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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十二章 バハムート殲滅
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22-5 初手一斉射

 早朝。いや、まだ深夜と言える時刻に出航する。


「機関始動! いかりを上げろ」


 土地神憑依の神格戦艦が咆哮するがごとく汽笛を鳴らした。海であれば喫水線の下に隠れる艦の下腹より生えたドラゴンの翼が羽ばたきを開始する。質量感ある艦体が冗談のごとく浮かび上がって、地面に繋ぎ止められていた錨が巻き上げられた。


「両舷前進強速!」

「スクリューで動いている訳ではないぞ。旦那様」


 ドラゴンの巨体が翼で浮かぶのも非科学的であるが、ナキナ王都より出航した神格戦艦ほどに理不尽ではない。元々は船なので当然か。もはや、浮いている理由は神通力以外にありえない。りんごから万有引力を発見していない異世界ならば、反重力だろうと揚力だろうと神力だろうと浮けば同じ扱いとなるから大らかなものだった。


「艦首を西方へ。竜頭魔王を迎え撃つ」


 高度を上げて近隣の山の頂上を越えられるようになってから移動を開始する。ナキナの王都を朝食にするために飛来する魔王と対峙するためだ。王都付近を戦場にしないように離れていく。

 艦の動きは完全に天竜任せなので、指示以外にする事はない。ステアリングを握る必要さえない。


「第一、第二、第三は砲塔を旋回せよ」


 ただし、三つの主砲のみはそれぞれに配置した人員で手動で操作する。

 ちなみに、砲塔を少人数で操作できるのにはカラクリがある。元々は熱核兵器を再現するために集めていた『記憶武装』が余っていたため、45口径の三連砲として流用したのだ。重機関銃の弾が自動装填されて無制限に撃てていたのであれば、二メートルの砲弾だって装填されてしかるべきである。


「竜頭魔王は西からやってくる。天竜、側面を向けろ!」


 第一砲塔の担当はアイサとリリーム。姉妹同士の意思疎通による連携が期待できる。



「リリーム姉さんっ! どうしてそこ触るの!?」

「い、いや。そこにボタンがあったから……」

「もうっ! わざと三つの角度を変えているのに。銃火器は僕の方が適性があるんだから、姉さんは僕の言うとおりにしてよ!」



 第二砲塔の担当は黒曜とゼナ。戦歴の長い者同士を中央に配置すればこれ程安心できるものはない。



「たく、こんなデカブツまで持ち出しやがって。相手もデカブツだからどうにか使えるだけだ」

「黒曜よ。そなたの『カウントダウン』は止まっていないのか?」


==========

“●カウントダウン:残り五ヶ月強”

==========


「止まるかよ。それが分かっているから嫌になる」

「複数の救世主職が出現する状況でも『カウントダウン』が止まらぬか。不安が強まっていかんな」

「……それで、今後の展開をお前はどこまであの野郎から知らされた?」

「初代救世主からか? 我が聞かされたのは世界をまたいで侵攻が始まるという事までだ。どういった敵がどれだけの数現れるのかは不明だが、侵攻が始まれば人類は数日で死滅するらしいな」

「あー、まったく。滅亡が開始すると分かっていて戦うなんて、やる気でねぇな」



 第三砲塔の担当はヘンゼルとリセリ。……数合わせなどと思ってはならない。



「最初は挟叉きょうささせるのがセオリー、であります」

「りょ、了解しましたわ」

「ですが、竜頭魔王の大きさを考慮すれば百メートル単位の誤差があっても命中できる、であります。気楽に照準する、であります」

「『記憶武装』を扱った事はありますが、正直これをうまく扱える自信はありませんわ」

「射撃は『運』が高いリセリ様にお任せ、であります。方法だけレクチャーする、であります」

「分かりましたわ。やってみせます」



 上空から眺める朝は独特だ。太陽が昇った方角は明るく、太陽が昇っていない方角はまだ暗い。俺達は朝と夜の境界線を飛行する特異点だ。

 ただ、唯一の特異点ではない。

 西の空に巨大な魚影が浮かんでいる。


「竜頭魔王ッ、まっすぐこっちに来ている。待ち合わせバッチリだ!」


 ゆっくりと、だが恐ろしい速度にて世界魚の巨影が近付いている。

 異様な風貌ふうぼうの魔王である。地上から見上げたジャンボジェットよりもはっきりと形状が分かる事も異様だ。体の左右で稼働するヒレの動きや、昆虫よりも無感情な視覚器官が一目瞭然だった。

 ただ待っているだけでは速力で負けてしまうため天竜に機関の全力運転を命じる。

 作戦はこうだ。竜頭魔王の鼻先をかすめながら主砲を一斉射。目標をナキナから俺達に変更した竜頭魔王と一定の距離を保ちながら魔界へと牽引けんいんしていく。実にシンプルで、シンプルだからこそ失敗する余地のない完璧な作戦である。


「全砲塔による一斉射だからタイミングを合わせろよ」


 神格戦艦は竜頭魔王の進路を斜めに横切る。その直前を狙うために砲塔は角度を修正していく。

 体積で百倍は負けている魔王の気を引くのだ。鼻先を飛行してからの針で刺す攻撃でなければ厳しい。


「撃ちーかた、よーい!」


 カンブリア紀に滅びたはずのアノマロカリス似の竜頭魔王のどこに鼻があるのかは分からないが、巨大な流線型の頭部へと急速接近してからギリギリで離れていく。気流の流れに巻き込まれて巨壁のごとき頬に衝突してしまいそうになりながらも、天竜の操舵はたくみだった。

「撃ちーかた、はじーめ!」

 合計九門の巨大砲による至近距離での一斉射である。



「てぇーーッ!!」



 炸裂によって艦橋全体が白く染まった。人間の可聴域を超える爆裂が鼓膜を突き破って聴覚さえも真っ白だ。が、煙幕により灰色に入れ替わるのも早い。

 確実に艦全体が反対方向へ押し出された。そのまま竜頭魔王の傍から離脱していく。


「よし、これで竜頭魔王の奴を魔界ま――」

「旦那様よ。見てみろ」


 魔界方向へと船首を向けた神格戦艦の背後を、竜頭魔王は素通りしていこうとしている。

 砲弾の直撃を受けた頭部前方からは黒煙が上がってダメージを受けているように思えたが、気流に飛ばされた煙の向こう側は恐らく無傷。徹甲弾が甲殻を貫通できていない。

 竜頭魔王は……ナキナへと直進したままだ。


「きゅ、急速旋回ッ!? 魔王を追いかけろ!!」

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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