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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十二章 バハムート殲滅
323/352

22-10 食育

 竜頭魔王と俺の共通点。それはきっと、別の世界から異世界こちらにやってきた事。竜頭魔王も俺も、異世界にとってはあまりにも異質過ぎる。

 竜頭魔王が通ってきた穴というのは、迷宮魔王の体内に取り込まれていた禁忌の大空洞でほぼ確定だ。底の見えない大きな縦穴。大きいと言っても竜頭魔王の体格と比較すれば二周りは小さかったが、竜頭魔王が通ってきたのは最低でも二千年前となる。地形は多少以上に変化しているはずだった。

 あるいは、竜頭魔王が異世界に現れてから更に大きく成長したのか。



蟲星ちきゅうのお仲間いしいもたくさんいて良かったよ~~。でも、こっち側の方が柔らかくて食べ易い~~”



 地面の中から照射されたブレスに竜頭魔王の牙が切断された。

 潰されたと思っていた六枚翼の悪霊ドラゴンが不意討ちを食らわしたのだ。放物線を描いた牙が大地に突き刺さって直下型地震を起す。


“黒くて食べられないのが現れて困っていたけど~~。もういないから食べ放題~~”


 六枚翼ドラゴンはここぞとばかりに攻勢を強める。残った片側の牙もブレスで切断しようと第二照射を開始した。

 そして……ブレスの熱線に耐えた牙に押されて、岩盤との間で磨り潰される。死体が動いているに過ぎない体だったので多少の損傷で動作に影響はなかったものの、ミリ単位のひき肉、あるいは赤い泥となっては再起不能だ。


==========

“ステータス更新情報

 ●力:214748360 → 429496720(抵抗中)

 ●守:3275 → 6550(抵抗中)

 ●速:50 → 100(抵抗中)

 ●魔:5/5 → 10/10(抵抗中)

 ●運:0”

==========


 また、竜頭魔王のパラメーターが上がった。呼び出した翼竜の悪霊だけではもう抑えきれない。追加を呼び寄せても肉壁にさえならないだろう。


“お腹がすいた~~。もっと、もっ――”


 ふと、甲殻の頭で爆発が生じた。遠方からの長距離砲撃。神格戦艦からの支援射撃で間違いない。戦場から退避していなかったのか。

 頭部片側へと集中させた砲撃は甲殻を大きく震わせた。中途半端に残っていた魔王の牙が脱落していく。

 ダメージを与えられた。

 浮かんでいた竜頭魔王の頭部が押し込まれた。地面へと釘付けにできた。

 神格戦艦はこの地域で唯一、竜頭魔王の『守』を突破できる武器を有している。


“――っと、もっと、食べたいよう~~!!”


 ……が、それもいつまでの話か。爆発音は派手で、砲弾が穿うがった穴はテニスコートよりも大きい。つまり、どれもこれも、竜頭魔王の体に対して実に狭小きょうしょうだ。

 脱落させた牙も砲撃による成果なのか微妙である。乳歯が抜け落ちるように、牙の底から新しい牙が顔を出したから落下しただけなのかもしれない。注意して見渡せば、ブレスで傷付いていた各所の穴は小さくなっていた。

 驚異的な新陳代謝だった。

 悪霊の群を口で飲み込む。たったそれだけで、与えるダメージ以上に回復していく。


“もっと、もっと、もっと、もっと~~っ! ちょうだいっ!!”


==========

“ステータス更新情報

 ●力:429496720 → 858993440(抵抗中)

 ●守:6550 → 13100(抵抗中)

 ●速:100 → 200(抵抗中)

 ●魔:10/10 → 20/20(抵抗中)

 ●運:0”

==========


 趨勢すうせいは決した。

 悪霊を粗方あらかた喰い終わってしまって、竜頭魔王は上空の俺へと次を強請り始める始末である。

 竜頭魔王に戦っているという認識は皆無だ。認識しなければならない程の脅威を俺達が感じさせていないのが一番の問題だった。熱いスープで喉を火傷したとして、スープに殺されるとうったえるのはパラノイヤでさえも不可能である。

 ようするに、人類の未来をかけたこの戦いは食事に過ぎない。

 究極生物の巨体を維持する。そのために食事量が増えていき、それでも足りないから日々のすべてを食欲に占有されていく。考えてみれば当然の事だろう。


「食事は楽しいか、竜頭魔王?」


 けれども……ただ食欲のみに特化した愚物ぐぶつが究極の生物だというのは、馬鹿らしい。


“楽しいって何~~??”

「そうか。そんな事さえ分からない程に、お前は幼いのか」


 自然界では、一機能に特化し過ぎた生物は破綻する。

 竜頭魔王の場合、感情の何たるかさえも分かっていない無知が弱点だ。楽しい食事を理解できないのであれば、つらい食事も同じく理解できていないのだろう。

 何も知らない子供相手に本気になるのは大人気なかったが、子供をあなどる方が失礼だと思って手を叩く。顔の穴の内側に呼びかける。


「誰かある。小さな子供を食育する時間だぞ」


 黒い海底へと沈んでかすれていた魂を一時的に浮上させた。俺の呼び声に引き上げられた毛むくじゃらな腕が穴から突き出てくる。比率的にありえないが、顔の穴から魔族の上半身が現れる。

 上空で呼んでしまったため、穴から抜けて自由落下し始めた。どうにか空中でキャッチして両手で毛を握り込む。悪霊を掴む俺、その俺を更に掴むリリームが重そうだが我慢してもらおう。


「野人のような全身の毛と長い鼻。エクスペリオだな、お前」


 悪霊エクスペリオはこの世への未練が薄いのか、意識のようなものは感じられない。

 ただ操り人形のごとく、命じれは言う通りにスキルを発動させるぐらいはできるだろう。悪霊の主として、記憶を物質のごとく操作可能なばくの魔族、エクスペリオに命令する。



「俺が凶鳥となってからの記憶から、食に関する部分をさらえ! 大切な記憶だ、丁寧に貧食どんしょくなる竜頭魔王に馳走ちそうしろ!」



 悪霊エクスペリオは命じられるがままに鼻を動かし、俺の頭へと近づけて記憶を嗅ぎ分ける。

 なつかしい記憶が溶けるように頭から消失。エクスペリオの手中にて黒い粒子となって集まっていた。

 掴んでいた毛を離して、エクスペリオごと食の記憶を投下する。竜頭魔王の頭頂部にぶつかって形を失う。記憶の移植は成功だ。


「……御影様。一体どのような記憶を竜頭魔王に?」

「もう俺の中にないから覚えていないが、最初はエルフに振舞われたのだったか」


 あの頃の俺はレベルダウンのどん底で、衰弱しきって行き倒れていたところを森の種族に拾われたのだった。今でも不思議なのだが、あんな態度であつかうぐらいなら俺を拾わなかったら良かったのにと首をひねってしまう。

 竜頭魔王も共感してくれたのか、甲殻に包まれた頭部を曲げて硬直させている。



“――お腹がすいているのに、かはッ、う、うゲっ……がはぁ、はぁ?!”



 記憶の移植による追体験に、長い体を海老反りさせながら硬直させていた。

 それはそうだろう。死にかけの体力で歯が欠けるぐらいに固いパンを食べようとすれば、内臓に全否定される。究極生物の鉄の臓器では味わえない貴重な記憶だ。


「……私の姉が大変失礼な事をッ」

「空中で土下座しようとするな。俺が落ちる」

“なんで、僕?! どうなっちゃの、僕。あばあばああッ”


 固いパンの次に食べたのは何だったか。普段口にするべきではない物を新鮮なまま、生で食べてしまったような。良い子の皆は真似しちゃ駄目だぞ。


“ネズミの内臓……!? 気持ち悪いよぅうぅぅう”


 良い子ではない竜頭魔王はグロッキーとなり横倒しになっていく。『守』では軽減できないつらい食事の記憶によりダウンしてしまったのだ。


「……御影様っ。姉の罪は私の命でつぐないをッ」

「リリームが死ぬと俺も落下する。それよりも好機到来だ。融合魔王の起爆準備に入るからスマフォで神格戦艦へ連絡してくれ」


 竜頭魔王の動きが止まった。記憶を使った攻撃にも耐性を付けるとすれば次のチャンスはない。これが竜頭魔王を倒せる最後の機会だ。

 融合魔王に『魔』を注入してから起爆まではたったの数分。

 少しでも距離を稼ぐためは工夫する必要がある。


「『既知スキル習得』発動。習得スキルは『分身』」


 使用頻度が高いスキルはそれだけ優良だという証拠だ。忍者職のグウマより学習した『分身』スキルで作り上げた分身体に『魔』の注入を任せて退避を開始する。


「リリーム急げ! 時間がない!」

「これが限界ですっ!」


 時速六十キロで進んでも分速換算では一分でたったの一キロ。竜頭魔王の体の一割にもならない距離しか進めない。

 『暗影』を使用できるだけ使用して短距離跳躍を繰り返す手段はあるが、『暗影』一人用なのでリリームを置き去りにしてしまう。まあ、置き去りにしたとしても数百メートルなので採用するに値しない。

 分身体が融合魔王の遺骸へと触れて、体を構成する『魔』をすべて注ぎ込んで消滅していく。

 嵐の気配を感じ取った大気が、静まり返った。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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