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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十二章 バハムート殲滅
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22-3 神格憑依


「SMC《艦艇ミッションセンター》から甲板作業員へ。見間違えではないのか? レーダーはもちろん、こちらのライブ画像では確認できない」

「SMC! どうして見えていないんだ! 直そこに正体不明船が見えているんだぞ!?」


 某日未明、作戦行動中の軍艦が東シナ海を進んでいた。

 全長180メートルもある巨大艦であるが、分類的には駆逐艦に相当する。独特な船体形状はレーダー波に対するステルス性を確保するためのもである。鋭利な先端部は刃物に見えなくもない。

 突起を極力配した構造物は近代的ではあるものの、これまでの常識が通用しないデザインセンスを未来的と思うか格好悪いと思うかは人それぞれであろう。

 外見以上に内部施設は近代化されている。これまでのCIC《戦闘指揮所》を発展させたSMCは情報の収集、対応速度が旧世代の艦艇よりも高度化されている。手動操作であったものの多くがコンピューター制御となっており、巨大な船体に反して乗員は半分で済むという売れ込みだ。

 ただし、新造艦であるがゆえに運用方法は未だ模索されている最中でもある。

 買ったばかりの新車を走らせるようなものである。動かし方は分かっていても慣れない装置に対する違和感はぬぐえない。特に、複雑なコンピューターの異常は操作者のオペレーションミスなのか、ソフトウェアバグなのか、仕様的動作なのかまったく判断が付かないと言って良い。

 SMCの液晶画面上に映るレーダーやカメラのライブ画像には、航路上に何も存在しない。が、甲板上に出ていた作業員からは進路を所属の分からない巨大艦艇がふさいでいるという。


「SMCより甲板作業員。やはり確認できない」

「早く回避してくれッ。もう間に合わない!?」


 大戦時の艦橋と異なり、SMCは船の大事な脳であるため外界と接していない。それゆえ直接外を見る事はできない。電子的な視覚を有する最新鋭艦にその必要がなかっただけなのだが……レーダーに映らない巨大戦艦が汽笛を鳴らす。

 雲の多い空と多少荒れた波。



「SMC……。ぼ、亡霊船だ……」



 快晴とは言い難い空ではるが、フジツボに塗れ、甲板や大砲から海水を排水する、まるで深海から浮上したかのような亡霊船が現れるぐらいの良天候とも思えない。

 しかし、甲板上に立っている作業員の目には見えていた。

 海上の壁のごとくそびえる巨大な船を。

 最新鋭とは真逆の、過去に沈んだ戦艦の姿を。





 一足早く異世界から帰還した男、紙屋優太郎は調べ物の最中であった。


「意外と無人島の値段は安いんだな。税金も含めて。ただ、大量の人間が移民できる程ではないか」

『――ボランティアによる沿岸清掃が行われ、三トンのゴミが――』


 最悪の事態におちいり、異世界人を異世界から地球へと逃がす時のための避難先を探すためである。インターネットと世界地図を駆使し、有望な場所を探している。


「日本なら北海道のどこか……いや、やはり島でないと機密の問題が。エルフを知られたら人が殺到する。となれば不法にでも使われていない島を使うしかないが、キャンベル島あたりか……」

『――トリスタン・ダ・クーニャは大西洋の島であり、世界で一番孤立した有人島であるとギネス登録されており――』


 せっかく危険に満ちた異世界から、安全な賃貸マンションの自室へと帰還したというのに、忙しい男である。

 テレビの電源は付けているもののニュース番組に視線を向ける暇さえない様子だ。



『――緊急ニュースが入りました。本日未明、アメリカ海軍所属の軍艦が所属不明艦と衝突事故を起し――』



 とはいえ、数時間の頭脳労働で疲労していたのだろう。首を左右に曲げてストレッチしてからマグカップを手に取る。残念ながら注いでたコーヒーは既に飲み干していた。


『――船員は全員救出された模様です。この事件に対して周辺各国は関係を否定していますが、アメリカ大統領はツイスターで声明を――』


 空のマグカップを一口した優太郎は、見ていなかったニュース番組を見てつぶやく。


「……何やってんだか、あいつら」





 空を泳ぐ竜頭魔王とは高度を合わせて戦うべきである。

 ゆえに俺達も飛行手段を用意するべく色々と考えた。ライト兄弟のいない異世界には飛行手段が存在しないため、頼る先はおのずと地球となってしまう。

 神霊である天竜は魂のない物に乗り移って動かす事ができる。そのため、物さえ用意してしまえばパイロットを必要としない。この点で悩まずに済むのは大きい。俺は物を用意するだけだ。


「プライベートジェットでも速度と航続距離は問題なかったけどね」


 合法的に用意するなら自家用ジェットを購入するべきだ。過去の戦いで現金だけは大量に所持しているので金は問題にならない。ただ、魔王と戦うとなれば装備は良い物を求めたくなってしまうのが心情だ。民間機よりも軍用機が欲しくなるのは当然だろう。

 もちろん、軍用機を個人が入手できるはずがない。黙って借りるのが関の山だ。


「軍用機なら、アリゾナ州でモスボールされている輸送機か戦闘機に天竜を憑依してもらうのが手かなと思っていた」

「旦那様よ、我等はあの竜頭魔王と戦うのだぞ。魔界まで誘導するだけとはいえ、それなりの火器は必要となろう」

「なら戦闘機か?」

「旦那様とのツーリングも愉快であろうがの。我は飛ぶのに集中したい。戦闘は小娘共に任せねばならんとくれば、それなりの広さが必要となろう」


 米国海軍仕様の戦闘機でも二人乗りが上限だ。戦闘要員を乗せて飛行するとなれば貨物室のある輸送機かあるいは爆撃機となるだろうが、そうすると対空攻撃手段が不足してしまう。


「それに、戦闘機の対空ミサイルは打撃力不足で心許ない。我が尻尾で叩いても、竜頭魔王にとっては雨粒で打たれる程度でしかないぞ」


 人類圏の上空を好き勝手に泳いでいる竜頭魔王を魔界の作戦地点まで誘導するために、少なくともデコピン程度の打撃力を有しているのが望ましい。

 天竜にどうするべきか意見をいてみたところ――、



「数々の魔王を姑息な手段で屠ってきた旦那様にしては頭の固い。我は元々、航空力学に反して飛ぶドラゴン。飛行機にこだわる必要はないのだぞ」



 ――と言われて気付き、世界を越えてはるばるやってきたのが東シナ海。

 具体的には北緯30度43分、東経128度04分。

 海しかない場所である。沖縄が近くにあるだけで粗い波で水面が揺れている。天竜か船でないとたどり着けない遠洋だ。俺達が求める乗り物はどこにもないように思える。


「複数に分裂しているらしいが、いけるか?」

「沈没する前の完璧な姿にまでは戻らぬが、亡霊船に見えるぐらいに整えるぐらい造作もない」


 水深三五〇メートルほどの地点へと天竜と一緒に沈んでいく。このぐらいの水深ならレベルアップした体には問題ないだろうと、小型の酸素ボンベを咥えて海中へと飛び込んだ。

 プランクトンの雪が降る深海も『暗視』スキルを有するアサシン職にとっては真夏の浜辺に等しい。

 静かな世界であるが、地上と比較して音を出す生物が少ないだけだ。地球の七割という膨大な領域の所為で単一領域に対する生物の数が薄まっているだけとも言える。

 海底は暗く冷たい。が、真の海たる黒い海と比べれば心地良いのだ。


「見えてきたぞ」


 水中でも何故か聞こえる天竜の声が示す方向にあったのは、複数に分裂してしまった何かだった。上から見下ろしていても分かるぐらいに大きい。沈む途中で分かれてしまったのだろう。少し離れた箇所に沈んでいる。


「ぶくぶくぶくぶく」

「問題ない。我の神性は伊達ではないぞ」


 泡だらけの発言であったが、何故か以心伝心するため天竜に伝わった。どうも従僕ペット職の『信頼関係』スキルが関係していそうだ。


「憑依を開始する。旦那様は艦橋に乗っておれ」


 沈んだ巨大物は大きく二つのパーツに別れていた。

 上下逆さまとなって沈んだ艦尾部分と、傾いて底に座している艦首部分。それでもその船の名前が分かるぐらいに特徴的な艦首の紋章は残っていた。


「ぶくぶくぶくぶく」

「旦那様に代わって言おう。浮上せよ、神格戦艦ヤマト!」


 天竜が憑依した事により沈没していた戦艦が動き始めた。原理はポルターガイストと同じであるものの、天竜に言わせればもっと聖属性寄りのもののようだ。バラバラになっていたパーツが元の位置に戻っていく。


「旦那様よ。形は戻せるが足りない部分も多いぞ」


 器さえ用意できれば憑依して飛行可能だという天竜の言い分を信じて、巨大かつ戦闘用で今は誰も使っていない物を探していた。ミズーリと悩んだが、あっちはまだ観光で使われているので自重じちょうしておいた。

 まあ、浮上した際に最新鋭艦を巻き込んでしまい某国にはもっと高額な被害を加えてしまったのだが。

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