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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
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21-20 腸から肝臓へ

 ――大空洞を住みかとした盲目のワームは長く雌伏の時を過ごす。

 喰っても喰っても傷付いた両目は機能を回復してくれず、狩りは失敗続き。時々、穴を張り抜いて大空洞へと落下してくるミミズを喰らう日々。多少は体が大きくなったものの、地下の貧弱な食事のお陰で経年の割には大して成長していない。

 ……そんな貧しいが安定した十数年に慣れた頃に、盲目のワームは恐怖を思い出す。


「――下るのか。格闘家」

「世界の終わりを座して待つなど性に合わない。初代救世主様の予言が正しいかを確かめ、原型一班オリジナル・ワンの格闘家職として今度こそ我が力で世界を救おう」

「無謀だ。……死ぬぞ」

「そういう魔法使い職はどうだ。俺と一緒に心中するつもりか?」

「馬鹿を言え」


 目が見えなくとも分かる。人間族の臭いが近づいている。

 盲目のワームは寝床の岩陰へと潜み、長い体を縮めて息を殺す。恐怖の対象たる人間族をやり過ごすためだ。

 心臓は大きく鼓動するが、ワームの不安を他所に現れた二人の人間族は大空洞の中央へと歩いていった。そのままワームに気付かず大穴にロープをらして下っていく。何の用事があるのかは分からない。

 しばらくの間、人間族の気配が消えた方向に神経を集中させるワーム。

 人間族はどちらも実力者に思え、ワームの力では決して太刀打ちできない相手だと察していた。半日以上もじっと動かず、食事さえ取らなかった注意深さはワームとしては異常である。恐怖を知るワームならではの行動であった。

 そして、更に半日後――、



「に、にげろオォオオッ!!」



 人間族の叫び声が穴の中から響いて伝わる。

 穴のロープを息を切らしながら登り切り、まず一人の人間族が戻ってくる。


「格闘家ッ!!」

「後ろを振り返るなッ。先に行け!!」


 そして、残り一人も上半身を脱出させるが……間に合わなかった下半身を噛み付かれたのだろう。叫びと飛沫を上げて穴のふちへと倒れ込んだ。


「アアアァアッ。い、行けッ! 魔法使い! 世界の危機を、伝えろオオッ」


 ワームの恐怖の対象であった人間族が簡単に致命傷を負って倒れた。単純な食物連鎖であったが、ワームは衝撃的な出来事として受け止める。

 レベルが高いだけでは生き残れない。

 何かが足りなかったから人間族は喰われて死ぬ。

 人間族の下半身にはしっかりと二枚貝のごとき口がしっかりと噛み付いている。穴から逃げ出す寸前だった人間族に口が届いた理由は、口が象の鼻のごときくだの先付いていたからであるが、盲目のワームに知る余地はない。

 ただ、穴の底には己を遥かにしのぐ化物が住み着いているとだけ理解した。

 人間族共は、穴の底にそういった化物が住み着いていると想像していたはずなのに喰われてしまった。死ぬという恐怖心が足りなかったから殺されたのだと理解した。


「ギャアアアああッ!?」


 人間族は一人と半分だけが穴から脱出し、非情にも一人は半分を置き去りにして大空洞から去っていく。

 穴の中にいる化物は食べ残しの半分へと口を伸ばすが……何故だか急速に穴の奥へと下降していく。逡巡しゅんじゅんしていたようだが穴へと戻ると決断してからは早かった。地上から逃げたワームには、化物の行動に共感する所があった。

 残された盲目のワームは、穴の淵にある人間族の半分へと近づいていく。

 瀕死の人間族を喰って恐怖を克服するためでは、ない。恐怖を捨て去るなど、そんな勿体無いことはできない。

 単純に腹が減ったのである。

 ワームは原型一班に所属していた格闘家職の男を頭から丸呑みにする。上半身しか残っていないが、上半身なのだから中には心臓が存在する。更に、この大空洞は世界の境界線であるため法則が曖昧だ。

 人間族が心臓に蓄えていた経験値を丸ごとワームが入手する条件は整っていた。


==========

“●人間族を一体討伐しました。経験値を九一五〇入手、レベルが1あがりました

 レベルが1あがりました

 レベルが1あがりました――”

==========


 盲目のワームはその後も千年以上、じっくりと時間をかけて成長した。レベルアップと暴食により体は広がり、知能も上がり、後に魔王と呼ばれるまでになった。

 『ダンジョン』こと迷宮魔王と呼ばれるようになったワームの計略はただ一つ。

 恐怖を忘れない、だ。

 恐怖と寄り添っていれば、たとえ世界が滅びたとしても生き延びる事ができると確信している。





 禁忌の大洞窟を去って上へと向かう。

 これまでの道筋が遠回りに思えるかもしれないが、複数の区画を経由するのが時間的には近道である。食事が消化器官で吸収され、栄養がこし取られて血流に乗り、巡り巡って心臓に到達する。俺達もその流れに沿う。

 体内の循環に逆らっていないお陰で迷宮魔王本人に気付かれる事なく心臓まで近づける。

 迷宮に潜って三日は経過しそうな勢いであるが、うまく行けば今日にでも心臓へと辿り着けるはずだ。


「迷宮魔王の奴。何のつもりで魔王連合を立ち上げたのだろうな」


 血管に該当する長い坂道を登っている最中、話題に挙げたのは魔王連合の事であった。これまではあまり不思議に思っていなかったが、今更ながら疑問がある。

 主張の異なる者同士が連合を組む理由の代表例は、単独では叶わない巨大な相手に対抗するための戦力結集である。ただ、この例は異世界最強の竜頭魔王が参加している時点で魔王連合には適応できない。

 ならば違う理由がある。


「己よりも強い者を自軍に引き込むための方便だったのではないでしょうか? 連合という枠組みに座付きの魔王を誘い込めば敵対しないで済むだけでなく、戦力として期待できますわ」


 月桂花の考えでほぼほぼ正解だと思われるが、やはり竜頭魔王が圧倒的過ぎる。次席の山羊魔王、合唱魔王までは魔王連合に参加させておいても損はないだろうが、他の魔王が絶対に必要だったかというと懐疑的になってしまう。

 魔王連合に参加していた魔王の内、半分はなくても人類圏侵攻は可能だった。


「人類圏侵攻の間、後ろから攻撃される心配がないように近隣の魔王はすべて連合に引き込んだ、とか?」


 ラベンダーの考えが妥当なところだろう。吸血魔王や怨嗟魔王は迷宮魔王に比肩しないとはいえ厄介な相手であったのは間違いない。正体が分からなければ対処できない相手も多く、ゲリラ的に活動されては鬱陶うっとうしかったに違いない。


「……でも、少し消極的過ぎないか」


 隣人は殺せ、がデフォルトの魔王が戦力を整えていたのである。人類ごと逆らう魔族、魔王を滅ぼすのは容易だったと思われる。二正面、三正面作戦をこなせるだけの戦力を魔王連合は有していた。

 戦えばほぼ間違いなく勝てる相手とさえ戦わない。迷宮魔王がそれだけ用心深かった結論を下すしかないのだろうか。


“――迷宮魔王は他生物すべてを犠牲にしてでも生き延びようとしている。僕はこう思うね”


 ふと、初代救世主が核心に近付く発言をする。


「どういう意味で??」

“迷宮を内側から観察したから分かる。人類を体内で畜産していた事実からも、迷宮魔王が今後も長期間生き延びる準備を整えている。世界が滅びたとしてもせめて己だけは生存してみせるという意思の現れだ”


 迷宮魔王は『カウントダウン』がゼロになった後の世界を想定して動いていた。その手段として導き出されたのが魔王連合。

“迷宮魔王にとって、己と竜頭魔王のみが生き延びている現状こそが理想系だ。他の魔王にはすべて滅んで欲しかった。人類圏侵攻はついでに過ぎなかったんじゃないかな”

 犯人が被害者役と探偵役を選んで招待状を送り付けるように、迷宮魔王は生き残って欲しい魔王と排除したい魔王を選んで魔王連合へと参加させていた。己の手の上で魔王共を躍らせるためにである。

 結果から逆算して、迷宮魔王にとって必要だったのは竜頭魔王のみであった。

 初代救世主の主張はこの通りであるが、二柱となった後で竜頭魔王と迷宮魔王は交戦している。迷宮魔王の方が劣勢だったとも聞いている。

 竜頭魔王を残しておかなければならない理由が分からない俺には、正しい主張のようには思えない。

 最強植物な討伐不能王がいる間、魔王連合の魔王共が大人しくしていたように、最強生物な竜頭魔王がいるから大人しくしている奴等がいる。そんな状況を想定しなければ納得しかねる。


「…………はは……は、いや。まさかね」

“――そうそう。その通――”


 初代救世主の神託は続いてくれなかった。

 壁に手を付いていなければ立っていられなくなる程に迷宮が震えたのだ。


「気付かれたかっ!?」


 迷宮魔王が体を起したのだろう。それだけで気付かれたと判断するのは早計であるが、迷宮が更に震えて爆発に近い倒壊音が通路の向こう側から迫ってくるのであれば別である。

 直角に曲がった通路向こうから長い胴体のモンスター、ワームが顔を出す。床と天井に顎と頭頂部を擦り付けて火花を散らす。

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