のペースでは全然間に合わない。兵士達の誘導も効果が薄く、住民達が殺到していた。


「残念ですが、手に持てる以上の大きさの持ち物は置いていってください。荷車を『力』で無理やり持ち上げないで! 人の移動を優先してください!」


 艦内に入りきらず、甲板にも多数の人々を乗せた神格戦艦が忽然こつぜんと姿を消す。『異世界渡りの禁術』によって地球へと転移したのだろう。

 なお、獣の種族からはほとんど希望者は出ていない。赤ん坊と親を含めた五百人ほどの少人数のみが避難する予定だ。


「ジャルネ。これで良かったのか?」

「禁忌の土地は寒いのであろう。好き好んで行こうと思う者はおらん」

「――敵小集団が接近中ッ!! 応援部隊の出撃願います!」

「それに、こうも襲撃が多いのだ。守り手は必要じゃ。ほら!」


 本格的な侵攻はまだ始まっていなかったが、少数――といっても千体規模――の群れがナキナ王都に現れるようになっている。

 今回現れたのは飛行タイプの怪生物で、白身魚を三枚におろして残った背骨の所みたいな姿をしている。


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 ●ピカイア系魔王、H861033亜種

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“●レベル:20”


“ステータス詳細

 ●力:402 守:221 速:241

 ●魔:20/20

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●ピカイア固有スキル『浮遊』

 ●ピカイア固有スキル『偽先祖』

 ●魔王固有スキル『領土宣言』

 ●実績達成ボーナススキル『異世界渡りの禁術』”

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“『ピカイア』、脊索という芯を有するモンスター。


 カンブリア紀に存在したという異形の生命体。体に脊索と呼ばれる棒が通っており、脊椎動物の祖先――要するに、人類の原型――と見なされていた時期もある。ナメクジウオに近い生物と言われる。ちなみに、ナメクジウオは食べられる。

 目立ったパラメーターを持たないが、群れで飛行してくる事が多い。体に喰い付かれると『偽先祖』スキルで種族を上書きされるので注意”

==========


 空から落ちてきた三、四メートルの細長い体が、地上に次々と突き刺さっていく。視覚が発達していないのか狙いはかなり当てずっぽうなものの、数を揃えた集団突撃は面制圧砲撃と変わらない。

 都市部に迫る敵はエルフの弓隊が撃ち落しているが、『魔王殺し』の効果範囲外にいる個体は攻撃を受け付けない。建物を吹き飛ばして、瓦礫とクレーターを量産していく。


「う、うわぁああッ!?」


 不幸にも衝突に巻き込まれ、不幸・・にも生き残った住民は怪生物より下腹を喰い付かれている。

 ふと、住民は象がぼやける。

 違う。人間の形が溶解している。手足がドロドロと流れ出て、ゴム手袋のような皮が落ちる。気付いた時には体長一メートル半の細長い怪生物へと姿が変わっていた。

 怪生物の行動はこれまで一貫していた。動く他生物を捕食。それも、捕食し易い人類を対象に襲い続けている。

 だが、腹がある程度満たされた怪生物は新たな行動を見せるようになっている。

 それは……増殖だ。


「もう助からんッ! ガフェインよ、潰せッ!!」


 落ちてきた怪生物、怪生物に成ってしまった住民を獣の種族が囲い込む。

 熊の種族、ガフェインが全力で振り下ろした斧が怪生物を両断した。住民だったモノに噛み付いている間になぶり殺しにする。


「確かに、獣の種族がいなければ王都は守りきれないが……」

「うぎゃあァ、俺の嫁が化物にッ!?」

「はいー、押さないでくださいー。次の便は三十分後なので地下に避難してくださいねー」

「こっちにいたぞ、増える前に潰せ潰せ!」

「夫が、夫がぁっ!」

「押さないでくださいねー」

「ガフェイン、確実にしとめよッ!」


 襲撃間隔はどんどん縮まっている。

 この状況で実行する異世界滅亡回避のA案は、対症療法にさえならないのではなかろうか。ただの悪足掻わるあがきでしかないのでは。

 心中で不安が高まっていく。




==========

“●カウントダウン:残り一日”

==========


「住民の避難は続けて行うが、『カウントダウン』がゼロになる前にA案を発動する」


 住民避難は神格戦艦のみならず、小さな世界間トンネルの開通に成功した事により加速している。それでもトンネル付近は常に渋滞状態。避難先への私物の持ち込みを禁止して効率を高めているが、まだ半分以上の住民が残っていた。


「だがB案も平行で行うために、やはりパーティを分割する。『魔』を供給するために必要な皐月、アジサイ、落花生、ラベンダーはナキナに残ってくれ」

「ちょ、私達を置いていくつもり!?」

「……そうだ」


 皐月が異議を立てたが、その小さな体で連れていく訳にはいかない。彼女は一度死にかけてから元の体に戻っていない。万全ではない者は足手まといだ。


「適材適所だから諦めてくれ」

「――兄さん」


 異世界にも魔法使い職はいるが、世界間トンネルの開通、維持はSランク魔法使いにしか行えない偉業であった。四人が残るのは仕方がない。



「――兄さんは、私達が死ぬ事を恐れている」



 アジサイが的確に本心を暴いてくるが、俺は肯定しない。別にえこひいきで四人を置いていく訳ではない。脳裏に浮かぶ潰れていく皐月の姿が酷く怖いだけだ。


「天竜はもう住民を地球に輸送しなくて良い。代わりに俺を連れて行ってくれ、空も既に危ないが、陸よりはマシだろう」

「四十八時間連続で従僕ペットを酷使し続けた旦那様よ。もちろん、火の中水の中、喜んで連れていくつもりであるが、我はどこに向かえば良いのか?」


 B案が異世界から逃げ出す回避案ならば、A案は異世界に現れた異物の流入をストップさせる攻撃案。


「禁忌の大空洞を破壊し、蟲星ちきゅうとの接続を断つ」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

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