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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
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21-18 肺から胃へ

 第十一層。

 その青い松明に照らされる冷たい回廊は人を迷わす以外に使い道のない複雑怪奇な地形だ。壁は綺麗に磨かれているが、それだけに特徴がない。鏡を向かい合わせにしたような道。一つ角を曲がっても類似した通路が続いている。目を閉じて回転すれば来た方向が分からなくなる。

 ギミックや罠の類は存在しないのが幸いだ。その必要がないという事なのだろう。


「地図によると肺臓区という場所になりますわ。ここを経由して各所に行けるようですが、残念ながら詳細なルートまでは書かれていません」

「よくオルドボの文字読めますね」

「オーリン様ほどに達筆ではありませんわ」


 オルドボから貰った地図は簡易図に過ぎないため迷宮攻略のヒントにはならない。代わりに役立っているのはここにはいない人物、初代救世主のナビゲートである。


“次の坂を上って中央の小さな階段を下りて。その次は右に曲がって”

「よく道順が分かりますね」

“伊達に創造神の代行をしていないからね。管理神職の『啓示』スキルは他人のためにしか発動できない勇者職の『第六感』みないなものなんだ”


 管理神職というものは聞きなれない。天竜の土地神職の親戚みないなものだろうか。スキル構成は随分と異なるようだが。


==========

“『天啓』、大いなる慈悲を言語化するスキル。


 理論的には証明できない方法で他者の危機を察知可能なスキル。危機におちいらないように未来予知的な予測さえ行えるようになる。スキル所持者にとってはなんとなくという認識でしかない。

 察知した危機をテレパスで伝える事も可能。

 ただし、スキル所持者が己の危機を知る事はできない”


“実績達成条件。

 管理神職のDランクは最低限の世界運営が可能なレベル”

==========


「忍者職が形無しだな。傍目からは、巫女職でもないお前がブツブツ怪しくつぶやいているようにしか見えないというのに」


 先導役だったイバラ達忍者衆は出番さえない。いちおう、通路を先行してモンスターや罠を警戒しているが戦闘は発生していない。

 危機がなさ過ぎて、迷宮経験のない皐月やアジサイは若干以上に飽きてきている様子だ。


「肺というぐらいだから迷宮魔王の臓器なんでしょう、ここ。免疫細胞が襲ってきたりしないの?」

「肺にいるのはマクロファージ」

「同じような通路ばかりで暇ねぇ……壁を溶かさない?」

「これでも隠密潜入中なんだから暴れないでくれよ、皐月」

“次は左ね”


 頭に直接囁いてくるコンビニ客と同列の存在でしかなかった初代救世主の評価がうなぎ登りである。

 初代救世主がどういう経緯で管理神に就職を果たしたのかは気になるところだ。天竜のように神としてあがめられたという線が強いと思われる。実際、リセリの故郷たる教国では墓が観光名所になっているそうだし。

 それにしても、異世界は多神世界なのだろうか。

 創造神のいる世界なのに、わざわざ管理神なる中間管理職っぽい神が必要になるとは思えない。

 もしかして、異世界の創造神は既に――、


“まあ、僕って『天啓』ぐらいしか使えないのだけど”

「えっ!」

“えっ?”


 どうして初代救世主まで驚いた風な声を出しているのか。



“もちろん『神格化』スキルは持っているさ。ただ、管理神に昇格クラスチェンジする時に人間族としてのけがれを払うのと一緒に他のスキルは全部消えちゃったんだよね。『個人ステータス表示』さえないから困ったものだよ”



 このナビ、使えない奴だ。想像以上に機能が少ない。


“馬鹿だな。僕が世界を救えるのなら後輩達に頼んだりしないさー。あははー”

「天竜。こっちにきてくれ。俺の両耳を手で塞いで……そう。土地神の体で神様電波を遮断だ!」

“や……やめ……信託でんぱ状況が……悪……らっ!”


 こうして、複雑な肺臓区を俺達は通り過ぎる。




 肺臓区の次は胃区へとやってきた。名前からドロドロに溶かされそうな連想をしてしまうが、壁の色が黄土色に変わっただけで迷宮として何かが変わった訳ではない。

 ただ、肺臓区と異なりモンスターが徘徊していた。牛ほどの大きさを持つ甲虫型モンスターと、それに騎乗しているインプが接近してきたのである。


「向こうにはまだ気付かれていない。あれなら忍者衆で始末できるが、どうする?」

「倒してしまっても良いけど、オルドボの地図に気になる事が書いてある。少し追跡してみよう」


 オルドボの地図には短く、畜産場、とのみ書かれている。迷宮で豚でも育てているのだろうか。

 インプと一定の距離を取りながら進むと鉄扉が現れた。門番らしきインプが立っており、インプ同士で短く挨拶している。

 鉄扉は閉ざされたままであり、追跡していたインプは別の道へと去っていく。

 門番まで立っているあからさまに怪しい扉だ。開けたくなるのが人情というものだろう。


「まっすぐ心臓を目指すべきではないでしょうか?」

“僕もあまり見ない方が良いと思うなけどなぁ”


 月桂花と初代救世主は反対のようだった。が、鉄扉の向こう側に進むのがルートのようなので気配を消せる俺と忍者職で門番インプを静かに制圧する。これだけ人員が揃っていると低級悪魔ごときでは役不足だ。

 鉄扉は施錠されており鍵は発見できなかったものの、鉄は熱で溶けるので皐月が錠前部分を物理的に解錠する。

 ゆっくりと鉄扉を開いていき……えた臭いが漏れて中が見えた。

 だから迅速に扉を閉める。



「おい、どういう事だ。人間族がたくさんいたぞ??」



 長く続く部屋の左右に家らしき四角い建物が並んでいた。小さな街の通りを切り取ったような風景の中に、人間族らしき人影が複数人見えたのである。


「私も見るです」

「私も見る」


 俺を押し退けて落花生やアジサイが鉄扉の向こう側を覗き見る。


「本当に人がいるわね。でも、囚われている感じはしない」

「子供の姿も見える。建物が三十ぐらいあって、家族ごとに住んでいるのかな」


 皐月とラベンダーも隙間に顔を近づける。何だかんだと四人は仲が良く、背の順にトーテムポールのように頭を並べている。

 迷宮魔王の腹の中に人間族が住んでいる。異常な事態であるが、それ自体は異常ではない。オリビア・ラインでは囚われた人間族が強制労働させられていた前例がある。ただし、扉の向こう側にはそこまでの悲壮感はただよっていない。

 鉄扉の向こう側にある人間族の住処の正体を初代救世主にたずねる。


「説明できます?」

“人間族の畜産場で間違いないね”

「人間畜産場?? 裸で鎖で繋がれているイメージしか湧かないが、そうは見えない」

“そういう試みはあったようだけど、結局、自然に近い形で繁殖させるのが一番と判断したようだ。同じような場所が複数あって、万人単位の人間族が、下手をすると十万単位の人間族が住んでいると思われるね”


 考えたくはないが、たとえ十万人の人間族でも年間生産量は大した事はないのではなかろうか。何歳まで育てるか否かにもよるだろうが、牛でも二年以上の期間がかかる。

 そもそも、迷宮魔王が人間族を飼う理由が分からない。



“畜産する理由なんて、食べる以外にないさ。ただ……迷宮魔王の場合はレベルアップも目論んでいるんだろう”



 人類はモンスターを狩る事で経験値を入手でき、一定量溜める事によりレベルアップする。だが、モンスターが人類を飼っても経験値は入手できない。これは魔法やスキルなどというイレギュラーが実存する異世界における数少ない絶対則だ。この法則が破られたなら、か弱い人類などあっと言う間に滅ぼされてしまう。

 まあ、何事にも例外はあるのだが、モンスターが人類を狩ってレベルアップしていた異常事態は一度に限られる。二度もあってはならない。


“その街を抜けた向こう側、胃区の次にある腸区を見ておくと良い”


 初代救世主は迷宮魔王の計略を知っているのか。

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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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