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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十三章 異世界捕食大戦
328/352

23-4 生態系のピラミッドを二段も三段も登る

 多数の怪生物に蹂躙され炎上するオリビア要塞に、もはや要塞としての機能は存在しない。

 オリビア要塞が落とされれば集まっていた怪生物の群が拡散してしまう。一度魔王軍に支配されて壊滅した土地であるが、二度目の壊滅でトドメが刺される事だろう。もちろん、世界滅亡の前ではオリビアなどという一地方の崩壊など些細な話であったが。



「……起爆せよ」



 それでも、少しでも侵攻を遅らせるようとアニッシュは要塞を自爆させる決断を下す。

 設置されていた火薬を魔法陣でブーストさせて破壊力を倍化させていく。遅延発動型の魔法も複数組み合わせていたのか要塞全体で爆発の花が咲く。思い付きで用意できるものではない。以前から用意してあったのは間違いないだろう。

 竜頭魔王を滅ぼした熱核兵器にはおよばないが、TNT火薬十トンに相当する熱量は地球の通常兵器の限界値に相当する。

 要塞という広大な敷地を有する巨大施設だからこそ可能な最後の悪足掻わるあがきであったのだが――、


「――――もはや、驚かぬ」


 何もかも吹き飛ばしてキノコ雲の中に消えた土地を、重量物が、一本十五メートルの足を有する多脚生物が横断していく。

 要塞自爆を耐え抜いた体の頑丈さにあきれるが、体の造形ほどではない。

 爆発の余韻の残る大地を、円錐型の足で突き刺しながら歩行している。足の付け根からは触手のようなものが空向かってらめいているが用途は不明。でこぼこした楕円の頭に視覚器官は見当たらず、胴体は管のように細長い。

 存在自体が疑わしい怪生物だが、爆発の煙の中から抜け出した後も歩き続けている。足元を潜り抜けようとした昆虫型や軟体型の怪生物が何故か逆さまになって転倒していき、後続の足で踏み貫いていた。怪生物のスキルだったのだろう。


==========

 ●ハルキゲニア系魔王、T10001亜種

==========

“●レベル:45”


“ステータス詳細

 ●力:17891 守:6894 速:41

 ●魔:45/45

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●ハルキゲニア固有スキル『勘違い(被害者)』

 ●ハルキゲニア固有スキル『対空反撃』

 ●ハルキゲニア固有スキル『天地無用』

 ●魔王固有スキル『領土宣言』

 ●実績達成ボーナススキル『異世界渡りの禁術』”

==========

“『ハルキゲニア』、特殊な形状ゆえ誤解され易いモンスター。


 時代よって体の上下、顔と尾の概念が逆転してしまう勘違い(される)モンスター。触手っぽい方が足であり、鋭利な方は対空兵装と最新研究では言われているものの十年後はまた逆転していないとも限らないし、そもそも五億年前の事は誰も分からない。

 ランスのような足先に突かれるとただでは済まないが、足元に接近するだけでも『天地無用』スキルで体がひっくり返ってしまうので接近戦は無謀”

==========


 アニッシュ達、要塞を脱出した生き残りは、皮肉にも、かつて迷宮魔王が要塞奇襲のために掘っていた地下通路を通じて安全に逃れている。

 オリビア・ラインの長城まで後退して戦力の建て直しを図るつもりであったが、アニッシュの表情はかたい。怪生物と直接対峙して人類を圧倒するスペックの高さに恐れを覚えたから……が理由ではない。


「時間経過で数を増していた。どれだけ現れるというのだ」


 直接戦闘に参加しなくなったとはいえ、ナキナ忍者衆から情報を仕入れている。確かな情報ソースにより、怪生物共の発生地点は迷宮魔王の遺骸、より正確には遺骸の中に取り込まれていた大空洞であるとアニッシュは確信している。

 大空洞を通じて怪生物が次々と現れているとも考えている。時間経過によって数が増え、新たな種も次々と登場している。要塞跡地でも、いつの間にか万の敵がうようよしていた。

 一地方に現れた数だけで万に届くというのであれば、総数は十万に達してしまうのではないか。こう楽観してしまいたくなる。

 頭を振って、アニッシュは甘い考えを外へと振り払う。


「……数の増加傾向から考えて、更に十倍。百万の敵と戦う事を想定しなければ、か」




「僕はあくまで異世界ここの管理者だから正確な数は分からないけど、おそらく――七十億を超えるんじゃないかな」


 初代救世主、現神様の後光を有する赤毛男が冗談を喋っていた。

 異世界の生態系と敵対するのである。地球人類でさえたったの七十億。生物の一種としてはそこそこ繁栄しているが、昆虫や魚類と比べればまだまだ少ない。種類を問わず計算したなら億の単位では不足してしまう。

 ならば、蟲星ちきゅうから現れる敵生態系が、七十億などという冗談みたいに小さな数で済むはずがない。


「皐月、アジサイ。疲れたから地球に帰るか! 落花生、ラベンダー。そろそろ夏休みも終わりだろ?」

「現実逃避していないで、いつもみたいに勝つための卑怯な作戦を考えて欲しいな」

「無茶を言うな!? 怨嗟魔王にさえ勝てる見込み皆無だったんだぞッ」


 数攻めしてくる敵として印象的なのは怨嗟魔王である。正体が微生物であり、群体の力により人類圏への進出を目論んでいた。

 水に生息する微生物だけあって総数は億単位だったはずであるが、怨嗟魔王を滅ぼしたのは竜頭魔王であって俺達ではない。


「最低レベルが吸血魔王の異世界生物が億単位で侵攻してきて、どんな作戦立てれば勝てるっていうんだ!」

「まーまーそう言わずに。冷静に考えよう」

「冷静に考えたらもっと最悪な気分になる。秒一体で倒せたとしても残りたった五日じゃ焼け石に水だっ!」


 故郷の違う地球人だからまだ精神的負荷は低いものの、俺が異世界人だったならば精神的重圧で寝込んでいたのは間違いない。五日後に隕石が落下してきて人類滅亡、とNASAが発表したなら暴動に加わるか、意味もなく逃げ惑うか、忘れたフリして日々を続けるかのどれかに振り分けられる。ロケットで隕石に穴を掘りに行く救世主になろうと、誰が思う。

 原型一班オリジナル・ワンの面々の後年が悲惨なものになったのも十分に共感できる。


「……けっ、あいつ等に同情なんてできるか」


 同情に値しない、と黒曜が吐き捨てるように悪口を言っているが。

 アサシン職を弾圧した人物もいたそうなんで人格にそもそも問題があったのは確かだ。とはいえ、ゼナのように温厚なエルフもいるので、原型一班の全員が問題人物と決め付けられない。


「四千年も前から気付いていたなら、初代さんに妙案はないのですか!」

「千年、ニ千年って案外早いんだよねぇ」

「思い付かなかったんだな。そんな難題、後輩に丸投げしようとするなァっ!」


 ノーヒントというか、ヒントどころかそもそも正解がないかもしれない異世界救済。初代救世主は竜頭魔王に勝つ方法さえ考え付かなかった己よりも、魔王連合の戦いに勝利した俺の方がよほど信頼できる。こう頼りにならない褒め言葉と共に期待に満ちた視線を向けてくる。

 はなはだしく迷惑だった。

 正直、今すぐにでも地球に逃げ帰りたい。



「――今更だよ。先鋒が現れてしまったようだ。オリビアの半分と近隣国で戦闘が始まっている」



 俺達と話をしている間も、襲撃を受けた地域からの『神託オラクル』願いで状況を把握したのだろう。初代救世主の顔付きが深刻なものに変わっていく。


「余裕があったと聞いていたのに、もう??」

「余裕ならまだあるさ。現れているのは小型な生物ばかりで、被害者は万に達していな――」


 初代救世主が言い終わるよりも早く歩き出していた。向かう先は当然外であり、神格戦艦であり、最終的にはここから遠く南方、オリビアである。


「何も考えずに救える危機じゃない。作戦を考えるんだ」

「何も考え付かない問題に挑むより、動いていた方がマシだ!」


 被害が出ているのに余裕があると言ってしまう初代救世主の神経に疑いが持たれたが、初代の顔は決して明るいものではなかった。


「水際で敵の侵攻を食い止める。皆、行くぞ」


 水際も何も既に攻め込まれているという正論は無視する。異世界から流れ込む敵の侵攻拡大を防ぐ。直に思い付いた行動のままに霊廟れいびょうから去っていく。

 かつて、水際作戦が成功した例があっただろうか、と口にはしない。




 神格戦艦を離陸させてオリビアへ向けて飛行する。

 直線で移動可能な空の旅でも三、四時間ほど時間を有する。要塞に残っているアニッシュの生存が危ぶまれる程に長い。

 初代救世主から言葉として蟲星ちきゅうから現れる生物の脅威を知ったものの、実体験を伴わない知識ではただただ不安が増すだけだ。

 とはいえ、竜頭魔王を討伐し終えて一日も経過していない。戦艦に憑依させている天竜を含めて乗員達に無理を強くつもりはなく、辛抱強く数時間を待ち続けるつもりだった。トラブルさえなければ。


「――第三砲塔が喰われたぞッ!!」


 天竜の艦内警告は遅かった。金属同士が接触し、引き千切れていく金切り声の方が早く、艦橋が振動に揺さぶられる。

 俺達は上空を飛んでいる。飛行可能なモンスターは少なくないが、多くもない。上空二千メートルを超える高度ならばなおさらだ。翼竜のたぐいもつい最近一族郎党まとめて乱獲されてしまっている。空飛ぶ巨大戦艦を襲ってくる相手がいないのだ。

 だが、敵襲を受けた神格戦艦は三つある主砲の内、後方の一つを噛み千切られてしまっている。

 認識外から突如飛来した敵は、超高速を維持したまま過ぎ去っていく。

 細く続く胴体と所々ある節から生えているはねが雲海の中へと消えていく。『速』437を誇る俺でさえ、そんな気配を感じただけだ。


==========

 ●スカイフィッシュ系魔王、YU3112亜種

==========

“●レベル:40”


“ステータス詳細

 ●力:1009 守:105 速:1540

 ●魔:40/40

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●スカイフィッシュ固有スキル『速・良成長』

 ●スカイフィッシュ固有スキル『回避判定』

 ●スカイフィッシュ固有スキル『直視不能』

 ●魔王固有スキル『領土宣言』

 ●実績達成ボーナススキル『異世界渡りの禁術』”

==========

“『スカイフィッシュ』、実在の疑われる超スピードモンスター。


 肉眼で捉える事のできない速度で空を飛びまわる謎のモンスター。その正体は絶滅をまぬがれた古代生物の子孫であるという解釈がなされていた事がある。

 体の節から翅を生やした体は細い。ただ、蟲星産のものは例に漏れず巨大である”

==========


 もし砲塔でなく艦橋が真っ先に狙われていたなら、何もできずに終わっていた。


「何が飛び去ったっ! アイサ、見えたか!?」

「駄目っ、『鑑定モノクル』できないッ」


 艦橋にいる皆が窓に張り付くが、はっきりと姿を見た者はいない。


「ドラゴンには見えなかった。虫のようであったが、正体は分からぬ」


 最年長のゼナを頼るが、彼女も襲撃した相手に心当たりはないという。

 ただ、昆虫のような体の節と昆虫のような翅。

 そして、侵略してきているのは蟲の星から現れる生物共。

 関連性を疑わない方がどうかしている。


「前線から離れてた空の上でも、お構いなしなのか!」


 戦場となっているオリビアに向かう。そんな甘い認識で初代救世主の元から飛び立ったのがそもそもの誤りであったのか。別世界同士が接した今、物理的な距離など信用ならない。どこもかしこも人類生存の最前線だ。


「天竜、VLS起動ッ。空対ミサイル、反撃だ」


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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